日本国土を戦場にさせないー沖縄からの「台湾有事」
参議院議員沖縄の風
1月27日の東京革新懇総会における参議院議員伊波洋一さんの記念講演の要旨をご紹介します。
沖縄が戦場になる危機感
岸田内閣が閣議決定した安保3文書の意図は、中国に対抗できる十分な敵基地攻撃能力の獲得と数量の保有だ。2番目は、辺野古新基地建設、南西諸島への自衛隊基地建設を行って、台湾有事を日本有事として取り組むという姿勢だ。全てはアメリカによるもので、日本の国益は完全に無視されている。
沖縄では、2016年以来、6年計画で南西諸島の軍事化が進められ、島々に敵基地を攻撃するミサイル基地が作られてきた。最初の頃は、南西諸島防衛が目的と言われてきたが、長射程ミサイルが敵国攻撃の反撃力として配備されることが明らかになってきた。
23年から沖縄県民の中には、再び戦場にされるという不安が満ちるようになった。23年2月26日に市民団体が実行委員会をつくり、5月21日に平和集会が2100名で開催された。台湾や中国も含む対話集会が重ねられてきた。11月23日には、県民平和集会(写真)が、70近くの平和団体や労組や政党も結集し、1万人以上の参加者で開催された。ところが、このような大きな動きは全国に伝わっておらず、大変危惧している。
全住民の避難訓練
10月16日に宮古島と石垣島の中間ぐらいの多良間島で国民保護法にもとずく住民避難の意見交換会が開かれた。内閣官房担当者も4名参加し、多良間の住民全員を九州に避難する計画を説明した。急に基地もない島で説明会が開かれ、住民からは「避難先での生活はどうなるのか」「有事を想定する前に外交努力をするべきだ」「約4000頭の家畜はどうするのか」などの声が相次いだ。このような住民避難の訓練や説明会などが、9月から10月にかけて、多くの地域で開催された。
沖縄だけではなく、全国で、同様なことが始まろうとしている。例えば大分の湯布院に自衛隊基地があるが、地対艦ミサイル連隊が作られることがわかっている。今は300キロ程度の射程の地対艦誘導弾を運用する部隊だが、今後1500キロの長距離射程ミサイルが配備される。
安倍政権以降の軍事強化の歩み
2010年9月の尖閣海上での中国漁船の海保巡視船への衝突事故を起点に、12年9月に日本政府が尖閣諸島を国有化。国有化による日中関係の悪化の中で、2012年12月に誕生した安倍政権に対して、米国は戦略を注入する良い機会だということで、要求してきた集団的自衛権の行使を入れさせようと圧力をかけた。
安倍首相は2013年9月25日、保守系ハドソン研究所で演説「集団的自衛権について憲法解釈を見直す。日本がアメリカの安全保障の弱い環であってはならない。呼びたければ右翼の軍国主義者と呼んでいただきたい」と語った。
14年に集団的自衛権の容認を閣議決定。15年に戦争法を強行採決。21年に菅政権が土地規制法を成立させた。土地規制法は、沖縄の50の有人離島を政府が法的に軍事的に利用するための措置の一つでもある。2022年12月16日の岸田内閣が安保3文書改定を閣議決定した。
対中国の武器の配備と大規模訓練
2016年には沖縄本島以西には出動部隊の自衛隊基地はなかった。17年以降どんどん基地が作られ、22年度末までには19の基地が作られた。2022年1月7日の日米外務・防衛閣僚会議で合意した「台湾有事」での日米共同作戦の計画原案では、①台湾有事の緊迫度が高まった初動段階で、米海兵隊は自衛隊の支援を受けながら、鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を置く、②拠点の候補は、陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する奄美大島や宮古島、配備予定の石垣島を含む約40カ所、③米軍が拠点を置くのは、中国軍と台湾軍の間で戦闘が発生し、放置すれば日本の平和と安全に影響が出る「重要影響事態」と日本政府が認定した場合、④対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」を拠点に配置。自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給など後方支援を担わせ、空母が展開できるよう中国艦艇の排除に当たる。事実上の海上封鎖、⑤台湾本島の防衛ではなく、部隊の小規模・分散展開を中心とする米海兵隊の新たな運用指針「遠征前方基地作戦(EABO)」に基づいて共同作戦を展開する、という。
