2024年7月23日火曜日

日米首脳会談は何を示しているか?


 日本平和委員会事務局長 

            千坂 純

 「平和国家」を根底から覆した

  日本国内で支持率最低を更新し続けている岸田文雄首相は、米バイデン大統領に国賓として招かれ、410日に日米首脳会談を行い、日米共同声明を発表した。これは、安倍晋三元首相の後援を得て首相になれた岸田首相の下で、とんでもなく危険な方向に強化されてきた日米軍事同盟を、またさらにとんでもなく強化するものなのだ。その中身を見てみよう。

 ところで、戦後歴代首相で国賓として米国に招かれたのは、中曽根康弘、小渕恵三、小泉純一郎、安倍晋三首相の4人しかいない。なぜ、岸田首相が国賓としてもてなされたのか?

 その理由を端的に表したのが、訪米前の45日にエマニュエル駐日米大使が産経新聞に語ったこの言葉だ。

「岸田政権は2年間で、70年来の(日本の安全保障)政策の隅々に手を入れ、根底から覆した。防衛費のGDP(国内総生産)比2%への増額、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、そのための(米国製トマホークの)購入に踏み切った。防衛装備品の輸出にもめどをつけた」(ゴチックは筆者。以下同じ

 首相就任後わずか2年余で、戦後、日本国憲法第9条と国民のたたかいによってつくり出してきた、「平和国家」としての様々な制約の「すみずみに手を入れ、根底から覆した」――その実績が評価されたのである。

 その「功績」は、日米共同声明でも賞賛されている。

 過去3年間を経て、日米同盟は前例のない高みに到達した。我々がこの歴史的な瞬間 に至ったのは、我々がそれぞれ、そして共に、わずか数年前には不可能と思われたような方法で、我々の共同での能力を強化するために勇気ある措置を講じたためである。」「米国は、日本が自国の国家安全保障戦略に従い、2027日本会計年度に防衛力とそれを 補完する取組に係る予算をGDP比2%へ増額する計画、反撃能力を保有する決定及び自衛隊の指揮・統制を強化するために自衛隊の統合作戦司令部を新設する計画を含む、防衛力の抜本的強化のために日本が講じている措置を歓迎する。これらの取組は共に、日米同盟を強化し、インド太平洋地域の安定に貢献しつつ、日米の防衛関係をかつてないレベルに引き上げ、日米安全保障協力の新しい時代を切り拓くこととなる

 日米同盟が世界規模で機能

  国会にも諮らず、閣議決定だけで、「平和国家」の政策を覆す岸田自公政権を、こう絶賛した上で、日米共同声明は、日米軍事同盟を次のように位置付ける。

「我々のグローバルなパートナーシップの中核は、日米安全保障条約に基づく二国間の防衛・安全保障協力であり、これはかつてないほど強固である。我々は、日米同盟がインド太平洋地域の平和、安全及び繁栄の礎であり続けることを確認する。バイデン大統領は、核を含むあらゆる能力を用いた、同条約第5条の下での、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを改めて表明した。岸田総理は、日本の防衛力と役割を抜本的に強化し、同条約の下で米国との緊密な連携を強化することへの日本の揺るぎないコミットメントを改めて確認した。」

 日米同盟をインド太平洋地域を中心に、「グローバル・パートナー」として、世界規模で機能するものに強化する。米国は核を含むあらゆる戦力を投入する。一方、日本は大軍拡をおしすすめ、役割分担を拡大する――というわけである。 

日本は米国の戦争にも共にある 

 米国と共に世界規模で行動する――そのことを、もっと直截に、平易な言葉で語ったのが、日米首脳会談の翌日行われた、米議会での岸田首相の演説だ。「日本の国会では、こんな拍手に迎えられることはない」などと、赤面するようなはしゃぎぶりを見せながら、彼はこう宣言した。

「『自由と民主主義』という名の宇宙船で、日本は米国の仲間の船員であることを誇り に思います。 共にデッキに立ち、任務に従事し、そして、なすべきことをする、その準備はできて います。 世界中の民主主義国は、総力を挙げて取り組まなければなりません。

 皆様、日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています。米国は独りではありません。日本は米国と共にあります。日本は長い年月をかけて変わってきました。第二次世界大戦の荒廃から立ち直った控えめな同盟国から、外の世界に目を向け、強く、コミットした同盟国へと自らを変革してきました

 これを聞いていたある米政府関係者は、朝日新聞に次のように語ったと言う。

 「考えて欲しい。首相のスピーチを聞けば、米議会は その言葉通りに受け止める。『日本は米国と共にある』 ということは、我々にとってみれば、最もつらくて過酷 な戦争という局面であっても、日本は米国と手を携えて一緒にやるということになる。しかも首相は『台湾有事だけは……』などと限定を付けなかったことにも驚いた。世界中の至るところで米国が関わる戦争に日本も グローバルに参加する決意があると受け止めることが できる。少なくとも米議会は間違いなくそう受け止めるし、首相演説を根拠に、これから日本にますますいろんな要求を強めるだろう」 (朝日新聞デジタル、4月20日)

