2024年4月25日木曜日

日本は食料も農業も崖っぷち その2

 日本は食料も農業も崖っぷちその②

命を守る消費者と生産者の共同を


 
東京大学大学院教授 
        鈴木宣弘さん

4月号に続き、鈴木宣弘さんの講演要旨を紹介します


 

江戸時代の見事な循環経済

江戸時代の鎖国政策で、資源の出入りがなかった日本では、工夫を凝らして再生可能な植物資源を最大限に生かし、独自の循環型社会を築きあげた。食物は太陽エネルギーとCO₂、土、水で成長するから、言い換えれば江戸時代は、太陽エネルギーに支えられていた時代だと言える。

この物質循環の仕組みは、ヨーロッパ人を驚嘆させた。スイス人のマロンの帰国報告に接した肥料学の大家リービッヒ(180373、ドイツ、農芸化学の父と言われた)は、「日本の農業の基本は、土壌から収穫物を持ち出した全植物栄養分を完全に償還することにある」と的確に表現した。

「三里四方」という表現が使われたが、これは半径三里(約12キロメートル)の間で栽培された野菜を食べていれば、健康で長寿でいられるということを意味している。

 

日本の循環農法を破壊したアメリカ占領政策

日本の食糧難と米国の余剰穀物処理への対処として、早い段階で実質的に関税を撤廃された大豆、トウモロコシ(飼料用)、大量の輸入を受け入れた小麦などは、国内生産の減少が加速し、自給率の低下が進んだ。輸入依存率が、小麦85%、大豆94%、トウモロコシ100%に達し、農業構造を大きく変えた。

食糧事情が好転し始めた1958年、農業に大きなダメージを与える一冊の本が出版される。慶応大医学部教授の林たかし氏の著書『頭脳』。発売後3年目で50版を重ねるベストセラーになり、影響は甚大だった。『頭脳』の中には、「コメ食低脳論」がまことしやかに述べられ、「日本人が欧米人に劣るのは、主食のコメが原因、大人はもう諦めよう、せめて子どもの主食だけはパンにしたほうがよい。頭脳のよく働く、アメリカ人やソ連人と対等に話の出来る子どもに育ててやるのがほんとうである」と述べている。当時の朝日新聞「天声人語」もコメ食否定論を展開。国民はすっかり洗脳された。

米国の小麦生産過剰による日本への売り込み戦略のもと、日本各地で「洋食推進運動」が食生活近代化のスローガンで展開された。欧米食生活崇拝運動であり、和食排斥運動でもあった。小麦の対日工作の主役、キッシンジャー・リチャードバウム(アメリカ西部小麦連合会)が、「日本食生活協会」に資金許与し、キッチンカーという調理台つきのバスが20数台で全国を農村部まで回った。

パン食に加え、米国飼料穀物協会が、「日本飼料協会」を発足させ、米国穀物依存の日本畜産を推進し、肉食もアメリカが進めた。

短い期間に伝統的な食文化を変化させてしまった民族というのは世界史上でもほとんど例がない。

このころから、コメの消費量の減少が始まり、コメの生産過剰から水田の生産調整へとつながっていく。我が国の農業、農政が凋落する始まりでもあった。

 

貿易自由化の犠牲とされる農業

食料は国民の命を守る安全保障の要なのに、日本にはそのための国家戦略が欠如しており、自動車などの輸出を伸ばすために、農業を犠牲にする短絡的な政策が取られてきた。

農業を生贄にする展開を進めやすくするために、農業は過保護だ、規制改革や貿易自由化というショック療法が必要だとの刷り込みが、メディアを動員して続けられた。しかし、実態は、日本農業は世界的に最も保護されていない。農産物の価格支持政策をほぼ廃止したのが、WTO加盟国の哀れな「優等生」日本だ。

欧米各国は、農産物価格支持と直接補助金を行っている。特に、EUは、国民に理解されやすいように、環境への配慮や地域振興の「名目」で理由付けを変更して農業補助金総額を可能な限り維持する工夫を続けている。

農業所得に占める補助金の割合(2013年)は、日本30.2%、米国35.2%、スイス104.8%、フランス94.7%、ドイツ69.7%、英国90.5%。

 

