2025年11月3日月曜日

参院選後の情勢とたたかいの方向 大門実紀史

 参院選後の政治情勢とたたかいの方向

極右排外主義は多国籍企業が生み出した! 


日本共産党参議院議員 大門実紀史さん

 

927日にラパスホールで開催した東京革新懇学習交流会での大門実紀史さんの講演の要旨をご紹介します。

 

右派・排外外主義とのたたかい

参議院選挙で自公は衆参で過半数割れになった。とくに極右政党の参政党の急伸に注目している。

参政党は街頭でヘイトスピーチをたびたび行ってきた。彼らの新日本憲法、天皇中心の国家に戻す、戦前のような国に戻す。国民主権が書いてない。愛国心教育、自衛軍を持つことを掲げている。

ヨーロッパでは十数年の間に、右派や極右勢力が伸びてきている。アメリカのトランプ政権もその一つだ。参政党は世界中で伸びている右派・排外主義の一つととらえる必要がある。参政党はこの間の地方選挙では、上位で当選すると状況になっており、非常に警戒する必要がある。

自民党も高市早苗氏が総裁に選ばれたように、右派への傾斜が強まっている。また維新、国民も右傾化し、改憲、軍事費の拡大を進める立場だ。外国人政策、スパイ防止法については、維新・参政・国民みんな言っており、今後、自民、維新、参政、国民が右派・排外主義の「反動ブロック」を形成していく危険性がある。日本でも右派・排外主義とどう対峙するかという局面に入った。

 

右派・排外主義とはなにか

右派・排外主義は、反グローバリズムを掲げ、外国人差別に誘導する。グローバリズムは、新自由主義で企業の利益を最大化することが目的だ。それで世界的に展開したのが多国籍企業だ。外国人労働者や移民を呼び込んだ。そうなるとその国の低賃金の労働者が増える。中間層が没落する。その不満を新自由主義に向けなければいけないのだが、外国人排斥に向かわせることが排外主義者の役割だ。新自由主義の延命に手を貸している。彼らが訴えるのは苦しい人たちだから、社会福祉主義的なこと、最低賃金を上げる、減税する、社会保障は給付すると言いながら、不満を外国人に向かわせる。極右を応援している人の中に企業家が多い。自分たちに矛先が向かないように排外主義勢力を利用している。

二つ目の特徴は、既存の概念・組織への反発を煽る。与党、野党を含め既存の政党を批判し、人権・環境など進歩的な価値観は裕福なエリート層が考えた発想だと批判。トランプも、それを活用しエリートたちの価値観で世の中動いてきたと否定する。もう一つターゲットは具体的なエリート層。安定している公務員、企業の中で安定している人たち。SNSは匿名社会だから人々の憎悪引き出す。

 三つ目の特徴は日本だけだが、復古主義。参政党の天皇制復活、大日本帝国憲法への回帰。ヨーロッパでは王政を倒して、共和主義になった国が多いので、今更王様の国に戻そうということはない。日本は戦争の問題や責任をきちっと総括もしてこなかったため、復古主義が生き延びてきた。

 

歴史的岐路

自民党政治を終わらせるということと、極右排外主義の台頭を許すのかどうか、日本もそういう局面に入ったという意味での歴史的な岐路だ。極右的潮流と正面から対決して、国民の暮らしを守る新しい政治の転換を目指すという流れとの関係で、新しい国民的・民主共同を作り、広げていく必要があるという局面だ。

排外主義とたたかうだけでなく、外国人の人たちとどう共生し日本をどうやって一緒に作るか、共生のビジョンを、つくり出していく必要がある。

ジャーナリスト・ユリア・エブナーは、ヨーロッパの極右組織の中に潜入取材して『ゴーイングメインストリーム』を書いた。そのなかでなぜ極右の台頭を許したかについて、民主主義勢力がバラバラにたたかってきたから。排外主義に対してすべての民主的な運動は力を合わせるべきだと言っている。

 

具体的なたたかい

当面二つの面での共同を発展させる必要がある。一つは軍国化・排外主義との対決。もう一つは、彼らは社会福祉主義でせめてくる故に、私達が一番取り組み政策を持っている点での取り組みだ。

その上で税財政の話になる。自民、維新、参政、国民は軍拡推進だ。税財政も社会保障もこれを許すと全部潰される。グラフは、アメリカからの兵器購入額のグラフ。後年度負担があるのでもっと増える。アメリカから買う兵器を増やすために軍事費を増やしてきた。さらに米国から突きつけられているのはGDP35%への軍事費アップだ。

 

暮らしを破壊する消費税

暮らしで焦点になっているのは消費税。世界では物価高騰等で115の国と地域で何らかの形で減税やっている。

消費税は社会保障の財源というのは真っ赤な嘘だ。消費税が最初に導入されるときに社会保障のためという言葉は一言もなく、直間比率の見直しで直接税の法人税、所得税を下げて、間接税を増せば投資にお金が回って経済が活性化する、財源は国民に広く薄く負担してもらうとの理屈で大キャンペーンをやった。5%にするときに、大企業、金持ち減税だと批判され、社会保障のためをくっつけた。それが続いているだけのことだ。法人税や所得税が減って、消費税が穴埋めをしている。

 

