物価高生活を直撃、政策転換を
東京国家公務員・独立行政法人労働組合共闘会議事務局長
植松隆行
物価高が生活を直撃、中小企業・業者の経営も圧迫しています。植松さんに寄稿していただきました。
4月消費者物価急上昇 13年半ぶりの高騰
5月20日、総務省・統計局が2022年4月の消費者物価指数を発表しました。対前年同月比・総合で2・5%、生鮮食料品を除いた総合でも2・1%の上昇です。―生鮮食料品は生活に欠くことはできない品目であり、生活実感からは生鮮食料品を含む総合の数値が適当と考えます。
この物価上昇率は7年ぶり=消費税増税の年以来の2%超えです。増税の影響を除けば、新興国の需要増で資源高が進んだ08年9月(リーマンショックの年)の2・3%以来、約13年半ぶりということになります。
生鮮食料を含めた総合では対前年同月比は2.5%上昇 主な上昇費目では 生鮮食料12.2%上昇,生鮮を除く食品2.6% 光熱・水道15.7%,光熱・水道は15.7%の上昇 |
22春闘ベースアップ分は物価高騰ですでに消し飛ばされている
連合が5月6日に発表した「賃上げ分が明確に分かる」1795組合の「賃上げ額・率」は1848円、0・62%ですから、4月の物価上昇はすでに賃上げ分を消し飛ばしています。
1970年代の石油危機の際、スタグフレーショ ンという言葉が新聞紙面に盛んに登場しました。「スタグフレーション」とは、景気などの停滞を意味する「スタグネーション=stagnation」と「インフレーション=inflation」の合成語で、景気低迷下での持続的物価上昇を意味します。1970年代は「もの作り日本」が世界を席巻していた時代であり、その点では今日の事態の方がはるかに深刻です。
では物価高騰がなぜ起きているのでしょう?それには3つの要因があります。この間私ども東京国公が繰り返し指摘してきたように、第一は世界的にはコロナ自粛経済からの回復が進みつつあり、国際的な原材料逼迫に加え賃金の上昇による物価高、第二はアベノミクスに基づく日銀の「異次元の金融緩和」等による円安の急激な進行、第三がロシアのウクライナ侵略によるエネルギーや食糧供給不足への懸念からの原材料争奪戦です。これらが絡み合って物価高騰が起きています。
円安は物価高
騰を招く
物価高の原因の一つである円安とは、円の他通貨に対する相対的価値が小さくなることです。
わかりやすく言えば、1ドルを手にするのに、それまで100円ですんでいたのに、120円とか150円出さなければ手にできなくなる状態です。
ある商品を1ドルで輸入するとします。1ドル100円が、1ドル130円になれば輸入原価は30円上昇になるわけです。
日銀が5月16日発表した4月の企業物価指数(CGPI)速報によりますと、国内企業物価指数(2015年=100・0)は113・5と前年同月比プラス10・0%となりました。その主因が輸入物価の驚愕的上昇です。
左表は4月輸入物価上昇を分析した結果です。
日本の「円」は残念ながら世界では基軸通貨とは程遠い存在です。財務省の発表でも輸入契約の70%はドルによる決済です。円安の下での輸入価格の高騰はしばらく続くのは間違いありません。
円安の根本原因は「円」に対する信頼の低下
2022年4月の輸入物価対前年比44.6%上昇の要因 *日銀調査統計局「4月の企業物価指数」(5/16)より作成 *企業物価とは企業間の取引物価 |
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円安要因による上昇率 |
14.9% |
関税定率法施行規則(昭和44年大蔵省令第16号)第1条の規定により税関長が公示する相場 2021/5/16~22=1ドル109.22円 2022/5/15~21=1ドル130.29円 *この1年で21.07円、19.3%円安に |
資源高等による上昇率 |
29.7% |
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4月の輸入物価上昇率 |
44.6% |
では円安はなぜ起きているのでしょう?4つの原因があります。❶アメリカの利上げによるドル投資人気。➋日本の経常収支悪化による資金流出の懸念の広がり。❸円の信頼低下による投機筋の円売りの促進。➍日銀の異常な金融緩和政策継続(繰り返されるゼロ金利や国債の無制限買い入れ等)
以上です。一言で言えば「円」対する信頼低下であり、金融政策に対する信頼喪失にあります。
一番苦しんでいるのはまさに生活困窮者
物価高騰は食料やエネルギーが特に激しさを増しています。内閣府が2月に発表した「日本経済2021-2022」(「ミニ経済白書」)は「食料品への支出は総消費支出の約3割を占めており、食料品価格上昇のさらなる広がりが消費者心理等に与える影響には注意が必要である」と警戒感を示しています。当然のことですが、円安、物価高騰で苦しんでいるのは国民であり、同時に生活困窮者には更なる困窮を生み出しています。
1ドル130円で推移した場合の収入別世帯の、食料・エネルギー年間負担額 *「みずほリサーチ&テクノロジーズ」 が総務省「家計調査」をもとに試算したもの。エネルギーへの激変緩和措置が政府によって取られなかった場合。 |
収入別の世帯の負担額 300万円未満 58,849円 300万~400万円 65,745円 400万~500万円 71,203円 500万~600万円 73,712円 600万~700万円 76,570円 700万~800万円 77,822円 800万~900万円 82,084円 900万~1000万円 85,170円 1000万円以上 91,878円 |
政策の転換を!
物価高騰、円安、低賃金、異常な金融緩和、生活困窮者拡大等々は、アベノミクスが続く限り絶対に解決はありません。それに早く終止符を打つ必要があります。
その為に市民・労働者・野党の総結集で要求を政策化し、運動を大きく広げることが決定的に大事だと思います。私は以下の内容を緊急政策要求として提起します。
●最低賃金を時給1500円に。10兆円規模の中小企業への賃金引き上げ補助予算を。
●大企業への内部留保課税を新設し、国民生活を守る財源とするとともに、賃上げ・下請け単価引き上げに誘導。
●非正規労働者の雇用安定と賃金の引き上げを。
●一人親世帯や非正規労働者、高齢者など生活困窮者への生活援助給付金を。
●シフト勤務者への減収の保障を。アルバイト学生への生活支援金の給付を。奨学金は貸し付け型ではなく給付型に。
●年金減額ストップ。後期高齢者の医療費窓負担増中止を。
●消費税を直ちに5%に。インボイス制度は中止せよ。
●飲食店、運輸業、宿泊業、サービス業、中小零細企業等への持続化給付金・家賃支援金の再支給を。
●トリガー条項の発動を含む卸売価格の引き下げを。
●「異次元の金融緩和」政策の抜本的転換を。円安を是正し、輸入物価を引き下げ、物価高騰防止を。
●国民の安全・安心を守る行政体制の確立。非正規公務員労働者の正規化を。
(あとがき)
コロナ禍以降私は、地域の商店街組織、農民団体、消費者団体、飲食店主・中小企業経営者及び団体、学生アルバイト等、むしろ労働組合以外の諸団体や個人の方々と学習会や懇談を重ねてきました。
その中で、生活と経営を守る大きな戦線ができないかと、苦闘してきました。
日本の経済は大変な危機にあります。お呼していただければ、どこへでも出向きます。皆さんと大いに語り合い、学び合いたいと思う次第です。
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