共闘の力で
自民党政治サヨナラの大運動を
五十嵐 仁
自民党総裁選で石破茂氏が選出された翌日、9月28日に開催しました東京革新懇学習交流会での五十嵐仁さんの講演の要旨をご紹介します。
歴史的なチャンスが巡ってきました。岸田首相が総裁選への立候補断念を表明したからです。危機に陥った自民党は総裁選でメディアジャックを図り、石破茂新総裁を選出して解散・総選挙での逃げ切りを画策しています。
総裁選でイメージチェンジを狙い、国民の注目を集めて支持率を回復しようというわけです。そのために選挙期間を最長の15日間とし、候補者も過去最多の9人になりました。
しかし、岸田首相の出馬断念の背景には、政権と自民党政治の深刻な行き詰まりがあります。それはテレビでの露出度の増大など小手先のまやかしで乗り切れるほど簡単ではありません。自民党による長年の悪政の積み重ねによるものだからです。
安倍政権から続く菅・岸田という三内閣連続での政権投げ出しはこの国の土台の腐食に原因があり、かつては一流だとされた経済も政治とともに劣化への道をたどってきました。政権担当能力を失った自民党の総裁の椅子に誰が座ったとしても、立て直すことは不可能です。
総選挙で決着をつけるしかありません。日本をぶっ壊してきた自民党政治の罪に対して、今こそはっきりとした罰を与えるべきでしょう。政権から追い出すという形での明確な罰を。
二重の意味での行き詰まり
岸田首相を追い詰めたのは世論の力でした。内閣支持率は昨年暮れに3割台を切り、一度も回復しなかったからです。4月の衆院3補選、静岡県知事選や前橋市長選挙、小田原市長選などの首長選挙でも自民党は連戦連敗が続き、岸田首相はたとえ総裁に再選されても1年以内に実施される総選挙では勝利できないと判断したのでしょう。
このような人気低落の最大の要因は自民党派閥の裏金事件と統一協会との癒着でした。いずれも岸田内閣以前からの組織犯罪です。裏金事件では、それがいつからどのような経緯で、誰が始めて何に使ったのか、いまだに明らかになっていません。再発防止策も小手先のごまかしに終始しました。統一協会と自民党との腐れ縁についても、再調査や実態解明がなされず、問題は先送りされたままです。
岸田内閣は、三自衛隊の統合司令部新設のための改定防衛庁設置法、自治体を戦争に協力させる改定地方自治法、特定秘密保護を産業分野にまで拡大する経済秘密保護法の成立や殺傷兵器の輸出を可能にする次期戦闘機共同開発条約の批准などを強行し、安保政策の転換と大軍拡を推し進めてきました。
「聞く力」は形だけで国会軽視と強権姿勢は変わらず、安倍政治の拡大再生産にすぎません。辺野古新基地建設、インボイスの導入、マイナカードやマイナ保険証の強要、関西万博の推進、米兵犯罪の隠蔽など、民意無視も止まりません。
金権化・右傾化・世襲化という自民党の宿痾(持病)はますます悪化し、岸田政権になってから党役員や大臣などの辞任・解任は約30人に上ります。最近でも、広瀬めぐみ参院議員と堀井学衆院議員の辞職・起訴がありました。持病が全身を蝕むようになっているのです。
私は27年前に『徹底検証 政治改革神話』(労働旬報社)を刊行して、「政治改革」のやり直しを提言しました。このとき政党助成金が導入されたにもかかわらず企業・団体献金が温存され、政治資金の二重取りによって自民党は焼け太りしたのです。そのツケが、今回回ってきたということになります。このとき企業・団体献金や政治資金パーティーを禁止していれば、今回のような裏金問題は起きなかったはずですから。
総裁選で露呈した自民党の劣化
自民党の総裁選では12人が出馬の意向を示し、9人が立候補しました。あたかも派閥の縛りがなくなったかのような印象を振りまき、メディアでの露出度を高める作戦だったと思われます、一見すれば多士済々のようですが、売名のチャンスだと思い「我も我も」と手を挙げたにすぎません。
9人も立候補したにもかかわらず、その主張に大きな違いはなく明確な共通性がありました。誰一人として触れなかったテーマがたくさんあるからです。それは裏金事件の再調査であり、企業・団体献金や政治資金パーティーの禁止であり、統一協会との腐れ縁の断絶という問題でした。
とりわけ統一協会の問題では、総裁選中に組織的な癒着を示す新たな事実が明らかになりました。朝日新聞がスクープしたもので、統一協会や国際勝共連合の会長と安倍首相が総裁応接室で面談し、実弟の岸信夫元防衛相と側近の萩生田光一元経済産業相が同席していました。2013年の参院選公示の4日前で参院選比例候補だった元産経新聞政治部長への支援を確認するものだったといいます。自民党が組織ぐるみで反社会的なカルト集団と癒着していたことを明確に示す新たな事実でしたが、この問題について再調査して関係を断絶する意向を示した候補者は一人もいませんでした。