大企業優遇の仕組み

この間、企業の利益は上がり、税負担は減り、内部留保はどんどんたまってきた。法人税の負担率は、大企業よりも中小企業の方が負担している。なぜなら、大企業は研究開発とか優遇税制があって負担が少ない。企業の労働分配率もどんどん下がっている。

大企業は余った金を株主に配当し自社株を買っている。自社株買いは、例えば100株市場にある会社の株を自ら50株買うと、世の中に出回る株は50株になり株価をつり上げる。禁止されていたのが小泉政権で解禁され、株主を儲けさせる手段に使われている。

 

社会保障は大きな経済

日本は社会保障費が膨らんで大変だ、借金が膨らむ。社会保障を良くすると現役世代に負担がかかる。子どもや孫につけが回ると脅される。高齢者も肩身の狭い思いをし、活動家の中にも萎縮したりする部分が出てくるぐらいだ。

高齢者の皆さんもかつては若く、所得税を払っていた。その人の人生のサイクルだ。若い人と高齢者を分断する言い方は大間違いだ。こんなことを言っているのは日本だけだ。

このグラフは、GDP比に対する社会保障の割合だ。GDP1年間国民が働いて稼ぎ出した総額。社会保障に回っている割合は、医療制度ボロボロのアメリカより日本は低い。

国会で、社会保障は権利だというと政府はお金の話をする。ではこちらもお金の話をしよう。

社会保障というのは国民の権利であるとともに、大きな経済だ。1年間国民が稼ぎ出すGDPの約4分の1140兆円は社会保障の分野だ。

皆さんが医者かかり、払う分と保険から出るもので払う。それが病院や診療所の収入になり、医者、看護師、検査技師、事務員の雇用が生まれ、給料を払い消費に結びつく。

年金はイコール消費であり、年金減らすと消費が落ち込む。地方は特に顕著だ。社会保障は命と健康を守る大事な事業、裏を返せば全部お金だ。むしろ充実していけば、若い方々の雇用も増えるし、消費に繋がって、国内経済の停滞を打破することができる。

社会保障を充実させると経済よくなると遠慮せず攻勢的に捉える必要がある。

社会保障の最も大きな経済効果は、トランポリン効果だ。人生いろいろあり、失業、病気なっても、いろんなものが整っていれば元に戻って頑張れる。安心してチャレンジするためにはセーフティネットが重要だ。日本のようにボロボロだと人々が縮こまって経済が伸びない。

かつて私と竹中平蔵さんはかなり論戦した。竹中さんは新古典派経済学の論で「セーフティーネットは限りなく小さい方がいい。手厚くすると人々は怠けて頑張らなくなる」と主張。

私は、当時フィンランドの本読んでいて、「セーフティネットはきちっとしている方が安心してチャレンジできるから経済が伸びる」と論戦した。

そのときは机上の論戦だった。20年余経ち、今や実証的に証明されている。セーフティネットを整えてきた北欧は成長率3%4%、日本はずっと頭打ちだ。

社会保障をよくしてこそ経済もよくなる、このことを今こそ正面から訴えたい。

2025年10月1日水曜日

孫崎享さんの講演

 近づく覇権主義国家アメリカの終焉 ①

 日本の国益を損なう対米従属

 

元外務省国際情報局長 孫崎 享さん


920日に羽村市で開催された「第16回横田基地もいらない!沖縄とともに声をあげよう 市民交流集会」で講演された孫崎享さんの講演の要旨を、主催者の了解を得て2回に分けてご紹介します。


政界・官界が構造的にアメリカ追随

 日本の安全保障を中心に話をさせていただく。

 日本は、長い間、米国に追随する体制をつくってきた。特に20年ぐらい前から、小泉政権、安倍政権で、アメリカに追随することだけが外交・防衛になってきた。アメリカが言うことがおかしくとも、アメリカに追随していれば日本の安全は守れると多くの国民も思ってきた。

 高市さんはスパイ防止法を成立させたいと言っているが、今回、自民党の総裁選の候補者を見ると、小泉、高市、林、小林、茂木、みんなアメリカに行っている。国民民主党の玉木さんもアメリカ留学している。アメリカに行けばアメリカのスパイと言うわけではないが、5人も行けば一人ぐらいは工作されている。自民党だけではない。いま勢いを持っている参政党、トランプ支持者のカークという人が射殺されたが、直前に参政党の集会に来て講演している。アメリカに追随することに疑問を持たずいる。

いま世界は変わりつつあり、アメリカの覇権が崩れてきている。その責任の一端はトランプにあるが、根底にある経済が変わってきている。

世界中を見渡すと、アメリカに追随していれば安全だ、繁栄すると強い確信で大多数の国民が思っている国は日本以外にない。それだけ激しく日本の言論界が牛耳られ、政界、官界が構造的にアメリカに追随する国になっている。

 19459月の降伏文書を読むと、連合国最高司令官が出す命令はすべて実施すると書かれている。故にアメリカ追随は我が国の国是みたいなものだった。しかし、世界は大きく変わってきている。

 

アリソン「一極支配は終わった」

アメリカハーバード大学にアリソンという教授がいる。安全保障の学者として第一人者となっている。クリントン政権の国防次官補になり、歴代国防長官の顧問を務めている。その人がハーバード大学のケネディースクールをつくり初代院長となった。自民党総裁候補の林、小林、茂木、国民民主党の玉木、彼らは国際通だと言っているが、ケネディースクールで勉強している。

