2022年9月30日金曜日

農の危機

 進む世界と日本の食・農の危機

日本の基幹農業従事者20年で半減

 農民連事務局次長 岡崎衆史 


 世界と日本の食と農業の危機の状況と打開の方向について、農民連の岡崎衆史さんに寄稿して頂きました 

 「世界食料危機」が深刻化している。飢餓や食料不安に陥る人が急増し、食べたくても食べられない人の数は日本でも増えている。農業の危機が進行するなか、国連は、食料危機が新たな段階に到達すると警告する。一方で、食と農の仕組みを変えれば、持続可能な社会に大きく近づくことが期待されている。

 戦後最悪の食料危機 

 「第二次大戦以来で最悪」。ロシアのウクライナ侵略が引き金となった世界規模の食料危機について、国連世界食料計画(WFP)が今年3月にこう警告した。ロシアとウクライナは穀物の輸出大国で、両国合わせて世界の小麦輸出の3割、トウモロコシ輸出の2割、ヒマワリ油については約8割を占める。戦争でこれらが滞り、世界中に影響が広がった。

アメリカの国際食糧政策研究所(IFPRI)によると、ウクライナ危機後、最大時25カ国が食料輸出規制を行い、カロリーベースで世界の食料取引量の17%が対象になった。

パンなどの食品価格の高騰に怒る民衆のデモや、農業資材高騰への農民の抗議は、中東・北アフリカ、アジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸など世界中に広がった。

国連によると、丸一日以上食事が全くとれない「急性食料不安」の数は新型コロナウイルス感染症拡大前は1億3500万人だったのが、コロナ後2億7600万人に倍増し、ウクライナ侵略後は、3億2300万人に増えた。

 国際社会は15年、持続可能な開発目標(SDGs)を採択し、30年までに飢餓をゼロにする目標を掲げた。しかし、15年に5・9億人だった飢餓人口は、21年の予想値で7・7億人に達した。飢餓ゼロに向けた取り組みはもともと難航していたが、コロナ・ウクライナ危機を受け、いっそう後退を強いられた。

 重大なのは、食料危機とともに、農業の危機が深まっていることである。

 WFPのビーズリー事務局長は7月、NHKとのインタビューで「ことしは食料価格の高騰が貧困層を直撃したが、来年は干ばつや肥料の不足によって食料がそもそも生産できずに、手に入らない問題が発生するだろう」と警鐘を鳴らした。同事務局長は経団連と懇談した際には、肥料不足がアジアの米の生産にも影響を与えると予想し、飢餓が深刻化した場合、社会が不安定化し、大規模な人口移動につながる可能性も示唆した。 

日本にとって他人事でない 

日本では、食料危機は他国の問題と考えている人が多い。果たしてそうか。

 帝国データバンクは9月1日、今年に入ってから8月末までに主要飲食料品メーカー105社の値上げが2万品目を超えたと発表した。9月には2424品目、10月には6532品目の値上げが追加されるという。これらが庶民の懐を直撃しないはずはない。

 2112月の内閣府の調査によると、過去1年間に食料が買えない経験があった世帯は全世帯の11%、低所得世帯の38%、ひとり親世帯の30%、そのうち母子家庭では32%に上った。

ひとり親家庭を支援するNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」には、「食費は子どもと2人で1日300円。人生で今が一番苦しい」「物価高で食費を切り詰めても追いつかない」といった悲痛な声が寄せられているという。また、NPO法人キッズドアが生活に困窮する家庭を対象に夏休み前にアンケートをしたところ、「夏休みの食事に不安がある」と答えた世帯は81%に上った。食事のバランスが悪くなった世帯は64%、60%が食事のボリュームが減ったと答えた。

食料を求める人々の切実な声は各地で支援活動に取り組む農民連のもとにも届いている。 

危機の大本にあるのは 

現在の食と農の危機は、「多重危機」と呼ばれ、ロシアのウクライナ侵略、新型コロナ感染症、エネルギー価格高騰、気候危機や異常気象と自然災害、生物多様性や土壌劣化を含む環境危機などさまざまな危機が相互に作用しあいながらもたらされた。

危機がここまで深刻化したのは、大本の食と農の基盤が脆弱だからである。巨大なアグリビジネスが主導し、農産物を安く大量に生産し、グローバルに広がる供給網で世界中で売りまくり儲けを最大化する。アグリビジネスは、生産や輸送にエネルギーを浪費し環境を破壊しても、安い農産物で地域農業を破壊して、格差・貧困・飢餓を押し広げても、気に掛けることはない。