農薬、ゲノム食品、ホルモンも規制がザル

日本の農家の平均年齢68.4歳。あと10年経ったらどうなるか、農業が崩壊しかねない。残された時間はわずかだ。

安全性を犠牲にした外国産の食品に飛びつく行動を変え、安くても危ないものは買わない、地域で頑張っている農家をしっかり支える行動ができれば流れは変えられる。

去年から「遺伝子組み換えでない国産大豆でできた豆腐」との食品表示が消えた。これをやったのはアメリカ・モンサント。安全なはずの遺伝子組換え食品が、日本人が不安になる誤認表示だからやめろと要求した。

カリフォルニアでは、遺伝子組み換え種子とセットの除草剤グリホサートで発がんしたとしてグローバル種子企業に多額の賠償判決がでた。世界的にグリホサートへの規制が強まっている中、日本はグリホサートの残留基準値を極端に緩和した(小麦6倍、ソバ150倍)。

ゲノム編集では、予期せぬ遺伝子損傷が学会誌に報告されているのに、米国に呼応し届け出のみで野放しだ。

1970年代、ポストハーベストの防カビ剤のかかった米国レモンを海洋投棄し、自動車輸入を止めると脅され、「禁止農薬でも輸送時にかけると食品添加物に変わる」とウルトラCの分類変更で容認。

米国ジャガイモも、発がん性等指摘されている農薬を輸送のための防カビ剤として食品添加物に指定し散布可能にし、残留基準を20倍に緩和。遺伝子組み換えジャガイモも認可。冷凍フライドポテトの関税撤廃など「至れり尽くせり」の措置。

米国やEUではホルモンを使わない牛肉が進んでいるが、日本が選択的に「ホルモン」牛肉の仕向け先になりつつある。オーストラリアは、EU向けには投与せず、日本向けにはしっかりエストロゲンを投与している。

牛や豚の餌に混ぜる成長促進剤ラクトパミンは、人間に中毒症状を起こすとして、EU、中国、ロシアでも使用と輸入が禁止だが、日本では輸入は素通りだ。

 

なぜ学校給食がカギか

子ども達を守り、国民の未来を守るカギとして、学校給食を通じて地元の安全・安心な農産物をしっかり提供する運動が起こっている。千葉県いすみ市は、有機米124000円で買い取るからと推進し、4年で市内の給食全部が有機米となった。野菜も広がっている。触発された京都亀岡市の市長は、有機米148000円だとし、農家から歓声が上がった。農家にとっても、販売先と価格が安定すれば励みになる。そういう流れを広げてほしい。

東京世田谷区では、安全・安心の給食提供を行うため、化学肥料及び農薬の使用の少ない食材や有機農作物を購入することにした。2023年度は、各校6回の有機米を使用した給食の提供を実施した。90万人の人口の自治体での有機米で、秋田、千葉、栃木、新潟、宮城と全国の産地と連携を打ち出した。

 

農林漁業を崩壊させる総仕上げ

畜安法、種子法、漁業法、林野法と、農林漁業家と地域を守るために、知恵を絞って作り上げ、長い間守ってきた仕組みを、自身で手を下させられる最近の流れは、農水省にとっても断腸の想いだ。

官邸における各省のパワーバランスが完全に崩れ、自らと関連業界の利害のためには食と農林漁業を徹底的に犠牲にする工作を続けてきた経産省が官邸を「掌握」した。命・環境・地域・国土を守る特別な産業という扱いをやめて、農林漁業を「お友達」の儲けの道具に捧げるために、農水省の経産省への吸収も含め、農林漁業と関連組織を崩壊・解体させる「総仕上げ」が、官邸に忠誠をちかった事務次官によって進められた。

 

武器より安い武器=食料

ブッシュ元米大統領は食糧農業関係者に「食料自給率はナショナルセキュリティの問題だ。皆さんのおかげでそれが常に保たれている米国はなんとありがたいことか。食料自給が出来ない国は、国際的圧力と危険に晒される国だ」と語っている。1973年、バッツ農務長官は「日本を脅迫するのなら、食糧輸出を止めればいい」と豪語した。

 

農産物の価格はどのように決まる?