 アリソンが何を言っているか、冷戦の時代、アメリカの勢力圏とソ連の勢力圏があった。勢力圏というのは他国に服従することを求め、支配的影響を与える空間だと言っている。同盟みたいなそんな生易しいものではない。アメリカなどの勢力圏に入ったら、超大国に言われることが続くのが勢力圏だ。冷戦の終結とは、世界全体がアメリカの実質的な勢力圏になったことだ。

アリソンは「今、大国間競争の時代だ。一極(支配)は終わった。複数の勢力圏があり、その全てが米国のものでないという事実を受け入れるべきだ」と語っている。

 日本の首相となろうという人達が、馳せ参じてケネディースクールで勉強していた。以前は、アメリカに言われるままにやる、それをしなかったら指導者は追放される。あるいは国は制裁を受ける。日本では、アメリカの言われるままにしなかった首相は必ず排除されている。

 

影響力ます上海協力機構

 先ほど述べたように世界は変わってきている。一つは先日、中国天津で831日から91日に開催された上海協力機構の首脳会議。習近平、プーチン、インドのモディ首相がにこやかに映っている映像を見た。インドは長い間、西側の一員として共産主義に対抗する姿勢を取ってきたが、アメリカが好ましくないことを重々承知しながら、参加した。

 

東京革新懇事務局提供資料【上海協力機構・天津宣言】日本貿易振興機構(ジェトロ)の「ビジネス短信」を記事の最後に掲載。 

上海協力機構  25回首脳会議参加者

加盟国 

中国・習近平総書記 

ロシア・プーチン大統領 

カザフスタン・トカエフ大統領

キルギス・ジャパロフ大統領

タジキスタン・ラフモン大統領

ウズベキスタン・ミルジヨエフ大統領

インド・モディ首相

パキスタン・シャリフ首相

イラン・ペゼシュキヤーン大統領

ベラルーシ・ルカシェンコ大統領

オブザーバー

モンゴル・フレルスフ大統領

 対話パートナー

アゼルバイジャン・アリエフ大統領

アルメニア・パシニャン首相

エジプト・マドブーリー首相

ネパール・オリ首相

ミャンマー・フライン大統領

トルコ・エルドアン大統領

モルディブ・ムイズ大統領

カンボジア・マネット首相  

ゲスト

インドネシア・スギオノ外務大臣             

マレーシア・イブラヒム首相

ベトナム・チン首相                    

ラオス・シースリット書記長                    

トルクメニスタン・ベルディムハメド大統領

 

抗日戦勝80年記念行事と日本の戦争犯罪

 93日に北京・天安門で開催された抗日戦勝80年の記念行事で、習近平、プーチン、金正恩の3人が天安門で姿を見せた。ここに鳩山由紀夫氏が出席した。かなりのマスコミは国賊的行為だと非難した。 

2次世界大戦の19459月に日本は降伏文書に調印。1951年サンフランシスコ講和条約に調印し日本は独立した。サンフランシスコ講和条約で、日本の戦争犯罪がどのように書いてあるか。ほとんどの人が知らない。都合の悪いことは知らされてない。日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾するとしており、そこには南京虐殺の話も入っている。政治家が靖国神社に行って永久戦犯合祀に敬意を払うというのは、極東裁判、サンフランシスコ講和条約に違反しているということだ。私たちは戦争に負け、不公平な内容も飲まされたかもしれないが、それを土台に日本は戦後復興した。

 そしてその後、日中共同宣言で、「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」。これは田中角栄首相と大平外相が約束してきた。石破さんが、戦後80年の談話を発表することに、自民党は寄ってたかって発表させないとする。石破さんが伝えようとしたのは、戦争の悲劇を考えて、私たちは反省するという言葉を言いたかった。その反省をさせないというのが今の日本だ。私は石破さんに会ったこともないし、素晴らしい人だとも思っていない。もっと素晴らしい政治をやってほしいと思う。地位協定を改定しようということは首相になる寸前まで言っていた。それをさせない。戦争を反省することはさせない、それが今の日本だ。

 

アインシュタンらの呼びかけ

1952年アインシュタインら12人のノーベル平和賞受賞者が声明を出した。もはや膨大な破壊力を考えたら、人類は核兵器を使えない。兵器をもって相手国を倒すという戦いはもう終わった。これからは、如何に和解するか、平和の道をさがすことが人類の道だといった。これは二つの意味を持っている。日本は被爆国だ。核兵器を使わせない、その運動を日本が中核的にやっている。それはそれでいい。もう一つ、アインシュタイン等が世界に呼びかけたのは、これから他の道を探すということだ。武力に頼らず、いかに平和の道をさぐるか、それを探すのが人類の使命だと言った。つまり、私たちが被爆国として二度と核兵器を使わせないということを本音で担うなら、すべての国際紛争に対して、どうしたら解決の道があるのか、それを探す時代に来ているのではないか。

 

アメリカの軍事戦略に従う無謀な対中攻撃戦略

 今、日本では、武器でたたかえと言うことが正論のように扱われている。参政党の東京の議員は、「核兵器を持つことが日本の一番安い安全保障だ」と言っている。それをおかしいと思っていない。これは沖縄の問題もそうだし日本の体制もそうだ。中国のミサイルを抑止するんだと沖縄南方諸島にミサイルを配備する。中国は3000発ぐらいミサイルを持っている。そのうち何発破壊できる能力があるのか、どこにミサイルが配備され、どのように戦えば破壊できるのか、そんなこと聞いたことない。

