2025年10月1日水曜日

孫崎享さんの講演

 近づく覇権主義国家アメリカの終焉 ①

 日本の国益を損なう対米従属

 

元外務省国際情報局長 孫崎 享さん


920日に羽村市で開催された「第16回横田基地もいらない!沖縄とともに声をあげよう 市民交流集会」で講演された孫崎享さんの講演の要旨を、主催者の了解を得て2回に分けてご紹介します。


政界・官界が構造的にアメリカ追随

 日本の安全保障を中心に話をさせていただく。

 日本は、長い間、米国に追随する体制をつくってきた。特に20年ぐらい前から、小泉政権、安倍政権で、アメリカに追随することだけが外交・防衛になってきた。アメリカが言うことがおかしくとも、アメリカに追随していれば日本の安全は守れると多くの国民も思ってきた。

 高市さんはスパイ防止法を成立させたいと言っているが、今回、自民党の総裁選の候補者を見ると、小泉、高市、林、小林、茂木、みんなアメリカに行っている。国民民主党の玉木さんもアメリカ留学している。アメリカに行けばアメリカのスパイと言うわけではないが、5人も行けば一人ぐらいは工作されている。自民党だけではない。いま勢いを持っている参政党、トランプ支持者のカークという人が射殺されたが、直前に参政党の集会に来て講演している。アメリカに追随することに疑問を持たずいる。

いま世界は変わりつつあり、アメリカの覇権が崩れてきている。その責任の一端はトランプにあるが、根底にある経済が変わってきている。

世界中を見渡すと、アメリカに追随していれば安全だ、繁栄すると強い確信で大多数の国民が思っている国は日本以外にない。それだけ激しく日本の言論界が牛耳られ、政界、官界が構造的にアメリカに追随する国になっている。

 19459月の降伏文書を読むと、連合国最高司令官が出す命令はすべて実施すると書かれている。故にアメリカ追随は我が国の国是みたいなものだった。しかし、世界は大きく変わってきている。

 

アリソン「一極支配は終わった」

アメリカハーバード大学にアリソンという教授がいる。安全保障の学者として第一人者となっている。クリントン政権の国防次官補になり、歴代国防長官の顧問を務めている。その人がハーバード大学のケネディースクールをつくり初代院長となった。自民党総裁候補の林、小林、茂木、国民民主党の玉木、彼らは国際通だと言っているが、ケネディースクールで勉強している。

 アリソンが何を言っているか、冷戦の時代、アメリカの勢力圏とソ連の勢力圏があった。勢力圏というのは他国に服従することを求め、支配的影響を与える空間だと言っている。同盟みたいなそんな生易しいものではない。アメリカなどの勢力圏に入ったら、超大国に言われることが続くのが勢力圏だ。冷戦の終結とは、世界全体がアメリカの実質的な勢力圏になったことだ。

アリソンは「今、大国間競争の時代だ。一極(支配)は終わった。複数の勢力圏があり、その全てが米国のものでないという事実を受け入れるべきだ」と語っている。

 日本の首相となろうという人達が、馳せ参じてケネディースクールで勉強していた。以前は、アメリカに言われるままにやる、それをしなかったら指導者は追放される。あるいは国は制裁を受ける。日本では、アメリカの言われるままにしなかった首相は必ず排除されている。

 

影響力ます上海協力機構

 先ほど述べたように世界は変わってきている。一つは先日、中国天津で831日から91日に開催された上海協力機構の首脳会議。習近平、プーチン、インドのモディ首相がにこやかに映っている映像を見た。インドは長い間、西側の一員として共産主義に対抗する姿勢を取ってきたが、アメリカが好ましくないことを重々承知しながら、参加した。

 

東京革新懇事務局提供資料【上海協力機構・天津宣言】日本貿易振興機構(ジェトロ)の「ビジネス短信」を記事の最後に掲載。 

上海協力機構  25回首脳会議参加者

加盟国 

中国・習近平総書記 

ロシア・プーチン大統領 

カザフスタン・トカエフ大統領

キルギス・ジャパロフ大統領

タジキスタン・ラフモン大統領

ウズベキスタン・ミルジヨエフ大統領

インド・モディ首相

パキスタン・シャリフ首相

イラン・ペゼシュキヤーン大統領

ベラルーシ・ルカシェンコ大統領

オブザーバー

モンゴル・フレルスフ大統領

 対話パートナー

アゼルバイジャン・アリエフ大統領

アルメニア・パシニャン首相

エジプト・マドブーリー首相

ネパール・オリ首相

ミャンマー・フライン大統領

トルコ・エルドアン大統領

モルディブ・ムイズ大統領

カンボジア・マネット首相  

ゲスト

インドネシア・スギオノ外務大臣             

マレーシア・イブラヒム首相

ベトナム・チン首相                    

ラオス・シースリット書記長                    

トルクメニスタン・ベルディムハメド大統領

 