もう一つの大きな問題が価格の問題。この表は、数字の0.5を下回っていると農家が買い叩かれているということだ。コメ0.11、飲用乳0.14、ダイコン0.47、ニンジン0.33、白菜0.37、キャベツ0.38など。農家に払う価格は、イオンがいくらで売るかで決まり、そこから逆算して農家から買い取る。グローバル企業は、農家を買い叩いて消費者に高く売って不当なマージンを得ている。

農漁協の共販により流通業者の市場支配力が抑制され、あるいは生協による共同購入に代わることにより、農家は今より高く売れ、消費者は今より安く買うことができる。流通・小売りに偏ったパワーバランスを是正し、利益の配分を適正化し、生産者・消費者の双方の利益を守る役割こそが協同組合の使命だ。

 

世界に見る生産者と消費者が支え合う「強い農業」

カナダの牛乳は1300円、日本より高いが消費者は不満を持っていない。アンケートで「米国産は遺伝子組み換え成長ホルモン入りで不安だから、カナダ産を支えたい」と答えている。農家・メーカー・小売りの十分な利益を得た上で、消費者もハッピーならば、幸せな持続的システムだ。

スイスの卵は16080円。輸入品の何倍でも売れている。動物福祉、生物多様性、自然・景観に配慮して生産されたものは安全でおいしい。スイスでは、草刈りして雑木林化を防ぐと170万円、豚のストレス減の飼育で230万円など、農業の果たす多面的機能の項目ごとに支払われる直接支払額が決められている。

イタリアの水田では、生物多様性、貯水による洪水防止機能、水のろ過等の機能を評価し、税金での直接支払いの根拠にしている。

 

安全・安心な食と暮らしを守る

命を削る安さに飛びついていけない。本当の意味で「安い」のは、身近で地域の暮らしを支える多様な経営が供給する安心安全な食材だ。国産=安全ではない。本当に持続できるのは、人にも牛・豚・鶏にも環境にも種にも優しい、無理しない農業だ。自然の摂理に最大限従い、生態系の力を最大限に活用する農業(アグロエコロジー)だ。経営効率が低いかのように言われるのは間違いだ。人、生きもの、環境・生態系に優しい農業は、長期的・社会的・総合的に経営効率が最も高い。

協同組合(農漁協、生協、労組など)、共助組織、市民運動組織と自治体が核となって、各地の生産者、労働者、医療関係者、教育関係者、関連産業、消費者などを一体的に結集して、安全・安心な食と暮らしを守る、種から消費までの地域住民ネットワークを強化し、地域循環型経済を確立することが、今こそ求められる。

日本の農家は、世界一保護なしで踏ん張っている。今でも世界10位の農業生産だ。農林水産業は、国民の命、環境・資源、地域、国土・国境を守る安全保障の柱だ。大胆な食料安全保障確立予算をめざさなければならない。「農は国の基であり、農民は国の宝である」(賀川豊彦)。

 

高崎市のスーパー「まるおか」

巨大なイオンモールの真横で、開店前から長い行列ができるスーパー「まるおか」は壮観だ。私が頂いたお土産も本当に美味しく感激した。在来の種で本当に美味しい野菜がたくさんある。在来製法のホンモノの海苔やシイタケや調味料は本当に美味しい。

この生産と消費が支え合う仕組みを確立できれば、みんなの暮らしと健康が守れる。大量流通には乗らないが、在来の種で本当に美味しく安全な農林水産物を全国津々浦々から集めて販売する、生産者と消費者をホンモノで結ぶ懸け橋「まるおか」。社長さんが店内に掲げる言葉「食は命」にその決意が滲む。

(文責編集部)

※鈴木宣弘さんは、生産者と消費者を繋ぐ架け橋として、一般社団法人「食料安全保障推進財団」を設立され、協力を呼びかけています。詳細はhttp//www.foodscjapan.org

2024年4月2日火曜日

鈴木宣弘「日本は食料も農業も崖っぷち」

 日本は食料も農業も崖っぷち―その①

自給率向上を放棄する農業基本法改定

東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん 

218日、日野革新懇総会での鈴木宣弘さんの講演の要旨を、了解を得て紹介します。私たちの生きる基本である食料・農業問題ですので、5月号と合わせ2回にわたり掲載します。 

私自身は、三重県の半農半漁で生計を立ててきた両親の1人息子として生まれ、田植え、稲刈り、畑の耕起、海苔摘み、牡蠣むきなどやってきた。今も伊勢農協組合員で、農家の立場で今の状況を心配している。

日本の食料自給率が低すぎると懸念されている。なぜ日本がこのような国になってきたのか、一番大きいのはアメリカの戦後日本の占領政策だ。アメリカで多くの農産物が余り、これをどこで処理するか、日本人に食べてもらおうということで、それで助けられた面もあるが、農作物、特に小麦、トウモロコシが入り日本の生産は壊滅した。

でもアメリカにとって都合が悪いのがコメ。アメリカの小麦を日本人の胃袋に入れられないということで、学者の回し者も使われて、食生活改善という名目で都合がいいように変えられ、アメリカの食料の依存症になってきた。

