2022年12月13日火曜日

大軍拡反対の国民的運動を

 安保関連3文書改定の危険とは?

平和と暮らし破壊する大軍拡反対の国民的運動を

  日本平和委員会事務局長 千坂 純

  日本をアメリカと共に戦争する国へと大転換する安保関連3文書について千坂さんに寄稿していただきました。

  岸田政権は日本の「安全保障」の基本方針となる「国家安全保障戦略」と「防衛計画の大綱」(防衛力のあり方と保有すべき防衛力の水準)、「中期防衛力整備計画」(軍拡の具体的計画と額)の「安保関連3文書」を改定し、これまで憲法9条の下で「保有できない」としてきた「敵基地攻撃能力(反撃能力)」を保有し、軍事費を今後5年間で倍増する計画を16日にも閣議決定しようとしています。

 歴代自民党政府は、憲法9条の下では相手から武力攻撃を受けたとき、初めて防衛力を行使し、防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るとする「専守防衛」の立場を建前とし、「他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器」の保有は「憲法の趣旨ではない」(1959年、伊能繁次郎防衛庁長官)としてきました。こうした制約を取り払い、アメリカとともに他国を攻撃できる軍事力を保有し、それを使えるようにしようというのです。

 政府が「安保関連3文書」作成の「参考」にするとした「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」報告書(1122日提出)には、「反撃能力(※筆者注=敵基地攻撃能力)の保有と増強が抑止力の維持・向上のために不可欠」と明記しました。そして、「今後5年を念頭にできる限り早期に十分な数のミサイルを装備すべきである」としています。さらに、できるだけ長く戦争できる「継戦能力」(弾薬、燃料、医療体制など)を強化し、省庁間の「縦割りを打破」して、大学・民間の科学技術を軍事技術開発に動員。民間の空港や港湾などの公共インフラを軍事利用できる体制を平時からつくり、避難施設(シェルター)を全国で整備。さらに、「防衛装備移転(武器輸出)原則の制約を除去して、殺傷兵器も輸出できるようにする。「防衛力の抜本的強化をやりきるために必要な水準の予算上の措置をこの5年間で講じる」。そのために「国民全体の協力」、「幅広い税目での負担を」求めています。まさに、国力を総動員して、アメリカと共に他国を攻撃し、国土が戦場化することも想定した戦争態勢づくり推進の提言です。

これを土台に進められている自民・公明の与党協議では、123日に「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有で合意しました。報道によればその合意では、「自衛のための必要最小限度」の措置として「他国領域での武力行使」もできるとし、「攻撃対象は『指揮統制機能』も含む。具体的には事態に応じて判断する」としました。しかも「日本が武力攻撃を受けていなくても、相手国が攻撃に『着手』したと判断すれば行使できる。『着手』したかどうかは事態に応じて総合的に判断」するというのです。時の政府が「相手が攻撃に着手した」と判断すれば、他国を攻撃できることになり、国際法違反の先制攻撃に道を開く危険な方針です。さらに、これは集団的自衛権行使を可能にした安保法制(戦争法)にも適用され、日本が攻撃されなくてもアメリカとともに相手国領土を攻撃することが可能になります。 

背景はアメリカの軍事戦略と対日要求 

こうした軍事態勢づくりの背景にあるのは、アメリカの対日要求です。例えば、日本に憲法9条改悪や集団的自衛権行使を求めてきた米国の超党派対日要求グループの提言書「アーミテージ報告」第5次提言(2020127日)は、安倍首相(当時)の下で集団的自衛権を行使を可能にした日本の次なる課題として、「反撃力」の保有を挙げていました。「日米同盟の歴史の中で初めて、日本は、対等な役割を果たしている。日本のリーダーシップを奨励し、より対等な同盟から最大限の価値を引き出すことは重要な課題である」「今後は、役割、任務、能力に関する大きな議論の中で、反撃能力とミサイル防衛が重要な課題となる」と。

この方向に沿う形で、当時の安倍首相は退任間際の2020年9月11日に勝手に「首相の談話」を発表。その年のうちに「ミサイル阻止のための(敵基地攻撃能力保有の)新方針策定を」と菅次期首相に託したのです。しかし、菅首相はそれを果たさぬまま一年で退陣。安倍元首相の後ろ盾で首相になれた岸田首相が、いまその果たせぬ宿願を実行しようとしているのです。肩を並べて米軍と共に戦う「血を流す同盟」をめざしてきた安倍政治の継承そのものです。

そして、202217日の日米安全保障協議委員会共同発表では、「日米両国は戦略を完全に整合させ、…共同の能力を強化する決意を表明」。「ミサイルの脅威に対抗する能力(=敵基地攻撃能力)を含め、国家防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する」ことと「防衛力を抜本的に強化する決意を表明」したのです。いま進められているのは、この対米誓約の実行です。