 岸田首相は、米議会でとんでもない約束をしたことになる。だがそれは、今回の日米首脳会談の核心をズバリと言い表した言葉と言えるだろう。 

自衛隊の戦争加担へのメニュー 

 こうした「米国と肩を組んで共に立ち上がる」同盟国として、日本の役割をさらに拡大するために、日米首脳会談では「新たな戦略的イニシア」を打ち出した。

 その主なものは――

■より効果的な日米同盟の指揮・統制の枠組みの構築。  

■日本の敵地攻撃能力強化のための米国による支援

■地域パートナーとの関係強化…▸日米豪防空協力 ▸AUKUS諸国(米英豪)との連携(武器技術開発)▸日米韓(共同訓練)▸定期的な日米英3カ国共同訓練▸日米豪の無人機、自律性兵器分野の協力など

■日米の武器共同開発・生産の協力強化(ミサイル、次期ジェット練習戦闘機の共同開発、米艦船や軍用機の日本での整備・修理など)

■米国の拡大抑止(核威嚇態勢)の強化=日本の防衛力によって増進される米国の拡大抑止を引き続き強化することの決定的な重要性の確認

 ・・・などである。

 「より効果的な日米同盟の指揮・統制」(=司令部の一体化)については、次のように表現されている。

「我々は、作戦及び能力のシームレスな統合を可能にし、平時及び有事における自衛隊と米軍との間の相互運用性及び計画策定の強化を可能にするため、二国間でそれぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる意図を表明する。より効果的な日米同盟の指揮・統制は、喫緊の地域の安全保障上の課題に直面するに当たり、抑止力を強化し、自由で開かれたインド太平洋を促進していく」

作戦と能力を「シームレスに(切れ目なく)」統合し、有事(戦争)における一体的な活動を可能にするため、指揮・統制機能の一体化を図るというわけである。

この具体化は、7月下旬に開かれる日米安全保障協議委員会で行われるということだが、方向としては、現在、戦争指揮権限を有しない在日米軍司令部(東京・横田基地)に、実際の戦争指揮権限を持つインド・太平洋軍司令部(ハワイ)の権限を委譲し、統合任務部隊司令部を設置。これが今年中に東京・市ヶ谷の防衛省内に編成される、自衛隊の統合作戦司令部と連携して、戦争を指揮する体制をつくるのである。

なぜ、日米の実戦司令部を一体化するのか? これは、岸田政権の下ですすめられている「敵地攻撃能力」の増強と密接な関係がある。

首脳会談に先立つ21日に、日米軍事同盟強化に強い影響力をもつ米国のシンクタンク「戦略・国際研究センター(CSIS)」から出された「日米同盟にとって重要な次のステップ:指揮統制の近代化」と題したレポートは、次のように述べている。

本が防衛強化に向けて急速に動いていることから、⽇⽶同盟変における次の ステップ、すなわち指揮統制構造の近代化の重要性がまっている本がより有能な軍事パートナーとなるにつれ、国と本はより運可能な同盟を援するための新たな構造を構築する必要がある。指揮統制構造の変は同盟の信頼性を幅にめ、東アジアにおける抑⽌⼒の強化に役つだろう。⽇本が計画している反撃能⼒の獲得は、この取り組みに特に緊急性を与えている。⽶国と⽇本は初めて、戦術的(標的の特定と訴追)と戦略的(紛争激化の管理)の両⽅で武⼒⾏使を調整で きる必要がある

つまり、他国を攻撃するときに、ばらばらに攻撃しても効果はない(そもそも自衛隊単独で敵地攻撃をできる能力はない)。米軍の指揮・統制の下に米軍・自衛隊が役割を分担して、敵を攻撃しなければ戦争にならないというわけである。

このレポートは次のようにも言っている。

「これは政治的にデリケートな話題であり、特に本では軍隊に対する憲法上の制約 が依然として強く、軍紛争への巻き込まれへの懸念が根強く残っている。しかし、同盟の指揮統制をより層統合するという論理には議論の余地がない」

米軍の指揮の下に自衛隊が他国を攻撃する態勢をつくることは、日本国憲法上の問題があるし、米国の戦争に日本を巻き込む懸念を強める。しかし、それもお構いなしにこれをすすめるべきだ、というわけである。

ここにいま進められている日米軍事同盟強化と、その下での大軍拡の危険性が端的に示されている。この道を許してはならない。

「台湾有事」 無事への道は

東京革新懇代表世話人 新堰義昭

 

「台湾有事」に備えて政府は、沖縄・南西諸島に自衛隊基地を建設し、長射程のミサイル配備、要塞化が進んでいます。しかし「台湾有事」は米軍戦略の想定に過ぎません。

台湾の新しい総統に選ばれた民進党・頼成徳氏が就任式(5月20日)で、「傲慢にも卑屈にもならず、現状を維持する」と演説。これに反発した中国政府は、懲罰のために台湾を取り囲む形で軍事演習を23日、24日に強行。日本AALAの旅で遭遇した新堰義昭代表世話人に、その時の体験を寄稿してもらいました。

 

今回の「日本AALAの台湾・平和の旅」の目玉は、中国大陸から至近距離にある金門島の訪問であった。軍事演習は台湾でも大きく報道されており、中止はやむを得ないと考えていた。

