2018年12月29日土曜日

日米地位協定による属国的実態
    小泉親司日本共産党基地対策委員会責任者)
 日米地位協定の正式名称は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条にもとづく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」と言います。
この正式名称にあるように、「施設及び区域」、つまり米軍(基地)と米兵の地位を定めたもので、「米軍地位協定」という内容です。実際、28条からなる協定の内容は、米軍の数々の「特権」を明記した「米軍『特権』協定」です。
 翁長雄志前沖縄県知事は生前県議会で、沖縄基地の実態にふれ、「日米地位協定がある意味で憲法の上にあって、それから日米合同委員会が国会の上にある。ある意味では日米安全保障体制が司法の上にあるという意味からして、すべての日本の権限の上にある」(18年2月23日)とのべました。
アメリカの属国のような実態
  地位協定は、大局的には、2つの基本的内容があります。ひとつは、海外に配備・展開された米軍が日本の基地のなかで自由な軍事活動をおこなうばかりでなく、基地外においても自由な軍事活動を「保障」する内容です。もうひとつは、海外に派遣された米兵が、他国で犯罪や事件・事故を起こした場合に、これを「保護」する内容です。つまり、アメリカが世界に覇権をめぐらすために、米軍兵力を他国に「前方展開」する、それを支える内容になっているのです。
では、その内容はどうなっているのでしょうか。
地位協定第2条は、米軍がいつでも、日本のどこにでも米軍基地を一方的に置くことのできる「権利」を定めています。外務省が作成した「日米地位協定の考え方」(琉球新報社)は、「米側は、我が国の施設下にある領域内であればどこにでも施設・区域の提供を求める権利が認められている」と明記されています。
また、地位協定では、3条や5条で、米軍がどこにでも米軍機や軍艦を配備できるようになっています。世界で有名な欠陥機オスプレイが、2012年10月に沖縄・普天間基地に配備されましたが、当時の森本防衛大臣は、「日本政府に条約上のマンディデート(権限)はない」とのべました。藤村官房長官にいたっては、「米国は、日米安保条約上の権利であると主張している」とのべました。安保条約・地位協定によって、欠陥機の日本配備を日本政府が「拒否」できないしくみが横たわっているのです。
 そればかりではありません。地位協定第6条は、米軍機と民間航空との間の航空交通の「整合」をとると定めていますが、これによって実際は、戦後73年間、首都東京の空に「横田エリア」という「米軍専用空域」が居座り続けています。この空域には、日本の民間機は米軍の許可なく進入できません。30年間前のJAL機による御巣鷹山墜落事故の際、捜索機も米軍の許可を得てエリア内に入ったとされています。
「一国の首都の空が日本のものではない」、こんな「米軍主権」の国家でいいのでしょうか。これでほんとうの「独立国」と言えるのでしょうか。翁長前知事が「地位協定に上に憲法がある」と言ったのは、こうした実態のことです。
米兵犯罪を裁けない日本政府
 米軍基地の問題ばかりではありません。米兵によるレイプ(強姦)事件や墜落事故で、日本の警察が捜査できない、日本政府が裁判で米兵を裁けない実態があります。
日米地位協定は第17条で、米兵が「公務中」に起こした犯罪の第一次裁判権は米側に、「公務外」の犯罪は日本側に第一次裁判権があると定めています。
これまで米兵が犯罪を起こしても基地に逃げ込めば米兵が逮捕されないという実態が横行しました。米国側は、米軍基地内には「排他的管理権」が存在するとして、日本の警察権を行使することができません。
そればかりではありません。日本の第一次裁判権の行使でも、日米間に「密約」が存在し、日本側が「不起訴」にしてしまうケースが80%以上にのぼっています。
国際問題研究者の新原昭二氏が2008年に発見した「裁判権に関する『日米密約』」は、「日本の当局は通常(中略)、日本にとって著しく重要と考えられる事件以外については第一次裁判権を行使するつもりがないとのべることができる」というもので、外務省も同一の文書を国会に公表しています。つまり、「著しく重要と考えられる事件以外」は、日本が裁判権を行使することはないという「密約」です。この結果、「強制わいせつ」や「強制性交」は起訴率0%、全体でも起訴率は17%という実態です。事実上、一方的に裁判権を放棄する日本の態度は、まさしくアメリカの属国状態です。
米軍機の墜落事故でも、日本の警察が事故機の実況見分やパイロットの捜査などがまったくできない実態があります。2016年と17年の沖縄でのオスプレイや米軍ヘリの墜落事故でも、これがくり返されました。東村高江の炎上・墜落事故では、警察が規制線を張り巡らし、警察さえも立ち入りできませんでした。墜落場所は、基地内ではありません。れっきとした民間の牧場です。事故後も米軍は、土壌汚染の実態を隠すため、牧場主の許可もなく、ダンプカーで土壌を運び出しました。普通なら〃泥棒〃行為です。しかもその後、米軍司令官は、牧場主の〃忍耐〃をたたえ、「感謝状」を贈ってきたそうです。日本国民を愚ろうするにもほどがある行為です。
【条文比較調査】

