2025年12月16日火曜日

近づく覇権主義国家アメリカの終焉 その②

アメリカの時代の終わりを告げる経済の状況





元外務省国債情報局
 孫崎 享さん

 

 920日の孫崎享さんの講演の要旨の後半部分をご紹介します。 




日本の戦後の出発点を改めて問う

1970年代、 80年代、日本の政治家も、そして外務省も考えていた。日本は戦争で、中国、朝鮮半島でこれらの国民を殺害し、国土を荒廃させた。この歴史的な事実を背景に、日本は戦後、賠償をどうしなければならなかったのか。日本の戦後の一番の出発点であったサンフランシスコ講和条約は、アジア諸国の被害が重大だから、日本は賠償を払わなくてはならない。だけど、今の日本の経済力ではすぐには払えないという事実も我々は認識する。だから今すぐに日本は賠償しなくてもいい。これが日本が国際社会に入る条件だった。

それに対して、周恩来は中国は賠償を求めないと言った。非常に重要なことだが、周恩来はどういう論理を組み立てたのか。中国国民は殺され、中国国土は破壊された。中国国民は怒ってる。賠償を取ればいいじゃないか。国連もサンフランシスコ講和条約で賠償取っていいと言っている。その時の説明は、中国国民と同じく日本国民も日本の軍国主義の被害者であった。だから、私たちは手を結ぶのは新たな日本国民である。だから、彼らに賠償を求めないと語っている。

靖国神社に A級戦犯の人たちが祭られた。そして日本の政治家がそこに行く。それは、日本国民と軍国主義者は別であるとの解釈を日本が自ら壊すことだ。その重みをどれくらいの政治家が知っているのか。靖国神社に行ってる人は何にも知らない。それくらい日本の言論界は壊れている。

賠償を払わなくていいと言った時に、中国が唯一日本にお願いしたのが、台湾は中国の一部である。この主張を日本側が理解し、実行することだった。

そして同じ約束は、ニクソンとキッシンジャーが中国と同じく交わしている。国連で、誰が中国を代表するかということになった時に、昔は台湾だったが、国連はそれは中国が代表するということで、今日まで来た。なぜ台湾有事が日本存続の危機なのか。

 日中共同声明 1972

前略-日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについて責任を痛感し、深く反省する。―-略―

一 日本国と中華人民共和国との間のこれまでの不正常な状態は、この共同声明が発出された日に終了する。

二 日本政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。

三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

五 中華人民共和国政府は、日中両国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。

六 ―略―両政府は、右の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。-略-

尖閣諸島問題を考える  

もう一つ、尖閣諸島問題がある。1945 815日、日本はポツダム宣言を受入れ戦争をやめた。降伏文書に署名したときから、日本の領土は本州、四国、九州、北海道その他の島々は連合国が決めると書いてある。尖閣諸島は沖縄だ。沖縄はどうなっているか。沖縄は国連の信託統治にして、アメリカが管轄すると書いてある。返す時にアメリカは領有権問題については、日本の立場も台湾の立場も中国の立場も取らない。どれが正しいということは、我々は言わない。だけど管轄は日本にするといった。だから、互い俺のものということを排除していない。

じゃあ、日本が管轄しているところに中国の船が入ってきたらどうするのか。日中漁業協定があり、尖閣諸島の海域に中国の漁船が入ったら、日本は漁業をやめ域外に出ていきなさいと言う。深刻な問題であれば、日中間で外交的に協議する。だから、国際法的には、日本が捕まえに行くのは少なくとも日中漁業協定違反だ。だけど、約束の当事者である私たちが、それを忘れていいという理由にはならない。だけど、ほとんど忘れている。映像を思い起こしてほしい。野田政権の時に、捕まえに行った。捕まえて日本に連行した。沖縄の裁判所で協議したが返した。日本の国民は怒りだした。捕まえちゃいけなかった。その時の首相は菅さんだった。