ところが当日の朝、台北市内は平静であった。台北から金門島への飛行便(約1時間余り)はダイヤ通り、金門島の空港でも警備する警官も軍人も確認できなかった。あいにくの雨でアモイを遠望できなかったが、観光客で賑わっていた。どうも中国軍は軍事演習範囲を、民間航空機の飛行ルートを避けて設定したようだ。

金門島のガイドは、中国の軍事演習に馴れっこで、「直接攻撃するなら通報があると考えている。経済的に中国とは緊密な関係がある」と話してくれた。伊波洋一参議院議員は、「台湾では台湾有事との言葉はない。中国が台湾を攻撃してくるという思いもあまりない。しかし台湾が独立するとなると、中国は軍事力を使ってもそれを阻止することは常々表明している」(東京革新懇ニュース3月号)と述べている。

複雑な歴史的な経過があるとはいえ、中国の野蛮で恫喝的な軍事演習は絶対に許されない。軍事的対抗の応酬は、錯誤による「戦争」を招く危険がある。「台湾有事は日本の有事」「戦う覚悟が必要」(麻生太郎自民党副総裁の台湾での講演)など煽る発言も言語道断である。

 台湾は自主、大国とは友好的等距離

旅のもう一つの目玉は、総統府直轄の中央研究院における若い研究者との交流であった。

 王智明氏(欧米研究所研究員)は、「台湾人」と考える「アイデンティティの変容」など世論動向を報告。「一国二制度」については、支持53.5%、反対33.6%であるが、「独立不支持」(「不好」)54.6%、「独立支持」30.4%。このことから戦争を回避するために独立を急ぐべきではないというのが世論の多数と述べた。

続けて、昨年3月20日、台湾の学者・研究者グループ37人が発出した「反戦声明」について、盧倩儀氏(同上)から報告を受けた。台湾が蔣介石軍の戒厳令による40余年の暴力的人権侵害の歴史を乗り越え、研究者の「学問の自由」が保障されていることに刮目。「米中戦争は要らない、台湾は自主を、大国とは友好的で等距離の関係維持を」、米中戦争に巻き込まれないための真剣な探究に感銘を受けた。日本が果たすべき役割は「台湾有事」に備えることではなく、米国、中国を含む北東アジアの平和の架け橋であり、市民レベルの交流の重要性を痛感した。

「反戦声明」(抜粋)

「米中双方はすべての意見の相違を平和的手段で解決しなければならない。・・・台湾は自主独立の立場をとり、経済、環境、学術、文化など全人類の平等・ 福祉・平和を増進できる分野で各国と協力すべきであり、特に各大国とは等距離の外交関係を維持し、知恵のある戦略と手腕をもって台湾海峡両岸の安全を守るべきであって、アメリカ覇権主義の弟分や子分になるべきではなく、あるいは 逆に中国の「戦狼」の対抗関係の一環となるべきでもない。私たちは、紛争につながるいかなる意図的な挑発行為も非難し、挑発行為の停止がもたらす効果と利益が軍需産業や軍隊の駐留、あるいは武力による脅威や戦争の発動よりもはるかに大きなものであると信じている。」

東京革新懇 都知事選声明(7月16日)

 声明

都知事選で広がった市民と野党の共闘をさらに発展させ、都政・国政の転換をめざそう

2024716日 東京革新懇代表世話人会

東京革新懇は、都知事選挙にあたり531日にアピール「自民党と二人三脚の小池都政を終わらせ、市民と野党の共同候補・蓮舫さんの勝利をめざすご奮闘をこころより呼びかけます」で奮闘を呼びかけた。

しかし、小池都知事が290万票を獲得し当選、石丸伸二氏165万票、蓮舫候補は136万票で3位の残念の結果となった。蓮舫さん勝利が政治変革の巨大な流れがつくることを恐れた勢力から、蓮舫さんの立候補表明以来、外国籍”“共産党が主導している、ジェンダー視点からのきつい等の攻撃がネット上で殺到した。

また、石丸伸二候補がSNSを活用し第2位となったが、TOKYO自民党政経塾塾長が選対本部長を担うなど、石丸候補への様々なテコ入れによる蓮舫候補への打撃が図られた。

短期間の選挙戦の中で、蓮舫候補の人柄、ボトムアップの政治、社会的弱者に寄り添った政策、神宮外苑をはじめ大規模再開発の見直しなどを都民に十分に届けきることが出来なかった。

一方、小池都知事は、コロナ禍では連日マスコミに登場し、都知事選も意識しながら、都民が要求していた学校給食の補助、高校授業料の無償化、子育て支援として18歳以下の子ども一人当たり月額5000円支給を実施し、小池知事はそれなりにやってくれているとの都民の一定の評価が広がりをみせた。しかし、小池都知事は“8年間の実績”を標榜しながら、テレビ討論を“公務”を理由に拒絶したところに、政府・大企業と一体になり大規模再開発を最重点にし、都民に背を向ける本質からくる弱点がものの見事に示されている。各分野・地域で都民の運動も広がり、小池都政と都民の矛盾は確実に広がっている。