①国内法の適用
②基地の管理権
③訓練・演習への関与
④警察権
日本
原則不適用(一般国際法上、駐留軍には特別の取決めがない限り、受入国の国内法は適用されないとの立場)
米軍に排他的管理権が認められ、日本側による基地内への立入り権は明記されてない
訓練や演習に関する規制権限はなく、詳細な情報も通報されず、政府としても求めることもしないという姿勢
施設・区域内の全ての者若しくは財産、施設・区域外の米軍の財産について、日本側による捜索、差押え、検証を行なう権利を行使しない(合意議事録)
ドイツ
派遣国軍隊の施設区域の使用や訓練・演習に対するドイツ国内法の適用を明記
連邦、州、地方自治体の立入り権が明記され、緊急の場合の事前通告なしの立入りも明記
米軍の訓練・演習には、ドイツ側の許可、承認、同意等が必要
ドイツ警察による提供施設・区域内での任務遂行権限を明記
イタリア
米軍の訓練行動等に対するイタリア法規の遵守義務を明記
米軍基地もイタリア司令部の下に置かれ、イタリア司令官による全ての区域及び施設への立入り権を明記
米軍の訓練は、イタリア軍司令官への事前通知、調整、承認が必要
イタリア司令官による全ての区域及び施設への立入り権を明記

「他国地位協定調査中間報告」(沖縄県 H30.3)日米地位協定の「抜本的見直し」こそ
 こうした日本をアメリカの属国とする実態を一日も早くなくすことが重要です。これは、米軍基地からの被害をなくし、国民の安全・安心を確保するうえで不可欠です。米軍犯罪や事故を根絶し、女性や子どもたちの命の危険を根絶するうえでも不可欠です。
 安倍内閣は、「日米地位協定は『改定』しなくても、『運用改善』で対処できる」とし、改定に応じていません。「日本が改定要求すると、アメリカから別の譲歩を求められる懸念がある」とか「米軍の士気や日本防衛思想が減退し、米軍の削減や撤退につながるのではないか」などを理由にしています。
 しかし、アメリカのNATO(北大西洋条約機構)軍事同盟加盟国のドイツや、イタリアでも、国民の世論を背景に、米国や関係国との交渉を通じて、地位協定の大幅改定を実現しています。
 ドイツでは、日米地位協定にあたるボン補足協定、イタリアでは米・伊「基地使用協定」の改定をおこないました。沖縄県の「他国地位協定調査中間報告」(18年3月)の「条文比較調査」によると、その中心点はつぎの点です。
① 受け入れ国の国内法の適用、② 基地の管理権及び受け入れ国の立ち入り権、③ 訓練、演習への受け入れ国の関与、④ 警察権。この具体的内容は別表の通りです。
 これによると、例えば、在日米軍は日米地位協定によって国内での訓練や軍事行動について、日本の国内法の規制を受けません。しかし、ドイツやイタリアでは、国内法を米軍に適用するよう改定されています。爆音対策では、ドイツやイタリアでは航空機騒音に関する国内法が適用されているのに対し、日本では米軍の爆音は野放しになっています。
 こうしたなかで全国知事会は、日米地位協定を「抜本的に見直し」、「航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させること」を求めています。また、① 米軍機による訓練ルートや訓練がおこなわれる時期について速やかな事前情報提供を必ず行う、② 米軍人等による事件・事故に対し、具体的かつ実効的な防止策を提示し、継続的に取り組みを進める、③ 飛行場周辺の航空機騒音規制措置については、周辺住民の実質的な負担軽減が図られるための運用をおこなう、ことを求めています。
 これらの改定要求と対策は、決して法外な要求ではありません。基地被害から地域の住民の命と財産を守るための最低限の対策です。
 安倍内閣は、「運用改善」に固執していますが、自民党の中からも2003年、「日米地位改定案」が提示されました。自民党議員連盟の「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」が全会一致で議決したもので、当時の議連幹事長は、現在の外務大臣、河野太郎氏、副会長は、現在の防衛大臣の岩屋毅氏です。現職の関係閣僚になったのですから、その信念にもとづいて、「運用改善」に固執することなく、アメリカとの交渉で「地位協定改定」を実現すべきです。
 安倍内閣が、米軍基地の被害から国民の命と財産を守るため、全国知事会の提言を踏まえて、抜本的な改定交渉に踏み切るべき時です。 

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