 沖縄にミサイルを配備して中国を攻撃できる体制をつくる。これはアメリカの戦略で考えれば正しい。アメリカ本土からミサイルを撃てば、アメリカ本土にミサイルが飛んでくる。そのかわりに日本から飛ばせば中国はどう反応するか。

日米安全保障一体化は、アメリカの判断からすれば合理的判断も日本の立場からすれば合理的でないことが多々ある。日本が北朝鮮でも、ロシアでも、中国でも、圧倒的多くのミサイルを持っている国に、この小さい日本が軍事力で対抗しようとしたら破壊されてしまう。東京、大阪、福岡の3カ所に核攻撃されたら日本は終わりだ。

 中国は、17以上の人口1000万人都市がある。軍事的にたたかって勝てる可能性は無い。なのになぜ躍起になって軍事力を強めるのか。答えは、日本が我が国の国益で考えるのではなくて、アメリカの国益でものを考えている。参政党、国民民主党は自民党と同じだ。申し訳ないが野田さんも同じだ。そして、我々は平和的な道を追及する。考えればどこかに必ず解決の道はある。

文責 東京革新懇事務局

2025年9月2日火曜日

バトンをつなぎ核廃絶

 東友会 家島さん インタビュー

バトンをつなぎ核廃絶へ


 東京都原爆被爆者協議会(東友会)代表理事の家島昌志さんにインタビューを行いました。家島さんは、日本被団協の代表理事でもあります。(今井)

 

被爆の時の状況

 私は当時31ヶ月。広島駅の北側、爆心地から1.8キロの農村地帯の家にいた。玄関で遊んでいて吹き飛ばされたが無傷。家中のガラスが吹き飛び、母親は全身ハリネズミ、近所の看護婦さんのところに駆け込み、抜いてもらい命拾いした。屋根はめくれ月が見えた。上の姉二人は鳥取県に疎開、10ヶ月の妹はたまたま蒲団袋の裏に寝かされていて無事だった。父親は、爆心地から1.4キロにある逓信局で、敵襲警戒の夜警当番を終え家に帰って仮眠中で命拾い。親戚の娘さん夫婦が前の晩から家に泊まり、翌6日の朝、夫が新兵として入営する予定で朝早く爆心から7800メートルの西練兵場に出かけた。父親が駆けつけたが、兵士は皆焼け死んでいて見分けがつかない。諦めて帰る途中、娘さんが大やけどで道路端にころがっているのを発見、大八車を借りて連れ帰った。

 広島は70年間草木も生えないとの噂が広がり、食料がない。兎に角田舎に帰ろうと鳥取県に引き上げた。

 父親は1年後に転勤が認められ米子に帰ってきたが、18年後に胃を全摘。それから24年後に上顎ガンで手術、5ヶ月後に亡くなった。助けた親戚の女性も甲状腺ガンで亡くなった。母親は93歳まで生きたが、被爆のことは一切話さなかった。

 

被爆者運動とのかかわり

 私は、郵便局から郵政局、本省勤務となり、本省では終電で帰るようなことが多く、運動とのかかわりは退職してからだ。中野区原爆被爆者の会に顔を出したら、役員をやることになり、やがて会長に。東友会では2019年から代表理事を担っている。

中学生・高校生の多感な時期に原爆の悲惨さを体験した人たちが、証言活動を続けリードしてきたが、高齢となり多くの方が亡くなった。いま、東友会の役員は、2歳被爆、3歳被爆、胎内被曝とか、自分での記憶がほとんどない人が担っている。

しかし、核廃絶の努力は続けなければいけない。原爆死した人の補償、被爆者の救済、黒い雨訴訟、長崎の西山地域や天草半島など強く汚染された地域の救済を求める訴訟など今も続いている。

 

核兵器の危機

ヒロシマの原爆は、ウラン60キロ詰めたが核爆発したのは7グラムと言われる。今の核兵器は進化し威力は増している。1メガトンの核爆発で東京23区は全滅、ビキニ級の15メガトンの爆発では静岡から宮城まで全滅するといわれる。現在、世界では合計4000発の核兵器がすぐに発射できる体制にある。

過去、キューバ危機でのソ連の潜水艦での核攻撃命令。沖縄で誤って核ミサイルが発射された事件。ロシア・エリツィン大統領が核攻撃と誤認して核ボタンを押したがシステム不具合で事なきを得た事件など起こっている。核廃絶以外に安全はない。

 

ノーベル平和賞を受賞

今回ノーベル平和賞を受賞したことは、先輩達の活動が我々の時代になって報われたということだ。授賞式に臨んだときも、亡くなった人達100人位の連続写真の遺影を掲げてオスロでたいまつ行進をおこなった。

ノーベル委員会のフリードネス委員長は、被爆者が自らの身を曝して訴えてきたことが核のタブー(核は使ってはならない)の確立に力を貸したとスピーチされた。

 