また、首都東京の知事選において、自民党が候補者を擁立出来なかったばかりか、小池知事を表立って支持することすら出来なかった。さらに、同時に行われた都議補選においては、自民党は8人擁立し、現有5議席から2議席に後退したことも、自民党への引き続く都民の厳しい批判を示している。

2014年の集団的自衛権閣議決定とのたたかい以来の東京における市民と野党の共闘の発展の上に、宇都宮健児、前川喜平氏ら5氏、立憲民主党・共産党・社民党・新社会党・生活者ネット・綠の党・ミライ会議の7党会派、市民団体による候補者選定委員会の設置、都段階の取り組み、各地域の取り組みとかつてない市民と野党の共闘が広がった。このことを財産と確信にしなければならない。また、蓮舫候補の街頭演説にはかつてない人々が集まり、熱気に包まれた。「ひとり街宣」の自主的運動が広がったことも今後の財産である。

今回の都知事選において、全国革新懇の呼びかけで7波に渡る全国支援行動が取り組まれ、延べ269人の行動となった。暑い中の全国の支援にこころより感謝申し上げる。

東京革新懇は、都民本位の都政への転換をめざして一層奮闘するとともに、迫りくる総選挙に向けて、支配層が恐れる市民と野党の共闘をさらに発展させ、自民党政治を終らせ、国民本位の政治への転換をめざすものである。

2024年5月31日金曜日

都知事選

         小池都知事の素顔

    

  都政問題研究家  
       末延渥史

 

いよいよ都知事選挙が目前に迫り、市民と野党の共闘の候補者として参議院議員の蓮舫氏が立候補を表明されました。心躍る思いです。

 

改憲・核武装論者

 いま、安倍・菅・岸田と続く暴走政権のもとで改憲、戦争をする国づくりの動きが加速され、東京でも米軍横田基地の自衛隊との一体的再編強化など、東京の安全と平和が脅かされようとしています。

 こうしたときに自治体の長が果たすべき役割は、かつて革新都政が「憲法の改悪に反対し、その平和的・民主的条項の完全実施」を政策課題として「東京から火薬の匂いをなくす」ことを掲げ、米軍横田基地や米軍王子キャンプなどの返還をはじめ核兵器全面禁止のとりくみなどに全力を尽くしたように、東京の平和と安全の実現に先頭に立って尽力することではないでしょうか。

 ところが、小池都知事はこの8年間、改憲や戦争をする国づくりに異義を唱えることも、抗議の声をあげることもしないばかりか、都民の切実な願いである米軍横田基地の撤去に背を向けつづけ、海外で奇襲作戦などの特殊任務にあたる危険なオスプレイの横田基地配備や横田基地によるPFAS汚染についても頬被りをして、対米従属の姿勢を明らかにしています。

 それには相応の理由があります。小池都知事は国会議員時代に改憲を掲げる日本会議の国会議員懇談会の副幹事長や副会長を歴任。安保法制(戦争法)の策定にあたっては安倍首相のもと自民党の「安全保障法制整備推進本部」の副本部長として安保法制を推進した人物だったからです。

 さらに、小池都知事は、2016年の都知事選挙の翌年におこなわれた総選挙にあたって、安倍首相が掲げる憲法9条改憲に呼応するかたちで、「希望の党」を立ち上げました。その選挙公報や公認希望者に対する政策協定書などで「憲法改正」「憲法9条を含め憲法改正の議論を進めます」などと明記した生粋の改憲論者に他なりません。

 また、唯一の核被爆国の首都の長であるにもかかわらず、小池都知事は自身の公式ホームページで「東京に米国の核ミサイルを」と主張するとともに、「核武装の選択肢は十分あり得る」(VOICE2003年3月号)などと核保有を主張しているのです。バリバリの改憲主義者、核武装論者を知事の座に座らせておくことはできません。

 本籍は自民党

  小池都知事は2016年の立候補にあたって無所属、支持政党なしで立候補。この選挙で強い都民要求となっていた2020東京オリンピックや築地中央卸売市場の豊洲移転の見直し、全面的情報開示などを掲げることで都議会自民党との対決ポーズをとりました。また、その1年後におこなわれた都議会議員選挙では、都民ファーストの会を立ち上げ、自身があたかも反自民の旗手であるかのように都民の前で振る舞いました。

 実際に、8年の間の小池都知事の都政運営は、都民の要求を反映した一部のパフォーマンスを除いては、消費税大増税、社会保障の連続改悪、雇用と生活破壊のアベノミクスに追随し、豊かな財政を湯水のように都市再生=東京大改造につぎ込む一方で、都民には新自由主義と自己責任を押しつけ、都民のための施策は冷たく退け、新型コロナ対策や物価高騰対策などは国の予算の枠内に止めるという都民置き去りの自民党政治の徹底に他なりませんでした。

 それもそのはずで小池都知事は自民党政権のもとで総務会長を務め、また、防衛大臣、環境大臣などの要職を歴任した人物です。また、2016年の都知事選挙にあたって、自民党国会議員であった小池都知事は自民党推薦で選挙に立候補することを要望。自民党本部をたずね推薦を要請しましたが、政党をわたり歩いた経歴が疎まれるとともに、自民党都連、都議会自民党の強力な反対を受けたことから、自民党からの立候補を断念。自民党員籍のまま、無所属・支持政党なしで立候補。「自民党と対峙」という劇場型選挙を演出することで都知事の座を得ました。

