岸田大軍拡は経済と暮らしに何をもたらすか
元衆議院議員 佐々木憲昭
東京革新懇が6月19日に開催しました佐々木憲昭さんの講演の要旨をご紹介します。
「戦後安保の大転換」とはどういうことか
1959年3月18日、伊能繁次郎防衛庁長官は「明らかに敵に脅威を与えるような攻撃的兵器を持つことは憲法違反である」と国会で答え、歴代政権はその立場を引き継いできた。ところが岸田政権は、「安保3文書」で「敵基地攻撃能力」を持つことを決めこれまでの立場をくつがえした。
戦後安保の大転換とは、「専守防衛」から「先制攻撃」への転換だ。なぜ突然、昨年末に閣議決定したのか。2か月前に、米国が新たな「国家安全保障戦略」を決めたからだ。米国は、自国の優位を脅かす中国に対し、軍事的・経済的・外交的に抑え込むため、日本など同盟国を抱き込む戦略を打ち出した。
安倍内閣は、2015年に安保法制を強行し「集団的自衛権」を制度化、岸田内閣の安保3文書はこれを実戦に移すものだ。米国の統合防空ミサイル防衛(IAMD)という軍事システムに日本が参加する。米国統合参謀本部の文書では、先制攻撃ができるという。自衛隊が、米軍指揮下で先制攻撃に参加するのは、憲法にも国連憲章にも違反する。
自衛隊が配備を計画している長距離ミサイルは、最大射程3000キロでアジア全域を覆う。これを、南西諸島に配備しようとしている。石垣市議会は当初、「専守防衛」のためと説明を受けていた。しかし、昨年12月に「自ら戦争状態を引き起こすような長距離ミサイルを石垣島に配備することは到底容認できない」と意見書を出した。
岸田政権は、全国300の自衛隊基地23000棟の強靭化・地下化を打ち出した。化学・生物・核兵器攻撃に耐えられるようにするという。戦争を想定した対応だ。日本は最前線の戦場になり全土が焦土化しかねない。
大軍拡を民主主義、暮しの観点から見る
昨年、「経済安全保障法」が成立。政府の介入によって、日本の産業・技術を米国の軍事戦略に組み込んでいく性格を持っている。トヨタ自動車は、100%出資し2016年にAI等の研究所を作った。初代の研究所トップは、米国国防総省・高等研究計画局の元プロジェクトマネージャーだ。
最近、経団連が公安調査庁と結びつきを強めている。公安調査庁は、国民の運動にスパイや盗聴などを繰り返してきた組織。経済安保論が浮上してから公安調査庁が勢いづき、去年4月、企業、大学との連絡窓口を作った。「軍需産業支援法」は、国民監視とセットで、契約企業の従業員に守秘義務を課し刑事罰の対象にする。国民の知る権利、研究者の研究の自由を抑圧する。
なぜ経団連が、米国の戦略に組み込まれ政府の統制を受け入れるのか。日本の財界が自主性を喪失しているからだ。大企業の発行済み株式の3分の1が米国資本に握られている。経団連は「日本・米国経団連」ともいうべき性格を持つようになった。
大軍拡が財政にどのような影響を及ぼすか
ロシアのウクライナ侵攻後、各国・地域がどの程度、軍事費を増やしたか。日本が一番多く26%増だ。ドイツ17%、台湾14%、英国12%、米国10%、フランス7%、中国7%など。防衛省は、防衛力「抜本強化元年」予算と言っている。これから5年間で今の倍の年間11兆円に増額し、5年間で総額43兆円の軍事予算を組むという。
43兆円の内訳は、現在の軍事費水準が続いたとして25.9兆円、それに上乗せして「歳出改革」で3兆円(社会保障が削減される恐れ)、「決算剰余金」で3.5兆円(赤字国債原資を含む)、「防衛力強化基金」4.6兆円(国有財産売却、コロナ対策積立金、医療関係の積立金など)。「増税」で1兆円以上(25年度以降に大増税)。あらゆるところからかき集めようとしている。
2023年度から、艦船建造などに戦後初めて建設国債4343億円を充てた。「防衛費は消耗的性格を持つ」との理由で建設国債を使わなかったのに、歯止めが外された。赤字国債の増発につながれば戦前と同じ。恐るべき事態だ。
43兆円は5年間の軍事費だ。敵基地攻撃能力の完成は、安保3文書では10年後だ。GDPの2%が、2.5%、3%に拡大しかねない。財源はどうするのか。国民への大増税、社会保障の削減、そのうえ借金を増やすという話になってくる。
敵基地攻撃の兵器は、米国から買わされる。トマホークの場合、米国内では1基2億円なのに、日本は1基5億円以上で買う。今年予算で400発、2213億円も計上した。米国の言い値で兵器を買わされる対外有償軍事援助(FMS)。今年度は前年の4倍以上の1兆4768億円だ。
第二次世界大戦で、日本は戦費の調達のため戦時国債を乱発し、国の借金はGDPの200%を超えた。そのため戦後は大インフレが起き、物価は4年で70倍に上がった。今は1000兆円超える借金で、GDP比249.5%だ。金利が1%上がったら10兆円負担が増え、国債価格が暴落する。