日本側も活用したのが経済産業省。アメリカを喜ばせるには、日本が食料・農業系を差し出し、関税を撤廃する。代わりに日本は自動車など売り、食料はいつでも安く確保できる、これが食料安全保障との流れができてきた。

もう一つは、大蔵省(財務省)の財政政策だ。農水省の予算は1970年の段階で1兆円近くあったが、50年以上経ってやっと2兆円余。実質どんどん減らされている。片や防衛省予算は、農水省予算の半分ぐらいだったが、今や年間10兆円規模。再生エネルギーの事業者に払われている金額だけで4.2兆円。軍事、食料、エネルギーは、国家存立の三本柱と僕は言うが、一番命を守るのに大事な食料の予算がどんどん削られてきた。

 

世界で逼迫する食料事情

農業は苦しくなり自給率が低下し、その中で世界的な危機に耐えられるのかということになってきた。

中国のパワーはすごく、日本が買いに行っても残っていない。中国が高い価格で大量に買い付ける力ある。供給の方は異常気象で不作が頻発する。そこにとどめを刺すかのように紛争のリスクも高まっている。ロシアやベラルーシは、日本は敵だから売ってやらないと言い始めた。ウクライナは世界の穀倉だが、輸出できない状況だ。自国民を守るために防衛的に輸出を止める国がどんどん増え、今や30カ国ぐらい。インドは世界12のコメや麦の輸出があるが、まず小麦を止め、最近はコメも止めた。インドはコメの輸出で世界の4割を占めている。

そういう中で、日本の農業が大変なことになってきた。畜産の餌が供給できず価格も上がっている。全国で酪農畜産農家がバタバタ倒れている。さらに化学肥料は、ほぼ100%輸入。中国は自国の需要が増えたから制限する。ロシアとベラルーシにカリウム依存していたが、こちらも中国優先。さらに中国は有事に備えて、14億人の人口が1年半食べられるだけの備蓄をするということで、世界中から穀物を買い占め始めた。

日本の備蓄は、コメ中心に精々1.ケ月、頑張っても2ヶ月分だ。コメは、今800万トンぐらいしか生産していないが、能力をフル活用すれば1200万トン以上作れる。国産を強化して備蓄すればいいと言うと、そんな金あるわけないと政府は言う。アメリカの在庫処分のミサイルなどに43兆円使う金があったら国内の食料を守るために何兆円使ったってその方が先じゃないかという事だ。

国内で頑張っている農家いるが、海外に比べたらコスト高い、だから輸入みたいな話が出てくる。今その輸入が滞りつつある。国内の農家がコスト高でみんな苦しんでいる。それを放置したままで、台湾有事で攻めていくなどと馬鹿なこと言っていたら、海上封鎖されたら餓死して終わりだ。国内で生産は少々コストが高いように見えても、農業をみんなで支えることこそが自分たちの命を守ることだと位置づけないといけない。

野菜の自給率8割と言っているが、種採りの90%は海外圃場だ。物流停止で自給率は8%ぐらい。さらに肥料が止まれば4%。自分で種取ればいいと言ってもほとんどF11代雑種で種が取れない。だから国内の地域の在来の良い種をみんなで守り循環させる仕組みをきちんと評価しないといけない。

鶏卵の国産率は97%と頑張っているが、エサが止まれば自給率は12%、ヒナが止まれば今でもほぼ0%。

化学肥料の原料のリン、カリウムが100%、尿素96%輸入、その調達が出来なければ国内生産は壊滅する。飼料も肥料もその悪夢が現実になりつつある。

 

グローバル種子企業の要求

グローバル種子企業は、種を制する者は世界を制すると世界中でそれを買わないといけない仕組み作りを進めてきた。しかし、世界中の農家・市民が猛反発して苦しくなった。世界で苦しくなると、彼らが考えるのは、何でも言うことを聞く日本で儲けようと、要求し、制度化されたのが、①種子法の廃止。国がお金を出し、都道府県の試験場で米の種を作って、農家に提供する事業をやめさせる。②良い種は企業に渡しなさいという法律まで作らされた。③農家の自家採種の制限。④遺伝子組み換えでない表示(non-GM)の実質禁止。⑤全農の株式会社化。⑥遺伝子組み換えGMとセットの除草剤の輸入穀物残留基準値の大幅緩和。⑦ゲノム編集の完全な野放し。⑧農産物検査規則の改定(未検査米も産地・品種・産年の表示を認めて流通を促進)。日本の大事な種も海外の企業に渡していく。こんなことしていたら本当自給率9.2%に近づく。