 ところが、知事当選後は、裏で安倍首相、盟友と言われる二階自民党幹事長などと密会。永田町に二階幹事長をたびたび訪ね、ことあるごとに密談を重ね、都政を動かしていたのです。

 こうした蜜月関係のもとで自民党との連係プレーや国言いなりの新型コロナ対策、社会保障の連続改悪、都立病院の独法化など東京における自民党政治の先行実施など自民党政治の水先案内役を務めてきたのです。

 独裁型政治手法 

 小池都知事の8年は住民の奉仕者としての使命を忘れ、傲慢、不遜な姿勢を際立たせた8年ということができます。

 この点についてNHKが2020年に実施したアンケート「なぜ東京都民は再び小池都知事を選んだのか ~1万人アンケートで見るホンネ」で「小池都知事が持ち合わせていないのは?」の問いに対して「弱者への共感」がトップで62%、「都民目線」も50%を占める結果が示され、小池都知事の都政運営に対するシビアな都民の目が示されています。

 そして、小池都知事は都政運営にあたって、選挙で秘書を務めた特別秘書や自身が東京都に招き入れた特別顧問、特別参与などを重用。石原都政にはじまるワンマン、側近・密室政治を展開しました。

 とりわけ、初当選直後には大阪維新の会政策特別顧問をつとめ橋本徹大阪知事のブレーンであった上山信一氏を東京都顧問・特別顧問にひきいれ、「都政改革本部」の統括責任者として重用しました。 2期目には、かつて東京都副知事を務めた人物を引き入れ側近政治を展開。その人物は元副知事の威光をかさに局長や担当部長などの頭越しに方針を押しつけるなど、庁内の組織ルール、民主的運営を蹂躙する都政運営を押しつけてきました。こうしたことに対して都民から批判の声があげられ、都議会からも「特別顧問を重用し、都職員が軽視されている」「意思決定過程が不明確」などと追及がおこなわれるに至りました

 また、前述の人事支配や新型コロナ対策での補正予算の専決処分(非常時など議会を開会できない場合などに認められる知事による予算の決定・執行)の乱発、自分にとって不都合な議会質問の答弁拒否など庁内民主主義と議会制民主主義を否定する独断、専横の都政運営が大手を振ってまかり通っています。「ここに至って議論することもはばかれる空気」「これまでの都政であれば検討過程でブレーキがかかってもおかしくない」「『なんでもあり』が年々、色濃くなっている」「都民の生活に寄りそうメッセージは弱い」「都民は何も白紙委任しているわけではない」(都政新報紙)など都庁内部から批判と告発の声があげられるに至っているのです。 

 新自由主義・市場原理の徹底

  日本における新自由主義とそれに基づく自己責任=自助・共助の展開は、1990年代に入ってからの経団連や経済同友会などの財界の提唱をうけて、国のレベルでは2000年におこなわれた「社会福祉基礎構造改革」、東京都の場合は1999年の都知事選挙で知事に就任した石原都知事のもとで策定された「東京構想2000」「都庁改革アクションプラン」によって具体化され、安倍・菅・岸田の歴代政権、石原、猪瀬、桝添、小池とつづく自民党都政のもとで力づくで国民・都民に押しつけられてきました。

 なかでも徹底した新自由主義者である小池都知事は、憲法が定める「健康で文化的な最低限度の生活」の実現、地方自治法が自治体の使命としている「住民の福祉の増進を図る」という自治体の長として有していなければならない理念・姿勢を欠落させおり、新型コロナ対策でも社会保障政策でも物価高騰対策でも徹底した「自助」努力による解決を求め、国の制度や法定制度を超える支援は冷たく拒みつづけるなど、公的責任を果たそうとはしていません。

 ポピュリスト小池百合子

  いま、世界で危険なポピュリズムが台頭し、人々が営々として築きあげてきた世界の秩序、平和が脅かされようとしています。

 一方、小池都知事は2回の都知事選挙や都議会議員選挙、国政選挙をつうじて、自民党政治との対峙を強く打ちだした劇場型選挙を演出するとともに、「都民が決める 都民と進める」「女性都知事」「環境」などあたかも自身が都民の味方であり、女性の代表であり、環境の先駆者かのように演出してきました。

 しかし、この8年の小池都知事の言動は真逆のものであり、ポピュリズム政治そのものであったことを指摘しなければなりません。

 都政におけるポピュリズムの台頭について、一橋大学の伊藤直也氏は石原都知事を分析した論文のなかで、「現代ポピュリズムの諸特徴」として、①敵の創出と無党派層の支持獲得、②メディアの利用、③新保守主義的性格と新自由主義的性格、④民主主義的プロセスの迂回を指摘しています。このまま小池都知事の政治姿勢・都政運営に当てはまるのではないでしょうか。 

