企業収益の激増と世界でも特異な経済・賃金の停滞
1月25日東京革新懇総会における山家悠紀夫さんの記念講演の要旨をご紹介します。
1990年は、世界でも日本でも画期となる境目だ。ベルリンの壁が壊れたのが1989年。ドイツが統一したのが1990年。ソ連邦が崩壊したのが1991年。中国では天安門事件が89年にあり、2~3年経済が混乱状態でその後高度成長を遂げた。
90年代、社会主義経済圏が消滅し、資本主義化の道を歩み始めた。中国もどんどん資本主義的方向へ行って躍進始めた。資本主義経済という一つの体制になっていった。
経済政策で見ると、新自由主義経済政策が各国で取られた時代だ。一つの柱は政府の役割を小さくする、もう一つは規制を緩和する。昔の資本主義時代に戻った。資本主義諸国が、社会主義との闘争で勝利したと誤解した。本当に勝利したのは修正資本主義、資本主義の性格をかなり薄めた資本主義だった。まずいことをやれば革命が起こって社会主義になると資本主義を修正してきた。労働者の人権も認め、福祉的政策も取った。社会主義の脅威がなくなり、革命も起こらないから大丈夫と何でもありの経済になった。新自由主義経済が跋扈したのが90年代以降、今もそうだ。
日本経済の30年-企業利益激増、賃金停滞
日本は、株のバブルがはじけたのが90年、土地のバブルがはじけたのが91年。消費税がはじまるのが89年、それ以降の30年はだいたい平成の時代と重なっている。
新自由主義とは言っていないが、日本的言い方で構造改革の時代。日本経済はあまりパッとしない時代で成長率が非常に低くなっている。極端に落ち込んだリーマンショックを例外とすると、毎年の成長率は高くとも2%、時にマイナス成長という時代が続いた。失われた30年と言われる時代になっている。
その時代の特徴は、消費税が1989年の導入時の税収3兆円あまりから、2020年には21兆円になろうとしている。7倍ぐらい。税率3%から10%へ、2020年度では国税で一番多いのが消費税。歴代内閣は、消費税を上げ貧しい人からお金を取り立てて、たくさん稼いだ人、たくさん稼いだ企業に減税した不健全な財政がいまだに続いている。
二つ目の特徴は、企業がたいへん儲かるようになった。図1は日本の企業の利益をグラフにしたもの。1990年はバブルの恩恵で年間38兆円。バブルが破裂して景気が落ち込み、リーマンショックで2009年が最近の底で年間利益は32兆円。そこから毎年増え、統計で最新の2017年は83兆円。バブル景気の90年の38兆円から83兆円に増えている。企業はたいへん儲かるようになった。
一方で賃金が上がらなくなった。図2で働いた人の平均賃金を見ると、90年は年収425万円、ピークが97年の467万円。それ以降は下降し、リーマンショックの2009年で406万円、少しずつもどしているが2017年433万円、30年前からほとんど増えてない。物価上昇を考えればむしろ落ちている。
他の先進諸国との賃金、経済成長の比較
図3は、1997年を100とした主要先進国の賃金の動きをOECDがまとめたもの。日本だけが賃金水準で下がっている。他の国はみんな上がっている。
図4は各国の経済成長率。日本だけほとんど停滞の経済、他の先進諸国は拡大している。消費はGDPの6割近いウェートを占めている。日本の長期停滞の原因は、賃金が上がらないから物を買えず消費が増えない。賃金が停滞したことで経済も停滞した。他の国は賃金が上がってプラス成長になっている。
景気・賃金停滞の要因-構造改革
景気の停滞の根底にあるのが構造改革政策だ。図5は、横軸は企業の利益で右に行くほど増えている。縦軸は賃金で上に行くほど上がっている。景気が底のときを100として、賃金と企業収益がどう動いたかの労働白書のグラフ。1997年の橋本内閣の構造改革以前の景気の回復期の賃金と利益の動きは、景気が良くなるに従って、企業は儲かりだして線は横に向かい、賃金も上がるようになり線は上に向かう。線は右斜め上に向かう。ところが、橋本内閣が改革を始めて以降、景気が良くなり企業が儲かり線は右に向かうが賃金は一向に上がらない。線はほとんど右横に向かう。景気が良くなっても賃金が上がらない経済の構造となった。