この共同発表では、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し」「地域における安定を損なう行動を抑止し、必要であれば対処するために協力することを決意した」とも明記。これは、台湾の独立をめぐって米中が軍事衝突した場合、日本も「(米軍と共に)共同で行動する意思を…最高レベルの協議機関で正式に表明したという重大な意味がある」(防衛大学校教授・神谷万丈氏『正論』3月号)のです。

米政府が敵基地攻撃能力の保有・増強を日本に求める背景には、この台湾周辺での軍事態勢強化の思惑があります。米国はこの地域では、中国の中・短距離ミサイル戦力に後れを取っていると認識し、九州から南西諸島、台湾にかけた、いわゆる「第1列島線」沿いに、米軍と自衛隊の中・短距離ミサイルを増強しようとしているのです。この中で米軍は、いま開発中の核・非核両用の陸上配備中距離弾道ミサイルの配備も進めようとしています。また、米海兵隊は、小編成の部隊で島嶼などに着上陸して攻撃の拠点「遠征前方基地」(EABO)をつくり、そこから高機動ロケット砲システム(HIMARS)などで中国の艦艇や航空機を攻撃し、また別の島嶼に移るという作戦構想を進めています。こうした作戦に自衛隊が参加する日米共同作戦計画も策定、それに沿った日米共同演習が頻繁に行われています。

敵基地攻撃能力とは、こうしたアメリカの戦略に自衛隊が組み込まれ、米軍と共に敵を先制攻撃・全面攻撃する態勢をつくるものなのです。それは「日本を守る」どころか、アメリカの戦争に加担し、沖縄・南西諸島と日本を(核)戦場にしていく道だと言わなければなりません。

ミサイル1500発など大軍拡と米軍との一体化

 このために「できる限り早期に十分な数のミサイルを装備する」(有識者会議報告)というのです。アメリカがイラク戦争などで先制攻撃に使ってきた射程1650kmの巡航ミサイル・トマホークを500発購入することをはじめ、長射程ミサイルを今後10年間で1500基以上配備すると報じられています。長射程ミサイルの開発・配備の中心に据えられているのが、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾能力向上型です。現在射程200km程度のものを中国本土に届く1000kmから1500kmの射程へと延伸し、陸の移動式発射台からだけでなく、戦闘機からも水上艦からも、さらには潜水艦からも発射できるようにしようとしています。陸上配備型は量産を開始し、九州・南西諸島に1000発以上配備することを検討しています(読売新聞8月21日)。さらに、事実上、弾道弾ミサイルの機能を持つ高速滑空弾も、射程1000km超にします。音速の5倍以上の高速で低空を飛行する極超音速誘導弾も開発し、射程2~3000㌔をめざす(毎日新聞1125日)。整備費も含めると66兆円の巨費を支出してアメリカから147機購入するF35戦闘機に射程500kmのミサイルを搭載し、F15戦闘機約50機には射程1000kmのミサイルを搭載するなどなど…。

1125日の毎日新聞は、ミサイル配備の第1段階として、射程1000km(12式地対艦誘導弾改良型)のミサイルを南西諸島に配備。第2段階として、「島嶼防衛用高速滑空弾」を含む射程2000kmのミサイルを富士山周辺の陸自駐屯地に。第3段階として、射程3000km程度の極超音速誘導弾を北海道に配備する、配備構想を報じています。

また、128日の日本経済新聞は、こうした敵基地攻撃能力を実際に運用するための米軍との共同運用計画を23年以降に策定し、日米で「反撃能力行使の共同訓練」を20年代半ば以降に実施する方向だと、報じています。

さらに、陸海空自衛隊の部隊運用を一元的に担う「統合司令部」と作戦を指揮する「統合司令官」を新設し、米軍との一体性を強化するとしています(日本経済新聞1029日)。

それはまさに、アメリカの命令と指揮のもとに、自衛隊が米軍と一体となって他国を先制攻撃・全面攻撃する道に突き進む道に他なりません。こうした軍拡が、「日本を守る」どころか、周辺国との核軍拡競争をいっそう激化させ、一触即発の戦争の危険を生み出すことは明らかです。

この狂気の大軍拡を進めるために、防衛省予算を今後5年間で43兆円支出し、2027年度には現在より4兆円増額し、他の軍事関連予算と併せて、軍事予算全体では現在の2倍の11兆円規模にしようとしているのです。そのために国民1人当たり45万円の負担増を押し付ける――これが「安保関連3文書」でねらわれている方向です。岸田首相は防衛省予算4兆円増のうち1兆円を増税で賄う方針を示しましたが、他の「歳出改革」や「決算剰余金の活用」などの財源案も実現性の根拠の乏しいもので、国民のさらなる負担増になることは必至です。

 この大軍拡路線に反対し、憲法にもとづく平和外交を進める日本をつくる国民的運動をつくり出すことが、いま強く求められています。

 

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