抗日戦勝80年記念行事と日本の戦争犯罪

 93日に北京・天安門で開催された抗日戦勝80年の記念行事で、習近平、プーチン、金正恩の3人が天安門で姿を見せた。ここに鳩山由紀夫氏が出席した。かなりのマスコミは国賊的行為だと非難した。 

2次世界大戦の19459月に日本は降伏文書に調印。1951年サンフランシスコ講和条約に調印し日本は独立した。サンフランシスコ講和条約で、日本の戦争犯罪がどのように書いてあるか。ほとんどの人が知らない。都合の悪いことは知らされてない。日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾するとしており、そこには南京虐殺の話も入っている。政治家が靖国神社に行って永久戦犯合祀に敬意を払うというのは、極東裁判、サンフランシスコ講和条約に違反しているということだ。私たちは戦争に負け、不公平な内容も飲まされたかもしれないが、それを土台に日本は戦後復興した。

 そしてその後、日中共同宣言で、「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」。これは田中角栄首相と大平外相が約束してきた。石破さんが、戦後80年の談話を発表することに、自民党は寄ってたかって発表させないとする。石破さんが伝えようとしたのは、戦争の悲劇を考えて、私たちは反省するという言葉を言いたかった。その反省をさせないというのが今の日本だ。私は石破さんに会ったこともないし、素晴らしい人だとも思っていない。もっと素晴らしい政治をやってほしいと思う。地位協定を改定しようということは首相になる寸前まで言っていた。それをさせない。戦争を反省することはさせない、それが今の日本だ。

 

アインシュタンらの呼びかけ

1952年アインシュタインら12人のノーベル平和賞受賞者が声明を出した。もはや膨大な破壊力を考えたら、人類は核兵器を使えない。兵器をもって相手国を倒すという戦いはもう終わった。これからは、如何に和解するか、平和の道をさがすことが人類の道だといった。これは二つの意味を持っている。日本は被爆国だ。核兵器を使わせない、その運動を日本が中核的にやっている。それはそれでいい。もう一つ、アインシュタイン等が世界に呼びかけたのは、これから他の道を探すということだ。武力に頼らず、いかに平和の道をさぐるか、それを探すのが人類の使命だと言った。つまり、私たちが被爆国として二度と核兵器を使わせないということを本音で担うなら、すべての国際紛争に対して、どうしたら解決の道があるのか、それを探す時代に来ているのではないか。

 

アメリカの軍事戦略に従う無謀な対中攻撃戦略

 今、日本では、武器でたたかえと言うことが正論のように扱われている。参政党の東京の議員は、「核兵器を持つことが日本の一番安い安全保障だ」と言っている。それをおかしいと思っていない。これは沖縄の問題もそうだし日本の体制もそうだ。中国のミサイルを抑止するんだと沖縄南方諸島にミサイルを配備する。中国は3000発ぐらいミサイルを持っている。そのうち何発破壊できる能力があるのか、どこにミサイルが配備され、どのように戦えば破壊できるのか、そんなこと聞いたことない。

 沖縄にミサイルを配備して中国を攻撃できる体制をつくる。これはアメリカの戦略で考えれば正しい。アメリカ本土からミサイルを撃てば、アメリカ本土にミサイルが飛んでくる。そのかわりに日本から飛ばせば中国はどう反応するか。

日米安全保障一体化は、アメリカの判断からすれば合理的判断も日本の立場からすれば合理的でないことが多々ある。日本が北朝鮮でも、ロシアでも、中国でも、圧倒的多くのミサイルを持っている国に、この小さい日本が軍事力で対抗しようとしたら破壊されてしまう。東京、大阪、福岡の3カ所に核攻撃されたら日本は終わりだ。

 中国は、17以上の人口1000万人都市がある。軍事的にたたかって勝てる可能性は無い。なのになぜ躍起になって軍事力を強めるのか。答えは、日本が我が国の国益で考えるのではなくて、アメリカの国益でものを考えている。参政党、国民民主党は自民党と同じだ。申し訳ないが野田さんも同じだ。そして、我々は平和的な道を追及する。考えればどこかに必ず解決の道はある。

文責 東京革新懇事務局