アメリカの大学が学会誌に出した論文では、局地的な核戦争が起こった場合、被ばくによる死者よりも、「核の冬」による食糧生産の減少と物流が止まることにより、世界で3億人近くの方が餓死する。それが食料自給率の低い日本に集中する。世界の餓死者の3割、日本人の67200万人が餓死すると。

 

アメリカは莫大な農業補助金、食料支援

アメリカでは、コメは14000円で売っても、生産費の12000円との差額は100%政府が補填。できるだけ安く売りさばいて、日本人の胃袋をコントロールすれば安い武器だと言って、輸出向けの米など3品目だけの差額補填補助金だけで1兆円。徹底的に農業補助金付けて安くし、日本の方には関税を低くさせて、アメリカの農産物で潰す。

もう一つアメリカがすごいのは消費者を助けている。アメリカはえせ先進国で貧困層が多い。農業予算の64%が消費者の食料購入支援で10兆円。消費者が助かれば、農家も助かるとやっている。

 

農業基本法の見直し

今国会に農政の基本方針を決める食料・農業・農村基本法改定が上程されている。新基本法では、食料自給率は、「基本計画」の項目で「指標の1つ」という位置づけに後退させている。

「平時」と「有事」の食糧安全保障という分け方が強調され、有事のための増産命令法をつくり、花をつくっている農家にサツマイモを強制的につくらせる。平時は、国内生産などどうでもいい、輸入しとけばいいとの主張になっている。

「自給率向上を目標に掲げると非効率な経営まで残ってしまう」という視点から、2020年「基本計画」で示された半農半Xを含む「多様な農業経営体」重視が消え、再び「効率的経営」のみが施策の対象となっている。

戦後のアメリカの占領政策により、その余剰農産物の処分場として食料自給率を下げていくことを宿命づけられた我が国は、自給率目標を5年ごとに定めても、一度もその実現のための工程表も予算も付いたことがなかった。今回の基本法の見直しでは、自給率低下の容認を今まで以上に明確にするのであろうか。

 

求められる国家戦略

NHKクローズアップ現代で何回も日本の農業の危機について話してきた。稲作では、全国平均で令和3年の段階で1年働いて、平均年収1万円、時給で10円。それで頑張ってくれているって奇跡だ。

しかし、日本の政府が力を入れているのは5年で軍事費を43兆円にすることだ。アメリカから武器を買い攻めていくみたいなことを進めている。ちょっと待てと。食料これだけ自給できてないのか日本だ。それなのに日本がアメリカに追随して中国に経済制裁強化し、中国が海上封鎖をしたら、戦う前に餓死して終わりだ。

かりにも紛争が拡大してしまうことになれば、日本が戦場になる危険も考えなくてはならない。アメリカと日本の関係については冷静に見ておく必要がある。以前、アメリカのCNNニュースでは、北朝鮮の核ミサイルがアメリカ西海岸に届く水準になってきたことを報道し、韓国や日本に犠牲が出ても、今の段階で北朝鮮を叩くべきという議論が出ていた。つまり、米国は日本を守るために米軍基地を日本に増強しているのではなく、アメリカ本土を守るために置いているとさえ言えるかもしれない。

それらをすべて視野に入れて、日本が独立国として国と国民を守るための国家戦略、外交戦略を大局的・総合的に見極めて対策を急ぐ必要がある。

 

異様な屈辱=ミニマム・アクセス

日本の農業を苦しめているもう一つの大きな要因がミニマム・アクセスだ。日本政府が言うような「最低輸入義務」でなく、「輸入数量制限」をすべて「関税」に置き換えた際、禁止的高関税で輸入がゼロにならないように、低関税にしなさいという枠であって、その数量を必ず輸入しなくてはならないという約束ではまったくない。 

欧米にとって乳製品は、外国に依存してはいけないから、無理してミニマム・アクセスを満たす国はない。かたや日本は、乳製品輸入量13.7万トンを、国際約束として毎年忠実に満たしている「超優等生」だ。牛乳は北海道だけで14万トン生産し、過剰で牛を殺せみたいな話になっているが、何と同量の13.7万トンを無理やり輸入している。

