東アジアで戦争を起こさせない環境づくりを
新外交イニシアチブ代表 弁護士 猿田佐世さん
1月28日の東京革新懇総会での猿谷佐世さんの記念講演の要旨をご紹介します。
日本の絶対命題は台湾有事を回避せよ
ウクライナ戦争からの教訓は、一旦戦争が始まると止まらない、戦争は始めさせてはならない環境づくりが大事だということだ。
国会で、北がロシア、北朝鮮、西に中国がいて本当に危険だ、直ぐにでもやられてしまうような議論がされている。
しかし、日本一国では戦争になる可能性はない。ロシアと日本が戦争する理由はない。北朝鮮が核兵器を持ちミサイル飛ばすのは、アメリカに自分の体制を認めさせる話し合いに引き出したくやっている。ミサイルを日本に向けて飛ばしている訳ではない。北に向けたらロシアに、西に向けたら中国に当たる。南に向けたら朝鮮戦争再発してしまう。海のある日本側に飛ばすしかない。北朝鮮も日本と戦争する理由はない。中国はどうか。尖閣諸島の領域に中国船が入ったなどニュースになるが、この小さな島のために中国がミサイル飛ばす、こ
の島のために戦争起こそうとする日本人もいない。日本一国では戦争になる理由はない。
唯一戦争になるとすると、アメリカと中国が戦争になる台湾有事で、日本がアメリカの片棒を担ぎ巻き込まれることしかあり得ない。日本の安全保障の絶対命題は、台湾有事を回避せよということになる。
自民党は、台湾有事を回避するために、抑止力を高める安保三文書を改訂したと説明する。軍事費を倍にすることも決めた。日本は中国に対して、攻めてこられないだけの抑止力をアメリカと合わせ維持するとの論理だ。予算を倍にすれば、中国も圧倒的な経済力を持っており、すぐに見合った軍事力をつけるだろう。安全保障のジレンマと言われ、こちらが増やせばあちらも増やし、地域がどんどん不安定になっていく。
軍事力を持っていても、相手に対しこの一線は超えないよ、そっちも一線を越えないでね、冷たい信頼、信頼供与と言うが、意思疎通を相手国としていかない限り、軍事力持っていてもなりたたない。そういう批判が、軍事費の倍増の理論に対してある。
国家安全保障戦略を是非読んでほしい。非常に気になる点として、防衛産業は国防を担うパートナーであり、官民一体となり武器輸出をしていく、武器製造産業を国を挙げて支援していくと書いてある。
日本がなぜ武器輸出三原則を掲げてきたか。武器を輸出すれば紛争を助長し、紛争当事国になる。アメリカのように軍事産業が社会の一部になってしまうと、武器の製造を減らそうとなっても、従事する人達の労働組合が反対に回る事態になる。アメリカのような規模になると、定期的に戦争がないと持たなくなってしまう。声を上げていかなければならないテーマだ。
1月12、13日、2プラス2、その直後に日米首脳会談が立て続けに行われた。沖縄を中心とした南西諸島の施設を米軍と自衛隊が共同で使う、共同演習も平時から増やしていく、敵基地攻撃能力保有をアメリカが上手く運用されるよう働きかけて行く、民間の空港、港であれ自衛隊とアメリカも使えるようにして行く、沖縄における海兵隊は大規模な存在ではなく小ぶりの海兵沿岸連隊にして行くなど確認している。
沖縄の新聞の危機感たるや、1面から2、3面にそういうニュースがしっかり書いてあり、2日か3日に1回、沖縄の蹂躙は許さないぞという社説が出ている。
被害と経済的影響を語らない欺瞞
アメリカが一番の競争相手とするのが中国。アメリカが相対的に力を落としているもとで、世界一の覇権国の地位を保つために、同盟国の力を抑止力として組み込んでいくという「統合抑止」という概念を掲げている。日本も安保三文書でストレートに応えていく。率先してアメリカの補完をし、この地域に何かあった時にアメリカにたたかってもらわなければと、アメリカを引き込む姿勢でやっている。
