2025年8月1日金曜日

東京大空襲とは

 東京大空襲とは何であったか―空襲をとらえ直す


東京大空襲・戦災資料センター館長 

一橋大学名誉教授 

 吉田 裕さん            

 429日、東京大空襲・戦災資料センターで、東京革新懇人間講座第29夜「東京大空襲から80年 実相を知り明日の平和へ」における吉田裕さんの講演要旨を紹介します。

 はじめに

今年は「戦後80年」、1868(明治1)年から1945(昭和20)年の敗戦までは77年、すでに戦前より戦後の方が3年も長い。この長い戦後史の中で、日本人・日本社会は戦争の歴史にどのように向き合ってきたのか、あるいは向き合ってこなかったのか、という問題を深める必要がある。

 空襲の世界史

1903(明治36)年、ライト兄弟が初飛行。飛行機は、植民地抵抗運動の鎮圧に使われた。飛行機の本格的軍事使用は第1次世界大戦からである。

その後、日中戦争・第2次世界大戦などをへて、爆撃機の性能は急速に向上(大型化・高速化・航続距離の増大・爆弾搭載量の増大など)、第2次世界大戦の末期には、アメリカが、高性能の大型爆撃機=B29の開発に成功し、1944年から実戦配備した。

都市に対する最初の無差別爆撃はナチス・ドイツによるゲルニカ爆撃(19374月)。日中戦争が始まると日本が重慶などの中国の都市を無差別爆撃。第2次世界大戦が勃発し、アジアにまで拡大すると、米英はドイツ・日本に対する大規模な無差別爆撃を実施、そのいきつく先が広島・長崎の原爆投下。東京大空襲では約10万人もの死者を出しているが(被害者)、歴史の流れの中に置くと、無差別爆撃の歴史に日本が深く関与、その点では加害者の側にいたことがわかる。なお、戦前も戦後も国際法上は非軍事目標にたいする空爆は違法であった。 

日本本土空襲の概要

ドゥーリットル空襲(1942418日)=アメリカの空母から発進した16機のB25が東京・名古屋・神戸などを空襲。損害は比較的軽微だったが、この空襲の結果、海軍は哨戒線を東に拡張するためにミッドウェー島攻略戦を決断。しかし6月のミッドウェー海戦で大敗北を喫している。

中国の成都を基地にしたB29による北九州爆撃=19446月、翌年初めまで続く。194478月にマリアナ諸島が陥落。1124日にマリアナ基地のB29が東京を初空襲、本土空襲が本格化する。

マリアナを基地とした本土空襲は3つの時期に区分できる。第1期=19441124日から194534日までの時期。まがりなりにも軍事目標主義を掲げていたアメリカが、航空機工場などの軍需工場に対して高高度からの「精密爆撃」を行った時期。

しかし精度の低さ、日本上空の強いジエット気流、厚い雲におおわれ視界不良となる冬の天候(レーダーでの照準もうまくいかない)、B29に多発する故障などの影響で十分な成果をあげられず、米軍は方針を転換する。

2期=1945310日から615日までの時期。310日の東京大空襲のように、都市部に対する低高度からの夜間無差別絨毯爆撃を実施。大阪・神戸・名古屋・横浜などの大都市に無差別爆撃。

3期=617日以降敗戦までの時期。地方の中小都市にまで無差別爆撃を拡大、全国の都市が焼き払われる。沖縄を占領した米軍は、沖縄の基地から爆撃機の他、小型の攻撃機や戦闘機による空襲を開始。日本近海の英米機動部隊からも多数の艦載機が空襲。戦争末期には戦闘機が低空からあらゆる目標に無差別に銃撃を加える。また1945326日に硫黄島が陥落し、同島はB29の緊急着陸地、護衛戦闘機の発進基地、本土空襲のための中継基地として大きな役割を果たす。日本側の防空体制・部隊は弱体で空襲をほとんど阻止できなかった。

マイノリティーと空襲、そして被害と加害の関係性

貧しい人々が下町のスラム街に密集し、在日朝鮮人が住み犠牲者も多かったと思われる。大阪でも最近ようやく、塚﨑昌之編著『大阪空襲と朝鮮人そして強制連行』(ハンマウム出版、2022年)が刊行されている。

東京大空襲・戦災資料センターの場合でも、2002年の開館当時は、東京大空襲の朝鮮人犠牲者に関する展示はなかった。20033月に来館した金栄春さんが朝鮮人関係の展示がないことを批判。20063月の「東京大空襲61周年朝鮮人犠牲者シンポジウム」に早乙女勝元館長が出席、感想文に「朝鮮人問題をもう少し調べるべきだった。センターを拡張しています。再オープンの時は朝鮮人コーナーを設けます」と記している。2007年リニューアル時に朝鮮人犠牲者関係の展示ができ、2020年にはさらに整備された。

近年、空襲などで両親を失った戦災孤児の研究が進んでいる。本センターでも、2020年の展示リニューアルで新たに戦災孤児のコーナーを設けた(背景に孤児となった人たちの強い要望が)。

「東京空襲を記録する会」での運動は、幅広い人々の協力を得るため、まず何よりも体験の記録化に力を注ぐ。戦争責任や加害の問題は、自覚されてはいたが先送りされた。早乙女勝元の発言=「東京の会は、体験者の義務として出発した。記録のないものは伝承もできないからだ。そのため、参加者の立場、意見は異なっていても、事実の確定から始めた。意味を討論していては一致できないからだ」。

