アメリカの世界戦略の破綻と市民・グローバルサウスによる平和①
世界の大転換期―アメリカの衰退と戦争
世界国際関係学会元副会長 羽場久美子
10月5日に福生市民会館で開催された横田市民集会での羽場久美子さんの講演の要旨を2回にわたりご紹介します。
いま、世界は大転換期だ。世界中で戦争が起こっている。なぜ、この21世紀、人権の時代に戦争が起こっているのか。
戦争をとめようとする国際世論と国連は動いている。国連の7~8割の国々が、パレスチナ戦争およびウクライナ戦争の即時停戦に賛成している。国連は機能している。それをただ1票の拒否権で、停戦を押しとどめ、紛争地に武器を送り続けているのがアメリカだ。
いま、日本列島も、沖縄から北海道まで、中国に向けてミサイル配備を進めている。アメリカは2022年に、6年以内に中国が台湾に侵攻すると煽っている。なぜか?このままではアメリカのGDPが中国に追い抜かれてしまうからだ。アメリカの都合で、東アジアで戦争をさせてはならない。
なぜ戦争か?そのからくりを考えるために本日講演をさせていただきたい。
データで見る大転換期の世界と私たちの課題
世界をリードするアメリカは、なぜ武器を世界中に送り続け、戦争の火種を作っているのか。その背景をデータで見たい。重要なのは、世界人口の変遷とGDPの推移だ。
<データ1>第1に人口。国連事務次長を務めた明石康氏の国連研究会のデータによれば、2100年に世界人口は、アジアとアフリカで8割になる。米欧は1割を切るとされる。しかし現在でもアジア・アフリカ・ラテンアメリカを合わせると人口は8割。米欧はすでに15%にすぎない。重要なことは20世紀においては人口の多さは貧困の象徴だった。しかし21世紀IT/AIの時代に、教育を受けた人口はIT人口になりうるということだ。中国のIT人口は10億、インドのIT人口は6億5000万。米欧日のIT人口8億とすると中印は米欧の2倍のIT人口。米欧による軍事力支配は早晩終わりになる。
<データ2>第2に経済の歴史的長期波動。世界のGDPを西暦0年から2030年まで世界最速のメガコンピューターで数理統計解析した人物がアンガス・マディソンだ。この統計は40数か国に翻訳され経済統計ブームを巻き起こした。それによれば西暦0年から1820年まで1800年間、世界経済の過半数を占めていたのは、インドと中国。欧米は1820年から2030年までの200年しか世界経済の中心を担っていない。それも植民地の収奪により成長した。統計では2030年には中国がアメリカを抜くと2007年に試算した。それが現実になりつつある。
<データ3>中国のGDPは2010年に日本を抜き、この14年間で日本の4.5倍になった。PPP(購買力平価)ベースのGDPでは、既に中国は2014年にアメリカを抜いている。世界銀行やIMFは、PPPベースのGDPは、20年後、30年後の名目GDPになると予想している。
<データ4>アメリカ最大の金融機関ゴールドマン・サックスによる将来のGDP予測が2022年12月に出た。それによると2050年には中国がアメリカを抜き1位(実際には2035年といわれる)、インドがアメリカに迫り3位、日本はインドネシアやドイツに抜かれ6位に転落。既に日本はドイツに抜かれ、来年・再来年にはインドに抜かれる。2075年には日本は12位まで転落、中国やインドが1、2位、アメリカ3位、インドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルがトップ8に入る。一人当たりGDPの2024年世界
ランキングでは、日本は、すでに韓国、スペイン、スロベニアに抜かれ38位に沈んでいる。
20世紀のアジアは貧困のアジアだった。21世紀のアジアは、経済成長とAI教育先端のアジアだ。IT/AIの成長により、勤勉でモノづくりにたけたアジアは、あと20~50年で世界の頂点に躍り出る。それがアメリカに脅威を与えている。