コメも同じで、日本は本来義務でないのに毎年77万トンの枠を必ず輸入している。アメリカとの密約で「日本は必ず枠を満たすこと、かつ、コメ36万トンは米国から買うこと」を命令されているからである。アメリカから買っているコメは、13万円。日本のコメは1万円ちょっと。アメリカからに大量に買っても誰もいらない。家畜の餌で処分して、差額を税金で埋めている。

他国の持つ国家安全保障の基本政策を取り戻し、血の通った財政出動をしないと日本を守れない。

 

酪農家の訴え

昨年1130日、農水省前での千葉県の金谷さんが「毎日、毎日、増え続ける借金を重ねながら365日休みなく牛乳を搾っています。いつか乳価があがるだろうと淡い期待を持っていますが、希望が持てません。国の政策に乗って、借金をして頭数を増やしたけれど、借金が大きすぎて酪農やめて返済できる金額ではありません。来年の3月までに、9割の酪農家が消えてしまうかもしれません。牛乳が飲めなくなります」「酪農が壊滅すれば、牧場の従業員も、獣医さん、エサ屋さん、機械屋さん、ヘルパーさん、農協、県酪連、指定団体、クーラーステーション職員、集乳ドライバー、牛の薬屋さん、牛の種屋さん、削蹄師さん、検査員、乳業メーカー、みんな仕事を失います。みなさんにお詫びします」と訴えている。

農漁業消滅=食料消滅=農漁協消滅=関連産業の消滅=地域消滅と「運命共同体」と認識して支え合わなくては活路がない。

(文責編集部)

※この続きは次号5月号で紹介します。

2024年2月29日木曜日

伊波洋一さんの東京革新懇総会 記念講演

 日本国土を戦場にさせないー沖縄からの「台湾有事」  


  参議院議員沖縄の風
 
  伊波洋一さん 

127日の東京革新懇総会における参議院議員伊波洋一さんの記念講演の要旨をご紹介します。 

沖縄が戦場になる危機感

岸田内閣が閣議決定した安保3文書の意図は、中国に対抗できる十分な敵基地攻撃能力の獲得と数量の保有だ。2番目は、辺野古新基地建設、南西諸島への自衛隊基地建設を行って、台湾有事を日本有事として取り組むという姿勢だ。全てはアメリカによるもので、日本の国益は完全に無視されている。

 沖縄では、2016年以来、6年計画で南西諸島の軍事化が進められ、島々に敵基地を攻撃するミサイル基地が作られてきた。最初の頃は、南西諸島防衛が目的と言われてきたが、長射程ミサイルが敵国攻撃の反撃力として配備されることが明らかになってきた。

23年から沖縄県民の中には、再び戦場にされるという不安が満ちるようになった。23226日に市民団体が実行委員会をつくり、521日に平和集会が2100名で開催された。台湾や中国も含む対話集会が重ねられてきた。1123日には、県民平和集会(写真)が、70近くの平和団体や労組や政党も結集し、1万人以上の参加者で開催された。ところが、このような大きな動きは全国に伝わっておらず、大変危惧している。 

全住民の避難訓練

1016日に宮古島と石垣島の中間ぐらいの多良間島で国民保護法にもとずく住民避難の意見交換会が開かれた。内閣官房担当者も4名参加し、多良間の住民全員を九州に避難する計画を説明した。急に基地もない島で説明会が開かれ、住民からは「避難先での生活はどうなるのか」「有事を想定する前に外交努力をするべきだ」「約4000頭の家畜はどうするのか」などの声が相次いだ。このような住民避難の訓練や説明会などが、9月から10月にかけて、多くの地域で開催された。

沖縄だけではなく、全国で、同様なことが始まろうとしている。例えば大分の湯布院に自衛隊基地があるが、地対艦ミサイル連隊が作られることがわかっている。今は300キロ程度の射程の地対艦誘導弾を運用する部隊だが、今後1500キロの長距離射程ミサイルが配備される。 

安倍政権以降の軍事強化の歩み

20109月の尖閣海上での中国漁船の海保巡視船への衝突事故を起点に、129月に日本政府が尖閣諸島を国有化。国有化による日中関係の悪化の中で、201212月に誕生した安倍政権に対して、米国は戦略を注入する良い機会だということで、要求してきた集団的自衛権の行使を入れさせようと圧力をかけた。

安倍首相は2013925日、保守系ハドソン研究所で演説「集団的自衛権について憲法解釈を見直す。日本がアメリカの安全保障の弱い環であってはならない。呼びたければ右翼の軍国主義者と呼んでいただきたい」と語った。