21世紀に入ってから、加害の問題ははっきりと自覚されるようになる。センターは2007年にシンポジウム「無差別爆撃の源流―ゲルニカ・中国都市爆撃を検証する」を、2008年にはシンポジウム「世界の被災都市は空襲をどう伝えてきたのか」を開催。この頃から東京大空襲とゲルニカ爆撃・重慶爆撃との関係を強く意識し始める。

2008年に大阪空襲の被害者などが国に補償を求めて大阪地裁に提訴。原告の安野輝子さんは2010年に重慶を訪問して重慶爆撃の被害者と交流、「つい最近まで皆さんたちのことは頭にありませんでした。ここに来て、加害国の一人として自分の国が犯した空襲に向き合うことが大事だと思い知りました」と発言(矢野宏『空襲被害はなぜ国の責任か』(せせらぎ出版)。

センターの展示面では、2020年のリニューアルで、ゲルニカに始まる戦略爆撃・無差別爆撃の歴史の中に東京大空襲を位置付ける(日本も重慶爆撃に象徴されるように、戦略爆撃の「発展」に深く関与)という姿勢はより明確になった。しかし、まだ日本軍の捕虜となった米軍搭乗員の虐待・殺害の問題は展示が不十分。東京大空襲では14機のB29が墜落しているが、茨城県筑波郡板橋村に墜落した1機の搭乗員3名が捕虜となり、1名が憲兵隊で処刑されている。一般市民による搭乗員の虐待・殺害も頻繁に行われた。NHK「戦争証言」プロジェクト編『証言記録 市民たちの戦争2』(大月書店、2015年)、熊野以素『九州大生体解剖事件』(岩波書店、2015年)。

 朝鮮戦争と日本

朝鮮戦争(19506月~19537月)に日本は直接参戦しなかったが、国連軍(特に米軍)の兵站・補給基地として大きな役割を果たした。

また、最新の研究、林博史『朝鮮戦争 無差別爆撃の出撃基地・日本』(高文研、2023年)は、東京(横田)と沖縄(嘉手納)から出撃したB29による北朝鮮に対する無差別爆撃を詳細に解明している。B29が日本本土に投下した爆弾の総量は165000トン、北朝鮮に投下した爆弾総量は167100トン(国連軍全体ではその4倍以上)、東京・ピョンヤン間の距離は約1300キロ、サイパン・東京間は2200キロ、距離が短いほど爆弾の搭載量は増大する 

「戦争被害受忍論」をめぐって

「戦争被害受忍論」=戦時のような非常事態の場合には、すべての国民が犠牲を余儀なくされる。これらの犠牲は国民がひとしく受忍しなければならないものであり、補償の対象とはならないとするもの。この「受忍論」を克服しなければ、自国の政府の責任の追及も曖昧になるし、さらには他国・多民族にたいする戦争責任という観念も生まれない。

秋田魁新報社の最近の調査によれば、アジア・太平洋戦争の開戦(194112月)から敗戦(19458月)までの秋田県出身兵士の戦死者数は27036人、このうちサイパン島が陥落した19447月から敗戦までの戦死者数は2575人、全戦死者の実に76.1%が最後の約1年間に戦死している。また、政府は外地及び内地で死亡した民間人の死没者数を約80万人としている。この80万人は満洲などからの引揚の際の犠牲者、空襲や原爆の犠牲者、沖縄戦の犠牲者だと考えられるので、その大部分は東京大空襲をかわきりにして都市無差別爆撃が本格化する19453月以降の死者、つまり最後の半年間の死者。日本政府は無謀な侵略戦争を開始した責任だけでなく、戦争終結決意の遅延によって、無益な大量死を生み出した責任を有している。

国の側に「受忍論」が明確な形で形成されるのは、高度成長期、戦争で財産を失った日本人移民が政府に補償を求めた裁判の最高裁判決(196811月)=「戦争被害受忍論」に基づき原告敗訴を言い渡す。「戦後補償史における、黒い画期」(栗原俊雄『東京大空襲の戦後史』岩波新書、2022年)。波多野澄雄は、「『国民総犠牲者』の考え方に立つ『受忍論』は、国の内側から起こる戦争責任論や補償要求の噴出を抑える仕組みでもあった」と指摘している(東郷和彦・波多野澄雄編『歴史問題ハンドブック』岩波書店、2015年)。

 問題は「受忍論」を消極的な形であれ、「戦争だから」と受け入れるような国民意識が存在することだ。

1964年、アメリカ空軍のカーチス・ルメイ大将が、航空自衛隊の育成に尽力したという理由で、日本政府から勲一等旭日大綬章を授章。この時のマスコミの反応=あまり大きく取り上げず、取り上げる場合でも原爆を投下した司令官(これは正確ではない)への叙勲を問題にし、本土空襲の司令官への叙勲を問題にしていない(上岡伸雄『東京大空襲を指揮した男 カーチス・ルメイ』ハヤカワ新書、2025年)。

教科書に東京大空襲が登場するのも1980年代に入ってからだった。

命を真ん中に置く医療を

 世代分断を越え命を真ん中に置く医療を

   東京民医連事務局次長 山根 浩 

 

 自民、公明、維新が医療費削減で合意。国民、参政も同様の政策を表明。一方で病院の危機が進行。山根さんに寄稿していただきました。

 

いのちを削る「医療費4兆円削減の中身

 自民党と公明党、そして日本維新の会は参議院選挙の前に「医療費4兆円削減」の合意を更にすすめ、①「入院病床11万床削減②OTC類似薬(市販薬と成分や効果が似ているものの、原則として医師の処方箋が必要な医療用医薬品)を保険適用外にすることで合意しました。合意には加わっていませんが国民民主党や参政党も同様の政策を打ち出しています。2021年にも「現役世代の負担軽減」という名目で後期高齢者の窓口負担を2割に引き上げました。しかし、現役世代の負担軽減は年間700円程度と言われています。負担割合を増やして受診抑制して医療費を下げようとしたが思ったような効果が得られず、今回は直接、入院の機会をうばい、風邪や花粉症では医療機関を受診させないようにするという意味ではより「悪質」です。

