2022年9月13日火曜日

消費税インボイス制度導入

消費税インボイス制度

事業者・一千万ともいわれるフリーランスなど甚大影響

 東京商工団体連合会事務局長 大内 朱史 

事業者はもちろん、一千万人ともいわれるフリーランスなど甚大な影響を与えるインボイス制度について、大内朱史さんに寄稿して頂きました。 

母、息子、祖父、父も課税業者に? 

インボイス制度が導入された2023年10月のある家庭の風景。ヤクルト販売をしている母とウーバー配達員のバイトをしている大学生の息子、シルバー人材センターで働く祖父と通りがかかった父の会話。

母「今月からバイト代から消費税を会社が天引きするから5%も引くって言われたんだけど!大学の教材費足りなくなっちゃうじゃない!」、息子「俺も会社からインボイスの番号ないと、運賃10%カットって言われたんだけど、サークルの合宿費用払えないよ!番号って学生でもとれんの?」、祖父「シルバー人材センターでも番号ない人は単価下がりますって言われたぞ!趣味の釣りに行けなくなってしまうぞ」。父「そういえば東京電力から太陽光発電の買い取り価格、番号ないと10%下げるって通知きてたぞ!?」、母・息子・祖父・父「インボイスって何?」。

202310月から消費税のインボイス制度(適確請求書保存方式)の導入が予定され、すでに事前受付がスタートし、テレビやネットのCMも流されてます。この制度は、税務署に消費税の課税業者の選択を届け出し、インボイスの番号の申請をした個人事業主や法人に税務署が13桁の番号を発行します。その番号が記載された領収書・請求書がなければ消費税の経費として認めないという制度です。わかりやすく言うと、「売り上げの少ない中小業者・フリーランスに仕事を出していると、親会社は消費税の負担額が増えてしまう」制度です。現在年間の売り上げが1千万円未満の個人・法人は「免税業者」とされ消費税の申告・納税が免除されています。こうした事業者・フリーランスは全国で500万以上といわれ、こうした人たちが取引から排除されたり、単価引き下げなどの不利益をこうむる危険性が指摘されています。すでに都内でも「ホテルに花を納入している花屋が、ホテルから課税業者になることを求められた」「大学の講師が、インボイス番号のない人には消費税を払わない(10%減額)という通知を受け取った」など、取引先から働きかけを受けています。東京商工リサーチの調査では「免税業者との取引停止が1割」と報道されましたが、「検討中」が半分以上であり、今後こうした「免税業者はずしの動きが強まること」が危惧されると分析しています。

冒頭で紹介した三世代の家族は皆さん「アルバイト」という感覚で仕事をしているかもしれませんが、契約としては「業務請負契約」であり、税法上の区分としては個人事業主になります(労働者的な性格が強いので社会保障の問題も含めて本来は労働者として扱われるべきだと思います)。父・息子・祖父は課税業者ではないために会社・人材センターでは、それぞれに払った分が消費税の経費として認められないために「消費税相当分の10%の値引き」を受けています。

こうしたフリーランスと呼ばれる人たちは、現在400万人とも1000万人ともいわれていますが、今回のインボイス制度はいわゆるフリーランス、中小業者のほかに、太陽光発電の余剰分を電力会社に売電している、アパート・駐車場などを事業者(法人・個人)に貸している人なども関係してきますので、どれくらいの人が影響を受けるか国も国税庁も「わかない」のが現状です。 

負担に耐えられない中小業者・フリーランス 

 売り上げ1千万以下の事業者も消費税の課税業者を選択し、インボイスの登録番号を取得することは可能(冒頭の家族全員可能)ですが、その場合消費税を納める義務が発生します。売り上げ500万円の手間受け大工さんの場合は約20万円の消費税負担となります。一か月分の生活費に相当する税負担が発生することになります。ヤクルト販売をしている母が「バイト代の5%天引きされる」というのは、母が会社から消費税関係の届け出書などを渡され、年末調整の書類などと一緒にサインして会社に提出し、会社の顧問税理士が消費税の申告を代行している設定です。収入の半分経費とみなし残った分に10%かけて消費税の負担額(全体の5%にあたる)が出る計算をしています。来年10月以降には、こうした「よくわからいうちに課税業者にさせられてしまう」人がたくさん出てくるのではないかと思われます。

今、都内民商ではこうした試算運動を行っていますが、「消費税額を計算したら言葉を失った」という報告も多く寄せられています。「もともと消費税を受け取ってるじゃないか」「その分値上げしてもらえばいい」と言われることもありますが、多くの中小業者は大企業の重層下請け構造の最下層に組み込まれおり、価格決定権がなく、親会社の「言い値」で仕事をしています。本来であれば、かかる経費と自分の生活費を確保できる値段に消費税を上乗せして請求するのが商取引のあるべき姿ですが、現実は「この値段でやれないならほかに持っていく」と言われ、泣く泣く受けざるを得ないのが現実です。「お客さんから消費税を預かっている」というのは形式的に過ぎず、自分の生活費を削って消費税を納めているのが現状です。

この間、日本漫画家協会、日本アニメーター・演出協会、SF作家クラブ、日本俳優協会などもインボイス制度に反対を表明していますが、こうした文化・芸術分野のフリーランスの方々は年収が200~400万円程度と非常に低い方が多く、製作・出版社等との関係でも弱い立場に立たされています。フリーランス・中小業者にとっては、「取引先を失うか」、「払えない消費税を負担するか」、「廃業するか」の地獄の選択肢しかありません。