この間の取り組み

日本の世論を盛り上げようと、日本被団協、日本生協連、日本青年団協議会などがプロジェクトを組み、1011日に有楽町朝日ホールで反核集会を開催する。

東友会は東京都生協連合会と共同し、2021年に国連で原爆展をおこなったときのパネル48枚を展示した原爆展を、東京都・広島市・長崎市の後援を得て8/158/24に行った。また両者の共同で、1057日に広島平和ツアー、11911日に長崎平和ツアーを40人規模行う。広島・長崎市長とも会う予定。

 

運動のバトンをつなぐ

核不拡散条約では5つの核保有国が音頭をとる形だが、ロシア、アメリカ主体の指導者たちには核廃絶の機運が全く見えない中で、フリードネス委員長は、世論を盛り上げていくのは世界市民の義務だとアピール。被爆者の運動はいずれ終焉を迎えるが、被爆2世、3世が運動を広げてほしいし、世界の青年たち、市民がこの運動を盛り上げて核廃絶を成し遂げてほしい。

ノーベル平和賞を受賞して、渡航費をクラウドファンディングで呼びかけたところ、その日だけで1000万円集まった。日本国民の関心も高い。一方、各県の被爆者の運動の困難も広がっている。若い人達が運動を継続してくれることが命の綱だ。

2025年8月1日金曜日

東京大空襲とは

 東京大空襲とは何であったか―空襲をとらえ直す


東京大空襲・戦災資料センター館長 

一橋大学名誉教授 

 吉田 裕さん            

 429日、東京大空襲・戦災資料センターで、東京革新懇人間講座第29夜「東京大空襲から80年 実相を知り明日の平和へ」における吉田裕さんの講演要旨を紹介します。

 はじめに

今年は「戦後80年」、1868(明治1)年から1945(昭和20)年の敗戦までは77年、すでに戦前より戦後の方が3年も長い。この長い戦後史の中で、日本人・日本社会は戦争の歴史にどのように向き合ってきたのか、あるいは向き合ってこなかったのか、という問題を深める必要がある。

 空襲の世界史

1903(明治36)年、ライト兄弟が初飛行。飛行機は、植民地抵抗運動の鎮圧に使われた。飛行機の本格的軍事使用は第1次世界大戦からである。

その後、日中戦争・第2次世界大戦などをへて、爆撃機の性能は急速に向上(大型化・高速化・航続距離の増大・爆弾搭載量の増大など)、第2次世界大戦の末期には、アメリカが、高性能の大型爆撃機=B29の開発に成功し、1944年から実戦配備した。

都市に対する最初の無差別爆撃はナチス・ドイツによるゲルニカ爆撃(19374月)。日中戦争が始まると日本が重慶などの中国の都市を無差別爆撃。第2次世界大戦が勃発し、アジアにまで拡大すると、米英はドイツ・日本に対する大規模な無差別爆撃を実施、そのいきつく先が広島・長崎の原爆投下。東京大空襲では約10万人もの死者を出しているが(被害者)、歴史の流れの中に置くと、無差別爆撃の歴史に日本が深く関与、その点では加害者の側にいたことがわかる。なお、戦前も戦後も国際法上は非軍事目標にたいする空爆は違法であった。 

日本本土空襲の概要

ドゥーリットル空襲(1942418日)=アメリカの空母から発進した16機のB25が東京・名古屋・神戸などを空襲。損害は比較的軽微だったが、この空襲の結果、海軍は哨戒線を東に拡張するためにミッドウェー島攻略戦を決断。しかし6月のミッドウェー海戦で大敗北を喫している。

中国の成都を基地にしたB29による北九州爆撃=19446月、翌年初めまで続く。194478月にマリアナ諸島が陥落。1124日にマリアナ基地のB29が東京を初空襲、本土空襲が本格化する。

マリアナを基地とした本土空襲は3つの時期に区分できる。第1期=19441124日から194534日までの時期。まがりなりにも軍事目標主義を掲げていたアメリカが、航空機工場などの軍需工場に対して高高度からの「精密爆撃」を行った時期。

しかし精度の低さ、日本上空の強いジエット気流、厚い雲におおわれ視界不良となる冬の天候(レーダーでの照準もうまくいかない)、B29に多発する故障などの影響で十分な成果をあげられず、米軍は方針を転換する。

2期=1945310日から615日までの時期。310日の東京大空襲のように、都市部に対する低高度からの夜間無差別絨毯爆撃を実施。大阪・神戸・名古屋・横浜などの大都市に無差別爆撃。

3期=617日以降敗戦までの時期。地方の中小都市にまで無差別爆撃を拡大、全国の都市が焼き払われる。沖縄を占領した米軍は、沖縄の基地から爆撃機の他、小型の攻撃機や戦闘機による空襲を開始。日本近海の英米機動部隊からも多数の艦載機が空襲。戦争末期には戦闘機が低空からあらゆる目標に無差別に銃撃を加える。また1945326日に硫黄島が陥落し、同島はB29の緊急着陸地、護衛戦闘機の発進基地、本土空襲のための中継基地として大きな役割を果たす。日本側の防空体制・部隊は弱体で空襲をほとんど阻止できなかった。

マイノリティーと空襲、そして被害と加害の関係性

貧しい人々が下町のスラム街に密集し、在日朝鮮人が住み犠牲者も多かったと思われる。大阪でも最近ようやく、塚﨑昌之編著『大阪空襲と朝鮮人そして強制連行』(ハンマウム出版、2022年)が刊行されている。

