東京中央市場労働組合委員長
中澤誠さんにインタビュー
豊洲市場基本設計すら未決定
「豊洲移転は限りなく不可能」
市場の核心=「物流効率」崩壊
世界最大の規模を誇る築地市場、外国人の観光スポットにもなっています。
築地市場の豊洲への移転が大問題になり、小池都知事は移転を延期しました。豊洲への移転は、盛り土など汚染土壌対策にとどまらず、市場で最も重要な効率的な物流という点での致命的欠陥、交通アクセスの破たん、現在より狭く使い勝手が悪いなど「移転は限りなく不可能に近い」(中澤氏)問題を抱えています。ひいては消費者に対する安くて新鮮な魚介類の供給にも係わる問題でもあります。10年にわたり豊洲への移転反対で取り組んできた中澤誠さん(全国一般東京地本東京中央市場労働組合執行委員長)にインタビューしました。
築地市場の魚の流れと中澤さんの仕事について
全国から荷物を集めるのが卸、競り、相対で仲卸が購入、ここで価格が形成される。仲卸に小売店が買いに来る。卸がどんどんスーパーと直接取り引きしている。
私はターレに乗って魚を小売りのトラックまで運ぶ仕事を30年やっている。生鮮食品は置いとくと腐る。売る方が弱く買いたたきが起きやすい。それで卸市場をつくった。そのことが食文化をつくる上で大きかった。
豊洲への移転はどんな問題としてとらえたらいいのでしょうか
一般の人は土壌汚染に関心あるが、移転計画全体を見たら最終的に誰の手に物流が落ちるかだ。流通は本来国民のものとして規制もしてきたが、TPPなど大きな流れは国民の手から離れてきている。流通を大手資本が握ると仕入れが大変になる。国の方針は流通を国民の手に置いとくところから離してきている。年度内に卸売市場法改正の動きだが、物は市場に来ないが売買の成立を認める内容だ。中小の切り捨てだ。
築地市場の機能性はどうですか
圧倒的な物流効率がすごい。築地市場をつくったとき良く考え抜かれている。施設の配置が理にかなっている。卸と仲卸の間の価格形成がすごくスムーズだ。卸と仲卸が弧を描いており密着する距離が長い。四角だと発生するボトルネックがない。関東大震災で日本橋から移ってきたが、人口密集地でどう効率よく平等に提供していくか、昭和モダン、近代の先端だった。映画「築地ワンダー」が上映されているが、その中で「卸市場の革命」と紹介されている。
築地市場の事業者、労働者、買い出し人の意見を充分に聞くのが最も基本と思うが
この点はゼロ点。2005年まで公開の新市場建設協議会というプロセスがあったが、2006年、石原都知事が2016年オリンピックの東京開催に間に合わせるとして、関係者の意見を聞くと異論が出て間に合わないと排除、情報隠蔽し、3年間も協議会を開かなかった。2014年、着工1週間前、伊藤理事長など推進派の業界代表から「こんなものつくって都民から糾弾される」と東京都は袋だたきとなったが強行した。
盛り土が大問題になっていますが
盛り土問題は驚いた。発見したのは私。1㎡700キロの床積載荷重がおかしい・床が抜けるとネットに載せたところ大反響。構造計算専門家の高野氏に調査をお願いしたら「床は抜けないが建物がおかしい。でかい空洞がある」となり、日刊ゲンダイが報道した。その後共産党都議団の調査となった。
基本設計が決定されてないとのことですが
日本最大手の日建設計が2011年6月に豊洲市場の基本設計案を納品した。1年かけても、業界団体の長は全員推進派だが合意できなかった。基本設計案では建物地下の盛り土はない。基本設計は決定されていないので公開されてない(今は見ることが出来るが)。決定されていないが予算が決められ執行されている。
土壌汚染問題をどう考えていますか
本格的にきれいにすると膨大なカネがかかる。ある地質会社の関係者は4000億円はかかると話していた。土壌汚染対策は586億円から始まった。ブラウンフィールドというが、土壌対策費が土地価格の30%を超えると使いものにならない土地と見なされる。豊洲の土地は大雑把に2000億円、30%以下に押さえるとすると汚染を隠す以外にない。いい加減な調査で汚染を隠している。10m深度までやらなければならないが、有楽町層が不透水層だとそこまでにしている。帯水層の調査も300カ所以上怠っている。汚染を10mメッシュでやり、汚染が見つかれば横に調査するものだがやってない。法で定めた最低限もやっていない。現在は土地価格1800億円で土壌汚染対策費は850億円の見通し。揮発性のベンゼン、シアン、水銀が多くやばい。土壌汚染対策費は本来原因者負担、東京ガスが負担すべきものだ。