 フリーランス・中小業者への影響がわかっているからこそ、当初は日本商工会議所連合会、日本税理士会連合会、青色申告会連合会などもこぞって反対を表明していました。この制度が導入されれば、フリーランス・中小業者が営業・生活できない国になってしまうことは明らかです。実際にインボイスが導入されているヨーロッパではどんな小さなお店でもインボイスの番号入りのレシートが出され、「非課税業者が駆逐されている」(湖東税理士)のが現状です。

 プライバシー侵害の危険性も

さらに「インボイス制度がプライバシーを侵害する」問題も明らかになりSNS上で話題になっています。すでに、インボイス発行事業者の事前登録申請が始まり、登録した法人名や個人事業主の氏名、登録番号が国税庁の公表サイトで公開されています。任意で登録する住所や屋号、通称、旧姓などの情報も公開の対象です。登録情報の利用規約は「複製、公衆送信、翻訳・変形等の翻案等、自由に利用できます。商用利用も可能」とし、公表サイトの運営方針は事業者情報の「検索機能」や「データダウンロード機能」を提供するとしています。国税庁は全商連に「ニセの登録番号が記載されたインボイスを受け取った場合、消費税の仕入れ税額控除は否認される」と答えながら、「最新の会計ソフトには、インボイス登録事業者かどうか検索できる機能も搭載される」と説明しました。こうしたソフトの開発・提供に登録情報がすでに利用されています。税理士法人などが顧客獲得に活用することも可能です。

 しかし、登録された事業者の情報は税制の変更によるものです。営利目的の企業に、制約なく利用させる政府の責任は重大です。受け取ったインボイスの登録番号で検索すれば、芸名やペンネームで仕事をしている人の「本名」を調べることもできます。それを公表される恐れを指摘すると、国税庁は「悪用されることは想定してない」と答えるだけでした。いったん登録し、公表されれば、その情報を守るすべはありません。日本漫画家協会は74日、「個人情報保護への懸念を抱く漫画家も少なからず存在する」と指摘し、現行のインボイス制度に反対すると表明しました。登録には個人番号(マイナンバー)の記載が必須とされていることも問題です。

 インボイスの狙いと廃止の展望 

 商売をつぶし、プライバシー迄危険にさらすインボイス制度ですが、なぜ政府・財務省はインボイス制度を導入しようとしているのかといえば、消費税のさらなる増税のための環境整備と納税者の管理・徴税強化のためにほかなりません。一足早く導入している韓国では複写式の領収書を発行し、自分と相手、税務署に一枚ずつ発行し、すべての商取引を税務署が把握しています(現在は電子化でペーパーレス化が進んでいる)。税金の申告期になると納める税額が記入された申告書が送られてきて「異議がなければ署名して提出するだけ」になっています。これは「自分の税額は自分で計算して納める」という近代税制の大原則を真っ向から否定するものです。日本の目指す消費税制の在り方の見本ともいわれています。「やましいことがなければいいのではないか」という人もいます。確かに税法等、基準となるものはありますが、税務署は多く税金を取る立場から経費を否認しようとし、納税者は税額を減らすために経費を認めさせようとします。立場が違うのですから自分に有利に解釈しようとするのは当然です。日常的な税務調査(犯罪強制調査ではない一般のもの)でも、そうした主張の違いは発生し、折り合わなければ最終的には裁判で決着するのが法治国家・民主主義国家の税制の基本であり、納税者の権利を守る制度が保障されています。インボイス制度の行き着く先はこうした先人が獲得してきた憲法が保障する国民の権利・制度を否定しかねません。

 今、この危険な制度に対して我々だけでなく、今までつながりがなかった人々からも反対の声があっています。フリーライターの方がネット上で始めた「インボイス中止を求める電子署名」は開始一週間で3万を超え、現在8万を超えています。

冒頭の祖父が仕事をしているシルバー人材センターも、会員である高齢者が消費税の課税事業者にならなければ、支払った代金が経費として認められず、シルバー人材センターが高額な消費税を負担しなければならなくなります。シルバー人材センターの新たな消費税負担が全国で年間約200億円、1センター当たり約1500万円に上ることが、日本共産党の宮本徹衆議院議員の国会質問で明らかになりました。熊本のあるセンターはホームページ上で「運営が成り立たなくなる」とインボイスの中止を求める意見を掲載していましたが(現在は削除)、全国で心配の声が上がっています。

地方議会からも、地域経済を根底から破壊しかねないと心配の声が上がり、インボイス中止・延期を求める意見書が全国各地の自治体の議会で採択される動きが広がっています。今年1月から7月に国に提出された意見書は400を超えています。東京でも小金井市、奥多摩町、西東京市で採択されています。

 こうした声は、野党共闘の前進もあり、国会議員も動かしています。先の国会には立憲民主、共産、れいわ、社民が共同で「消費税減税、インボイス中止」の法案を提出し継続審議となっています。私たちの国会議員要請行動では与党議員の中にも「インボイスは中小業者には負担が重い」と話す議員もいます。7月末までに税務署に届け出を出した事業者は見込まれる対象の7%にとどまっています。今後の世論・運動で実施延期・中止を勝ち取る展望は十分あります。全国民的な運動でインボイス制度の中止・廃止を勝ちとろうではありませんか。 

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