東京大空襲・戦災資料センターの場合でも、2002年の開館当時は、東京大空襲の朝鮮人犠牲者に関する展示はなかった。20033月に来館した金栄春さんが朝鮮人関係の展示がないことを批判。20063月の「東京大空襲61周年朝鮮人犠牲者シンポジウム」に早乙女勝元館長が出席、感想文に「朝鮮人問題をもう少し調べるべきだった。センターを拡張しています。再オープンの時は朝鮮人コーナーを設けます」と記している。2007年リニューアル時に朝鮮人犠牲者関係の展示ができ、2020年にはさらに整備された。

近年、空襲などで両親を失った戦災孤児の研究が進んでいる。本センターでも、2020年の展示リニューアルで新たに戦災孤児のコーナーを設けた(背景に孤児となった人たちの強い要望が)。

「東京空襲を記録する会」での運動は、幅広い人々の協力を得るため、まず何よりも体験の記録化に力を注ぐ。戦争責任や加害の問題は、自覚されてはいたが先送りされた。早乙女勝元の発言=「東京の会は、体験者の義務として出発した。記録のないものは伝承もできないからだ。そのため、参加者の立場、意見は異なっていても、事実の確定から始めた。意味を討論していては一致できないからだ」。

21世紀に入ってから、加害の問題ははっきりと自覚されるようになる。センターは2007年にシンポジウム「無差別爆撃の源流―ゲルニカ・中国都市爆撃を検証する」を、2008年にはシンポジウム「世界の被災都市は空襲をどう伝えてきたのか」を開催。この頃から東京大空襲とゲルニカ爆撃・重慶爆撃との関係を強く意識し始める。

2008年に大阪空襲の被害者などが国に補償を求めて大阪地裁に提訴。原告の安野輝子さんは2010年に重慶を訪問して重慶爆撃の被害者と交流、「つい最近まで皆さんたちのことは頭にありませんでした。ここに来て、加害国の一人として自分の国が犯した空襲に向き合うことが大事だと思い知りました」と発言(矢野宏『空襲被害はなぜ国の責任か』(せせらぎ出版)。

センターの展示面では、2020年のリニューアルで、ゲルニカに始まる戦略爆撃・無差別爆撃の歴史の中に東京大空襲を位置付ける(日本も重慶爆撃に象徴されるように、戦略爆撃の「発展」に深く関与)という姿勢はより明確になった。しかし、まだ日本軍の捕虜となった米軍搭乗員の虐待・殺害の問題は展示が不十分。東京大空襲では14機のB29が墜落しているが、茨城県筑波郡板橋村に墜落した1機の搭乗員3名が捕虜となり、1名が憲兵隊で処刑されている。一般市民による搭乗員の虐待・殺害も頻繁に行われた。NHK「戦争証言」プロジェクト編『証言記録 市民たちの戦争2』(大月書店、2015年)、熊野以素『九州大生体解剖事件』(岩波書店、2015年)。

 朝鮮戦争と日本

朝鮮戦争(19506月~19537月)に日本は直接参戦しなかったが、国連軍(特に米軍)の兵站・補給基地として大きな役割を果たした。

また、最新の研究、林博史『朝鮮戦争 無差別爆撃の出撃基地・日本』(高文研、2023年)は、東京(横田)と沖縄(嘉手納)から出撃したB29による北朝鮮に対する無差別爆撃を詳細に解明している。B29が日本本土に投下した爆弾の総量は165000トン、北朝鮮に投下した爆弾総量は167100トン(国連軍全体ではその4倍以上)、東京・ピョンヤン間の距離は約1300キロ、サイパン・東京間は2200キロ、距離が短いほど爆弾の搭載量は増大する 

「戦争被害受忍論」をめぐって

「戦争被害受忍論」=戦時のような非常事態の場合には、すべての国民が犠牲を余儀なくされる。これらの犠牲は国民がひとしく受忍しなければならないものであり、補償の対象とはならないとするもの。この「受忍論」を克服しなければ、自国の政府の責任の追及も曖昧になるし、さらには他国・多民族にたいする戦争責任という観念も生まれない。

秋田魁新報社の最近の調査によれば、アジア・太平洋戦争の開戦(194112月)から敗戦(19458月)までの秋田県出身兵士の戦死者数は27036人、このうちサイパン島が陥落した19447月から敗戦までの戦死者数は2575人、全戦死者の実に76.1%が最後の約1年間に戦死している。また、政府は外地及び内地で死亡した民間人の死没者数を約80万人としている。この80万人は満洲などからの引揚の際の犠牲者、空襲や原爆の犠牲者、沖縄戦の犠牲者だと考えられるので、その大部分は東京大空襲をかわきりにして都市無差別爆撃が本格化する19453月以降の死者、つまり最後の半年間の死者。日本政府は無謀な侵略戦争を開始した責任だけでなく、戦争終結決意の遅延によって、無益な大量死を生み出した責任を有している。

