何とどう闘うか
アホダノミクスの偽りの分配論を斬る
同志社大学大学院ビジネス研究科教授 浜 矩子さん
1月29日東京革新懇第30回総会の浜矩子さんの記念講演の要旨をご紹介します。今日は5つのことをお話しします。
1、アホダノミクスはなぜアホダノミクスなのか
2、「新しい資本主義」のどこがどう問題か(1)ヒトとモノ
3、「新しい資本主義」のどこがどう問題か(2)その他諸々
4、アホ・スカ・アホダ後の経済運営が追求すべきもの
5、アホ・スカ・アホダ後の経済運営がめざすもの
アホダノミクスとは岸田首相の経済政策に名づけたものです。1ではなぜアホダノミクスと命名したかを説明。2で「新しい資本主義」のヒトとモノからどういう問題があるかみて、3で違う面から問題を見る。1~3でアホダノミクスの正体を見極めた上で、4と5で我々は何をめざして進んでいかなければならないかを考えたい。
1、 アホダノミクスはなぜアホダノミクスなのか
私は、安倍政権が登場するや早々にアホノミクスと呼んでいた。菅政権が登場し、経済政策を考えた結果、スカノミクスと命名。中身がスカスカであるとともに外れのくじの意味も込めた。アホダミクスが盛んに言うところの「成長と分配の好循環」は、完全にアホノミクスのパクリだ。アホノミクスの大将は、就任早々「成長と富の創出の循環を実現する」と言っていた。「経済を成長させることによって富と豊かさをもたらすんだ。今は分配のことなど考えている場合ではない。縮小しかもたらさない分配政策からは決別する」と言っていた。途中からあまりに分配に冷たいのは良くないということに気づきはじめたようで、成長と分配の好循環というスローガンに切り替えた。
岸田政権の新しい経済政策はない。完全にアホノミクス政策の踏襲なので、アホノミクスのパクリであるので、アホダノミクスと言ってよろしいと考えた。
もう一つ、困ったときのアホ頼みというのがこの人にとって濃厚だ。距離をとりたがっている面もあるが、そもそも自民党総裁選の勝利では、アホノミクスの大将が露骨に動いて総裁選突破した。困ったときのアホ頼みなのでアホダノミクスと思った次第。
さらに「分厚い中間層」というのがアホダノミクス男が好んで使う言葉。民主党野田首相の完全なパクリ。アホダノミクス男は、パクル対象がないと何も言えないのか注目しておきたい。
新しい資本主義も、グローバルな動きのパクリと言ってよい。資本主義がこのままでは存続不可能ではないか。旧来のスタイルから脱却して新しい資本主義を展開する。多様なステークホルダーに責務をおうような方向性を持たなければいけない。SDGs、ESDなどにもっと意識を向けた資本主義の今日的在り方が問われているなど盛んに議論されている。それを取り込むということで新しい資本主義と言い始めた。そこに新鮮な感覚があってではなく、世の中の方向感をパクって取り入れたという感じだ。
最後に、アホだなと思うのは、「分配は成長のため」「成長と分配の好循環」と言い、分配を成長のための踏み台になるから分配は重要だと言っている。この認識は非常にまずい。日本のように十分成長しあがった経済において、成長に役に立つから分配を追求するとの認識は古い。そこに徹底的に欠けているのは弱者のための分配。困っている人を救う、命の危機に直面している、生存権を守るために政策を展開するというような脈絡はアホダノミクスにはない。ここに本源的本質的問題がある。
2、「新しい資本主義」のどこがどう問題か(1)ヒトとモノ
岸田さんが最新号の文藝春秋に「私の新しい資本主義のグランドデザイン」とのタイトルで寄稿し、施政方針演説にも踏襲された。新しい資本主義の第一のキーワードは「モノから人へ」言っているがこれもパクリだ。民主党政権の鳩山首相が国会で読み上げたのが「コンクリートから人へ」。ただしパクリであることが問題であるわけではない。こんな表記「分配戦略による人への投資こそが成長戦略」。分配と成長の関係だが、一大成熟経済である日本にとっては、成長は目標にならない。成長を目標とするのは、豊かさが形成されていない経済。成熟しているが、貧困問題、弱者の苦しみがある政治経済においては、分配は弱者救済が目標であるはずだ。分配政策を進めた結果として成長率が高まる可能性はある。
成長のために人に投資するというのは非常に引っかかるもの言いだ。人に投資するとは人を資産とみている。資産として見るとは、結局ヒトのモノ化である。成長戦略に役に立つ資産を形成する観点から人に投資する。これを分配戦略だと思っているところに一面的問題がある。
アホダ流の人本主義も偽物だ。人を本当に主軸に置くということではない。儲けを上げられる企業のあり方に役に立つ資産として人を見る。人本主義は本来ヒューマニズム。人を何よりも優先する。人の生存権、基本的人権を優先するというのが真の人本位主義、ヒューマニズムである。人の営みである経済活動においても、人の生存権、人権を何よりも優先するというのが、土台であり核でなければならない。
