現時点で見ておかなければならないのは、小池都政がどのような政策を行ってきたのか、これからどのような政策を行おうとしているのかだ。この小論では次期都知事選に向けた対抗政策を考えていく上で必要な小池都政の政策を改めて検討してみたい。とはいっても短い紙幅の中で全てを検討することはできないので、安倍政権とも関わりの深いスーパーシティ構想や都独自の政策に絞って見てみたい。
国家戦略特区からスーパーシティ構想へ
「東京を経済成長のエンジンにする」するための具体的な政策として提起され、実効されてきたのが国家戦略特区である。加計学園問題で国民の不信を買った国家戦略特区だが、昨年の内閣改造で片山さつき氏が地方創生相に就任した後、国家戦略特区の新たな目玉としてスーパーシティ構想なるものが打ち上げられた。同構想はAI(人工知能)やビックデータを活用して指定区域内での自動運転やキャッシュレス、遠隔医療、遠隔教育などを導入して「最先端都市」をつくることを目指す構想だ。またそうした構想を実現するために不可欠な規制緩和を、住民の合意を踏まえて首相が関係省庁に求めるという仕組みが法案に盛り込まれる予定になっている(日本経済新聞2019年4月17日付)。マスコミでは「首相肝いりの法案」と報道されたが、未だ閣議決定されておらず、今国会で実現するかどうかは微妙な情勢である。だが先行している自治体もある。大阪府市は今夏に「スマートシティ戦略会議」を設置してスーパーシティの指定を目指す体制を整えつつある。
では東京都はどうか。都は5月9日に「『Society5.0』社会実装モデルのあり方検討会」を立ち上げ、第1回会合を開いている。目指す方向は基本的にスーパーシティ構想と同じだ。スーパーシティ構想がなかなか進まない中で、東京都の方が最先端都市づくりに向けて先行し、先導する役割を担っているのが同検討会といえよう。
「Society5.0」(AIなどの最新テクノロジーを駆使した今よりもさらに利便性の高い社会のあり方のこと)は経団連も実現を目指す未来社会の在り方だ。それは基本的にコンピューターを駆使した、何をするにもコンピューターが必要な社会である。「駆使する」というと人間が主体になるが、「Society5.0」は人間がAI、ビックデータに取り囲まれて生きざるを得ないという方が実態に近いだろう。そうした社会の実現に向けた取り組みを国や都が先導しているのが現状である。
2019年度からスタートした都戦略政策情報推進本部
もう少し東京都の取組みについて詳しく見てみよう。東京都は本年度から「東京の成長戦略に資する取組を推進するため」(都HPより)、政策企画局の下に戦略政策情報推進本部を設置した。同本部は「国際金融都市の実現や最先端技術による新事業の創出、ICTの利活用など、東京の成長戦略を総合的・集中的に推進するのが目的で、規模は106人」(都政新報、2019年1月29日付)とされている。つまり東京の成長戦略を構想する独自のセクションを立ち上げたわけだ(ICTとはInformation andCommunicationTechnologyの略で、情報通信技術のこと)。
同本部の取組みは①「Society 5.0」の実現、②国際金融都市・東京、③東京の特区・外国企業誘致、④先端的な事業の推進、⑤ICT導入・活用の推進、⑥業務プロセス改革の6つが主なものだ。先ほど触れた「『Society5.0』社会実装モデルのあり方検討会」は①の「Society 5.0」の実現に向けた取組みを検討するために設置されたものだ。これら6つの取組みは小池都政が始めたわけではなく、これまでの事業から継続して取組まれているものも多い。
重要なのは、小池都政が既存の取組みを整理し、「Society 5.0」の実現など、国や経団連が目玉に据える政策も取り込みながら、「東京の成長戦略」という一点を検討するための機構を都庁内に設けたということである。しかも⑥の業務プロセス改革が同本部の取組みに位置付けられているように、都庁内の業務改革は東京の成長戦略に資するために行われている。
経済成長をけん引するのが都政本来の役割なのか
-都民生活はどこへ?
以上のような動きを見れば明らかなように、小池都政は経済成長のけん引役を進んで引き受け、旗を振り始めた。失速気味のアベノミクスを東京から支えるために成長戦略にテコ入れをし始めたともいえる。しかも現在の成長戦略の目玉は「Society 5.0」である。「Society 5.0」の実験場を決めるのがスーパーシティ構想であり、同構想を先取りしているのが東京都なのだ。
都政の本質的な役割は経済成長を主導することなのだろうか。東京一極集中は止まらないものの、東京都の中で人口の再生産は全くできていない。東京が子どもを産み育てる環境として極めて厳しいからである。格差と貧困は一向に良くならない。引きこもりの高齢化も深刻だ。空き家問題をどうするのか。防災対策は万全なのか。東京などの都市部でも単身高齢者が増えてくる(日本経済新聞、2019年4月20日付)。こうした都民生活に直結する諸課題は山積している。もちろん小池知事にこれらの問題の解決を押し付けるのは酷だろう。だが経済成長よりも都民生活の解決を都政の目玉政策に据えることはできるはずだ。都政はそうした方向に転換すべきだ。
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