豊洲への移転で市場の機能はどうでしょうか
物流効率がメチャクチャ悪い(後掲)。交通アクセスがない。大きく言ってこの2点だ。唯一の駅がゆりかもめ「市場前」駅。豊洲市場の建設工事関係者は最大1万人、他の乗客が乗れなくなるのでゆりかもめは使わなかった。築地市場関係者は2万人、どうしようもない。自動車のアクセスも晴見通り1本しかない。買い出し人がたどり着けないし出られない。
豊洲市場の建物耐荷重性能問題が指摘されていますが
フォークリフトを使用する場合は耐荷重は最低でも1㎡1.5トンは必要だが700キロ。設計したときはフォークリフト使用を考えていなかったのではないか。フォークリフトはかなりの台数(13年437台)があり、ターレは2000台ある。生け簀の深さは70センチまでとの都のお触れは撤回されている。
卸と仲卸の間が道路を挟んで離れていますが
卸と仲卸の間が一番重要な動き。そこが離れることは物流効率が悪いポイントだ。非常に物流コストもかかる。
買い出し人の駐車場が3・4階で仲卸が1階で分かれていますが
物流で使うスペースが豊洲では非常に狭くなっている。敷地は築地23㏊で豊洲40㏊、築地はほぼ全域使用しているが、豊洲は建物内となり18ヘクタールで逆に狭く、故に立体配置となっている。築地は一部立体になっているが、一階部分が圧倒的であり問題ない。豊洲は駐車場が上にのり、エレベーターかスロープ使わなければならない。スロープは貧弱で狭く長く、途中に切り返しがあり下りてくる車が見えない。必ず死人が出ると言っている。登り下りは分けるべきだ。エレベーターは7~10台ぐらい。ターレが一斉に昇るので圧倒的に不足している。
仲卸のブースの狭さ、仕切りの問題はどうですか
現在より狭くなり、とにかく狭い。生鮮食品を扱う故に冷蔵庫(これまでは共有冷蔵庫使用)、仕切りを設置しろとなっており、さらに狭くなる。設計にはスプリンクラー、氷製造所、氷販売、売店も無かった。想像を絶するものが出来るのではないか。
濾過海水使用について
東京都は濾過海水の使用を考えていなかった。活魚を扱う業者が何としても必要と業者負担でつくることになった。現在は海水で洗っているが、豊洲では海水は床に流せないことになっている。
駐車場不足も指摘されていますが
築地市場に車が何台出入りしているか3~4年前に調査したが分からなかった。何台か基本数字がないままに駐車場つくられ、絶対足らないと言われている。アクセスが遠い故に待機スペースも今よりかなりいるはずだが考慮されてない。
その他でどんな問題が考えられますか
仲卸の面積あたりの使用料は他の市場も共通でこれまでと一緒だが、豊洲で駐車場やバース使用料がかなり高くなるのではないかと危惧されている。
市場関係者は豊洲への移転をどう考えていますか
日テレ記者が仲卸を無作為調査したが8割が豊洲移転反対、2割が賛成だった。私の感触でも8割が移転に反対しているが、これまでかかった費用は補償してほしいとなっている。
小池都知事はあくまで移転の延期としていますが、今後の見通しはどうですか
小池都知事が移転に踏み切れば政治生命が危うくなるのではないか。
豊洲への移転は可能ですか
移転は限りなく不可能に近い。次の日程決めても業界から本当に大丈夫かと言われる。次の日程出せない。誰が都知事でも移転は出来なかった。一日も早く損切りした方が良い。現在仲卸は520店だが、今月末で何十という仲卸が店をやめる。移転を強行していたら100店はほぼやめている。
今後、築地市場はどうすべきと思いますか
築地市場の現地での再整備できるのに不可能だとした経緯が非常に不透明だ。豊洲への移転を画策する人が潰した。豊洲に誰も買えない土地がある。築地市場をどかすとすごいカネになる。バブル期には2兆円とされたが現在は3500億円。
建物が出来たからしょうがないと世論が動く可能性あるが、築地と豊洲、両方は出来ない、どちらかを選ばなければならないとしたら結論は一つ。築地だ。
たった一人からの反撃、巻き返しだった。いつかはこうなると確信していた。2015年7月に、2016年11月7日と移転日を決めたのは向こうの負けと思った。