佐藤正久参議院議員(当時・元自衛官)が質問主意書を書く。そして、尖閣諸島に中国の船が入ってきたら、日本の国内法で対処する。これでよろしいかと聞いた。

その時に日本の国内法で対処すると回答。日本の国内法で対処するということは、日本の領域に来たら海上保安庁が捕まえるということだ。

 

購買力平価に見る大転換の世界

世界情勢を見て、もはやアメリカの時代が終わったということを明確に示すのは経済だ。為替レートが上がったり下がったりすると、円の価値が上がったり下がったりする。日本の GDP も上がったり下がったりする。日本の GDPは一定のものだから、為替で上がったり下がったりするのはおかしい。というんで、各国の経済力を測るのに、マクドナルドがそれぞれの通貨でいくらで買えるか、マクドナルド 1個分の単位で価値で調整するというのが購買力平価だ。

 CIA G7と非G7の購買力平価の合計のデータ。アメリカの GDP 24.7兆ドル、中国は31.2兆ドル。もう中国の方が上になってる。もう一つ重要なことは、G77ヵ国の合計が48.5兆ドルに対して、非G7の上位7ヵ国:中国、インド、ロシア、ブラジル、インドネシア、トルコ、メキシコ、合計63.8兆ドルに達している。もうG7よりは非G7の方が大きい。

 

研究論文トップテンで中国突出

次に研究論文トップテンの論文数というのを見たら、 1998年から2000年、米国、英国、ドイツ、日本、フランス、カナダ、イタリア、こういう順番だが、 2020年から 2022年にかけては、1位が中国64138本(35%)、米国34995本、英国、インド、ドイツ、イタリア、豪州、カナダ、韓国、フランス、スペイン、オランダの順で、日本133719本(2%)。日本は 4位から13位に。日本は、かつて世界で最も教育水準が高かった。だから日本が世界でGDP 2番目になった。今、日本は OECD 諸国で公的資源の非常に低い国になっている。

 

核心技術でも中国が圧倒

豪州の戦略政策研究所が発表した核心技術追跡指標では、 64部門中、中国が 57部門、米国が 7部門で現在一位。中国の一位はレーダー、衛星位置追跡、ドローン、合成生物学、先端データ分析等57分野。米国は量子コンピューティング、遺伝子技術、ワクチンなどの 7分野。明らかに量と質とで中国はリードする時代に入った。そしてインドネシアやインドやかつての発展途上国が、その恩恵で連携を取りながら進んでいる。

日本が今、経済安保で、いかに馬鹿馬鹿しい戦略、政策を取っているか。1998年から2000年、研究論文のトップは米国、英国、ドイツ、日本、フランス。10番の中に中国は入っていない。だから、日本の研究が中国の方に行かないようにする。困るのは中国で、日本は困らない。だから、当時は、経済安保、科学技術が中国に行かないようにするというのが正しい政策だった。

2020年から 2022年、1位が中国35%、2位は米国、日本は13位でわずか2パーセント。お互いにそれが軍事に使われたら困るということで、先端産業を止める。困るのは日本。しかし、経済安保っていうのを正しい政策と思ってる。そんなことをしたら、日本はどんどん科学技術で遅れる。我々が中国、中国という国民を好きか嫌いかは問題ではない。中国の技術を取り入れることが我が国の国策であるはずだ。

日本は、全く逆のことをやっている。それはアメリカの立場から見ると、やってほしいことだ。アメリカと中国はほぼ同等で、それに日本が 2%であっても要求する。経済安保は日本の国益から見たらよくない。アメリカに追随して日本の繁栄があり、日本の安全が高まると思い込んでいる。そういう幻想は捨てる時期だ。事実を見つめ、 10年、20年前にアメリカが一極支配をしていた時に正しかった判断も、今アメリカが衰退している時に、それは逆になっている。

我々は今、どの時代にも増して客観的にものを見なければならない時期きている。残念ながら日本のマスコミ、政治家、学会、ジャーナリズム、みんな壊れてしまっている。一人一人が真剣にどこに真実があるか、自分の目で、自分の指標を持って考えていく時代が来ているかと思う。

文責:東京革新懇事務局

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