2026年7月17日金曜日

社会主義ニューヨークの誕生

 社会主義都市ニューヨークの誕生 そして拡大

 龍谷大学名誉教授 元日経ロサンゼルス支局長


              
 矢作 弘さん

 613日に日野・市民自治研究所が開催した矢作弘さんの講演の要旨をご紹介します。

 

泡沫候補からの当選

ゾーラン・マグダニニューヨーク新市長が誕生した。202411月、市長選挙に出ると宣言、州の下院議員だった。民主党内の支持率1%、泡沫候補だったが、半年後の予備選で支持率が50%を超え、前州知事クオモ、現職のアダムスを抑えた。去年の11月の本選で、無所属から出たクオモを破って市長に当選した。

泡沫候補がなぜ市長に選ばれたのか?資本主義が経済成長して、成果をできるだけ平等に正当性を持って配分されるというのが、資本主義的な意味での民主主義。それが崩れ金持ちはますます富み、貧しい人は貧しくなった。

経済学的には、マルクス経済学が説くところの下部構造が変容することに伴って、上部構造=政治的な構造、文化、社会が変わる。下部構造の激変が上部構造の変容を招いて社会主義のニューヨーク市長を生み出したという構図だ。

マグダニはSNS映像を上手に使って成功した。クオモは政治資金をたくさん集めていたが、マグダニは金がないので、予備選で3万人、本選で10万人のボランティアが160万戸の戸別訪問し、電話は200万回かけた。人間もなかなか素晴らしい方だった。

マグダニは33歳で当選、ニューヨーク130年の歴史で一番若い市長。インド系ウガンダ生まれ、イスラム教徒。マグダニは「私は社会主義者だ」と公言し、実質的な意味で初の社会主義の市長。

彼は民主党の党員で立候補、DSA(アメリカ民主社会主義)の支持を受けて当選したが、DSAは本来の意味での政党ではない。非営利団体で社会活動をやる組織と定義されている。DSAの資本主義観は、所有者階級が労働者階級を搾取し、労働者階級は貧困に苦しんでいる。したがって、広範囲の人々、団体が連携して、賃上げ、福祉の向上、地球温暖化等について共に闘うことを宣言している。エネルギーとか鉄道等については、共同所有と言っている。

アメリカでは、ある調査によると、18歳から29歳の年代層で62%が社会主義に対して好感を持っている。ソ連邦が崩壊して30年以上、かつてのソビエト社会主義に対するイメージは継承してない。一方で資本主義が大変な格差社会になり、温暖化にも対応できない。そういう背景の中で、社会主義市長が生まれることが起きたと思う。

 

ニューヨークの急変貌

 

ニューヨークは、大変な暮らしの危機にある。資本主義国全体で言えるが、世界資本主義の首都と言えるニューヨークだから危機的状況が大変シンボリックである。ニューヨークの世帯収入は平均13万ドルで中央値は8万ドル。平均と中央値の差が大きいほど格差が大きい社会。差の5万ドル、8百万円ぐらい。日本は百万円ぐらい。いかに格差社会か如実だ。

なぜ社会主義都市が生まれたのかには、時代背景がある。ニューヨークは1970年代半ばにほぼ財政破綻する。伝統的に中小企業中心の製造業の都市だった。脱工業化と郊外化で財政破綻状況になる。以降、市役所は金がないから、公園も道路の整備も民間任せ。ニューヨークは国際金融都市として再生することになる。その周りに弁護士、会計事務所など専門職集団が取り囲こみ、ニューヨークの再生を牽引。同時にグローバル化が進行、金と人間が国境を越えるようになる。

高学歴で高所得の人たちが増えていくと、彼らの生活を支える低賃金の移民労働者が増える。80年代に再開発され、町並みがきれいになる一方で地価・家賃が上昇。2000年ぐらいからさらに新しい段階に達する。牽引したのはGAFAGoogleAppleFacebookAmazonGoogleのニューヨーク社員がコロナの後には1万人を超えなどIT系の企業がものすごい勢いで進出。住宅ニーズが生まれ、家賃が急激に上がっていく。

