アメリカの世界戦略の破綻と、市民・グローバルサウスによる平和 その②
今こそ東アジアの共同を広げよう
青山学院大学名誉教授世界国際関係学会アジア太平洋前会長
羽場久美子
横田市民集会での羽場久美子さんの講演の後半部分の要旨をご紹介します。11月号に掲載しました講演前半部分は大変好評でした。
自民党政権の腐敗と全国へのミサイル配備
裏金問題が自民党全体に広がり、3つの補選で自民党は候補を出さないか敗北し、立憲民主党が3地域を制した。防衛省の不祥事も明らかになっている。
ミサイル配備は沖縄・琉球列島から、四国、青森、北海道まで、日本全国がアジア大陸に対する戦争のフロントになりつつある。
中国脅威論で、日本全国にミサイル配備して、戦争が始まれば、国民が犠牲になる。日本の利益にならない。日本の民主主義を、市民から、地域から、取り戻し、絶対に戦争させてはならない。
台湾有事と日本の位置
アメリカは、自らは戦争しない。東アジアでも中国と戦争するのは、台湾、日本だ。台湾は戦争しないと言っている。日本は目と鼻の先の巨大経済大国、中国に特攻隊のように飛び込んで玉砕するのか?
アメリカの東アジアの同盟戦略は4つ。
①日米豪印4カ国の軍事同盟QUAD(クワッド)、②QUADプラス韓国、ベトナム、ニュージーランドプラス台湾、③米英豪のAUKUS(オークス)、④ファイブアイズ(5つの目);米英豪加ニュージーランド。これにはヨーロッパ大陸が入っていない。米英アングロサクソンは、ヨーロッパ大陸:独仏伊なども信用していない。
インドはアメリカの戦略を見抜いて、QUADもやる気がない。しかしどちらにもつける戦略をとっている。ASEANも同様だ。アメリカにべったりで自国利益も守れないのは日本だけだ。
日本は、衰退するアメリカとの軍事同盟により近隣国の中国・北朝鮮・ロシアに対抗するのではなく、近隣国と共に平和と経済的安定、繁栄を作ることが国益にかなう。国民も犠牲にしない。
自治体、市民の重要性!
いま議会にもかけず閣議決定で、地方自治体の反対も無視し、沖縄、九州、四国、新潟、青森までミサイルが着々と配備されている。地下司令塔を、2024年までに全国10カ所に作る計画が政府から地方自治体に通達されている。いまほど自治体が重要になっているときはない。市民の命の危機を守るのは自治体だ。沖縄のように、「今日のガザは明日の沖縄」「今日のガザは明日の日本」と考え、自治体と市民から平和を作る、世界に向けて日本は「平和立国」、憲法9条がある国なのだということを伝えていくべきだ。
日本列島はアジア大陸の極東に散らばる幾千もの島々だ。しかし地図を90度西に倒すと明らかな様に、日本列島は大陸から太平洋に出ていくのを封じ込める壁・盾となる。3千キロに渡る壁が、北はロシア極東地域から北朝鮮、北京・上海・福建省という中国最大の経済圏から太平洋に出るのを押しとどめる(アメリカにとっての)自然の要塞になっている。日本列島の使い道は、中国・ロシアが海に出ていくのを封じ込める役割なのだ。
しかし全国各地に配備されつつある数百基のミサイルを大陸に向けて撃ち出したとしても、5倍返しどころか10倍返し以上の形でミサイルが日本列島に降ってくる。そんなことはやれないとすると何のためのミサイル配備か。最初から負け戦だ。
2023年1月の日米安全保障協議委員会(2+2)で、日本は従来のアメリカが矛、日本が盾という専守防衛から盾と矛になることを自ら提案し、米に歓迎された。アメリカに飛んでいくミサイルを日本が撃ち壊す役割を負ったのだ。アメリカが日本を守るのではなく、日本がアメリカを守るのだ。
韓国の研究者によれば、台湾有事と朝鮮半島有事が同時に起こる(起こす)可能性があるといわれている。
それは、戦争でなくとも、「事故」としても起こりうる。「事故」であっても、東アジア経済圏は壊滅する。チェルノブイリから35年後(当時)、スウェーデンやノルウェーの野生のトナカイの肉から致死量の放射線が出て欧州で大問題となった。距離はチェルノブイリから1200km以上だ。これを東アジアに当てはめるなら、例えば北朝鮮のニョンビョンの核施設が何らかの事故でチェルノブイリ級の爆発が起これば何十年もの間、ほぼ1200キロの領域が汚染されてしまう。東アジアは狭い。網走、沖縄を除く日本列島のほぼ全域、北のウラジオストク、南北朝鮮、北京・上海・福建省、即ち東アジア経済圏のほぼ全域が1発の核事故で数十年にわたり汚染されてしまう。
地政学的に見れば、この地域の放射能汚染は、米欧に何の影響もない。イギリスの得意とする「漁夫の利」を得るには、東アジアでの戦争は、極めて欧米に有利だ。戦争の危険、甚大な被害、東アジア経済圏の崩壊。我々はそれでも中国や北朝鮮に対抗すべきだろうか?