 気候変動に関する政府間パネルによると、食料の生産から輸送、消費までを含むグローバル・フード・システムの温室効果ガス排出量は最大で総排出量の37%を占める。

ウイルスや紛争が、伸びきった供給網を寸断する恐れがあることは専門家の警告や歴史の教訓から予測でき、食と農の仕組みを国内・地域循環重視に転換させることで対策をとることは可能だった。しかし、こうした措置はとられなかった。たとえ危機が起きて人々が苦しんでもこの仕組みの方がアグリビジネスにとっては儲かるからである。

国際援助団体のオックスファムは5月23日、「痛みから利益を得る」と題した報告を出した。それによると、アグリビジネスは、穀物価格の乱高下などを利用して過去2年間で資産を45%(3820億ドル)増やした。 

農業破壊を徹底させる日本 

日本では、政府の新自由主義政策が雇用を不安定化させ、社会保障を削減し、ショックに弱い社会が作られてきた。コロナの下での経済活動の制限による所得減、ウクライナ危機が深刻化させた食料価格の高騰で最も被害を受けたのは、この政策が作り出した非正規雇用の労働者やひとり親家庭をはじめ多くの庶民である。

雇用と社会保障の破壊は、農業と農村を破壊する政策と並行して進められてきた。

日本政府は、農業予算の削減、農業を守る基盤の破壊を進めてきた。その下、農産物の価格保障や戸別所得補償制度を廃止し、農地制度、農協制度、農産物の輸入規制、種子制度、市場制度を企業有利に改悪してきた。

農産物の輸入自由化は、次々と締結されたTPP11、日欧EPA、日米貿易協定、RCEPなどのメガ自由貿易協定を通じて前例のない規模で推し進められた。

その結果、この20年余りに基幹的農業従事者が100万人以上消え、123万人となった。平均年齢は67歳を超える。農業経営体数は100万を割った。農地も20年間で50万ヘクタール近く減少し、農地荒廃や原野化が進んでいる(図1)。

ここに、コロナ・ウクライナ危機後、肥料、飼料、農業資材の高騰が襲い掛かった。生産費を大きく下回る低米価も続いている。政府は水田活用直接支払い交付金のカットも打ち出した。

農業はすでに苦境に追い込まれている。財務省は基幹的農業従事者について、40年には42万人に激減すると推計している。

日本の現在の食料危機は、食べたくても食品が高くて買えない所得の低い層を中心に影響を及ぼしてきた。農産物の生産が世界的に困難に陥るという新たな段階に移行すれば、食料が足りなくて手に入らない事態に至る。農業破壊が続いてきた日本の食料自給率は主要国最低水準の38%。食料が手に入らないとき、危機の深刻さは計り知れない。 

家族農業を守る政策 

いま求められるのは、家族農業を守り、国内増産を支援し、食料自給率を引き上げる政策である。

緊急に必要なのは、高騰する肥料、飼料、農業資材高騰に対して、農家の負担を軽減するための支援だ。また、水田活用直接支払い交付金の見直しは直ちにやめなければならない。EUは、資材コスト高の影響を受けた農家を補助金で支援すること、休耕地での食料、飼料用穀物増産の方針を打ち出した。

さらに抜本対策としては、農家の所得補償や農産物の価格保障を確立し、安心して生産できる環境を整備することが求められる。

農業を市場まかせにしている国でまともな国は存在しない。農業所得における補助金の占める割合は、ドイツ70%、イギリス91%、フランス95%、スイス105%に対し、日本はわずか30%(『国連家族農業10年』55ページ)。国民一人当たりの農業予算をみたとき、日本は、アメリカ、フランスの半分、韓国の3分の1に過ぎない。

政策的努力の結果1961年に42%だったイギリスの食料自給率は、2019年には70%に上昇した。同じ期間日本の自給率は78%から38%に下がっている。 

持続可能な社会をつくる力                  

家族農業を支援することによる食料自給率向上は、多重危機に対応し、持続可能社会をつくることにつながる。

国連は19年から28年までを家族農業の10年とし、家族農業支援を打ち出した。また。18年には農民と農村で働く人々の農民の権利宣言を国連総会が採択した。

国際社会はとりわけ、小規模・家族農業が主体となって進めるアグロエコロジーに期待している。

アグロエコロジーは、自然の生態系の力を活用し、可能な限り農薬や化学肥料の使用を抑え、健康にも環境にもよいものを生産し、地域や国内での消費と経済循環を進める。中南米で始まり、ヨーロッパやアメリカ、アフリカ、アジアでも進んでいる。日本にも農業近代化以前の循環型農業、その後の有機農業、自然農法、産直などアグロエコロジーにつながる伝統がある。取り組みの中で、多様性あるコミュニティ作りや民主的な話し合いを重視し、環境も社会も持続可能にしていくことを目指している。

