2023年8月31日木曜日

元自衛官語る

 元自衛官が語る

軍備増強、戦争、自衛隊のリアル 

      元自衛隊レンジャー隊員 井筒高雄さん 

2023617日に開催された青梅九条の会の元自衛官の井筒高雄さんの講演の要旨を主催者の了解を得てご紹介します。なお、青梅九条の会は、2005年に結成され、毎月9のつく日に青梅線の4つの駅で宣伝を行い、毎年映画会や講演会を開催しているとのことです。 

自衛隊の内部から見たリアル

 防衛費の増額で自衛隊の実力装置としての力が上がるのか、これで本当に私たちの暮らしや命は守られるのか話をしたい。

 92年にPKO法が通り、私は自衛隊を辞めた。海外の紛争地に行って、現地の住民を守るのが任務なのに、相手が撃ってくるまで攻撃してはいけない。自分の命すらまともに守れない。そんな無茶苦茶な状況で、自衛隊を海外に出すことが必要なのか、疑問を持ち退職した。

 私はベテランズ・フォー・ピース・ジャパンで活動している。ベテランズ・フォー・ピースは、私が高校生の時、1985年に創設された従軍経験のある米国元軍人を中心に結成された国際的な平和団体で、国連NGOとしてICANとも連携する。全世界に120以上の支部を有し、海外ではイギリス、ベトナム、琉球沖縄国際(沖縄の在日米軍に駐留した元軍人)、日本等がある。

 ベテランズ・フォー・ピース・ジャパンは、2015年の安保法制のあと、20176月に結成された元自衛官と市民の団体。日本が本当に戦争になった時にどういう環境に置かれるとか、税金の使い方とか、どれだけ増税になるとかシュミレーションするなど、戦争のリアルを広げることを行っている。

 主旨に賛同される方は、どのような宗教であろうとどのような政党に所属しようと問題なく活動できる。 

安保3文書で日本はどう変わるか

 安保3文書に触れるときに、まずは2017年の話しからしたい、「どうもイランと北朝鮮は核兵器を作っているぞ、アメリカを狙っている」となった時に、日本はミサイルを買わされた。どこで攻撃すればよいのか、という時にアメリカは周辺国にミサイルと武器を売りさばく。韓国が危ないから、日本が危ないからではなく、北朝鮮がアメリカを狙って射った時に、どこで打てば一番打ち落とせるかという理屈で、アメリカ・ワシントンを守るために、こういうミサイルを買えと提案する。

 対イランの場合は、ドイツには指揮センター、ポーランドにはイージス・アショア、トルコにはレーダー、ルーマニアにはイージス・アショア、スペインにはイージス艦が買わされ、イランを迎撃していく。周辺国を固めて、イランが暴発しないように抑止する。周辺国にこうした武器を買わせ、周辺国の防衛、安心のためだとしている。

 安保3文書で、岸田政権は5年間で軍事費をGDP2%達成し、世界第3位の軍事大国をめざすとしている。

 GDP2%はNATOの基準だが、国防費が2021年に2%を上回ったのは、米国、イギリス、ポーランド、クロアチア、ギリシャ、バルト3国で、NATO30カ国中8カ国で前年より3カ国減った。

 NATOの国防費の定義は日本と違い、退役軍人への恩給、PKO関連経費、海上保安庁予算など含まれ、日本の予算をNATO基準で計算すると、2021年度予算で約6.9兆、円、GDP比で1.24%程度となる。

 ウクライナ戦争に便乗しながら、安保3文書は、アメリカとともに戦争に自ら突っ込んでいくものとなっている。

 トマホークは自衛隊が自分で打てない

 トマホークは400発購入するが、日本は自分で打てない。アメリカが許可をしてネットワーク接続をしない限り日本が撃てないミサイルを400発買うのはおかしな話。日本が主権国家としてミサイル使用するのかを決定するのではなく、アメリカの命令で日本はトマホークミサイルを撃つことになる。要はアメリカ軍の下請けでアメリカ本土を北朝鮮のミサイル攻撃から守るために頑張りますという話だ。

 敵をつくらないと武器も売れない。北朝鮮、中国を東アジアの悪い敵対する国として、アメリカ型の戦争ビジネスを展開している

戦争ビジネスを狙う日本

 日本はウクライナへの装備品支援で、ドローン、ヘルメット、防弾チョッキを送ったが、ウクライナ兵がそれを用いて戦闘をおこなうということだ。直接殺傷能力を持たなくとも、戦争に加担していることを問題とすべきだ。

 いまどんどん、民主主義や少数意見が隅に追いやられ、保守派の勇ましい声がのしている。これから戦争はビジネスだ。ドンパチやって日本の経済を景気良くしよう。防衛産業の維持・育成、国内だけでは儲からないから海外に売ろう。海外に売ろうということは、紛争、戦争、テロなどを根絶してはいけない。

