核兵器禁止条約を力に、2021年を廃絶の飛躍の年に!
日本原水協事務局次長
土田弥生
禁止条約の力
2017年7月7日、国連での交渉会議を経て、禁止条約が採択されました。この条約は、核兵器の製造、取得、保有、使用、威嚇、開発など、あらゆる活動を禁止しています。
核保有国や「核の傘」の国は、禁止条約が発効しても、それに加盟していないから拘束されないと言っています。確かに技術的にはそうですが、この国際法の誕生は、核兵器は違法であるとの規範を強め、政治的にも道義的にもすべての国の行動を縛るものです。
それが証拠に、禁止条約の批准国が50カ国に達しようという時、米国政府は各国に手紙を出し、批准を取り下げるよう圧力をかけました。この条約の発効は保有国にとって脅威なのです。
広島の被爆者セツコ・サーローさんが言ったように、まさに「核兵器の終わりの始まり」が始まるのです。
この条約は122カ国の賛成で採択されました。その後、オーストリアなどを中心に「核兵器禁止条約」の決議が国連に提出されていますが、2020年の国連総会では、130カ国が賛成し採択されました。署名や批准の国が一つ一つ増えることによって、核兵器は世界に必要ないというメッセ―ジを明確に発しているのです。この多数派の流れは、核保有国や核の傘の国を包囲し、核兵器のない世界の実現へ押しとどめることができない大きな力になっています。
現在、核兵器をめぐり、人類は生存の危機に直面しています。その背景には、米トランプ政権が、単独行動主義を取り、地球温暖化に関するパリ協定からの離脱を皮切りに、中距離核戦力全廃(INF)条約、イラン核合意などから離脱し、これまで国際社会が粘り強く築き上げてきた軍備管理・軍縮の枠組みというものが破壊されてきたことがあります。さらに、米ロ間、米中間での対立の激化、軍備競争の再燃は、冷戦の再来と言われています。
禁止条約が採択された2017年当時は、北朝鮮の核兵器をめぐって、北朝鮮と米国が核兵器のやり取りも辞さずとの構えで、核戦争の瀬戸際まで緊張が高まりました。国連や世界の多数の国々、市民社会は、禁止条約を採択し、非核平和の方向に世界の舵を切ったのです。
核兵器の人道的結末イニシアチブ
禁止条約の推進力となったのは、「核兵器の人道的結末」イニシアチブと呼ばれるものです。この動きは、2010年NPT(核不拡散条約)再検討会議の最終文書での「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果を引き起こすことに強い懸念を表明し」の言及を皮切りに、政府レベルで起こりました。2013年から14年、ノルウェー、メキシコ、オーストリアで政府主導の核兵器の人道的影響に関する国際会議が開かれ、以下のことが導き出されました。
「意図的であれ、事故であれ、いかなる核兵器の使用は、国境を越え、地球全体に壊滅的な影響を与える。人間の命や健康、環境、気候、食料、経済活動などに長期の取り返しのつかない影響を与える。そして、それを救済できる国家の能力も国際機関もない」。
最後のオーストリアの会議で、「これだけの非人道的な大量破壊兵器を禁止する法律がない、この法的ギャップを埋めよう」との提起がなされ、この流れで条約の交渉会議の開催、採択に至ったのです。
このプロセスの中で、市民社会は重要な役割を果たしました。特に、被爆者は自らの被爆体験を語り、核兵器の非人道性を鋭く告発しました。国連や各国政府、世界の市民たちが協力して、禁止条約を作ったのです。
核兵器禁止条約の発効、すなわち、核兵器が禁止されるもとで、廃絶に向けたたたかいは新たなステージに入ります。焦点は、核兵器に固執する核保有国と「核の傘」の国でのたたかいです。2020年の国連総会第一委員会や核兵器廃絶国際デー(9月26日)の国連ハイレベル会合では、「核抑止は安全保障を強化しない。この神話を遂に終わらせようではないか。核兵器が存在する限り、すべての国の平和と安全は絶えず脅かされる」とのよびかけがなされました。核抑止力論とのたたかいです。核抑止という言葉を聞くと、何か難しい理論のようですが、これは「核兵器で平和と安全は守れない」ということを、いかに国民に広く知らせていくかということで打破できるものです。
被爆国にあるまじき日本政府の態度
菅政権の核兵器禁止条約に対する態度は、安倍前政権そのもの、米国の「核の傘」依存一辺倒の被爆国にあるまじきものです。