14年に集団的自衛権の容認を閣議決定。15年に戦争法を強行採決。21年に菅政権が土地規制法を成立させた。土地規制法は、沖縄の50の有人離島を政府が法的に軍事的に利用するための措置の一つでもある。20221216日の岸田内閣が安保3文書改定を閣議決定した。

対中国の武器の配備と大規模訓練

2016年には沖縄本島以西には出動部隊の自衛隊基地はなかった。17年以降どんどん基地が作られ、22年度末までには19の基地が作られた。202217日の日米外務・防衛閣僚会議で合意した「台湾有事」での日米共同作戦の計画原案では、①台湾有事の緊迫度が高まった初動段階で、米海兵隊は自衛隊の支援を受けながら、鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を置く、②拠点の候補は、陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する奄美大島や宮古島、配備予定の石垣島を含む約40カ所、③米軍が拠点を置くのは、中国軍と台湾軍の間で戦闘が発生し、放置すれば日本の平和と安全に影響が出る「重要影響事態」と日本政府が認定した場合、④対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」を拠点に配置。自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給など後方支援を担わせ、空母が展開できるよう中国艦艇の排除に当たる。事実上の海上封鎖、⑤台湾本島の防衛ではなく、部隊の小規模・分散展開を中心とする米海兵隊の新たな運用指針「遠征前方基地作戦(EABO)」に基づいて共同作戦を展開する、という。

2020年から沖縄伊江島などで、ハイマースを展開する訓練が行われている。訓練の実際の形として「キーンソード23」が20221110日から19日に南西諸島を含めた各地で行われた。日米合わせて約370機の航空機と艦艇30隻を使用し、実弾射撃を実施した。自衛隊が約26000人、米軍が1万人参加した。 

安保三文書改定の閣議決定

岸田政権は20221216日安保三文書改定を閣議決定した。20231月の通常国会では、5年間で43兆円の防衛予算の確保を打ち出した。相手に攻撃を思いとどまらせるために能力の保有、南西地域の防衛体制の抜本強化、サイバー宇宙など新領域への対応、装備の維持や弾薬の充実、海上保安庁と自衛隊の連携強化、防衛産業の基盤強化や装備移転の支援、研究開発成果の安全保障分野での積極的活用などを進めていく。

「力による一方的な現状変更を許容しない」というが、日本に対して、中国、北朝鮮、ロシアが、「力による一方的な現状変更」を押し付けている状況にはない。 

「現実的シミュレーション」とは?

岸田首相は「極めて現実的なシミュレーションを行った上で、十分な守りを再構築していくための防衛力の抜本的強化を具体化した」と説明しているが、その中身は、ミサイル攻撃に対して、イージス艦、PAC-3、戦闘機等によりミサイルを迎撃。航空侵攻に対して、戦闘機、各種SAM等により迎撃。海上侵攻に対して、護衛艦、潜水艦等により対処する。島嶼への上陸は、事前展開した陸上部隊等で対処する、としている。この「極めて現実的なシミュレーション」には、5万人も駐留する在日米軍は登場しない。県民や国民を苦しめている在日米軍は、有事になったときに既に退避している。米軍が日本を敵の攻撃から守らないことは、2015年の「新ガイドライン」で明確にされている。 

具体化したシミュレーションでは

安保三文書の「極めて現実的なシミュレーション」では、日本を攻撃するという前兆を見て、長距離射程ミサイルで攻撃する。抑止が破られた段階で新しいタイプの形で対処していく。地上戦闘が始まるという前提も入っている。「持続性・強靱性という目的で、43兆円のうち最大の15兆円を支出し、全国300自衛隊施設の強靱化、弾薬・誘導弾の確保、装備品の維持確保、医療体制に充てる。日本国内の地上戦も前提にしながら、戦いを継続していくことが描かれている。日本が攻撃されていなくても、武力行使の新3要件にもとづき集団的自衛権を行使する。相手国には、日本の“先制攻撃”となり、何倍もの報復攻撃がかえってくる。日中共同声明や日中平和友好条約に違反すると強く指摘しなければならない。

日本と中国は経済的に相互依存しており、2019年の日本の輸出入貿易総量の26.5%を占め、米国は14%ぐらい。進出している日本企業は3万社を超え、在留邦人は10万人を超える。読み取れるのは、アメリカの覇権を守るために、日本を戦場にしても中国と戦う戦略だ。 