 この二つの合意は参議院選挙後に議論されると思われます。ぜひ、多くの皆様に関心を向けてほしいと思います。

 まずは「11万床削減」について考えてみます。 

再び、「命の選別」をすることになりかねない病床削減

 昨年、厚生労働省が実施した病院報告の集計では、日本の病床数は119万床。2025年時点での必要病床数とほぼ同数です。11万床と言う数字は約10%の削減です。入院病床には「一般」から「療養」「精神」などに機能分化しており、医療費削減のために「まず、病床削減ありき」のような議論はあまりにも乱暴です。

 また、先の病院報告で病床利用率は全体で74%になっていますが、病院の機能や同じ機能であっても地域によって、民間か公的病院か、地域での役割に応じて病床利用率は異なります。

 私が所属していた社会医療法人社団健生会では、急性期病院の立川相互病院は90%、あきしま相互病院はほぼ満床の98%の利用率です。この利用率以上でなければ経営が成り立たないのです。本来はもっと余裕をもった病床運営が必要と言われています。比較的入院の少ない春や秋などは救急車搬入要請に対する応需率は80%を超えるのですが、入院が増える時期には半分以下に低下します。必要なときに必要な医療を提供するには、もっと「あそび」が必要で、車のハンドルと一緒です。

 5年前の新型コロナウイルス感染症流行初期のことを思い出してください。強毒なウイルスに感染しても「自宅療養者」とされたままお亡くなりになるケースが多発しました。年齢によって入院制限も行われ、「命の選別」を自ら選択しなければならない事態に多くの医療従事者は傷ついていました。新興感染症は四半世紀ごとに発生すると言われています。人類の自然破壊で増えるとも言われており、私たちはその備えをする必要があります。病床削減は命の削減ともいえるのです。

 重症化の危険「OTC類似薬の保険適用はずし」

 次にOTC類似薬の保険適用からはずすことについて考えてみます。

 OTC類似薬の代表的な薬剤は湿布薬です。湿布薬については、20224月の診療報酬で枚数制限が導入されました。保険外しをすすめようとする日本維新の会の猪瀬直樹議員は国会の予算委員会で「高齢者がちょっと暇つぶしに病院に行って、何となく湿布薬をもらってくる、これだけで保険料がかかる」「薬局は(湿布薬)を輪ゴムに止めるだけで儲かる」と暴言を吐きました。さすが医療法人グループの徳洲会から選挙費用として5000万円を受け取り、公職選挙法違反を犯した方の発言だと思います。

 表1は代表的なOTC類似薬の3割負担での自己負担額とメーカー希望小売価格の比較です。20倍から60倍の負担増となり、多くの方は医師の診断を受けることなく、自己診断して市販薬で済まそうとなります。

自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分自身で手当することを「セルフメディケーション」といい、厚生労働省は医療費削減政策として推進しています。しかし、風邪のような初期症状から重篤な病気だったという事例はたくさんあります。過度にセルフメディケーションを強調することはいのちに関わる問題になりかねません。

また、アトピー性皮膚炎で使用する保湿剤も対象ですが、多くの皆さんの運動で子どもの医療費無償化が実現しましたが薬剤が保険から外されれば効果が失われます。625日から取り組まれた特定非営利法人日本アトピー協会が取り組んだOTC類似薬の保険適用外とすることへ反対するオンライン署名はわずか半月で44000筆を超え、反対の声が広がっています。 

失政を高齢者に転嫁

 このような医療費削減を「社会保険料を引き下げて、現役世代の負担軽減」を理由にあげています。しかし、現役世代の困難の根本的な原因はこの30年間賃金があげられなかった日本の政治の失政にあります、新自由主義政策をすすめ、大企業の拠点を海外に移し、その大企業には優遇税制で支援し、国内労働者の賃金をあげる中小企業対策費などをほとんど増やしてこなかったからです。第2次安倍政権以降はそれが顕著になり、賃金はあがらない一方で大企業の内部留保は100兆円以上増えました。社会保険料の引き下げは助かりますが財源の拠出元が間違っています。 

「高齢者優遇」のまやかし

 与党や維新の会、国民民主党は現役世代の手取りを増やすために、「優遇されている高齢者に負担を求める」として先に述べた医療費削減政策を打ち出します。医療を必要とするのは高齢者だけではありませんが必ず、「高齢者優遇」をいい、世代間分断を持ち込みます。本当に高齢者は優遇されているのでしょうか。そのことを考えてみます。

 要介護認定率は年齢とともに上昇し、特に85歳以上は2022年で57.7%です。団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、75歳以上の人口増は緩やかになり、85歳以上の人口は増え続けますがそれも2040年頃までです。厚生労働省は2050年には1人の65歳以上の高齢者を20歳から64歳までの1.3人が支える「肩車型社会」になると宣伝しています。しかし、社会保障制度は年齢区分だけでなく複眼的に見る必要があります。女性や高齢者の就労率が高くなっていくことが予測される中では、労働力人口扶養比率でみると2050年も現在とほとんど変わらず、2人で4.6人をささえています。「肩車」ではありません。