2020年から沖縄伊江島などで、ハイマースを展開する訓練が行われている。訓練の実際の形として「キーンソード23」が2022年11月10日から19日に南西諸島を含めた各地で行われた。日米合わせて約370機の航空機と艦艇30隻を使用し、実弾射撃を実施した。自衛隊が約2万6000人、米軍が1万人参加した。
安保三文書改定の閣議決定
岸田政権は2022年12月16日安保三文書改定を閣議決定した。2023年1月の通常国会では、5年間で43兆円の防衛予算の確保を打ち出した。相手に攻撃を思いとどまらせるために能力の保有、南西地域の防衛体制の抜本強化、サイバー宇宙など新領域への対応、装備の維持や弾薬の充実、海上保安庁と自衛隊の連携強化、防衛産業の基盤強化や装備移転の支援、研究開発成果の安全保障分野での積極的活用などを進めていく。
「力による一方的な現状変更を許容しない」というが、日本に対して、中国、北朝鮮、ロシアが、「力による一方的な現状変更」を押し付けている状況にはない。
「現実的シミュレーション」とは?
岸田首相は「極めて現実的なシミュレーションを行った上で、十分な守りを再構築していくための防衛力の抜本的強化を具体化した」と説明しているが、その中身は、ミサイル攻撃に対して、イージス艦、PAC-3、戦闘機等によりミサイルを迎撃。航空侵攻に対して、戦闘機、各種SAM等により迎撃。海上侵攻に対して、護衛艦、潜水艦等により対処する。島嶼への上陸は、事前展開した陸上部隊等で対処する、としている。この「極めて現実的なシミュレーション」には、5万人も駐留する在日米軍は登場しない。県民や国民を苦しめている在日米軍は、有事になったときに既に退避している。米軍が日本を敵の攻撃から守らないことは、2015年の「新ガイドライン」で明確にされている。
具体化したシミュレーションでは
安保三文書の「極めて現実的なシミュレーション」では、日本を攻撃するという前兆を見て、長距離射程ミサイルで攻撃する。抑止が破られた段階で新しいタイプの形で対処していく。地上戦闘が始まるという前提も入っている。「持続性・強靱性という目的で、43兆円のうち最大の15兆円を支出し、全国300自衛隊施設の強靱化、弾薬・誘導弾の確保、装備品の維持確保、医療体制に充てる。日本国内の地上戦も前提にしながら、戦いを継続していくことが描かれている。日本が攻撃されていなくても、武力行使の新3要件にもとづき集団的自衛権を行使する。相手国には、日本の“先制攻撃”となり、何倍もの報復攻撃がかえってくる。日中共同声明や日中平和友好条約に違反すると強く指摘しなければならない。
日本と中国は経済的に相互依存しており、2019年の日本の輸出入貿易総量の約26.5%を占め、米国は約14%ぐらい。進出している日本企業は3万社を超え、在留邦人は10万人を超える。読み取れるのは、アメリカの覇権を守るために、日本を戦場にしても中国と戦う戦略だ。
米機関の台湾有事シミュレーション
実は西太平洋における米中の力関係では、軍事力では中国がアメリカより何倍も大きい。中国は中距離弾道ミサイルなどの先進国で、既に配備された空母キラーミサイルDF21は、1500キロの射程でアメリカの空母を沈めてしまう。そのために1500キロ以内には入らない。そこから台湾を防衛することもできない。そこで米軍に代わって、日本の長距離ミサイル配備が求められた。
