日米首脳会談は何を示しているか?
日本平和委員会事務局長
千坂 純
ところで、戦後歴代首相で国賓として米国に招かれたのは、中曽根康弘、小渕恵三、小泉純一郎、安倍晋三首相の4人しかいない。なぜ、岸田首相が国賓としてもてなされたのか?
その理由を端的に表したのが、訪米前の4月5日にエマニュエル駐日米大使が産経新聞に語ったこの言葉だ。
「岸田政権は2年間で、70年来の(日本の安全保障)政策の隅々に手を入れ、根底から覆した。防衛費のGDP(国内総生産)比2%への増額、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、そのための(米国製トマホークの)購入に踏み切った。防衛装備品の輸出にもめどをつけた」(ゴチックは筆者。以下同じ)
首相就任後わずか2年余で、戦後、日本国憲法第9条と国民のたたかいによってつくり出してきた、「平和国家」としての様々な制約の「すみずみに手を入れ、根底から覆した」――その実績が評価されたのである。
その「功績」は、日米共同声明でも賞賛されている。
「過去3年間を経て、日米同盟は前例のない高みに到達した。我々がこの歴史的な瞬間
に至ったのは、我々がそれぞれ、そして共に、わずか数年前には不可能と思われたような方法で、我々の共同での能力を強化するために勇気ある措置を講じたためである。」「米国は、日本が自国の国家安全保障戦略に従い、2027日本会計年度に防衛力とそれを 補完する取組に係る予算をGDP比2%へ増額する計画、反撃能力を保有する決定及び自衛隊の指揮・統制を強化するために自衛隊の統合作戦司令部を新設する計画を含む、防衛力の抜本的強化のために日本が講じている措置を歓迎する。これらの取組は共に、日米同盟を強化し、インド太平洋地域の安定に貢献しつつ、日米の防衛関係をかつてないレベルに引き上げ、日米安全保障協力の新しい時代を切り拓くこととなる」
日米同盟が世界規模で機能
「我々のグローバルなパートナーシップの中核は、日米安全保障条約に基づく二国間の防衛・安全保障協力であり、これはかつてないほど強固である。我々は、日米同盟がインド太平洋地域の平和、安全及び繁栄の礎であり続けることを確認する。バイデン大統領は、核を含むあらゆる能力を用いた、同条約第5条の下での、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを改めて表明した。岸田総理は、日本の防衛力と役割を抜本的に強化し、同条約の下で米国との緊密な連携を強化することへの日本の揺るぎないコミットメントを改めて確認した。」
日米同盟をインド太平洋地域を中心に、「グローバル・パートナー」として、世界規模で機能するものに強化する。米国は核を含むあらゆる戦力を投入する。一方、日本は大軍拡をおしすすめ、役割分担を拡大する――というわけである。
日本は米国の戦争にも共にある
米国と共に世界規模で行動する――そのことを、もっと直截に、平易な言葉で語ったのが、日米首脳会談の翌日行われた、米議会での岸田首相の演説だ。「日本の国会では、こんな拍手に迎えられることはない」などと、赤面するようなはしゃぎぶりを見せながら、彼はこう宣言した。
「『自由と民主主義』という名の宇宙船で、日本は米国の仲間の船員であることを誇り
に思います。 共にデッキに立ち、任務に従事し、そして、なすべきことをする、その準備はできて います。 世界中の民主主義国は、総力を挙げて取り組まなければなりません。
皆様、日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています。米国は独りではありません。日本は米国と共にあります。日本は長い年月をかけて変わってきました。第二次世界大戦の荒廃から立ち直った控えめな同盟国から、外の世界に目を向け、強く、コミットした同盟国へと自らを変革してきました」
これを聞いていたある米政府関係者は、朝日新聞に次のように語ったと言う。
「考えて欲しい。首相のスピーチを聞けば、米議会は
その言葉通りに受け止める。『日本は米国と共にある』 ということは、我々にとってみれば、最もつらくて過酷 な戦争という局面であっても、日本は米国と手を携えて一緒にやるということになる。しかも首相は『台湾有事だけは……』などと限定を付けなかったことにも驚いた。世界中の至るところで米国が関わる戦争に日本も