国の側に「受忍論」が明確な形で形成されるのは、高度成長期、戦争で財産を失った日本人移民が政府に補償を求めた裁判の最高裁判決(196811月)=「戦争被害受忍論」に基づき原告敗訴を言い渡す。「戦後補償史における、黒い画期」(栗原俊雄『東京大空襲の戦後史』岩波新書、2022年)。波多野澄雄は、「『国民総犠牲者』の考え方に立つ『受忍論』は、国の内側から起こる戦争責任論や補償要求の噴出を抑える仕組みでもあった」と指摘している(東郷和彦・波多野澄雄編『歴史問題ハンドブック』岩波書店、2015年)。

 問題は「受忍論」を消極的な形であれ、「戦争だから」と受け入れるような国民意識が存在することだ。

1964年、アメリカ空軍のカーチス・ルメイ大将が、航空自衛隊の育成に尽力したという理由で、日本政府から勲一等旭日大綬章を授章。この時のマスコミの反応=あまり大きく取り上げず、取り上げる場合でも原爆を投下した司令官(これは正確ではない)への叙勲を問題にし、本土空襲の司令官への叙勲を問題にしていない(上岡伸雄『東京大空襲を指揮した男 カーチス・ルメイ』ハヤカワ新書、2025年)。

教科書に東京大空襲が登場するのも1980年代に入ってからだった。

命を真ん中に置く医療を

 世代分断を越え命を真ん中に置く医療を

   東京民医連事務局次長 山根浩 

 

 自民、公明、維新が医療費削減で合意。国民、参政も同様の政策を表明。一方で病院の危機が進行。山根さんに寄稿していただきました。

 

いのちを削る「医療費4兆円削減の中身

 自民党と公明党、そして日本維新の会は参議院選挙の前に「医療費4兆円削減」の合意を更にすすめ、①「入院病床11万床削減②OTC類似薬(市販薬と成分や効果が似ているものの、原則として医師の処方箋が必要な医療用医薬品)を保険適用外にすることで合意しました。合意には加わっていませんが国民民主党や参政党も同様の政策を打ち出しています。2021年にも「現役世代の負担軽減」という名目で後期高齢者の窓口負担を2割に引き上げました。しかし、現役世代の負担軽減は年間700円程度と言われています。負担割合を増やして受診抑制して医療費を下げようとしたが思ったような効果が得られず、今回は直接、入院の機会をうばい、風邪や花粉症では医療機関を受診させないようにするという意味ではより「悪質」です。

 この二つの合意は参議院選挙後に議論されると思われます。ぜひ、多くの皆様に関心を向けてほしいと思います。

 まずは「11万床削減」について考えてみます。 

再び、「命の選別」をすることになりかねない病床削減

 昨年、厚生労働省が実施した病院報告の集計では、日本の病床数は119万床。2025年時点での必要病床数とほぼ同数です。11万床と言う数字は約10%の削減です。入院病床には「一般」から「療養」「精神」などに機能分化しており、医療費削減のために「まず、病床削減ありき」のような議論はあまりにも乱暴です。

 また、先の病院報告で病床利用率は全体で74%になっていますが、病院の機能や同じ機能であっても地域によって、民間か公的病院か、地域での役割に応じて病床利用率は異なります。

 私が所属していた社会医療法人社団健生会では、急性期病院の立川相互病院は90%、あきしま相互病院はほぼ満床の98%の利用率です。この利用率以上でなければ経営が成り立たないのです。本来はもっと余裕をもった病床運営が必要と言われています。比較的入院の少ない春や秋などは救急車搬入要請に対する応需率は80%を超えるのですが、入院が増える時期には半分以下に低下します。必要なときに必要な医療を提供するには、もっと「あそび」が必要で、車のハンドルと一緒です。

 5年前の新型コロナウイルス感染症流行初期のことを思い出してください。強毒なウイルスに感染しても「自宅療養者」とされたままお亡くなりになるケースが多発しました。年齢によって入院制限も行われ、「命の選別」を自ら選択しなければならない事態に多くの医療従事者は傷ついていました。新興感染症は四半世紀ごとに発生すると言われています。人類の自然破壊で増えるとも言われており、私たちはその備えをする必要があります。病床削減は命の削減ともいえるのです。

 重症化の危険「OTC類似薬の保険適用はずし」

 次にOTC類似薬の保険適用からはずすことについて考えてみます。

 OTC類似薬の代表的な薬剤は湿布薬です。湿布薬については、20224月の診療報酬で枚数制限が導入されました。保険外しをすすめようとする日本維新の会の猪瀬直樹議員は国会の予算委員会で「高齢者がちょっと暇つぶしに病院に行って、何となく湿布薬をもらってくる、これだけで保険料がかかる」「薬局は(湿布薬)を輪ゴムに止めるだけで儲かる」と暴言を吐きました。さすが医療法人グループの徳洲会から選挙費用として5000万円を受け取り、公職選挙法違反を犯した方の発言だと思います。

 表1は代表的なOTC類似薬の3割負担での自己負担額とメーカー希望小売価格の比較です。20倍から60倍の負担増となり、多くの方は医師の診断を受けることなく、自己診断して市販薬で済まそうとなります。

自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分自身で手当することを「セルフメディケーション」といい、厚生労働省は医療費削減政策として推進しています。しかし、風邪のような初期症状から重篤な病気だったという事例はたくさんあります。過度にセルフメディケーションを強調することはいのちに関わる問題になりかねません。