米戦略国際問題研究所(CSIS)は2022年1月9日、中国が台湾を攻めるときの24通りのシミュレーションを公表した。台湾軍は海軍、空軍は即時にやられるが、地上軍は戦闘を継続し、その間に米軍が応援に行くという形だが、かなり厳しい結果になっている。日米両軍も、米空母を含む何十隻もの艦船、何百機もの航空機、何千人もの軍人を失う。日本も列島全体の飛行場が空襲される。台湾は経済的にも大きなダメージを受ける。米国は何年にもわたり世界的地位を損なう。米国の能力再建は、中国の再建よりも遅くなる。米国のシミュレーションの前提には「中国本土を攻撃する計画は立ててはならない」がある。核戦争へのエスカレーションを避けるためとされる。
台湾有事は、常に日本有事に直結させ米軍戦略として作られている。台湾では台湾有事との言葉はない。中国が台湾を攻撃してくるという思いもあまりない。しかし台湾が独立するとなると、中国は軍事力を使ってもそれを阻止することは常々表明している。
アメリカの対中国戦略の変化
2010年までのアメリカの対中国軍事戦略「エアシー・バトル」は、中国軍による米軍への先制攻撃を前提に、反撃して中国の内陸まで縦深攻撃して勝利するものだった。しかし、米中全面戦争で、中国が核弾頭ミサイルを米本土に打ち込む懸念が起こり、中国領土攻撃を回避し、中国攻撃より台湾への米国覇権を重視するようになった。
そして、尖閣諸島をめぐる日中対立を利用してアメリカの台湾防衛戦略で日本を取り込む動きが起こる。南西諸島の島々に陸上自衛隊の対艦ミサイル部隊を展開し、中国艦船を太平洋に通させないようにする。
その後、台湾を含む第一列島線内の米国覇権を維持するために同盟国を戦わせる「オフショアコントロール戦略」(2013年)や第一列島線に自衛隊や少数の米海兵隊などが「インサイド部隊」として展開し、第2列島線上に米軍が「アウトサイド部隊」として展開する「海洋圧力戦略」(2019年)へと変わってきた(日本列島の最前線化)。小規模部隊が米空軍や第七艦隊と連携して太平洋の島々を転進し移動を繰り返しながら洋上の中国艦船を攻撃する作戦で、硫黄島や伊江島などで訓練が繰り返されている。
2017年に提唱された米空軍の作戦構想「機敏な戦力展開」(ACE)では、中国の先制攻撃の兆候を察知して、最新戦闘機と補給・整備などの支援ユニットがセットの小規模な部隊編成で第一列島線から撤退し、中国の脅威(ミサイル射程)圏外の、より遠い地域の島々の未整備な緊急展開基地に分散、避難する。戦力を分散配備することで、中国がどこを優先して攻撃すべきか判断することを困難にすることも狙いの一つだ。紛争の第二段階では、「アウトサイド部隊」として反撃を行うとされる。
日米安保条約は、日本を守るのではなく日本を戦場にするものになりつつある。中国は、2030年までにアメリカを抜き世界一の経済大国になると予想される。中国相手に日本が戦争を起こしてはならない。アメリカの思う壺だ。
昨年の日中首脳会談
今やるべきは日中共同声明、日中平和友好条約へ立ち戻ることだ。昨年11月16日岸田首相と習近平主席の首脳会談が行われた。岸田首相から、本年は日中平和友好条約45周年の節目に当たり、日中両国が地域と国際社会をリードする大国として、世界の平和と安定に貢献するために責任を果たしていくことが重要と述べた。両首脳は、日中間の「4つの基本文書」の諸原則と共通認識を堅持し、「戦略的互恵関係」を包括的に推進することを再確認した。その上で、日中関係の新たな時代を切り開くべく、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という大きな方向性を確認し、首脳レベルを含むあらゆるレベルで緊密に意思疎通を重ねていくことで一致した。台湾に関する立場は、1972年の日中共同声明にある通りであり、一切の変更はないと述べている。
改めて日中平和友好条約など「4つの基本文書」の立場で日中関係を再構築していくことが求められる。
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