 

民主社会主義の広がり

 

移民でやってきた人たちを支えるNPOがたくさんある。様々なコミュニティがあり、助け合いみたいなことが起きている。街が自分の街でなくなっていく疎外感を感じる人たちが寄り添う事情が生まれてくる。そういう空間が生まれてくるところに、民主社会主義が基盤を形成。2000年ぐらいからDSAは市議会議員、州議会議員を送り出すようになり、2018年にオカシオ・コルテスが、28歳で連邦下院議員に当選。現在、州議会議員に9人のDSA系の議員がいる。

 

マグダニが掲げた政策

 

次にマグダニが掲げた政策だが、95万戸の「家賃安定化住宅」の家賃凍結。2030年まで公共住宅20万戸の供給。子どもの保育の無償化。無料バスの運行。最低賃金を現在17ドルから2030年までに30ドルに。財源は、富裕層を対象に所得税を3.7%から5.7%に引き上げ、法人税を7.25%から11.5%に引き上げる。

バラマキ政策からは距離を置き、現金給付・一律減税もない。あくまでも再配分。金持ち・大企業課税をすると逃げ出すとの議論が出るが、実証研究では否定されている。

 

歴史は韻を踏む

 

アメリカでは社会主義都市が林立した時代があった。1910年から1930年にかけて、アメリカ社会主義党の市長、郡長、議員など、選挙で選ばれる公職者が1000人以上いた。首長は130から140人。なぜこの時代に社会主義者の公職者が出たかというと、産業革命で移民労働者がヨーロッパからたくさん入ってくる。その労働者・人口の急増に、社会的インフラが追いつかず、学校、病院が不足、道路の整備が間に合わない等々。所得格差も激しくなった。社会主義者が公職にたくさん選ばれるようになった。

現在のニューヨークは金融革命、IT革命、最近は生命革命ということで、大変な勢いで産業構造の転換が進行し、格差社会になり、住宅が高騰している。その結果、社会主義市長が生まれた。歴史は繰り返さないが韻を踏む。

 

 

割れる民主党

 

マグダニ市長選ばれた時に、共和党は驚愕した。トランプは「あいつは共産主義者だ」とレッテル貼り。民主党幹部の連邦上院院内総務は、マグダニが勝った後も支持を表明しなかった。下院院内総務は選挙の一週間前になって、「私は彼の考えに同調できないが一応支持する」と表明。大統領候補だったカマラ・ハリスは早い段階からマグダニを支持したが、ヒラリー・クリントンは最後までクオモだった。オバマはかなり早い段階から支持していて、民主党の中は割れている。

 

大都市に広がる進歩都市連合

 

最後に、進歩都市連合の進展が注目だ。アメリカの6大スーパースター都市は、東海岸がボストン、ニューヨーク、ワシントン、西海岸がシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルス。

シアトルは去年の選挙で42歳、女性、社会主義者の市長を選んだ。ボストンでは、今回再選された女性は40歳前半、台湾系。マムダニが「私が市長になってめざしたい都市モデル」と語っている。アメリカ第三の都市はシカゴだが、シカゴの市長は 「進歩派」「左派」を自称している。

ロサンゼルスも先週予備選挙があり、インド系44歳女性で社会主義者が有力な共和党候補を破って、本選に臨み現職と戦う。この女性が勝てば、ニューヨーク、シアトル、ロサンゼルス、ボストン、シカゴで進歩派あるいは社会主義系の市長が生まれることになる。これらの都市圏のGDPを合算するとアメリカ全体の1/3に達する。

大きな都市以外にも、社会主義系の市長が中小都市で生まれている状況で、雑誌『ニューヨーカー』は、「進歩都市連合が生まれて、トランプの有力な対抗馬になるのではないか」という評論記事を書いている。

文責:東京革新懇事務局

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