高齢者の医療費が高すぎるとの見方もあります。一人あたりの後期高齢者の医療費は74歳以下と比較して3.9倍、入院で6.5倍、外来で2.9倍です。しかし、入院1件あたりの日数は1.4倍とあまり変わらず、1日あたりの医療費は0.8倍でむしろ現役世代の方が濃厚な医療を受けています。違うのは入院受診率の高さで現役世代の6倍です。これはある意味当たり前です。外来も同じで、受診率は2倍ですが1件あたりの医療費に大きな差はありません。対策は高齢者の健康づくりです。医療費抑制策として窓口負担を増やすことは、かえって健康づくりを妨げ、逆効果です。

国際比較からも、日本は高齢化が最も進んでいる一方で、社会保障費のGDP比率は他の先進国より低く、特に高齢者医療に対する支出は最少水準です。「日本の高齢者は優遇されすぎている」という見方はフィクションです。社会保障費のGDP比率は「自己責任の国」と言われる米国の24.1%より低い、22.8%です。

 医療費抑制政策が地域住民の医療を受ける権利を奪いかねない

 政府は30年近く「2025年に団塊の世代が75歳を迎え、高齢化がすすむ」と煽り立て、医療費抑制を喧伝してきました。そのため、医療機関の収入を決める診療報酬は低く抑えられてきました。これまで何とか踏ん張ってきましたが、昨今の物価高騰で限界を迎えています。

病院6団体と共に記者会見を行った日本医師会の松本会長は「これまでも『地域医療崩壊の危機的状況にある』と繰り返し訴えてきたが、今こそ医療界が一致団結して、著しくひっ迫した医療機関の状況を国民に改めて切実に訴えていきたい」と述べました。  

病院経営を改善するために医師会や病院団体が訴えているのは、第一に、「社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲内に抑制する」とする政府方針(いわゆる「目安対応」)の廃止です。第二に、診療報酬の設定について、物価や賃金の上昇に対応できる柔軟で 新たな仕組みの導入です。「目安対応」とは2012年の「税と社会保障の一体改革」から続く制度で、毎年の経済財政運営の基本方針(「骨太の方針」)に基づき、社会保障関係費の伸びを高齢化に伴う自然増の範囲内に抑制するために、診療報酬引き下げなど制度改革を毎年繰り返してきました。これまではデフレ経済で賃金も物価も上がらなかったので、医療機関も何とかやってきましたが、物価高騰で全く条件が変わりました。診療報酬が物価の値上がりに対応できなくなっています。

そもそも、社会保障費が伸びているのは、高齢化によるものが三分の一、医学などの進歩によるものが三分の二であり、それを高齢化の伸びだけに抑えることが誤りです。かつて、厚労省やマスコミは「2025年に国民医療費は141兆円になる」医療費膨張を煽ってきましたが、実際には2022年度で46.7兆円です。医療機関の経営改善には、「目安対応」の廃止と診療報酬を物価や賃金の上昇に応じて適切に対応する仕組みを導入がどうしても必要です。  

安心して医療を受けることが出来る社会に

 住民が安心して医療を受けることが出来る社会にするには、税金の使い方を医療や社会保障に使うようにしなければなりません。現状では軍事費が突出しています。(図参照)この秋、多くの団体と共同して地域の医療機関を守り、受療権を守る取り組みを広げていきます。ご協力をお願いします。

 

2025年7月18日金曜日

都議選 自民凋落 共同の力発揮

今回の都議選の最大の特徴は、自民党が前回比12減で過去最低の21議席と大敗北を喫したことです。42選挙区中20選挙区で自民党は空白となり、その凋落の姿を鮮明にしました。

小池与党の自民、公明、都民ファの合計議席は、4年前の87議席から16減の71議席となり、小池都政への都民の批判も示されました。

市民と野党の共闘の力が示されたのも特徴です。26選挙区で候補者の一本化が図られ、定数12選挙区、定数211選挙区、定数36選挙区の合計19選挙区で当選を果たしています。立憲野党は、無所属議員を含めて4年前より前進の37議席を獲得しています。

市民と野党の共闘を発展させていくことが、日本の政治変革がかかっていることを示しています。小金井と日野から報告していただきます。

小金井 1人区で圧勝 

小金井選挙区は無所属の漢人あきこ都議を、立民、共産、ネット、緑、社民、新社会が推薦。自民、国民、再生の道の各候補を圧勝。

平和、環境、人権問題など漢人都議の都議会での実績を小金井市民が評価。漢人都議は野党第一党の共産と学校給食費無償化などで共同提案。同時に立民と共産との橋渡し役を果たし、立民は小池知事予算に初めて反対に転換。

三多摩革新懇が取り組む保健所増設、公共交通問題にも積極的に協力、また首長選で共同候補の応援に立ちました。

再選に寄与した二つの集会。一つは、517日開催の漢人都議再選キックオフ集会の成功。満席の120人。保坂世田谷区長のトーク、岸本杉並区長のビデオメッセージ、松下立民議員、共産、立憲、緑、ネットの市議、様々な分野の市民20名近くから、激励、期待する声がよせられました。

もう一つは、68日の全国・東京・三多摩・小金井革新懇の漢人候補応援の合同宣伝の成功。全国革新懇世話人の矢野元狛江市長、翻訳家池田香代子さんなどトーク。50名以上が参加、漢人都議再選弾みをつけました。

最終日の駅前宣伝には世代を超え幅広い市民が参加、20名以上の市民が熱い応援リレートーク。2年以上続く市民草の根共同の反戦アクションの取り組みも漢人都議再選させた力になりました。(小金井革新懇 吉武勝)