米機関の台湾有事シミュレーション

実は西太平洋における米中の力関係では、軍事力では中国がアメリカより何倍も大きい。中国は中距離弾道ミサイルなどの先進国で、既に配備された空母キラーミサイルDF21は、1500キロの射程でアメリカの空母を沈めてしまう。そのために1500キロ以内には入らない。そこから台湾を防衛することもできない。そこで米軍に代わって、日本の長距離ミサイル配備が求められた。

米戦略国際問題研究所(CSIS)は202219、中国が台湾を攻めるときの24通りのシミュレーションを公表した。台湾軍は海軍、空軍は即時にやられるが、地上軍は戦闘を継続し、その間に米軍が応援に行くという形だが、かなり厳しい結果になっている。日米両軍も、米空母を含む何十隻もの艦船、何百機もの航空機、何千人もの軍人を失う。日本も列島全体の飛行場が空襲される。台湾は経済的にも大きなダメージを受ける。米国は何年にもわたり世界的地位を損なう。米国の能力再建は、中国の再建よりも遅くなる。米国のシミュレーションの前提には「中国本土を攻撃する計画は立ててはならない」がある。核戦争へのエスカレーションを避けるためとされる。

台湾有事は、常に日本有事に直結させ米軍戦略として作られている。台湾では台湾有事との言葉はない。中国が台湾を攻撃してくるという思いもあまりない。しかし台湾が独立するとなると、中国は軍事力を使ってもそれを阻止することは常々表明している。 

アメリカの対中国戦略の変化

2010年までのアメリカの対中国軍事戦略「エアシー・バトル」は、中国軍による米軍への先制攻撃を前提に、反撃して中国の内陸まで縦深攻撃して勝利するものだった。しかし、米中全面戦争で、中国が核弾頭ミサイルを米本土に打ち込む懸念が起こり、中国領土攻撃を回避し、中国攻撃より台湾への米国覇権を重視するようになった。

そして、尖閣諸島をめぐる日中対立を利用してアメリカの台湾防衛戦略で日本を取り込む動きが起こる。南西諸島の島々に陸上自衛隊の対艦ミサイル部隊を展開し、中国艦船を太平洋に通させないようにする。

その後、台湾を含む第一列島線内の米国覇権を維持するために同盟国を戦わせる「オフショアコントロール戦略」(2013年)や第一列島線に自衛隊や少数の米海兵隊などが「インサイド部隊」として展開し、第2列島線上に米軍が「アウトサイド部隊」として展開する「海洋圧力戦略」(2019年)へと変わってきた(日本列島の最前線化)。小規模部隊が米空軍や第七艦隊と連携して太平洋の島々を転進し移動を繰り返しながら洋上の中国艦船を攻撃する作戦で、硫黄島や伊江島などで訓練が繰り返されている。

2017年に提唱された米空軍の作戦構想「機敏な戦力展開」(ACE)では、中国の先制攻撃の兆候を察知して、最新戦闘機と補給・整備などの支援ユニットがセットの小規模な部隊編成で第一列島線から撤退し、中国の脅威(ミサイル射程)圏外の、より遠い地域の島々の未整備な緊急展開基地に分散、避難する。戦力を分散配備することで、中国がどこを優先して攻撃すべきか判断することを困難にすることも狙いの一つだ。紛争の第二段階では、「アウトサイド部隊」として反撃を行うとされる。 

日米安保条約は、日本を守るのではなく日本を戦場にするものになりつつある。中国は、2030年までにアメリカを抜き世界一の経済大国になると予想される。中国相手に日本が戦争を起こしてはならない。アメリカの思う壺だ。 

昨年の日中首脳会談

今やるべきは日中共同声明、日中平和友好条約へ立ち戻ることだ。昨年1116日岸田首相と習近平主席の首脳会談が行われた。岸田首相から、本年は日中平和友好条約45周年の節目に当たり、日中両国が地域と国際社会をリードする大国として、世界の平和と安定に貢献するために責任を果たしていくことが重要と述べた。両首脳は、日中間の「4つの基本文書」の諸原則と共通認識を堅持し、「戦略的互恵関係」を包括的に推進することを再確認した。その上で、日中関係の新たな時代を切り開くべく、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という大きな方向性を確認し、首脳レベルを含むあらゆるレベルで緊密に意思疎通を重ねていくことで一致した。台湾に関する立場は、1972年の日中共同声明にある通りであり、一切の変更はないと述べている。

改めて日中平和友好条約など「4つの基本文書」の立場で日中関係を再構築していくことが求められる。