アグロエコロジーについてFAOは、SDGs実現に向け食と農の仕組みを変革する「カギ」と位置付けている。アグロエコロジーを通じた持続可能な社会作りに、農民連も挑戦している。5月に改定された新婦人と農民連の産直運動4つの共同目標にもその推進が明記されている。

コロナ後、家庭菜園や市民農園、産直を始める人が増え、地方へ移住も増加しているという。東京では6410ヘクタールの農地で、9567戸が農業に従事。東京都が2009年に行ったアンケートによると、農業・農地を残した方がよいと思う人は85%。農産物供給加え、防災、景観、国土、環境保全、農業体験、農業理解の場として重視されている(『議会と自治体』第290号 東京農民連の武藤昭夫事務局長)。都市農業を通じた地域循環もアグロエコロジーである。

食と農の世界的危機の下、飢餓と食料不安が急速に広がっている。危機感を利用し、かつてのナチスドイツがやったように、排外主義と国家主義を結びつけて勢力を拡大しようという不穏な動きもでている。飢餓も排外主義も、国家主義も破滅への道ではないか。家族農業を支援し、食料自給率向上で食と農の盤石な基盤を築き、持続可能で公正な社会に進むことが求められる。そのための食と農の政策転換は待ったなしだ。

2022年9月27日火曜日

9月27日 国葬反対

     国葬反対国会前集会に15000人

今日から民主主義を取り戻すたたかいのはじまり

(4枚目から当日の政党スピーチの動画があります)

 

    菱山南帆子さんの迫力ある開会挨拶(動画)

    菱山南帆子さんのコール(動画)

   福島瑞穂さんのスピーチ(動画)

志位和夫さんのスピーチ(動画)
近藤昭一さんのスピーチ
(動画)
櫛淵真理さんのスピーチ
(動画)
国葬反対集会初めのコール
舞台前は超満員

2022年9月13日火曜日

消費税インボイス制度導入

消費税インボイス制度

事業者・一千万ともいわれるフリーランスなど甚大影響

 東京商工団体連合会事務局長 大内 朱史 

事業者はもちろん、一千万人ともいわれるフリーランスなど甚大な影響を与えるインボイス制度について、大内朱史さんに寄稿して頂きました。 

母、息子、祖父、父も課税業者に? 

インボイス制度が導入された2023年10月のある家庭の風景。ヤクルト販売をしている母とウーバー配達員のバイトをしている大学生の息子、シルバー人材センターで働く祖父と通りがかかった父の会話。

母「今月からバイト代から消費税を会社が天引きするから5%も引くって言われたんだけど!大学の教材費足りなくなっちゃうじゃない!」、息子「俺も会社からインボイスの番号ないと、運賃10%カットって言われたんだけど、サークルの合宿費用払えないよ!番号って学生でもとれんの?」、祖父「シルバー人材センターでも番号ない人は単価下がりますって言われたぞ!趣味の釣りに行けなくなってしまうぞ」。父「そういえば東京電力から太陽光発電の買い取り価格、番号ないと10%下げるって通知きてたぞ!?」、母・息子・祖父・父「インボイスって何?」。

202310月から消費税のインボイス制度(適確請求書保存方式)の導入が予定され、すでに事前受付がスタートし、テレビやネットのCMも流されてます。この制度は、税務署に消費税の課税業者の選択を届け出し、インボイスの番号の申請をした個人事業主や法人に税務署が13桁の番号を発行します。その番号が記載された領収書・請求書がなければ消費税の経費として認めないという制度です。わかりやすく言うと、「売り上げの少ない中小業者・フリーランスに仕事を出していると、親会社は消費税の負担額が増えてしまう」制度です。現在年間の売り上げが1千万円未満の個人・法人は「免税業者」とされ消費税の申告・納税が免除されています。こうした事業者・フリーランスは全国で500万以上といわれ、こうした人たちが取引から排除されたり、単価引き下げなどの不利益をこうむる危険性が指摘されています。すでに都内でも「ホテルに花を納入している花屋が、ホテルから課税業者になることを求められた」「大学の講師が、インボイス番号のない人には消費税を払わない(10%減額)という通知を受け取った」など、取引先から働きかけを受けています。東京商工リサーチの調査では「免税業者との取引停止が1割」と報道されましたが、「検討中」が半分以上であり、今後こうした「免税業者はずしの動きが強まること」が危惧されると分析しています。