日野 本気の共闘で勝利

2議席を5人が競う厳しい選挙でしたが、日本共産党の清水とし子候補は自民党候補に競り勝ち2期目当選を勝ちとりました。勝利した清水候補は、開口一番、「本気の共闘で勝つことができました」と述べました。

今回、清水候補に寄せられた15340の票は、昨年の総選挙(東京比例)で日本共産党に寄せられた票を2倍以上に増やしたものです。立憲民主党、社民党、新社会党との共闘、日野市長選で健闘された有賀精一さんと市民応援団の皆さんの支援があったからこその勝利でした。

特に、有賀さんと弁護士などを中心に事務所も構えて奮闘した市民応援団は、わいわいミーティングで要求と政策を語り合い、3回の街頭演説を野党議員、市民連合、データセンター問題市民の会有志、若いお母さんなどを弁士に成功させたり、都政を変えようシール対話を10回近く実施するなど、「自らの選挙」「要求で対話する選挙」として取りくみました。

この大本には、清水候補が、保健所の復活、学校給食費の無償化、公共交通の充実、データセンター問題など市民の要求と運動に参加し、住民とともに東京都に実現を迫ってきた4年間の積み重ねにより、党派を超えた厚みのある市民との共同をつくってきたことがあります。日野革新懇も、清水さんを「市民要求実現の共同候補」として推薦して市民応援団に参加して頑張りました。(磯崎)

2025年6月3日火曜日

都議選で問われているもの

 都議選で問われているものは何か


 





 

都議選が迫ってきました。今回の都議選は、都政に大きな影響を与えるとともに、参議院選挙に直結し、自民党政治の転換も展望する重要な政治戦となっています。末延渥史さんに寄稿していただきました。 

6月13日告示、同22日投開票で東京都議会議員(定数127名)選挙が実施されます。

 今回の都議選は昨年実施された衆議院議員選挙での自公政権与党の過半数割れという激動の政治情勢のもとでたたかわれるとともに、連続してたたかわれる参議院議員選挙とあわせて、歴代自民党政権のもとですすめられてきた消費税大増税、社会保障の連続的改悪、徹底した雇用破壊、さらには自民党の底なしの金権腐敗政治、そして昨年来の異常な物価高騰など、政治の責任がおおきく問われる選挙となります。

 また、都政においては小池都政9年目を迎えましたが、

 果たしてこの9年の間に

①都民の暮らしは改善されたのか

②東京のまちは住みやすく、地球に優しい都市に変わったのか

③都政が「都民の声が届く」身近な自治体に生まれ変わったのか…が厳しく問われなければなりません。

 まず、都民のくらしが改善されたのかです。

 いま、東京の就業者人口の半数以上が年収「300万円以下」に置かれ、東京の非正規雇用者は233万人に達し全雇用者の32.6%を占めるに至っています。さらに都民の貧困率は20代で2割近く、高齢者では3割に達する状況で、私たちのくらしは苦しくなる一方で、国土交通省が発表した「豊かさ指標」(可処分所得ー基礎支出ー通勤機会費用)を見ると、東京都の順位は全国47都道府県の最下位で、東京の格差と貧困の拡大は止まりません。

 ところが小池都政は石原都政が「福祉は贅沢だ」といって都民と革新都政が築き揚げた福祉施策に大ナタを振うとともに、教育、環境、住まい、中小企業対策などあらゆる分野の都民施策を根こそぎにした路線をひきつぐとともに、財界の要求に応えて、さらなる新自由主義、市場原理、自己責任の徹底と公的責任の放棄をおしすすめています。

 こうしたもとで革新都政が全国に誇った高齢者・障害者福祉施策は後退させられ、高齢者施策では、石原都政以前には高齢者一人当たり13万5000円もあった老人福祉費=高齢者福祉費が8万8000円に半額され、障害者福祉手当は28年間も1円も引き上げられていません。

 少子化対策では、選挙対策を意図したパフォーマンス予算が話題を呼んでいますが、小池都知事は最初の都知事選挙で「待機児ゼロの実現」を公約に掲げて当選しましたが、実際は、「ゼロ」どころか2024年度の保育所待機児(注1)は1万5112人にも及んでおり、公約違反のりは免れません。くわえて、小池都知事は公約が守られていないという都民的批判をうけて2022年から「待機児解消市町村支援事業」を開始しましたが、当初220億円あった予算は32億円まで削減され、開始時のわずか15%に後退させられているのです。(注1:旧基準=認可保育所を希望しながら入所できなかった児童)

 医療では新型コロナ対策で命の砦といわれた都立・公社病院の地方独立行政法人化を強行。すでに医師・看護師の退職があいつぎ、病棟閉鎖や病床削減がすすんでいます。

 教育では全国で小中全学年での35人数学級が大きく前進、東京都より財政力が格段に低い県でも30人以下学級などのとりくみが始まっているというのに、小池都知事は国基準(小学校全学年途中学校1年で35人学級)に止め、学校の教員の絶対的不足が恒常化し校長や副校長、さらには80歳を超えた退職教員まで教壇に立つという事態が生まれているのに何の対策もとろうとはしていないのです。

 住まいの分野では住宅に困窮している低所得者や年金生活者、若年層などが切望している都営住宅の新規新築建設を拒み、26年間新規建設ゼロとされています。このため都営住宅の管理戸数はピーク時から1万6000戸も削減、公募をおこなわない空き室が2万戸もつくられるなど、異常な狭き門となっています。

 異常な物価高騰問題でも小池都知事が提案した対策はほとんどが国の予算の枠内というケチケチ予算となっており、経営難に陥っている商店街対策予算も9年間連続据え置きです。また、第2回都議会定例会に提案された物価高騰対策の補正予算はわずか362億円で4ヶ月間の水道の基本料金の無料化の1つだけ。一番求められている物価引き下げのための対策や低所得者のため生活支援、困窮する中小企業への経営支援などは棚上げされたままです。