一連の決められた文書で、欺瞞、だまし討ちのような点が沢山ある。その一つがどんな被害が及ぶのか全く議論することなく、平和になるとして政策を決めるのは凄い欺瞞だ。防衛省の防衛研究所は、昨年台湾有事になったらどんな戦争の体系になるか報告書を出した。台湾有事ではまずミサイル攻撃。それを阻止するのは難しい。中国軍を上陸させないように日本の力も使い海上でとどめる。アメリカは、世界規模で見れば中国より強いが、この地域一帯は中国に全く敵わないと言われている。中国を海の上に押しとどめたまま、世界中に散らばっている米軍を集めるまで半年1年頑張るぞと書いてある。ミサイル攻撃が続くもとで、どれほどの被害が出るか。
ウクライナ政府発表のミサイル迎撃率は、当初5割、昨年11月時点で8割。2割は直撃。防衛研究所の報告書では、半年から1年、世界中から米軍が来るまでの間に、日本国民、沖縄の人々がどれぐらい被害にあうか全く書かれていない。琉球新報が、民間人の被害がなぜ書かれていないか防衛研究所の代表に聞いたところ、中国は非常に精密な攻撃能力を持っているので、被害は米軍や自衛隊使用の港湾や飛行場にとどまり、民間人が含まれることはほとんどないだろうとの答えだ。
沖縄では、戦争準備が着々と進んでいる。自衛隊の司令部は地下に置き、有事にはそこを作戦室として使う。自衛隊の補給基地を沖縄本島に作る。自衛隊病院の診療科を増やす、一部を地下にするなど。
国民保護法で各自治体は避難計画を作らなければいけないが、例えば石垣島では、飛行機435機使い10日間かかる。自衛隊幹部が書いた本では、有事が始まって直ぐは、航空・海上自衛隊はまず陸上自衛隊を運ばなければならず、民間人を運ぶ余裕はないと言っている。JAL、ANAは戦地のすぐそばに飛んでいくか。石垣島からどこに飛んで行けばいいのか、誰が受け入れてくれるのか、国は何の調整もしていない。如何に無責任か。
国民保護について何冊か読んでいるが、書いているのは自助、共助、公助だ。避難はまず自助、自分が出来なければ周りの人と協力しよう、国に頼らないでねとの話だ。
もう一つの欺瞞は経済的影響が語られていない。中国との関係が一刻一刻と悪くなって、一触即発の感じになっていくと経済制裁をすることになる。経済制裁した結果、これ程の格差社会で貧困が広がる日本で、餓死者が出るかもしれない。中国からの輸入も止まる。経済制裁だから大丈夫だとかそんな簡単な話でなく、日本全体の人達が影響を受ける。経済的な影響が全く語られていない。
軍拡競争が戦争を招く
安保三文書の閣議決定の前ですら、日本は世界で5番目の軍事大国だった。中国でどの国が脅威か世論調査をやると、アメリカと並んで脅威と思っているのは日本だ。時にはアメリカ以上に日本が脅威と答えている。これだけ軍事力があり先端技術を持って、軍備を倍増もするということは隣の国からすれば恐ろしいことだ。軍事力を倍増すると、アメリカ、中国に次ぐ世界3番目になる。それで中国に対抗できるという話になると、中国に経済力で圧倒的に敵わない。防衛予算を2倍にしても、中国の4割にしかならない。GDPは、2022年で中国は日本の4倍。あっと言う間に5倍になる。自民党は日本一国で対抗するつもりはない、アメリカと一緒にやるから大丈夫だと言うが、中国が台湾へ進撃したときに、アメリカはそこに介入するかの世論調査を見ると、アメリカ軍の派遣に賛成するのは半分もない。アメリカが台湾有事に介入するとは限らない。ウクライナ戦争でアメリカは軍事介入していないのは、ロシアが核兵器大国で軍事大国であり、ロシアの抑止力が効きまくっているからだ。NATOの抑止力はロシアに効いていない。米軍が介入しないことが台湾有事だって起こり得る。
多賀秀俊教授の研究によると、もめごとがあった時に、互いに軍拡をすすめた時に戦争に至ったケースは82%、軍拡競争をしなかった場合に戦争に至らなかったのは96%。軍拡するとほぼ戦争になるけど、軍拡しないとほぼ戦争にならない見事な数字が出ているにも関わらず、日本政府は粛々と軍拡を続けている。
日本に求められる外交は
