法政大学名誉教授
東東京革新懇代表世話人 五十嵐 仁
東京都知事選挙に市民と野党の共同候補として宇都宮健児弁護士が立候補し、約84万票を獲得しましたが及びませんでした。候補者が決まらず「不戦敗」の恐れさえあったなか、緊急事態宣言の解除を待って出馬表明した宇都宮さんの決意と勇気に敬意を表したいと思います。
現職有利で多くの困難
今回の都知事選で当選したのは現職の小池百合子候補です。366万票という歴代2位の得票数での圧勝でした。新型コロナウイルスが猛威を振るう下、現職有利の異例の選挙戦となったのが小池圧勝の最大の要因でした。
小池都知事はコロナ対策を口実にテレビスポットや記者会見で名前と顔の売り込みを図るなど、告示の前から選挙運動を始めていたようなものです。告示後は一転して姿を隠し、コロナ対策を理由に街頭演説をやらず、テレビ討論会にも応じませんでした。
都政をめぐる論戦は低調で、築地市場問題や「7つのゼロ」公約など一期目の都政運営についての検証はほとんどなされませんでした。緊急事態宣言や東京アラートなどの下で、「コロナと戦う都知事」というイメージばかりが広まりました。不安感を高めた都民は安定志向を強め、新人より現職に都政をゆだね、変化より継続を選択したものと思われます。
前回対立候補を立てた自民党と公明党は「自主投票」でしたが、実際には小池さんの応援に回りました。逆に前回統一候補を擁立した野党側は分裂し、「小池批判」の票が割れてしまいました。コロナ禍の下で宇都宮候補は立候補表明が遅れ、投票日まで約1ヵ月という短い運動期間で、大規模な屋内集会が中止されたり街頭演説の場所と時間を広く告知できなかったり、手足を縛られたような選挙を強いられました。
跳ね返した力は市民と野党の共闘
以上のように、現職有利で多くの困難があったにもかかわらず、宇都宮さんはそれを跳ね返して次点となりました。このような事情を考えれば善戦健闘したと評価できます。その最大の要因は市民と野党の共闘の力でした。これまでの共同の上にさらなる広がりと深化をもたらし、地域での共闘をバージョンアップすることで質的な発展を生み出したのです。
政党の支援では立憲民主・共産・社民・新社会・緑の党だけでなく小沢一郎衆院議員、原口一博国対委員長、平野博文幹事長などの国民民主党の幹部も加わり、野田佳彦元総理や岡田克也元副総理、無所属の中村喜四郎さんまで応援や激励に駆け付けました。野党5党派の国対委員長による「勝手連」も結成されています。
都レベルでも、昨年暮れから立憲・国民・共産・社民・新社会・緑の党などの代表者による会議が毎月開かれ、共闘に向けての相談がなされました。会議に出席していた国民民主党は最終的には「自主投票」になりましたが、革新都政をつくる会による2回の要請活動に対応し、6月3日の革新都政をつくる会呼びかけ人会議の集会にも岸本周平選挙対策委員長が出席してあいさつしています。
地域では草の根レベルで共闘が成立し、25の全ての小選挙区で市民と野党の市民選対が立ち上がりました。政党系列での上意下達ではなく、直接、宇都宮選対と連絡を取って自主的にビラの配布や駅頭でのスタンディングなどが行われています。これらはすべて、来るべき国政選挙での地域レベルの共闘態勢を準備する意味を持ったと思います。
政策面でも共同の幅が広がりました。立憲民主党の枝野代表は政権構想私案を発表し、自己責任論の問題点を指摘しながら新自由主義との決別を表明しています。都立・公社病院の独立行政法人化についても、立憲民主党の都議が賛成から反対に転じました。
市民と野党との共闘という点で今回の都知事選挙は今後に向けての「予行演習」となり、大きな「財産」を残しました。これを次の総選挙や来年の都議選に生かすことが、これからの課題になります。そのために、革新懇も絆を深めて大いに力を尽くしたいものです。
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