 「都道府県の議会選だと、議員は選挙区の2~3割の得票で当選できます。だから当選可能性を高めるには、商工会議所やJA、労働組合など、部分利益の代表者として振る舞うのが一番合理的です。反対に、首長が選出されるのは小選挙区制ですから、浮動票を取り込まないと既成政党の候補者には勝てない。票が集中していて既得権益で固まっていないところ、すなわち都市部のホワイトカラーの支持を集めないとなりません。だから、議会や既得権益を非難すれば、当選可能性が高まります。自分の政治的意見がどうであろうと、当選を至上目的にしてそこから逆算すると、首長候補者はポピュリスト的な言動や政策を訴えることが合理的になっていきます」

 「政治社会的立場には保守的で、経済的には保護主義的です。既成政党が政治的、経済的な危機に対応できない中で、その隙間を埋めたのがポピュリスト勢力」

(吉田徹北海道大学教授、The Asahi Simbun Global 2018.09.06 

財界ファースト、都民置き去り

 いま、東京では石原都政が〃集中は是〃といって財界要求に応えて都政に持ちこんだ「都市再生」による同時多発的な超高層ビル群による大規模再開発が、「世界で一番ビジネスのしやすい国際都市」(舛添要一都知事)、「アジアナンバーワンの国際金融都市」「稼げる都市」(小池百合子都知事)などの名目で、「東京大改造計画」にバージョンアップされ爆速で推進されています。

 このようなほんのひとにぎりの大企業・多国籍企業と富裕層のための都市づくり、彼らが豊かになればその滴がしたたり落ちてくると言う〃トリクルダウン〃の発想にもとづく政治のもとで、東京における貧困の増大と格差の拡大はとどまるところを知らず、都民生活は困窮の度をふかめているのです。

 実際に小池都政のもとで大規模再開発や外環道、特定整備路線などの道路建設には湯水のように税金がつぎ込まれる一方、少人数学級や都営住宅の新規大量建設、多摩地域の保健所増設、国保、後期高齢者医療、介護のなどの社会保障負担軽減には冷たく背をむけつづけているのです。

 「都民ファースト」どころか「財界ファースト 都民置き去り」の都政と言わなければなりません。

 市民と野党の共闘で都政転換を

  いま、都知事選挙に向けて都内各地、各団体で市民と野党の共闘のとりくみが急速にひろがっています。

 はじまりは2016年の都知事選挙につづいて、2019年9月、浜矩子さん、五十嵐仁さん、永山利和さんの呼びかけで「都政を考える夕べ」が開催され、おおくの都民をはじめ各地域で市民運動にとり組まれている方々、労働団体の代表の方、弁護士や研究者の方々の賛同を得て、「市民と野党の共闘の実現で都政転換」をめざす呼びかけ人会議が結成されことです。

  この「市民と野党の共闘」は結実し、翌年の都知事選挙で宇都宮健児さんを共闘の候補として闘うことができ、その後の都議会議員選挙、衆議院議員選挙で着実な前進を勝ちとることができました。また、各地の首長の選挙においても協力・共同がひろがり、杉並区、中野区などで「市民と野党の共闘」の区長・市長が誕生。今年4月にたたかわれた衆議院第15区補欠選挙では酒井なつみさんが市民と野党の共闘で勝利しました。 また、1月24には「 どうなる東京 変えよう東京! 2024キックオフ」集会がひらかれ、この集会を契機に、市民と野党の共闘による「候補者選対会議」の設置と都知事選挙候補者の擁立、知事選挙準備のとりくみが力強くすすめられてきました。

 市民と野党の共闘で、自民党と一心同体の小池都政に代わる都民が主人公の都政を今度こそを実現しようではありませんか。

2024年4月25日木曜日

日本は食料も農業も崖っぷち その2

 日本は食料も農業も崖っぷちその②

命を守る消費者と生産者の共同を


 
東京大学大学院教授 
        鈴木宣弘さん

4月号に続き、鈴木宣弘さんの講演要旨を紹介します


 

江戸時代の見事な循環経済

江戸時代の鎖国政策で、資源の出入りがなかった日本では、工夫を凝らして再生可能な植物資源を最大限に生かし、独自の循環型社会を築きあげた。食物は太陽エネルギーとCO₂、土、水で成長するから、言い換えれば江戸時代は、太陽エネルギーに支えられていた時代だと言える。

この物質循環の仕組みは、ヨーロッパ人を驚嘆させた。スイス人のマロンの帰国報告に接した肥料学の大家リービッヒ(180373、ドイツ、農芸化学の父と言われた)は、「日本の農業の基本は、土壌から収穫物を持ち出した全植物栄養分を完全に償還することにある」と的確に表現した。

「三里四方」という表現が使われたが、これは半径三里(約12キロメートル)の間で栽培された野菜を食べていれば、健康で長寿でいられるということを意味している。

 

日本の循環農法を破壊したアメリカ占領政策

日本の食糧難と米国の余剰穀物処理への対処として、早い段階で実質的に関税を撤廃された大豆、トウモロコシ(飼料用)、大量の輸入を受け入れた小麦などは、国内生産の減少が加速し、自給率の低下が進んだ。輸入依存率が、小麦85%、大豆94%、トウモロコシ100%に達し、農業構造を大きく変えた。