 ウクライナでは160007000発の砲弾が使われている。武器弾薬を沢山買ってもらうことによって軍需産業は潤う。日本も戦争ビジネスによって景気を潤そうと目論んでいる。


武器輸出三原則の形骸化
 武器輸出三原則を変え、海外に武器を輸出できるようにしたいとまっしぐらだ。防衛産業は防衛省だけが顧客だと全然採算が合わない。それで防衛産業から撤退しようとする企業を一部国有化し、メイドインジャパンの武器を海外に売り出していく。防衛省官僚の天下り先として機能することになる。戦争や紛争で人を沢山殺してもらい、武器・弾薬を消費、あるいは兵器を使用してもらえば、金が儲かる、防衛省も安泰だとなる。

 紛争や戦争は、軍需産業が金儲けするためになくならない。アメリカは戦争ビジネスで儲けている国であり、そのアメリカに追随するだけではどうしようもない。 

国民の安全はどうなる?

南西諸島にミサイル部隊や情報収集部隊を配置しているが、沖縄だけで終わる戦争ではない。沖縄のミサイル基地を叩けばお終いとはならず、東京の防衛省、在日米軍基地の座間、横田も攻撃対象となる。防衛省は国民の保護は考えていないが、基地では司令部を地下化するなど着々と防衛予算に組み込んでいる。

 国民保護といっても、指定公共機関と言って、JR、港湾業務、お医者さん、宅急便とか輸送業界にお勤めの方は保護対象とはならず、アメリカと自衛隊の下請けとして輸送や医療現場で働いてもらうということになる。

自衛隊の主たる任務は国民保護ではない

 自衛隊は、これまで正当防衛、相手が攻めてきたり、国民に犠牲を加えてくるまでこちらから手を出すことはないというのが原則だった。2015年の安保法制がターニングポイントになった。ちゃんとした軍隊になりましょうと確立されつつある。

 有事を想定した自衛隊法の835には「適用除外」が記してあり、住民保護は自衛隊の主たる任務ではないとしている。平時では災害派遣などが行われるが、有事では災害派遣や住民保護は適用除外だ。

 国民保護法では、市町村長が知事に要請し、知事が自衛隊に要請し、閣僚会議で派遣を判断する。自衛隊は戦争することを前提に作られた組織であり、国民保護をする組織ではない。

敵基地攻撃能力をもつ意味

 敵基地攻撃能力の保有は、日本がやばいぞと思ったら、敵国よりも先にミサイル発射基地、通信施設、政府や軍司令部を攻撃するということ。裏を返すと日本も同様に狙われるということだ。日本は敵基地攻撃能力を保有すると宣伝するが、日本も攻撃されることに対して、どのくらいの被害が及ぶのかまともに政府は言わない。

中国、ロシア、北朝鮮のミサイル攻撃を防げない

 中国は日本全土を射程にした中距離ミサイルを2000発以上、核弾頭は400発以上、実際の総数は米国防省も把握できていない。ロシアにおいては核弾頭ミサイルだけで6000発以上持っており桁が違う。北朝鮮は核弾頭だけでも50発前後ある。日本がトマホークを待とうがアメリカと結託しようが打ち砕くことは無理だ。地上からも潜水艦からも戦艦からもどこから撃ってくるか分からない。しかも日本の原発は沿岸部に57基並んでいるが、防御が全くできてない。にもかかわらず、武器だけ買って戦争辞さず、と勇ましいことを叫んでも原発を攻撃されたら日本は終わる。3・11のフクシマの被害どころの話ではない。

日本は戦争に耐えられるのか

 食料自給率はカロリーベースで37%しかない。台湾有事で輸入がストップすれば、食料は逼迫する。

 エネルギー自給率は12.1%、台湾有事で電力はすぐなくなる。これでどうして戦争するというのか?石油備蓄は7.2か月分しかない。

 防衛予算だけ増やしてこの国を守れるのか。超短期決戦でなければ日本は持たない。

中国に海上封鎖され、輸出入がストップされたら経済も停まる。日本は沈没するのみだ。 

自衛隊の実態・実力はどうなのか

 通常軍隊は年齢的にピラミッド型に作るが、自衛隊員は公務員でむやみに首きれず、年齢的に10代、20代が少なく、高齢者層、中間層が多くなってきている。いわゆる逆ピラミド型となっている。少子高齢化の波は自衛隊にも押し寄せている。

隊員募集に苦慮する自衛隊はこれまで、26歳までだった年齢を32歳まで入れるようにした。上官の命令に対して、武器を使い23手先を考えるのに34年はかかる。32歳で入れば3536歳。動けけるようになりあぶらがのったと思ったら40歳、もう若年性老眼など出てくる人が最前線を担うことになる。防衛予算の倍増、武器だけ揃えれば解決する問題ではない。