 

地球環境破壊の東京大改造

 

 第2に地球に優しい都市に変わったのかです。

 この点で小池都知事は石原都政以来の超高層ビル再開発による都市再生を引き継ぐとともに、あらたに「稼ぐ都市」といって東京大改造を「爆速」ですすめています。実際に、東京ではこの25年間に高さが100mを超える超高層ビルが400棟を超えて建てられ、その延べ床面積は千代田区、港区、中央区の行政面積を上まわるものになっています。このため東京の人口は同期間に220万人も増加。様々な分野で弊害と歪みをもたらすものとなっています。

 その第一は、地球温暖化の加速です。実際に、この間に東京都で排出される二酸化炭素は増えつづけており、東京都の年間平均気温は、世界の気温が0・72度、日本の気温が1・19度の上昇であるのになんと3・2度、全国の3倍もの気温上昇を記録しているのです。このため真夏日が増え最低気温が25度を超える日が年間50日を超え、都市型ゲリラ豪雨や暴雨風など異常気象が急増。生活を脅かすものとなっています。

 さらに小池都知事は、財界要求である「稼ぐ都市」づくりを邁進。ポストオリンピックの「東京大改造」として神宮外苑や都有地を提供する築地再開発、高さ390mの常盤橋地区をはじめとする東京駅周辺再開発、大井町駅周辺、赤羽駅北口再開発、外かく環状道路や特定整備路線などを「爆走」させているのです。

 第3に「都民の声」が届く自治体に生まれ変わったのかです。小池都知事は2016年の選挙で「2020年オリンピックを見直す」「築地市場は守る」「全面的な情報開示を実施する」などの公約を掲げましたが、いずれも反故にして知らんぷりをしています。また、財界や一握りの富裕層の声・要求には熱心に耳を傾ける一方で、都民の切実な声と要求を冷たくあしらい、都立病院の独立行政法人化を強行してしまいました。

 また、小池都知事はこの9年の間に本来、都民に奉仕することが使命である東京都の組織の変質、知事言いなりの組織への改造もすすめてきました。さらに新型コロナ対策での補正予算の専決処分(非常時など議会を開会できない場合などに認められる知事による予算の決定・執行)の乱発など庁内民主主義と議会制民主主義を否定する独断、専横の都政運営が大手を振ってまかり通っているのです。

 

問われるべき都議会

 

  日本の地方自治体は首長と議員を住民の直接選挙で選ぶ二元代表制がとられています。その二元代表制は、権力が単一の機関に集中することによる権利の濫用を抑止し、権力の区別・分離と各権力相互間の抑制・均衡を図ることで、人民の権利や自由の確保を保障するための制度とされています

 また、議会は「住民自治の基盤であり、合議制の住民代表機関として、地域の民主的な合意形成を進め、民意を集約して団体意思を決定するという重要な役割を有している」とされ、また、「議会は、地方公共団体の意思を決定する機能及び執行機関を監視する機能を担うものとして、同じく住民から直接選挙された長(執行機関)と相互にけん制し合うことにより、地方自治の適正な運営を期する(総務省)とされています。

 さらに予算や条例、副知事人事などは議会の同意が得なければなりません。

 この視点にたてば、現在の自公都ファに支配された都議会は小池知事を「監視」し、「地方自治の適正な運営」を果たす機関となっていないばかりか、これらの会派が小池都知事の付属機関か信任機関であるかのように振る舞い、小池都知事の暴政のパートナーとして、また、水先案内人としての役割を果たすことに汲々としていることは明らかであり、議員の適格性、資格が問われるものと言わざるを得ません。対照的に日本共産党都議団が都議会野党第1党の立場を生かして小池都政と対決し次々と都民要求を実現しているのは重要です。

 今回の都議選は東京都議会を二元代表制としての議会を実現する大事な選挙です。

 同時にこの間、都知事選挙、都議選、衆院選で着実に前進を遂げてきた市民と野党の共闘を発展させ、共闘の勢力が都議会の過半数を獲得し、小池都政を監視し、地方自治法に則った「適正な運営」による都民が主人公の議会を実現する選挙となります。

 現在(5月30日)、都議選での市民と野党の共闘は3人以下の選挙区のうち26選挙区で立憲民主党、日本共産党、社会民主党、生活者ネット、緑の党による候補者の一本化が実現。4人区以上の選挙区でも共同の宣伝や学習会など共闘のとりくみがはじめられています。5月29日には「参院選・都議選 政治をかえよう!都政を都民の手にとりもどそう!呼びかけ人会議」が開催され、野党各党からメッセージもよせられました。

 市民と野党の共闘で小池都政の転換を実現しましょう。

2025年4月27日日曜日

手に負えない原発、それでも動かしますか

 手に負えない原発、

  それでも動かしますか

 


元福井地方裁判所裁判長 
樋口英明さん

 

3月の婦人民主クラブ創立79周年記念のつどいで講演された元福井地裁裁判長の樋口英明さんの講演の要旨を、主催者の了解を得てお伝えします。樋口さんは2014年に大飯原発の運転差止の仮処分の判決を下しています。

石破内閣が、第7次エネルギー基本計画を2月に閣議決定。福島原発事故以降、「原発依存度を可能な限り低減する」としていた基本を大転換し、原発再稼働、新型炉の建設を打ち出し、原発依存度を現行5%から2040年に20%に拡大するとしています。