冒頭で紹介した三世代の家族は皆さん「アルバイト」という感覚で仕事をしているかもしれませんが、契約としては「業務請負契約」であり、税法上の区分としては個人事業主になります(労働者的な性格が強いので社会保障の問題も含めて本来は労働者として扱われるべきだと思います)。父・息子・祖父は課税業者ではないために会社・人材センターでは、それぞれに払った分が消費税の経費として認められないために「消費税相当分の10%の値引き」を受けています。

こうしたフリーランスと呼ばれる人たちは、現在400万人とも1000万人ともいわれていますが、今回のインボイス制度はいわゆるフリーランス、中小業者のほかに、太陽光発電の余剰分を電力会社に売電している、アパート・駐車場などを事業者(法人・個人)に貸している人なども関係してきますので、どれくらいの人が影響を受けるか国も国税庁も「わかない」のが現状です。 

負担に耐えられない中小業者・フリーランス 

 売り上げ1千万以下の事業者も消費税の課税業者を選択し、インボイスの登録番号を取得することは可能(冒頭の家族全員可能)ですが、その場合消費税を納める義務が発生します。売り上げ500万円の手間受け大工さんの場合は約20万円の消費税負担となります。一か月分の生活費に相当する税負担が発生することになります。ヤクルト販売をしている母が「バイト代の5%天引きされる」というのは、母が会社から消費税関係の届け出書などを渡され、年末調整の書類などと一緒にサインして会社に提出し、会社の顧問税理士が消費税の申告を代行している設定です。収入の半分経費とみなし残った分に10%かけて消費税の負担額(全体の5%にあたる)が出る計算をしています。来年10月以降には、こうした「よくわからいうちに課税業者にさせられてしまう」人がたくさん出てくるのではないかと思われます。

今、都内民商ではこうした試算運動を行っていますが、「消費税額を計算したら言葉を失った」という報告も多く寄せられています。「もともと消費税を受け取ってるじゃないか」「その分値上げしてもらえばいい」と言われることもありますが、多くの中小業者は大企業の重層下請け構造の最下層に組み込まれおり、価格決定権がなく、親会社の「言い値」で仕事をしています。本来であれば、かかる経費と自分の生活費を確保できる値段に消費税を上乗せして請求するのが商取引のあるべき姿ですが、現実は「この値段でやれないならほかに持っていく」と言われ、泣く泣く受けざるを得ないのが現実です。「お客さんから消費税を預かっている」というのは形式的に過ぎず、自分の生活費を削って消費税を納めているのが現状です。

この間、日本漫画家協会、日本アニメーター・演出協会、SF作家クラブ、日本俳優協会などもインボイス制度に反対を表明していますが、こうした文化・芸術分野のフリーランスの方々は年収が200~400万円程度と非常に低い方が多く、製作・出版社等との関係でも弱い立場に立たされています。フリーランス・中小業者にとっては、「取引先を失うか」、「払えない消費税を負担するか」、「廃業するか」の地獄の選択肢しかありません。

 フリーランス・中小業者への影響がわかっているからこそ、当初は日本商工会議所連合会、日本税理士会連合会、青色申告会連合会などもこぞって反対を表明していました。この制度が導入されれば、フリーランス・中小業者が営業・生活できない国になってしまうことは明らかです。実際にインボイスが導入されているヨーロッパではどんな小さなお店でもインボイスの番号入りのレシートが出され、「非課税業者が駆逐されている」(湖東税理士)のが現状です。