アホダノミクス男はこのように言っている。「『モノから人』に続く新しい資本主義のキーワードは『官民連携』です。新自由主義ですべてを市場、競争に委ねてしまっては物ごとはうまくいかない。だから官民連携だと。デジタル化、IT化、AI化、生産効率を高める、国際競争力を向上させる。かつて日本の企業が自力で出来ていたことが、台頭するグローバル環境のもとで後れを取った。そのような事態から脱却するために官民連携でやって行こうとひたすら言っている。官による世の中への介入。しかもそれは成長戦略に資する戦略、企業の収益力アップ、経済の成長率アップにつながるような人への投資、そういう方向に日本経済の在り方を誘導しようとしている。その司令塔にデジタル庁がなって行こうとすると、新しい資本主義は官製資本主義になっていくのか、介入型資本主義になっていくのか、非常に心配されるところだ。厳しく監視していかなければならない。
「新しい資本主義のもう一つの重要なキーワードが『地方』です」と言っている。成長と分配の好循環、ヒトのモノ化を進めようとする中で、主役の座に据えられてしまった地域社会が、環境、文化、特性などが生き生きと展開されていくことになるのか、非常に気になる。地方のための新しい資本主義ではなくて、新しい資本主義ための地方、お先棒担ぎのために地方が振り回されることになりそうだ。その一つの証左が「デジタル田園都市構想」。地方の活性化にとても効くんだと言っている。デジタル田園都市化することを成長戦略につなげるという発想だ。デジタルネットワークにすっかり取り込まれてしまった地方・地域社会において、テクノロジーの奴隷に人々がさせられると、作り物の田園都市の中で、人々は成長のために、人的資産として振り回されることになる。
キーワードとして出てきている訳ではないが、非常に強く打ち出されているのが「気候変動問題を新たな市場を生む成長分野へと転換」だ。人類あげて気候変動問題に対処しなければならない状況になっているが、この事態を新たな市場を生む成長分野に転換していくんだという話だ。実に奇異な考え方だ。気候変動がなぜ問題になっているか、地球経済があまりにも膨張した、あまりにもエネルギーを消費した、あまりにも自然を破壊する成長を進めたによる。このテーマに当たっても、なおも成長の契機を見出そうとしていることに大きな問題がある。
4、アホ・スカ・アホダ後の経済運営が追求すべきもの
我々がこのようなアホダノミクスを越えて進もうとするとき、こういうところにポイントがあると思っていることを触れたい。
「それは脈絡」ということ。なぜ、何のために、何をするのかということであり、アホダノミクスにはない。今風の言葉が散らばり、パクリだらけで進んでしまう。脈絡、筋がしっかり形成されている経済運営が展開されることが非常に切望されている。
その2は、「最適な最適」。一握りの強者、豊かな者が経済全体のレベルを上げている。そのことによって出来たのが「全体最適」。成熟社会の日本には意味がない。
本当の最適は「全員最適」だと、そういう構えでものごとが進められていかなければならない。だれも取り残さないということだ。
そして、もう一つは「正しい存在の在り方」と言うことができる。それは、偏在にあらず、遍在なりということだ。音声にすると同じだが、最初の偏在はかたよっていること。次の偏在はあまねくいきわたっていることだ。最適な最適と同じ考え方だ。日本経済の中において、豊かさの中の貧困があるということは、偏在が払拭できていない。豊かさの中の貧困問題を解消するためには、あまねくいきわたらせる分配政策が重要になってくる。
そして、見分ける力。「魚かヘビか」、「卵かサソリか」、聖書の中に出てくる文言。私はカトリック信者なので、いろんな形で聖書からインスピレーションを受けることが日に日に多くなってきている。世の中の状況がそれだけヘンテコリンなって来ているからだと思う。ヘビにしか見えない魚がいたり、丸まると卵にしか見えないサソリがいた。見分ける力がこれからの経済運営には絶対必要だ。
5、アホ・スカ・アホダ後の経済運営が目指すべき場所
◆それは旧約聖書の中に
狼は子羊と共に宿り、豹は子山羊と共に伏す。
子牛は若獅子と共に育ち、小さい子供がそれらを導く。
牛も熊もひとしく草をはみ、その子らは共に伏し、
獅子も牛もひとしく干し草を食らう。
乳飲み子は毒蛇の穴に戯れ、幼子は蝮の巣に手を入れる。
わたしの聖なる山においては何ものも害を加えず、滅ぼすこともない。
(イザヤ書11.6~10)
◆そこは真の強弱共生の場所
◆そこにあるのは真の人本位主義
こういう経済運営に向けて進んでいくために、打倒アホ・スカ・アホダ路線で頑張って行かなければなりません。
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