また、各候補者はアベノミクスの失敗や消費税減税、物価高対策、お米の安定供給などについても口をつぐみ、明文改憲の推進や原発の容認、日米同盟維持など大軍拡・大増税の推進については足並みをそろえています。退陣が決まっている岸田首相が改憲促進を申し送って次期首相に縛りをかけましたが、これに異を唱える人はいませんでした。
岸田政権を支えてきた幹部の無自覚と無責任もあきれるばかりです。茂木敏充幹事長、林芳正官房長官、上川陽子外相、河野太郎デジタル相、高市早苗経済安保相などは、これまでとは異なった政策も打ち出していますが、その多くは野党の政策のパクリで、岸田政権を支えてきたことへの反省は全くありません。
若手とされる小林鷹之前経済安保相は選択的夫婦別姓や同性婚に反対するなど最も保守的な伝統的家族観を示し、小泉進次郎元環境相による解雇規制の緩和など「聖域なき規制改革」も、父親である小泉純一郎元首相が20年以上も前に掲げた「聖域なき構造改革」の焼き直しにすぎません。いずれも時代錯誤であまりにも古い自民党の体質を象徴するものでした。
大きな曲がり角にあり、「新たな戦前」に向かう「衰退途上国」としての日本をどう立て直すのか。国内総生産(GDP)でドイツに抜かれて4位になり、国民1人当たりGDPでは34位、国際競争力でもかつての1位から35位にまで後退している現状からどう抜け出すのか。東アジアの平和と豊かな日本の将来ビジョンを示している候補者も皆無でした。
グローバル・パートナーシップを掲げて地球規模でのアメリカ追随を深め、日米軍事一体化によって防衛(盾)だけでなく攻撃(矛)も担うとする「戦争する国」への変貌と専守防衛の放棄、攻撃的兵器の取得と輸出に前のめりで、米軍の尖兵として戦争に巻き込まれる危険性をどう防ぐのか、全く展望が示されていません。
活路は共闘にあり
「振り子の論理」による「疑似政権交代」を許さず、自民党政治への追撃戦によって政権の座から追い出さなければなりません。そのための唯一の活路は市民と野党の共闘にあります。自民党を政権から追いだすには野党第一党の立憲民主党の議席だけでは足りないからです。
立憲民主党の新しい代表に選ばれた野田佳彦元首相は、一方では消費税減税に消極的で原子力発電の容認や日米同盟機軸などの「現実的政策」を掲げながら、他方では野党の最大化を図るとして「誠意ある対話」を呼び掛けています。自民党を離れた保守中道勢力を引き寄せるためだとしていますが、野党連携のあり方については大きな課題を残しています。
いずれにせよ、自民党政治とサヨナラするためには、野党勢力が力を合わせて追い込むしかありません。改憲を阻止し、分断と裏切りを許さず、反腐敗包囲網を継続しつつ共闘を再建することが野党の側の課題です。
裏金事件と統一協会との癒着は自民党の最大のアキレス腱になっています。総選挙でも主要な争点としなければなりません。野党が一致して自民党を孤立させ、これまで支持していた保守や中間層を離反させる可能性が生まれているのですから。
維新など「第二自民党」のすり寄りや裏切りを許さず、共産党を含む幅広い共闘の再建をめざさなければなりません。裏金事件追及の突破口を開いたのは共産党の機関紙『赤旗日曜版』でしたし、統一協会や国際勝共連合と真正面から対峙してきたのも共産党だったのですから。
この点で、立憲民主党の野田新代表が共産党と政権を共にしないという姿勢を示し、戦争法の違憲部分を「すぐに廃止できない」と表明しているのは大きな問題です。そもそも戦争法への反対は立憲民主党の立党の原点であり、野党共闘の出発点ではありませんか。そこに立ち返ることを求めたいと思います。
市民と野党の共闘では、大きな実績を積み重ねてきた東京革新懇の役割は極めて大きくなっています。過去8年の間、62自治体で40の共闘候補を擁立し、先の都知事選も野党共闘でたたかうことができました。立憲民主党の都連は共闘を否定していません。この経験と条件を活かすことが必要です。
来るべき総選挙は、国政から犯罪者集団を一掃するための貴重な機会となるでしょう。法の網の目をかいくぐって利益を図ったり目的を達成したりする悪弊は政治家や企業経営者を蝕み、不正行為は自衛隊にまで及んでいます。このような歪みを正し、立法府にふさわしい政党と議員を選ぶことでしか、政治に対する信頼を回復することはできないのですから。