 プライバシー侵害の危険性も

さらに「インボイス制度がプライバシーを侵害する」問題も明らかになりSNS上で話題になっています。すでに、インボイス発行事業者の事前登録申請が始まり、登録した法人名や個人事業主の氏名、登録番号が国税庁の公表サイトで公開されています。任意で登録する住所や屋号、通称、旧姓などの情報も公開の対象です。登録情報の利用規約は「複製、公衆送信、翻訳・変形等の翻案等、自由に利用できます。商用利用も可能」とし、公表サイトの運営方針は事業者情報の「検索機能」や「データダウンロード機能」を提供するとしています。国税庁は全商連に「ニセの登録番号が記載されたインボイスを受け取った場合、消費税の仕入れ税額控除は否認される」と答えながら、「最新の会計ソフトには、インボイス登録事業者かどうか検索できる機能も搭載される」と説明しました。こうしたソフトの開発・提供に登録情報がすでに利用されています。税理士法人などが顧客獲得に活用することも可能です。

 しかし、登録された事業者の情報は税制の変更によるものです。営利目的の企業に、制約なく利用させる政府の責任は重大です。受け取ったインボイスの登録番号で検索すれば、芸名やペンネームで仕事をしている人の「本名」を調べることもできます。それを公表される恐れを指摘すると、国税庁は「悪用されることは想定してない」と答えるだけでした。いったん登録し、公表されれば、その情報を守るすべはありません。日本漫画家協会は74日、「個人情報保護への懸念を抱く漫画家も少なからず存在する」と指摘し、現行のインボイス制度に反対すると表明しました。登録には個人番号(マイナンバー)の記載が必須とされていることも問題です。

 インボイスの狙いと廃止の展望 

 商売をつぶし、プライバシー迄危険にさらすインボイス制度ですが、なぜ政府・財務省はインボイス制度を導入しようとしているのかといえば、消費税のさらなる増税のための環境整備と納税者の管理・徴税強化のためにほかなりません。一足早く導入している韓国では複写式の領収書を発行し、自分と相手、税務署に一枚ずつ発行し、すべての商取引を税務署が把握しています(現在は電子化でペーパーレス化が進んでいる)。税金の申告期になると納める税額が記入された申告書が送られてきて「異議がなければ署名して提出するだけ」になっています。これは「自分の税額は自分で計算して納める」という近代税制の大原則を真っ向から否定するものです。日本の目指す消費税制の在り方の見本ともいわれています。「やましいことがなければいいのではないか」という人もいます。確かに税法等、基準となるものはありますが、税務署は多く税金を取る立場から経費を否認しようとし、納税者は税額を減らすために経費を認めさせようとします。立場が違うのですから自分に有利に解釈しようとするのは当然です。日常的な税務調査(犯罪強制調査ではない一般のもの)でも、そうした主張の違いは発生し、折り合わなければ最終的には裁判で決着するのが法治国家・民主主義国家の税制の基本であり、納税者の権利を守る制度が保障されています。インボイス制度の行き着く先はこうした先人が獲得してきた憲法が保障する国民の権利・制度を否定しかねません。

 今、この危険な制度に対して我々だけでなく、今までつながりがなかった人々からも反対の声があっています。フリーライターの方がネット上で始めた「インボイス中止を求める電子署名」は開始一週間で3万を超え、現在8万を超えています。

冒頭の祖父が仕事をしているシルバー人材センターも、会員である高齢者が消費税の課税事業者にならなければ、支払った代金が経費として認められず、シルバー人材センターが高額な消費税を負担しなければならなくなります。シルバー人材センターの新たな消費税負担が全国で年間約200億円、1センター当たり約1500万円に上ることが、日本共産党の宮本徹衆議院議員の国会質問で明らかになりました。熊本のあるセンターはホームページ上で「運営が成り立たなくなる」とインボイスの中止を求める意見を掲載していましたが(現在は削除)、全国で心配の声が上がっています。

地方議会からも、地域経済を根底から破壊しかねないと心配の声が上がり、インボイス中止・延期を求める意見書が全国各地の自治体の議会で採択される動きが広がっています。今年1月から7月に国に提出された意見書は400を超えています。東京でも小金井市、奥多摩町、西東京市で採択されています。

 こうした声は、野党共闘の前進もあり、国会議員も動かしています。先の国会には立憲民主、共産、れいわ、社民が共同で「消費税減税、インボイス中止」の法案を提出し継続審議となっています。私たちの国会議員要請行動では与党議員の中にも「インボイスは中小業者には負担が重い」と話す議員もいます。7月末までに税務署に届け出を出した事業者は見込まれる対象の7%にとどまっています。今後の世論・運動で実施延期・中止を勝ち取る展望は十分あります。全国民的な運動でインボイス制度の中止・廃止を勝ちとろうではありませんか。