経済で太刀打ちできなくなったアメリカが、世界各地で戦争を起こし、自らは戦わず、地域紛争を代理戦争に変えて、アメリカの支配を維持しようとしている。Make America Great Again!これが世界中で戦争が起きているからくりだ。トランプが政権についても、ウクライナ戦争は止まるかもしれないが、イスラエルの影響力は強まる。中国への弾圧も強まる。
イスラエルは、米英欧が19世紀にやってきたことの焼き直しであり、遅れてきた植民地政策だ。米英がイスラエルを支持しているのは、18世紀、19世紀に同様のことを米欧は、アメリカ、オーストラリア、ラテンアメリカ、アジアの原住民に対してやってきたからだ。しかし21世紀にはそれはもう許されない。
<データ5>最後のデータは、日本の人口問題。総務省のデータによると、日本の少子高齢化対策の遅れの結果、あと40年で65歳以上の人口が全体の4割を超え、労働人口が半分になる。2100年に「8000万人国家」、うち半数が65歳以上だ。
人口問題は、高齢者就労、女性就労、移民受け入れの問題と直結する。観光だけではやっていけない。住み着いてくれる移民をきちんと人権を守ってもてなさねばならない。これが50年で日本のGDPは世界12位になるという実態だ。
そうした中、1000兆円の負債を抱えつつ、5年で43兆円を超える軍備を大増強し、ミサイル配備を全国に展開して、中国に対し戦争準備をしている場合か?むしろ中国・アジアとこそ結ぶ必要がある。
世界における戦争の継続、日本のアメリカの言いなりの背景には、100年間の「アメリカの世紀」の影響が大きい。しかしアメリカの世紀はたった100年!アジアの時代は数千年なのだ。
アメリカの世界戦略、戦争戦略
アメリカが世界の頂点にのし上がったのは、20世紀の2つの戦争によるものであった。アメリカは2つの世界大戦のほぼ最後に参戦して次の時代の国際秩序を作ってきた。
アメリカの2大巨頭の一人、ウイルソンは第1次世界大戦で、1917年2月のロシア革命によるバランスオブパワーの崩壊により参戦し18年末に戦争は終わる。1年半しか戦争に参加せず、しかも自国は戦場にならず、戦後国際秩序を提案しリードした。
ローズベルトは、第2次世界大戦で、日本のパール・ハーバー攻撃に対する反撃の形で参戦し、4人の警察官(米、英、ソ連、中華民国)を掲げて、国際連合を作り国際秩序をリード、戦後の覇権国、リーダー国となった。
バイデン大統領は、20世紀の2大巨頭に学び、新たな世界秩序を「民主主義対専制主義」で作ろうとした。2大巨頭と違うのは国際連盟、国際連合がいずれも「中立的な国家共同の組織」として始まったのに対し、バイデンは、世界を民主主義と専制主義の二つに分け、衰退しつつある少数者の自分たちを正義としたことだ。これはトルーマン流の冷戦に似ている。だから「新冷戦」とよばれる。圧倒的多数の成長しつつあるアジアや新興国に対抗し、衰退しつつあるG7少数国を正義とする、歴史にも逆らう暴挙で歴史に耐えられないはずだ。
アメリカの世界戦略の特徴は、自国は戦争に参加せず、戦争末期に参戦して次の国際秩序を作るということだ。直接出ていったベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争ではアメリカは常に負けている。だから出ていかずに、現地の紛争と対立をあおり、武器を送る。それがウクライナ戦争、パレスチナ戦争、そして台湾有事だ。
パレスチナ戦争
昨年10月に起こったハマスの攻撃に対し、すでに4万人以上がイスラエルの爆撃によって殺されている。3分の2が子ども、乳幼児、女性たちであり、瓦礫に埋もれた死体は1万人以上残るとされる。8万人を超える負傷者、子ども達がいるが、23ある病院はすべてつぶされ、医師は逮捕拷問され、南部に逃れた人々にも容赦なくイスラエルの爆撃が執拗に繰り返されている。食事や水を求めて並ぶ子ども達や学校をも攻撃している。まさにジェノサイドだ。国連事務総長グテーレスにより緊急に呼びかけられた「即時人道的休戦」に対し、昨年12月153か国、国連加盟国の8割以上が賛成したにもかかわらず、米・イスラエル10か国が反対した。続く安保理でも、15か国中13か国が即時停戦に賛成したが、イギリスは棄権、アメリカだけが拒否権を発動し戦争継続を支持した。