また、アトピー性皮膚炎で使用する保湿剤も対象ですが、多くの皆さんの運動で子どもの医療費無償化が実現しましたが薬剤が保険から外されれば効果が失われます。625日から取り組まれた特定非営利法人日本アトピー協会が取り組んだOTC類似薬の保険適用外とすることへ反対するオンライン署名はわずか半月で44000筆を超え、反対の声が広がっています。 

失政を高齢者に転嫁

 このような医療費削減を「社会保険料を引き下げて、現役世代の負担軽減」を理由にあげています。しかし、現役世代の困難の根本的な原因はこの30年間賃金があげられなかった日本の政治の失政にあります、新自由主義政策をすすめ、大企業の拠点を海外に移し、その大企業には優遇税制で支援し、国内労働者の賃金をあげる中小企業対策費などをほとんど増やしてこなかったからです。第2次安倍政権以降はそれが顕著になり、賃金はあがらない一方で大企業の内部留保は100兆円以上増えました。社会保険料の引き下げは助かりますが財源の拠出元が間違っています。 

「高齢者優遇」のまやかし

 与党や維新の会、国民民主党は現役世代の手取りを増やすために、「優遇されている高齢者に負担を求める」として先に述べた医療費削減政策を打ち出します。医療を必要とするのは高齢者だけではありませんが必ず、「高齢者優遇」をいい、世代間分断を持ち込みます。本当に高齢者は優遇されているのでしょうか。そのことを考えてみます。

 要介護認定率は年齢とともに上昇し、特に85歳以上は2022年で57.7%です。団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、75歳以上の人口増は緩やかになり、85歳以上の人口は増え続けますがそれも2040年頃までです。厚生労働省は2050年には1人の65歳以上の高齢者を20歳から64歳までの1.3人が支える「肩車型社会」になると宣伝しています。しかし、社会保障制度は年齢区分だけでなく複眼的に見る必要があります。女性や高齢者の就労率が高くなっていくことが予測される中では、労働力人口扶養比率でみると2050年も現在とほとんど変わらず、2人で4.6人をささえています。「肩車」ではありません。

高齢者の医療費が高すぎるとの見方もあります。一人あたりの後期高齢者の医療費は74歳以下と比較して3.9倍、入院で6.5倍、外来で2.9倍です。しかし、入院1件あたりの日数は1.4倍とあまり変わらず、1日あたりの医療費は0.8倍でむしろ現役世代の方が濃厚な医療を受けています。違うのは入院受診率の高さで現役世代の6倍です。これはある意味当たり前です。外来も同じで、受診率は2倍ですが1件あたりの医療費に大きな差はありません。対策は高齢者の健康づくりです。医療費抑制策として窓口負担を増やすことは、かえって健康づくりを妨げ、逆効果です。

国際比較からも、日本は高齢化が最も進んでいる一方で、社会保障費のGDP比率は他の先進国より低く、特に高齢者医療に対する支出は最少水準です。「日本の高齢者は優遇されすぎている」という見方はフィクションです。社会保障費のGDP比率は「自己責任の国」と言われる米国の24.1%より低い、22.8%です。

 医療費抑制政策が地域住民の医療を受ける権利を奪いかねない

 政府は30年近く「2025年に団塊の世代が75歳を迎え、高齢化がすすむ」と煽り立て、医療費抑制を喧伝してきました。そのため、医療機関の収入を決める診療報酬は低く抑えられてきました。これまで何とか踏ん張ってきましたが、昨今の物価高騰で限界を迎えています。

病院6団体と共に記者会見を行った日本医師会の松本会長は「これまでも『地域医療崩壊の危機的状況にある』と繰り返し訴えてきたが、今こそ医療界が一致団結して、著しくひっ迫した医療機関の状況を国民に改めて切実に訴えていきたい」と述べました。  

病院経営を改善するために医師会や病院団体が訴えているのは、第一に、「社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲内に抑制する」とする政府方針(いわゆる「目安対応」)の廃止です。第二に、診療報酬の設定について、物価や賃金の上昇に対応できる柔軟で 新たな仕組みの導入です。「目安対応」とは2012年の「税と社会保障の一体改革」から続く制度で、毎年の経済財政運営の基本方針(「骨太の方針」)に基づき、社会保障関係費の伸びを高齢化に伴う自然増の範囲内に抑制するために、診療報酬引き下げなど制度改革を毎年繰り返してきました。これまではデフレ経済で賃金も物価も上がらなかったので、医療機関も何とかやってきましたが、物価高騰で全く条件が変わりました。診療報酬が物価の値上がりに対応できなくなっています。

そもそも、社会保障費が伸びているのは、高齢化によるものが三分の一、医学などの進歩によるものが三分の二であり、それを高齢化の伸びだけに抑えることが誤りです。かつて、厚労省やマスコミは「2025年に国民医療費は141兆円になる」医療費膨張を煽ってきましたが、実際には2022年度で46.7兆円です。医療機関の経営改善には、「目安対応」の廃止と診療報酬を物価や賃金の上昇に応じて適切に対応する仕組みを導入がどうしても必要です。  

安心して医療を受けることが出来る社会に

 住民が安心して医療を受けることが出来る社会にするには、税金の使い方を医療や社会保障に使うようにしなければなりません。現状では軍事費が突出しています。(図参照)この秋、多くの団体と共同して地域の医療機関を守り、受療権を守る取り組みを広げていきます。ご協力をお願いします。