食糧事情が好転し始めた1958年、農業に大きなダメージを与える一冊の本が出版される。慶応大医学部教授の林たかし氏の著書『頭脳』。発売後3年目で50版を重ねるベストセラーになり、影響は甚大だった。『頭脳』の中には、「コメ食低脳論」がまことしやかに述べられ、「日本人が欧米人に劣るのは、主食のコメが原因、大人はもう諦めよう、せめて子どもの主食だけはパンにしたほうがよい。頭脳のよく働く、アメリカ人やソ連人と対等に話の出来る子どもに育ててやるのがほんとうである」と述べている。当時の朝日新聞「天声人語」もコメ食否定論を展開。国民はすっかり洗脳された。

米国の小麦生産過剰による日本への売り込み戦略のもと、日本各地で「洋食推進運動」が食生活近代化のスローガンで展開された。欧米食生活崇拝運動であり、和食排斥運動でもあった。小麦の対日工作の主役、キッシンジャー・リチャードバウム(アメリカ西部小麦連合会)が、「日本食生活協会」に資金許与し、キッチンカーという調理台つきのバスが20数台で全国を農村部まで回った。

パン食に加え、米国飼料穀物協会が、「日本飼料協会」を発足させ、米国穀物依存の日本畜産を推進し、肉食もアメリカが進めた。

短い期間に伝統的な食文化を変化させてしまった民族というのは世界史上でもほとんど例がない。

このころから、コメの消費量の減少が始まり、コメの生産過剰から水田の生産調整へとつながっていく。我が国の農業、農政が凋落する始まりでもあった。

 

貿易自由化の犠牲とされる農業

食料は国民の命を守る安全保障の要なのに、日本にはそのための国家戦略が欠如しており、自動車などの輸出を伸ばすために、農業を犠牲にする短絡的な政策が取られてきた。

農業を生贄にする展開を進めやすくするために、農業は過保護だ、規制改革や貿易自由化というショック療法が必要だとの刷り込みが、メディアを動員して続けられた。しかし、実態は、日本農業は世界的に最も保護されていない。農産物の価格支持政策をほぼ廃止したのが、WTO加盟国の哀れな「優等生」日本だ。

欧米各国は、農産物価格支持と直接補助金を行っている。特に、EUは、国民に理解されやすいように、環境への配慮や地域振興の「名目」で理由付けを変更して農業補助金総額を可能な限り維持する工夫を続けている。

農業所得に占める補助金の割合(2013年)は、日本30.2%、米国35.2%、スイス104.8%、フランス94.7%、ドイツ69.7%、英国90.5%。

 

農薬、ゲノム食品、ホルモンも規制がザル

日本の農家の平均年齢68.4歳。あと10年経ったらどうなるか、農業が崩壊しかねない。残された時間はわずかだ。

安全性を犠牲にした外国産の食品に飛びつく行動を変え、安くても危ないものは買わない、地域で頑張っている農家をしっかり支える行動ができれば流れは変えられる。

去年から「遺伝子組み換えでない国産大豆でできた豆腐」との食品表示が消えた。これをやったのはアメリカ・モンサント。安全なはずの遺伝子組換え食品が、日本人が不安になる誤認表示だからやめろと要求した。

カリフォルニアでは、遺伝子組み換え種子とセットの除草剤グリホサートで発がんしたとしてグローバル種子企業に多額の賠償判決がでた。世界的にグリホサートへの規制が強まっている中、日本はグリホサートの残留基準値を極端に緩和した(小麦6倍、ソバ150倍)。

ゲノム編集では、予期せぬ遺伝子損傷が学会誌に報告されているのに、米国に呼応し届け出のみで野放しだ。

1970年代、ポストハーベストの防カビ剤のかかった米国レモンを海洋投棄し、自動車輸入を止めると脅され、「禁止農薬でも輸送時にかけると食品添加物に変わる」とウルトラCの分類変更で容認。

米国ジャガイモも、発がん性等指摘されている農薬を輸送のための防カビ剤として食品添加物に指定し散布可能にし、残留基準を20倍に緩和。遺伝子組み換えジャガイモも認可。冷凍フライドポテトの関税撤廃など「至れり尽くせり」の措置。

米国やEUではホルモンを使わない牛肉が進んでいるが、日本が選択的に「ホルモン」牛肉の仕向け先になりつつある。オーストラリアは、EU向けには投与せず、日本向けにはしっかりエストロゲンを投与している。

牛や豚の餌に混ぜる成長促進剤ラクトパミンは、人間に中毒症状を起こすとして、EU、中国、ロシアでも使用と輸入が禁止だが、日本では輸入は素通りだ。

 

なぜ学校給食がカギか

子ども達を守り、国民の未来を守るカギとして、学校給食を通じて地元の安全・安心な農産物をしっかり提供する運動が起こっている。千葉県いすみ市は、有機米124000円で買い取るからと推進し、4年で市内の給食全部が有機米となった。野菜も広がっている。触発された京都亀岡市の市長は、有機米148000円だとし、農家から歓声が上がった。農家にとっても、販売先と価格が安定すれば励みになる。そういう流れを広げてほしい。

東京世田谷区では、安全・安心の給食提供を行うため、化学肥料及び農薬の使用の少ない食材や有機農作物を購入することにした。2023年度は、各校6回の有機米を使用した給食の提供を実施した。90万人の人口の自治体での有機米で、秋田、千葉、栃木、新潟、宮城と全国の産地と連携を打ち出した。