グローバルに参加する決意があると受け止めることが できる。少なくとも米議会は間違いなくそう受け止めるし、首相演説を根拠に、これから日本にますますいろんな要求を強めるだろう」 (朝日新聞デジタル、4月20日)
岸田首相は、米議会でとんでもない約束をしたことになる。だがそれは、今回の日米首脳会談の核心をズバリと言い表した言葉と言えるだろう。
自衛隊の戦争加担へのメニュー
こうした「米国と肩を組んで共に立ち上がる」同盟国として、日本の役割をさらに拡大するために、日米首脳会談では「新たな戦略的イニシア」を打ち出した。
その主なものは――
■より効果的な日米同盟の指揮・統制の枠組みの構築。
■日本の敵地攻撃能力強化のための米国による支援
■地域パートナーとの関係強化…▸日米豪防空協力 ▸AUKUS諸国(米英豪)との連携(武器技術開発)▸日米韓(共同訓練)▸定期的な日米英3カ国共同訓練▸日米豪の無人機、自律性兵器分野の協力など
■日米の武器共同開発・生産の協力強化(ミサイル、次期ジェット練習戦闘機の共同開発、米艦船や軍用機の日本での整備・修理など)
■米国の拡大抑止(核威嚇態勢)の強化=日本の防衛力によって増進される米国の拡大抑止を引き続き強化することの決定的な重要性の確認
・・・などである。
「より効果的な日米同盟の指揮・統制」(=司令部の一体化)については、次のように表現されている。
「我々は、作戦及び能力のシームレスな統合を可能にし、平時及び有事における自衛隊と米軍との間の相互運用性及び計画策定の強化を可能にするため、二国間でそれぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる意図を表明する。より効果的な日米同盟の指揮・統制は、喫緊の地域の安全保障上の課題に直面するに当たり、抑止力を強化し、自由で開かれたインド太平洋を促進していく」
作戦と能力を「シームレスに(切れ目なく)」統合し、有事(戦争)における一体的な活動を可能にするため、指揮・統制機能の一体化を図るというわけである。
この具体化は、7月下旬に開かれる日米安全保障協議委員会で行われるということだが、方向としては、現在、戦争指揮権限を有しない在日米軍司令部(東京・横田基地)に、実際の戦争指揮権限を持つインド・太平洋軍司令部(ハワイ)の権限を委譲し、統合任務部隊司令部を設置。これが今年中に東京・市ヶ谷の防衛省内に編成される、自衛隊の統合作戦司令部と連携して、戦争を指揮する体制をつくるのである。
なぜ、日米の実戦司令部を一体化するのか? これは、岸田政権の下ですすめられている「敵地攻撃能力」の増強と密接な関係がある。
首脳会談に先立つ2月1日に、日米軍事同盟強化に強い影響力をもつ米国のシンクタンク「戦略・国際研究センター(CSIS)」から出された「日米同盟にとって重要な次のステップ:指揮統制の近代化」と題したレポートは、次のように述べている。
「⽇本が防衛⼒強化に向けて急速に動いていることから、⽇⽶同盟変⾰における次の
ステップ、すなわち指揮統制構造の近代化の重要性が⾼まっている。⽇本がより有能な軍事パートナーとなるにつれ、⽶国と⽇本はより運⽤可能な同盟を⽀援するための新たな構造を構築する必要がある。指揮統制構造の変⾰は同盟の信頼性を⼤幅に⾼め、東アジアにおける抑⽌⼒の強化に役⽴つだろう。⽇本が計画している反撃能⼒の獲得は、この取り組みに特に緊急性を与えている。⽶国と⽇本は初めて、戦術的(標的の特定と訴追)と戦略的(紛争激化の管理)の両⽅で武⼒⾏使を調整で
きる必要がある」
つまり、他国を攻撃するときに、ばらばらに攻撃しても効果はない(そもそも自衛隊単独で敵地攻撃をできる能力はない)。米軍の指揮・統制の下に米軍・自衛隊が役割を分担して、敵を攻撃しなければ戦争にならないというわけである。
このレポートは次のようにも言っている。
「これは政治的にデリケートな話題であり、特に⽇本では軍隊に対する憲法上の制約 が依然として強く、⽶軍紛争への巻き込まれへの懸念が根強く残っている。しかし、同盟の指揮統制をより⼀層統合するという論理には議論の余地がない」
米軍の指揮の下に自衛隊が他国を攻撃する態勢をつくることは、日本国憲法上の問題があるし、米国の戦争に日本を巻き込む懸念を強める。しかし、それもお構いなしにこれをすすめるべきだ、というわけである。
ここにいま進められている日米軍事同盟強化と、その下での大軍拡の危険性が端的に示されている。この道を許してはならない。