国債の半分以上は日銀が持っている。異次元の金融緩和で、日銀が銀行から国債を買ってお金を供給したが景気はよくならなかった。日銀総裁は植田氏に代わったが、身動きがとれない。国債売買の4割は外国人だ。昨年から今年にかけて、外国勢の国債の売り浴びせがあり日銀が必死に買い支えた。ギリギリのところで運営されている。
日本経済も弱っており、大軍拡に耐えられない。1980年代に、日本はジャパンアズナンバーワンと言われ、世界に占める日本のGDPは95年に17.6%を占めていた。ところが2010年8.5%、2020年5.3%と下がり、貧困と格差も広がった。岸田大軍拡は、体力がない日本経済に大変な負荷をかけ、庶民の生活は深刻な事態に陥る。
他方、大企業はどうか。3月期決算は4年ぶりに最高益を更新、手元資金は豊富にある。賃金を大幅に引き上げ、日本経済全体を底上げしていくことは可能だ。「人への投資」を言いながら大幅な賃上げをしない。そこに「新しい資本主義」のまやかしがある。
昨年12月、自民党のなかで、どこから軍事費を調達するかで大変もめた。合意したのは増税の先送りだ。次の総選挙で自民党が勝ったら、大増税、大負担が押し寄せてくる。平和を守ることは、生活を守ることにつながる。次の総選挙は非常に大事だ。
軍拡につぎ込む5兆円があれば、大学授業料の無償化、ケア労働者の賃上げ、子ども医療費の無料化、学校給食無償化などできる。長期的に日本経済をどのように再建していくか、発展方向を考えなければいけない。その基本となるのは、GDPの55%を占める個人消費をどう増やすかだ。そのためにも大軍拡は、絶対に阻止しなければいけない。
私は、現職議員の時、民主団体と一緒に毎年末「軍事費を削って、くらし、福祉、教育の充実を」という折衝を財務大臣にした。こういう方向でのたたかいこそ、今の時代に相応しいのではないか。
平和の枠組みをアジアと世界に広げよう
日本にとって中国は、貿易総額の20%を占める最大の貿易相手国だ。米国が2番目の13%。中国から見ると、日本は、米国、韓国についで3番目の貿易相手国。日本にとって中国は、投資先として5番目、日本が一番投資しているのは米国、2番目がイギリス、3番目がシンガポール。
中国側から見ると、日本は投資してくれる3番目の国。中国にある日系企業の拠点数は、じつに3万1000を超えている。経済的には、それだけ密接な関係にある。中国と事を構えて戦争をするなど、経済の原理からはありえないことだ。経済関係が密なら、当然、政治も友好関係を結ばなければならない。
米国から見ると、輸出相手国として中国は4番目、輸入相手国として2番目。米国から見ても、中国は大変重要な経済相手国だ。両国は投資、国債保有、技術で相互依存を強めてきた。中国は米国の投資を受け入れ、経済発展を遂げてきた。中国が経済的に台頭したから、軍事で押さえつけるのは帝国主義の論理だ。
ASEAN(東南アジア諸国連合)は、東南アジア10ヵ国で構成されており、平和構築の重層的な枠組みを作っている。話し合いを徹底して行って、平和と協力の地域に変える努力を続けてきた。その基本原理は、特定の国を排除しないということだ。すべての国々を、包括的に包み込んでいく「包摂の原理」ですすめられている。これは、ヨーロッパにない特徴だ。だからASEANとの協力関係を望む国が増えている。
ASEANを中心に、日本、米国、中国、ロシアなど8カ国を含む「東南アジア首脳会議」(EAS)という枠組みがある。ASEANは、これをさらに広げて、将来は東アジア規模の友好協力条約を結ぶASEANインド太平洋構想(AOIP)をつくる展望をもっている。AOIP構想については、中国、米国、オーストラリア、EU、日本も賛同している。東南アジア友好協力条約(TAC)に加盟する国は50カ国にのぼっている。このような動きは大変重要だ。排除や対立を煽るのではなく、何かあったら話し合いで解決する。このような平和構築の外交こそ、憲法9条を持つ日本が先頭に立ってやるべきではないだろうか。
岸田大軍拡について、最近は報道もあまりないし、なかなか運動も広がらないという話がある。先に石垣市議会の意見書を紹介した。専守防衛のためと思っていたが、先制攻撃というなら話が違うじゃないか、こういう意識が多くの人々のなかで広がっている。世論は流動的だ。岸田内閣での憲法改正についての世論調査では、4月の「毎日」で賛成45%、反対47%。1年前は「賛成」44%、「反対」31%だった。賛否が逆転している。
今の事態をどれだけ多くの方に知ってもらうかが重要だ。このまま大軍拡をやったら大変なことになる。大増税、社会保障の削減、知る権利の侵害、こういう話をどれだけ広げていけるか。安保法制反対で大きなうねりが出来たように、我々の努力で、世論と運動を大きく変えてゆくことは可能だ。このことに確信をもってすすんでいきたいと思う。
0 件のコメント:
コメントを投稿