新外交イニシアティブで出した政策提言を持ってきた。日本が外交でやれることは沢山ある。まずアメリカに言うべきは、下院議長が3月に台湾に行くのはやめろと言うべきだ。
台湾有事で勝つためには、日本の協力と在日米軍基地の自由使用がセオリーになっている。建前かもしれないが、在日米軍基地を新たな紛争に使う場合、日米間の事前協議で日本側が了解しないと使えない。ここから台湾に出撃すれば、逆に狙われて日本の住民が死ぬ可能性があるから、事前協議で在日米軍基地を使わせないよと言うことが非常に重要と思う。あの人たちは全く考えていないが。
中国に対しても、日本も台湾の独立を認めない。台湾人で独立したいと言っている人も1割ぐらい。1972年の日中共同宣言を改めて確認した上で、あなた達の立場は分かるけど、軍事力を使ってはいけないと言っていかなければならない。それが米中に一番やるべき外交だと思う。
アセアンの見事な外交
モデルとすべきは東南アジアの国々だ。東南アジアはアメリカでも中国でもなく、アセアンという集まりで、平和の地域を築いていこうとしている。いまアセアンの存在感が、米中対決の中で急激に高まっている。アセアン外相会議でも、アメリカと中国が自分達の裏庭に戦争を仕掛け始めそうだ。台湾が問題になる場合、主戦場は南シナ海。地域の平和と安定を脅かす紛争にとらわれたくないとのメッセージを出している。シンガポールの識者は、アメリカで一判影響力のある外交誌フォーリンアフェアーズで、「アメリカは大事だ。中国は目の前にいる大国だ。アジア諸国は米中一つを選ぶことを望んでいない」と書いた。この文書はアメリカに大打撃を与えている。シンガポールは、アメリカの友好国であるが、選ばせるなとバシッと言われた。
フィリピンのドゥテルテ大統領、アメリカと中国との距離の取り方は見事だった。この国の中で中国と戦争してほしいと言う人が沢山いることは知っている。中国がフィリピンの島に軍隊で奪ったり、フィリピンの漁船が操業できなくしてしまったり、フィリピン人は怒っている。それに対し、戦争したいなら私を大統領に選んじゃだめだ。僕が戦争やったら必ず負けるから、絶対に戦争したくない。戦争をしたいなら他の大統領を選びなさい。私はバランス外交でやるしかないと毎回の施政方針演説で表明。シンガポールとフィリピンの対応に、アメリカも中国も翻弄され、アメリカは副大統領とか国務大臣が東南アジア外遊をやるとか、その一週間後に中国の偉い人が外遊するとか、丁寧な扱いになっている。
日米首脳会談の後に出た日米共同声明では、アセアンの国々を大事にするということが入っている。日本に比べたらGDPも少ないし軍事力ははるかに少ない国々が声を上げる。見事だったのは、アメリカ、イギリス、オーストラリアがオークスという軍事同盟をつくり、岸防衛大臣が、大歓迎すると発表。その時に、マレーシアは、南シナ海において他国に対する攻撃的行動を挑発すると懸念を表明。インドネシアは、域内に軍拡競争と戦力展開を深く懸念する声明を出した。これを言うだけで、オークスのその地域の活動は委縮する。私たちはどちらにも選べない、ここで軍拡競争止めてくれと主張。中国も一目置く。見事な外交だ。
アメリカと中国の競争についてアセアンはどうすべきかの政治家や学者に聞いた調査で、48%はアセアンの対応力という一体性を強めて対応、31%はアメリカ、中国どちらにもつかない、14%が第3極をめざす。93%がアメリカにも中国にもつかない、凄いことだ。どちらかについたら、自分の国が危うくなるとのバランス感覚。この調査で、さらにしつこくどちらかにつかなければならないとしたらと聞いたら、10カ国中7カ国が中国を選んでいる現実もある。
日本は、民主主義の側で頑張るんだとしているが、世界を二つに分断する「民主主義」と「権威主義」かに分断することに嫌気をさして、どちらにも組しない国が多い。
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