樋口さんの講演は、原発の異次元の危険性と法的責任を簡潔明瞭に指摘しています。 

原発推進の著しい不正義

日本に17ヶ所54機の原発がある。原発から出てくる死の灰は、人が近づくだけで死ぬ。そういうものを何万年にわたって後世の人に押し付け、原発を推進するのは著しい不正義だと思う。特に福島原発事故があった後には。

私が大飯原発を差し止めた理由が「万が一危険があるから差し止めます」との危険だったら、私はこの場で話していない。判決にこう書いた「大飯原発の持つ危険性は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険だ。耐えがたいほど正義に反し、耐えがたいほどの結果をもたらそうとしている」と。

短期間にわが国を滅ぼしうる可能性があるのは、戦争と原発事故。原発事故は、一般の人が思っているよりはるかに危険だ。 

脱原発の一番の強敵は観念

日本の脱原発運動はうまく固定いってないというイメージがあるがそうではない。去年、能登半島地震では、海岸が4メートル隆起し、海岸線が250メートルぐらい遠のいた。珠洲市の高谷地区と寺家地区に珠洲原発が立つ予定だったが、住民の28年間に及ぶ反対運動で白紙撤回となった。建設されていたら、多分、福島原発事故をはるかに越える事故が起こった。住民運動に助けられた。三重県でも芦屋浜原発も37年間のねばり強い住民運動で立たなかった。原発が立っていたら、南海トラフ地震予想で使い物になっていない。

原発は17ヶ所にあるが、反対運動で50ヶ所以上はつぶれている。31敗だ。裁判では、311以降、原発を止めた裁判長は7人。容認した裁判長は30人以上。14敗ぐらい。

反対運動があった頃、反対の世論は高くなかった。我がこととして考えられるかだ。脱原発運動の一番の強敵は、我々の心の中にある。多くの人が、昔は危険だったかもしれないが、原子力規制委員会が福島原発事故の教訓を踏まえてやっているはずだから、それなりに安全じゃないか。政府も目の前の利益だけのために国民の安全を犠牲にするようなことはしないと思っている。これらの先入観・固定観念が一番の強い原発支援となっている。 

福島原発は停電しただけで暴走

原発は少しも難しいことではない。知ってほしいのは二つ。一つは、原発は人が管理し続けないと暴走する。二つは、人が管理出来なくなった時の事故の被害は想像を絶するほど大きい。なぜそうなるかは原発の仕組みだ。ウラン燃料をみずにつけ蒸気が発生し、蒸気でタービンを回して発電する。火力発電と同じ原理だ。違いは、一つはウラン燃料の毒性は全然違う。二つは火力発電では、地震などトラブルで火を止めれば終わが、原発は制御棒を入れて運転を止めても熱量がデカすぎて水の沸騰は続く。水がなくなると核燃料が溶け落ちる。防ぐには、水を電気で送り原子炉を冷やし続けなければいけない。福島原発事故は津波や地震で原子炉が壊れた訳ではない。最初の地震で外部電源がやられ、津波で非常用電源がやられ、停電しただけだ。

福島原発事故では、メルトダウンしてウラン燃料が全部溶け落ちた。圧力容器、格納容器が水蒸気で圧力が上がり、普通はベントで抜くが、電気が来ていないから自動では出来ない。人がバルブを回そうとしたが放射能が強すぎて行けない。格納容器が圧力で一杯になった。吉田福島原発所長は、2号機は格納容器が爆発するだろうと諦めた。1号機と3号機の爆発があったが、格納容器の外の爆発。吉田所長は、東日本壊滅と考えた。しかし、2号機の上部に弱い部分、欠陥があって、そこから抜けた。丈夫に出来ていれば爆発した。

様々な奇蹟があって15万人の避難で済んだ。奇蹟がなければ4000万人が避難。東京は人が住めなくなった。これが原発事故の被害の大きさだ。それが停電しただけで起きる。 

国富の喪失とは

2013年に経済界や自民党政権は、原発を止めると火力発電所の燃料として石油や天然ガスの輸入が増え、国富の流出が起きると主張した。

それに対し、私は判決で、原発の運転を止めることによって多額の貿易赤字が出るとしても、それを国富の流出や喪失と言うべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、それを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であるとした。 

原発は国の存続の問題

福島原発事故による損害は約25兆円。東京電力の売り上げは年約5兆円。利益率5%で年間利益2500億円で割ると100。1回の事故で100年分の利益が飛んだ。コスト的に全く引きが合わないのは明白だ。

福島原発事故は、田舎で起きた。東京に一番近い東海第2原発で福島原発事故と同規模の事故が起きると損害額は660兆円。国家予算110兆円の6年分の予算が飛ぶ。わが国は破産する。吉田所長が覚悟したように、2号機の格納容器が破壊された場合の損害額は2400兆円だ。わが国は破産どころか破滅する。これらの数字は何を示してるか、実は原発問題は単なるエネルギー問題ではなく、国の存続の問題むしろ国防問題だ。 

原発は自国に向けられた核兵器

ロシアとウクライナの戦争を見るとますますはっきりした。ロシアはヨーロッパで一番大きなザボリージャ原発を占領。攻撃するぞって言ったら明け渡さざるを得ない。抵抗したらロシアからミサイルとか砲弾が飛んでくる。従業員も逃げ出していない。自分らが放棄すると原子炉が暴走する可能性があるのだ。

日本はどうしようもないものを54機も海岸沿いに並べた。その時点でどの国と戦争しても勝てない。敵基地攻撃能力を持とうというのは、どう考えても矛盾する。原発は自国に向けられた核兵器だ。これは物事の本質を言っている。その核兵器の除去に、戦略も外交交渉も膨大な防衛も不要だ。この豊かな国を守っていこうという精神さえあれば踏み出せる道なはずだ。 

原発の耐震性は極めて低い?