今年1月のグテーレス事務総長の悲鳴に似た即時停戦の呼びかけで国連総会は153か国が即時停戦を決議したが、アメリカは拒否権を発動。さらに停戦交渉を行っていたハマスの最高司令官をイスラエルは殺害した。
ロシアのウクライナ侵攻にあれほど反対した“リベラル”諸国は、あまりにも非人道的なイスラエルやアメリカに、経済制裁や国際的非難を実行しないのか。イスラエルに対して、アメリカは武器を送り続けている。アメリカIT企業は、ウクライナとイスラエルに、AI兵器を送り続けており、アジアの戦争はもっと広範囲でひどくなるので、AI兵器が使われるであろうと述べている(朝日新聞3月末)。
イスラエル問題のそもそもの発端は、イギリスのいわゆる「3枚舌外交」である。第1次大戦末期、フセイン・マクマホン協定でアラブ国家の独立をアラブに約束したにもかかわらず、翌年のサイクス・ピコ条約で英仏ロシアがこの地を分割支配するという植民地的な取り決めを行った。その翌年にバルフォア宣言でパレスチナにユダヤ人国家の建設を約束した。
それらは相互に矛盾しているだけではなく、あり得ないような植民地主義的な条約だ。米英は、戦後の植民地主義からの開放を見越して、中東の石油とアジア・欧州・アフリカを結ぶ地政学的要所に、イスラエルを建国し、アラブ世界にくさびを打ち込んだ。
第2次世界大戦後には、国連で「2国間併存(イスラエルとパレスチナ)」が決議されたにもかかわらず、パレスチナ国家は戦後80年認められないまま、イスラエルが戦争で破壊し入植を続けている。21世紀のいま、「遅れてきた植民地主義」は終わらせなければならない。
ウクライナ問題
ウクライナ問題は、2022年2月24日のロシアの侵攻からではない。そもそもウクライナは、多民族国家であり、既に、2004年のオレンジ革命、2014年のマイダン革命が、西ウクライナ(西欧派)と東ウクライナ(ロシア派)の対立の始まりだ。西欧・アメリカは、西ウクライナを支援。他方で、東部ウクライナの3割を占めるロシア系マイノリティは、自治を要求し独立を宣言。2014年からポロシェンコ大統領が内戦を開始、アゾフ隊などを正規軍に編入した内戦でロシア系1万3000人が死亡。内部対立から始まったという歴史的な認識が必要だ。
2022年のロシア侵攻直後から停戦交渉が始まり、ロシアとウクライナは「中立」に合意し、6月まで交渉は続けられていた。停戦交渉を中断させ戦争を続けさせたのは、イギリスのジョンソン首相とアメリカのバイデン大統領だ。
ゼレンスキーは、当初は停戦交渉に前向きだったが、やがて、戦争を続けるには武器が必要と、世界中に武器を求めて戦争を続けている。当初はウクライナ優勢であったが、徐々にロシア優勢になってきている。戦争継続を支援しているのは、G7および欧州(EUとNATO)だ。中国・インド・グローバルサウスの多くは停戦を要求し、仲裁で動いている。イスラエル・ガザ戦争と同様の構図だ。ロシア・プーチン、アメリカ・トランプは、米ロが話し合えば、戦争は終わると述べている。
ゼレンスキーは大量の武器を要求し続けているが、その半分は他の紛争地域に横流ししている。政権内部の腐敗と抗争も、欧州の「支援疲れ」に拍車をかけている。ポーランドのように最もウクライナを支援してきた国もウクライナの穀物輸出をめぐり国境を封鎖するなど、対立は中東欧全域に広がっている。
アメリカが武器を送らなければ、戦争は終わる。しかし停戦が準備される中、5月にアメリカ議会は、9兆円の兵器をウクライナに、3兆円をイスラエルに送ることを決定。戦争を継続し儲けているのは、アメリカの武器商人だ。
ウクライナ国民の間にも、厭戦気分は高まっている。2万人の脱走者がモルドヴァ国境を通り、西に逃亡している。5月に行われるはずだった大統領選挙でゼレンスキーは勝てない可能性を見越し、大統領選は延期され続けており、ゼレンスキーは任期切れのまま大統領にとどまっている。
次号に続く。(文責:事務局)