構造改革で労働者派遣が緩和されどんどん利用できるようになった。景気が良くなり人手が必要になると、非正規の低賃金の人を雇う。賃金停滞の一番大きい要因だ。
企業の経営の面でも合併までの規制が緩和され、うかうかすると合併されてしまう。経営者も最大限儲かる状況にしなければならない。社会的雰囲気も変わった。企業は株主のために存在し、儲かることをいいことだとなった。そういう流れの中で、儲かっている企業が首切りをする。企業は儲けるための手段として非正規の雇用を活用した。
構造改革の大失敗
最初の大失敗は橋本内閣の失敗。バブルが崩壊し91年から93年にかけて長期の不景気が続いた。景気を良くするために日本経済の構造を変えなければとの考え出てきた。私はバブルの反動、ほっておけばそのうち良くなると楽観的に見ていた。橋本内閣が構造改革を打ち出した。公共事業を大幅に削減。所得税減税もやめた。消費税を3%から5%に引き上げ。健康保険2割負担に引き上げた。96年から景気は少し良くなる傾向だったが構造改革で悪化。折悪しくアジア通貨危機、金融危機も影響した。
景気が悪くなり、結果として選挙で負けて橋本内閣は退陣し小渕内閣が誕生した。景気を良くすると、公共事業を大幅に増やし、構造改革とまったく逆の政策を取ることにした。小渕内閣のもとで日本経済は何とかよみがえった。
これで構造改革が終わったかと言えばそうではない。小渕さんは病気で亡くなった。経済戦略会議に竹中平蔵さんがメンバーで入っていて、「日本経済は、構造改革をやらなければ本当に良くならない」と構造改革を進めた。その後、やってきたのがリーマンショック。日本がもっていたサブプライムローンは少なかったが、賃金が上がらないもとで輸出依存の経済が打撃を受け、景気が落ち込んだ。
規制緩和が裏目に出て、派遣労働者が首になり寒い中路頭に迷い、年越し派遣村が出来、ボランティアや労働組合が助け出した。小泉改革のつけだ。構造改革はだめだなと言われ、それもあって「くらし第一」の鳩山民主党政権が登場。よくなるかと思ったら、民主党政権は大失敗。消費税を引き上げ、社会保障制度を悪い方向に変える政策を出した。民主党政権がつぶれて、第2次安倍内閣が誕生。第3の矢は成長戦略で企業が儲かるように変える構造改革だ。それが今に至っている。アベノミクスになったが3度目の大失敗だ。自分が掲げた目標がまったく達成されていない。
もう一つは、人々の暮らしが一段と厳しくなっている。安倍内閣のもとで2018年に6年前と比べ消費がまったく増えていない。消費税5%上がった分貧しくなっている。特に厳しくなっているのは低所得の人々だ。エンゲル係数が相当上がり、保健医療費と教育費が圧迫されている。日本経済の先行きは、安倍内閣を変えない限り真っ暗だ。
日本経済と暮らしをよくするために
日本経済と暮らしをよくするためには、1つは賃金を上げる。最賃1500円、アメリカですら時給15ドルが一般的な動きとなっている。大幅賃上げで労働条件を良くすれば、日本経済は結果として良くなる。日本は、暮らしを良くすればそれにつれて経済も良くなる非常に恵まれた環境にある。そういう環境を活かしていないのが安倍内閣だ。
2番目に社会保障制度を良くする。日本は、国内にお金が余っている。世界一の金余り国だ。たくさんお金を貯め込んでいる大企業などから、税金、社会保険料で集める。それで社会保障は充分に良くすることが出来る。政府さえやる気があれば出来る。
消費税を8%、10%に上げてから景気は悪くなった。これからますますひどい状況に入り、暮らしももっと悪い状況になっていく。いまやることは、まず消費税を5%に戻す。2014年以前に戻せば、その分景気のひどい状況はなくなる。人々の懐に多少のゆとりが出てきて、景気も暮らしもなんとかなる。
その後に、じっくり腰を据えて、賃金をきちんと上げていく、社会保障を良くしていく政策を考えるということが、何をしなければの結論となる
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