 

農林漁業を崩壊させる総仕上げ

畜安法、種子法、漁業法、林野法と、農林漁業家と地域を守るために、知恵を絞って作り上げ、長い間守ってきた仕組みを、自身で手を下させられる最近の流れは、農水省にとっても断腸の想いだ。

官邸における各省のパワーバランスが完全に崩れ、自らと関連業界の利害のためには食と農林漁業を徹底的に犠牲にする工作を続けてきた経産省が官邸を「掌握」した。命・環境・地域・国土を守る特別な産業という扱いをやめて、農林漁業を「お友達」の儲けの道具に捧げるために、農水省の経産省への吸収も含め、農林漁業と関連組織を崩壊・解体させる「総仕上げ」が、官邸に忠誠をちかった事務次官によって進められた。

 

武器より安い武器=食料

ブッシュ元米大統領は食糧農業関係者に「食料自給率はナショナルセキュリティの問題だ。皆さんのおかげでそれが常に保たれている米国はなんとありがたいことか。食料自給が出来ない国は、国際的圧力と危険に晒される国だ」と語っている。1973年、バッツ農務長官は「日本を脅迫するのなら、食糧輸出を止めればいい」と豪語した。

 

農産物の価格はどのように決まる?

もう一つの大きな問題が価格の問題。この表は、数字の0.5を下回っていると農家が買い叩かれているということだ。コメ0.11、飲用乳0.14、ダイコン0.47、ニンジン0.33、白菜0.37、キャベツ0.38など。農家に払う価格は、イオンがいくらで売るかで決まり、そこから逆算して農家から買い取る。グローバル企業は、農家を買い叩いて消費者に高く売って不当なマージンを得ている。

農漁協の共販により流通業者の市場支配力が抑制され、あるいは生協による共同購入に代わることにより、農家は今より高く売れ、消費者は今より安く買うことができる。流通・小売りに偏ったパワーバランスを是正し、利益の配分を適正化し、生産者・消費者の双方の利益を守る役割こそが協同組合の使命だ。

 

世界に見る生産者と消費者が支え合う「強い農業」

カナダの牛乳は1300円、日本より高いが消費者は不満を持っていない。アンケートで「米国産は遺伝子組み換え成長ホルモン入りで不安だから、カナダ産を支えたい」と答えている。農家・メーカー・小売りの十分な利益を得た上で、消費者もハッピーならば、幸せな持続的システムだ。

スイスの卵は16080円。輸入品の何倍でも売れている。動物福祉、生物多様性、自然・景観に配慮して生産されたものは安全でおいしい。スイスでは、草刈りして雑木林化を防ぐと170万円、豚のストレス減の飼育で230万円など、農業の果たす多面的機能の項目ごとに支払われる直接支払額が決められている。

イタリアの水田では、生物多様性、貯水による洪水防止機能、水のろ過等の機能を評価し、税金での直接支払いの根拠にしている。

 

安全・安心な食と暮らしを守る

命を削る安さに飛びついていけない。本当の意味で「安い」のは、身近で地域の暮らしを支える多様な経営が供給する安心安全な食材だ。国産=安全ではない。本当に持続できるのは、人にも牛・豚・鶏にも環境にも種にも優しい、無理しない農業だ。自然の摂理に最大限従い、生態系の力を最大限に活用する農業(アグロエコロジー)だ。経営効率が低いかのように言われるのは間違いだ。人、生きもの、環境・生態系に優しい農業は、長期的・社会的・総合的に経営効率が最も高い。

協同組合(農漁協、生協、労組など)、共助組織、市民運動組織と自治体が核となって、各地の生産者、労働者、医療関係者、教育関係者、関連産業、消費者などを一体的に結集して、安全・安心な食と暮らしを守る、種から消費までの地域住民ネットワークを強化し、地域循環型経済を確立することが、今こそ求められる。

日本の農家は、世界一保護なしで踏ん張っている。今でも世界10位の農業生産だ。農林水産業は、国民の命、環境・資源、地域、国土・国境を守る安全保障の柱だ。大胆な食料安全保障確立予算をめざさなければならない。「農は国の基であり、農民は国の宝である」(賀川豊彦)。

 

高崎市のスーパー「まるおか」

巨大なイオンモールの真横で、開店前から長い行列ができるスーパー「まるおか」は壮観だ。私が頂いたお土産も本当に美味しく感激した。在来の種で本当に美味しい野菜がたくさんある。在来製法のホンモノの海苔やシイタケや調味料は本当に美味しい。

この生産と消費が支え合う仕組みを確立できれば、みんなの暮らしと健康が守れる。大量流通には乗らないが、在来の種で本当に美味しく安全な農林水産物を全国津々浦々から集めて販売する、生産者と消費者をホンモノで結ぶ懸け橋「まるおか」。社長さんが店内に掲げる言葉「食は命」にその決意が滲む。

(文責編集部)

※鈴木宣弘さんは、生産者と消費者を繋ぐ架け橋として、一般社団法人「食料安全保障推進財団」を設立され、協力を呼びかけています。詳細はhttp//www.foodscjapan.org