菅首相は、政権発足直後の所信表明演説で、核兵器禁止条約に一言も触れず、参議院の代表質問で、日本をとりまく「安全保障環境」の悪化を口実に、抑止力の維持・強化を強調し、核兵器禁止条約に「署名する考えはない」と背を向けました。
一方で、「世界で唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶をリードする」、非核国と核保有国間の「橋渡しをする」を看板にし、欺瞞的な態度をとっているのです。
日本決議にきびしい批判
政府は「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話」と題する決議を2020年の国連総会に提出しました。それに対して、非核国の政府だけではなく、核保有国、核依存国の政府からも批判を受け、その欺瞞的態度が破たんしています。
この決議の国連第一委員会の採択状況は、賛成139、反対5、棄権33(昨年と比べて賛成国は9減。反対は4、棄権は7増)。会議では日本決議に対して、核兵器禁止条約への言及がない、NPT条約の合意内容の改ざんや弱まりがある、圧倒的多数の国と市民社会の要求である「NPTの核軍備撤廃の義務や合意の履行」から「履行」が削除されていることについて、批判が相次ぎました。非同盟のリーダー国であるインドネシア、マレーシアなどが賛成から棄権、NATO加盟国のベルギー、ドイツ、カナダ、ノルウェー、オランダ、核保有国のフランスも賛成から棄権に回りました。
国連総会の採択では、賛成150まで戻したものの、賛成国は激減し、共同提案国も半減、日本は信頼を失うばかりです。これが、被爆国でありながら、核保有国の代弁者になり下がった日本政府のぶざまな姿です。被爆国日本への信頼を回復するためにも、今求められていることは、核兵器禁止条約を支持し参加することです。
日本政府は核兵器禁止条約に署名・批准を
日本原水協は10月29日、日本政府に核兵器禁止条約への署名・批准を求める署名を提唱し、広範な共同呼びかけ人とともに、署名キャンペーンをスタートさせました。政府を禁止条約に参加させる圧倒的な世論を築くことが目的です。
この活動は、国際的にも国内的にも重要な意義を持つものです。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は日本が核兵器禁止条約に加われば、「世界にとてつもない衝撃を与える。その決断は、核保有国の姿勢を擁護している他の国々が核兵器を拒絶する引き金になる」と、その国際的意義を述べています。
禁止条約に参加する日本の実現は、アメリカの核戦略に組み込まれた日本の安全保障政策を転換し、アジアの非核平和の確立にとって極めて重要です。
現在、南シナ海、東シナ海をめぐる米中対立、覇権争いは北東アジアをはじめアジア・太平洋全体に危険をもたらしています。日本はアメリカの対中戦略に加担し、軍事演習にも参加。この流れの中で、菅政権は先制攻撃=「敵基地攻撃」体制をつくる大軍拡をすすめようとしているのです。
アメリカの核兵器で日本と国民の平和と安全は守れません。この声を日本の隅々まで広げなければなりません。世論調査によると、国民の72%は、日本は禁止条約に参加するべきだと答えています。署名の共同呼びかけ人も、田中真紀子元外務大臣や音楽家の坂本龍一さんなど、幅広い著名人136人が応えてくれました。オンライン署名でも10日間で4万2000筆を超えるなど、大きな反響があります。
この署名にはアジアから見た意義もあります。アジアで禁止条約に反対している非核保有国は韓国と日本だけです。禁止条約への日本の参加は、北東アジア、ひいてはアジアの非核平和の確立にとって大きな貢献となります。アメリカのジャーナリストボブ・ウッドワード氏は、その著書で、「アメリカは北朝鮮が核攻撃してきた場合に80発の核で報復する」とのシナリオを持っていたことを明らかにしました。
核兵器のない世界・非核平和のアジアの実現に真に貢献する日本を実現することは、日本の運動に課せられた責務です。
2021年を飛躍の年に
2021年には、コロナで延期されたNPT再検討会議が開かれます。核兵器禁止条約の発効を受け、第一回締約国会議も開催される予定です。禁止条約を力に、核廃絶の飛躍の年にしようではありませんか。
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