中国・インドの地域協力
他方で、中国やインドでは今何が起こっているか。この1年間、欧州、インド、アセアン、中国、韓国の各国を回った感想として、これらの国は欧米の軍事化とは異なり、対照的なことをやっている。
アジアの経済地域協力だ。中国では「一帯一路(BRI)」で西安を起点に欧州に向けて地球を半周する100年経済開発計画を企画し、インフラと投資が行われてきた。
今年が一帯一路10周年で、150カ国の加盟国中140か国、30関連団体、1万人を超える人々が北京に集まった。カンボジア、ラオス、スリランカ、ミャンマーなどの貧しい国々の大使たちが、「一帯一路」により道路や鉄道、橋などインフラ整備がなされたことに深く感謝していた。
東京でも一帯一路10周年の国際シンポが開催された。中小企業、経団連、三菱UFJ銀行、メデイア、建設業界などが参加し「我々も一帯一路に参加したい。一帯一路の起点を日本にしたい」と言っていた。中国との連携は日本も経済回復させるのだ。
昨年、今年と中国北京大学・精華大学、中国社会科学院からの招聘講演に際しては、中国側から、「上海、福建省から経済界の若者を派遣できる。自治体間の協力により、日中を平和と繁栄に向け再建しよう!沖縄と中国は歴史的友好関係がある。沖縄の人たちと交流し日中友好を」と訴えられた。また日中3千人の若者交流や民間交流も呼びかけられた。
インドも14億の民を抱えながら、国の東西の貧しい国々と連携して地域協力を推進している。特に周辺はアフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、スリランカ、(インドと抗争中の)パキスタンなど、貧しい小さな国が多い。しかしインドはこれらの国の若者を「南アジアSAARC大学」に迎え無料でIT/AI・医療や国際関係の教育をし学位を与えて戻している。彼らは帰国後、政府官僚や経済界のトップとなり国を興し南アジアを発展させている。ASEANも10か国で広範な地域協力と「優れた統治Good Governance」を進めている。
地域・自治体外交の重要性。沖縄を平和のハブに!
日本で先進的なのは沖縄だ。「今日のガザは明日の沖縄」「沖縄を平和のハブに!」を掲げ、それを中韓台湾、また国内でも九州、四国、神奈川、石川、北海道などの自治体と結び、大きな動きに発展している。それを政府と司法が一体となり、沖縄の平和の動きと辺野古新基地見直し要求を違法として弾圧。日本は三権分立も確立していないことが明らかとなった。昨年11月には「新たな戦争NO!」を掲げた1万人を超える基地反対・平和の大集会が、全国から人々が集まり、小さな魚が群れをつくって大きな魚を追い払う「スイミーバイ」を形作り、大成功を収めた。沖縄・琉球は、東南アジア、台湾、中国、韓国との距離が近く、それらの国と戦争せず、文化交流、経済交流を実現してきた歴史がある。沖縄は、東アジア20億人の巨大な経済ネットワークの中心になれる。
多民族・多彩で豊かな文化を持つ沖縄の美しい島々が、米軍や自衛隊のミサイル基地、地下施設で汚染されようとし、他方で米軍はグァムに撤退している。米軍に代わって近隣国と戦争をする役目は返上するべきだ。軍事費43兆円は、逼迫している国民生活の悪化、少子高齢化対策などに使うべきだ。
自治体から、市民から、若者から、平和外交を
沖縄の玉城知事らは、自治体、市民から平和を作る、命を守り繁栄を作るという動きを強めている。沖縄の自治体外交、市民外交をぜひ日本全国に広げていただきたい。
昨年NEAR北東アジア自治体連合に招聘されて講演をさせていただいた。現在、6か国(日本、中国、韓国、ロシア、モンゴル、北朝鮮および、ベトナム・ホーチミン市)で、現在81+日本3自治体が参加する(沖縄、山口、宮城の3自治体が今年オブザーバー参加。沖縄は来年正式参加)自治体協力関係が存在する。ASEAN10か国のような対話と協力組織を自治体レベルで実現している。まさに下からの民主主義的平和・文化組織だ。現在、日本からも14自治体が参加しているが、ぜひこれに多くの自治体が参加し、若者交流、文化交流、環境問題、経済問題、平和の問題で、交流してほしい。
注:日本からの参加は青森・秋田・山形・新潟・富山・石川・福井・京都・兵庫・鳥取・島根の各府県
また、沖縄を先駆的事例として、各自治体から、ぜひ平和と繁栄を作っていだきたい。近隣国と結び、「東アジアでは絶対に戦争をしない」動きを、沖縄・広島・長崎など各自治体から「非核地帯宣言」を広げてほしい。
「即時停戦と平和」を要求するグローバルサウス、成長するアジア、アフリカ、ラテンアメリカと結び、近隣諸国・市民とのホットラインをつなげよう。
6か国・81+3自治体にさらに自治体を追加し、学生、老若男女、老いも若きも、積極的に近隣国に出かけ友人を作り、自治体から、メディアから、市民から、平和を作り出そう。
このまま放置していれば、台湾有事、北朝鮮での紛争、「事故」が起こる可能性がある。偶発的な事件を引き金に戦争に進めないため、またそれを避けるためにも、戦争のない、平和な未来を、私たち市民の手で着実に作っていく必要がある。それが本当に憲法を守り、平和をつくる、戦争をさせないことだ。皆さんも、一人一人の場で平和と安定と、対話と共存、幸せを実現していきましょう。