2024年9月2日月曜日

PFAS汚染と血液検査

 多摩のPFAS汚染と血液検査

多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会 共同代表


       根木山幸夫
 

 米軍横田基地が汚染源とされ、発がん性等があるとされるPFAS、この問題で多摩地域の住民運動で奮闘されています根木山幸夫さんに寄稿して頂きました。

 

PFASとは 

PFAS(ピーファス)とは有機フッ素化合物の総称で約5000種類以上あり、人工的な物質です。水や油をはじく、熱に強いなどの性質を持ち、泡消火剤や半導体の洗浄のほか、こげつかないフライパンや防水衣服、ハンバーグの包装紙、化粧品などの生活用品に使用されています。

 泡消火剤は1970年代から世界中の米軍基地に配備され、消火訓練に使用してきました。

PFASは環境中で分解されないことから、永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)とも呼ばれ、河川・海水や土壌中に存在しつづけ、地下水や動植物を汚染しています。

 PFAS の主な3種類(PFOS、PFOA、PFHxS)は、その毒性から「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」で2009年、19年、22年にそれぞれ製造・保有・使用が禁止されました。 

血液検査と深刻な結果 

多摩地域の水道水の汚染について東京都は2020年1月に初めて公表し、府中市と国分寺市の二つの浄水所では1119年に国の暫定目標値の23倍の汚染が続いていたこと、0421年のデータでは約20自治体で汚染が高いことが明らかになりました。

多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会(多摩PFAS会)は228月に、PFASの体内への蓄積を調べようと自主的な血液検査を呼びかけ、236月末までに多摩30自治体の791人の検査を実施しました。

 9月発表の検査報告(原田浩二京都大学准教授)では、主なPFAS4種類の血中濃度の合計値でみると、791人のうち365人(46%)が米国科学・工学・医学アカデミーのガイダンスの指標値を上回りました。この指標値は、臨床医が脂質代謝異常や甲状腺ホルモン、腎がん、潰瘍性大腸炎などの精密検査を勧めるべきという内容です。自治体別にみた場合、指標値を超えた人の割合が高い自治体は国分寺市85人中79人(93%)、立川市47人中35人(74%)など深刻な結果でした。 

健康影響評価と水質基準 

内閣府食品安全委員会は244月、PFOAPFOSの1日の許容摂取量を、それぞれ体重1キログラム当たり20ナノグラムとする健康影響評価書を了承しました。

欧州食品安全機関(EFSA)が20年に定めた許容摂取量は、PFOAとPFOSの合計で0.63ナノグラムです。日本の評価書はこれに比べると64倍です。また、米国環境保護庁(EPA)が23年に定めた許容摂取量はPFOAが0.03、PFOSが0.1ナノグラムです。日本の評価書はそれぞれ666倍、200倍となります。

今回の評価書でいけば、環境省で検討されている飲料水基準は暫定目標値(50ナノグラム/リットル)と変わらない(小泉昭夫京都大学名誉教授の試算)レベルになる恐れがあります。

世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)は、PFOAの発がん性を「可能性がある」から2段階引き上げ、「発がん性がある」に定め、PFOSについては新たに「可能性がある」の分類に追加しました。ところが、評価書では国際的な発がん性評価を取り入れていません。

232月、欧州連合(EU)議会にデンマークなど5カ国が、1万種類以上のPFASをEU全体で禁止することを提案し、25年内に最終案をまとめ、可決されれば26年以降に禁止令が発効します。

米国EPAは22 6月、飲料水中のPFAS生涯健康勧告値をPFOSを0.02、PFOAを0.004ナノグラム/リットルと従来より約3千倍厳しい値にしました。それに沿って23年3月に飲料水規制・目標値案としてPFOS、PFOAそれぞれ4ナノグラム/リットルとしました。 

横田基地は重大な汚染源 

横田基地ではベトナム戦争当時から泡消火剤を使った訓練を定期的に実施してきました。放出された泡消火剤は空気中に拡散し、周辺土壌中に浸み込み、固着した土壌から長年にわたって地下水に浸み出していきます。

 横田基地での漏出事故について、ジャーナリストのジョン・ミッチェル氏は1812月、公開文書をもとに、〈1017年に泡消火剤が計3161リットル漏出、12年には3028リットルが貯蔵タンクから土壌に漏出。しかし漏出は日本側に通報されなかった〉(要旨)と報道しました。

横田基地内の飲料水は基地内の井戸水を使用していますが、米軍は飲料水品質年次報告書で検査結果を161820年に公表し、汚染の事実を認めています。

以上のことから横田基地が重大な汚染源であることは否定できない事実です。

一方、米政府はPFASを有害物質とし、水質や土壌汚染の規制を強化し、汚染除去にも取り組んでいます。しかし、これらの対策は米国内の基地・工場からの汚染が対象であり、日本にある基地については情報も示さず、汚染の事実を認めていません。

日米地位協定3条では米軍に排他的管理権を認め、日本側の立ち入り権が明記されていません。環境補足協定では「環境に及ぼす事故(すなわち漏出)が現に発生した場合」に立ち入り権を規定していますが、一部を除いて米側が通報していません。

 汚染源を明らかにしようと、多摩PFAS会は235月~8月、150カ所の井戸水などを調査しました。分析を担当した原田准教授の調査報告では、北多摩地域の広範囲の地下水が環境省の暫定目標値を超え、横田基地の南東側の立川市の浅井戸で暫定目標値の62倍のPFOSが検出され、東側にある国分寺市、府中市などの深井戸でPFOS、PFHxSが高い傾向がみられました。地質構造を考察すると、PFASに汚染された地下水が西部から東部へと移動していると推測されました。

 多摩PFAS会の声明では、調査結果からみて「横田基地が最大の汚染源」と考えられると指摘しました。 

米軍が漏出を認める 

 先述のミッチェル氏が報じた横田基地での泡消火剤漏出の事実をめぐって、236月から大きな展開がありました。

629日、日本共産党の国会議員らが横田基地での泡消火剤の使用について防衛省などから行った聞き取りの中で、防衛省の担当者は同基地で1012年に泡消火剤の漏出が3件あった事実を公式に認めました。

7月21日、防衛省は1812月の漏出報道を受け、191月に米側から報告書を入手した、公表内容をどうするか米側と調整を始めたが、米側から回答を得たのは2212月だったと説明。米軍が漏出の事実を初めて認めたことを明らかにしました。

2311月、多摩PFAS会は「横田基地への立ち入り調査を米軍に求めよ」と岸田首相・防衛大臣宛に要望書を提出しましたが、ゼロ回答でした。

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