原発の過酷事故は極めて重大な被害が出る。それ故に原発には事故発生確率が高度に低いことがめられる。地震大国日本において、高度の耐震性が求められていることに他ならない。

しかし原発の耐震性を極めて低い。日本の裁判所で原発を差し止めようとの訴訟は沢山起きているが、原発の耐震性が低いという最も大事なことが裁判の争点になっていない。ほとんどの裁判所でやっていることは、この原発は原子力規制委員会の規制基準にあっているかどうかでの判断に大きな誤りがあるかないかだけを判断している。

原発の耐震性を表しているとされるのが基準地震動で加速度(ガル)で示している。高い数字ほど強い地震を示している。これまで一番強かったのが岩手宮城内陸地震の4022ガル。能登半島地震は2828ガル。北海道胆振東部地震1796ガル。熊本地震1740ガル。震度7が地震では一番揺れるが1600ガルは越える。

表の一番上の5115ガル、これは原発の耐震設計だといいのだが、三井ホームの耐震設計。3406ガルは住友林業の耐震設計。私が裁判を担当した大飯原発の耐震設計は450ガル、判決時には700ガル。原発は固い岩盤の上に立っていると主張するが、岩盤が地面の揺れより小さかった例は1例もない。はるかに大きかった例は1例ある。 

原発推進の非科学性

大飯原発の差し止め訴訟における原告側の主張は、大飯原発は地震に耐える事が出来ない。だから我々を守ってくださいということだ。被告の関西電力は、原発の敷地に関しては将来にわたり強い地震がこないとの主張だ。

極端な典型例では、伊方原発は南海トラフの震源域にあるが、四国電力はマニグチュード93.11と同規模の地震が直撃しても、伊方原発の敷地に限っては181ガルを越える地震は来ないとの主張だ。原子力規制委員会はそれを審査してOKを出した。

一方ハウスメーカーの理念は、家を建てる敷地にどんな地震が来るか予知できない。予知できない以上、日本で一番強かった揺れ4022ガル、それを克服するように建てようと頑張っている。一方、原発は地震予知が出来、それ以上は強くする必要はないとしている。どちらが科学的で理性的か。原発は科学の粋を集めたとのイメージがあるが、ハウスメーカーの方が科学的だ。 

日本に地震の空白地帯はない

日本は世界の陸地面積の0.3%しかない。そこに世界の地震の10分の1がくる。日本に地震の空白地帯はない。2000年以降に実際に測って見たら1000ガルの地震はいつでもどこでも起きるというのが科学的事実だ。600ガル、700ガルの耐震設計でやっているのは極めて非科学的だ。 

福島原発事故と国の責任

福島原発事故はどういう事故だったのか。文部科学省の地震調査研究推進本部、日本の地震学では一番権威があるところが、20027月に福島県沖を含む領域に関し、マグニチュード8の大きなプレート間大地震が発生する可能性を指摘。福島原発は海面から10メートルの高さがあったが、東京電力はこの長期評価に基づき津波の計算を行ったところ南東側で15メートルの津波がくると計算。しかし東京電力は何もやらなかった。堤防を築くことも非常用電源を上にもっていくこともやらなかった。経済産業大臣も何もやらなかった。

国家賠償訴訟の争点は、①経済産業大臣に義務違反があったか否か、②仮に、義務を尽くしていたら、福島原発事故は防ぐことができたかだ。

最高裁の多数意見は、本件事故以前の我が国における原子炉の津波対策は防潮堤を設置するのが基本であった。予想された南東からの15mの津波を防ぐ防潮堤を築くことで対策としては不十分とは言えない。経済産業大臣が津波対策を命じて建設されたであろう南東側の防潮堤に対して東側はそれより低いものになっていたはずだ。防潮堤を築いても実際に東側から到来した津波を防ぐことができなかったとして、国の賠償責任を否定した。一読して意味の分かる人はよっぽど頭の良い人だ。

最高裁の判決は31で別れた。三浦裁判官は普通に考えてくれた。原子力基本法は、過酷事故が万が一にも起こらないよう規制している。そのために経済産業大臣に権限が付与された趣旨は、原子力災害が万が一にも起こらないように全力を尽くさなければならないことだとし国の責任を主張した。

この事件の裁判長は、20227月に退官し、東京電力と密接なつながりのある大きな法律事務所に就職した。東京電力は事実上破綻して国と一体化している。残りの2人の裁判官は元々弁護士で、東京電力と大きな関りのある法律事務所出身だ。 

どうしたら原発をなくせるか

日本から原発をなくすことは不可能、あるいは極めて困難と思っている人がほとんどだ。アパルトヘイトの南アフリカで、終身刑を受けた黒人が大統領になることに比べればはるかに容易なことだ。マンデラは「裁判は心の強さが試されるたたかいだ。道義を守る力と道義に背く力とのぶつかり合いである」と言っている。まるで原発訴訟を言っているみたいだ。

何ごともそれが成功するまでは不可能に見える。皆さんが自分事として考えれば大きく動くと思う。こういう質問が多い。「樋口先生の言うことはよく分かった。私は何をすればいいのでしょうか」。私はこう答えている。「それは凄く単純です。本質が理解出来たら、それをあなたの大事な人、2人に伝えてください。あなたの話を聞いた人も2人にする。そうすると1年以内に11000万人に伝わる」。

(文責:東京革新懇事務局)