2024年10月30日水曜日

羽場久美子講演 世界の大転換期―アメリカの衰退と戦争

 アメリカの世界戦略の破綻と市民・グローバルサウスによる平和①

世界の大転換期―アメリカの衰退と戦争

        青山学院大学名誉教授

       世界国際関係学会元副会長 羽場久美子

 


 105日に福生市民会館で開催された横田市民集会での羽場久美子さんの講演の要旨を2回にわたりご紹介します。

 

いま、世界は大転換期だ。世界中で戦争が起こっている。なぜ、この21世紀、人権の時代に戦争が起こっているのか。

戦争をとめようとする国際世論と国連は動いている。国連の78割の国々が、パレスチナ戦争およびウクライナ戦争の即時停戦に賛成している。国連は機能している。それをただ1票の拒否権で、停戦を押しとどめ、紛争地に武器を送り続けているのがアメリカだ。

いま、日本列島も、沖縄から北海道まで、中国に向けてミサイル配備を進めている。アメリカは2022年に、6年以内に中国が台湾に侵攻すると煽っている。なぜか?このままではアメリカのGDPが中国に追い抜かれてしまうからだ。アメリカの都合で、東アジアで戦争をさせてはならない。

なぜ戦争か?そのからくりを考えるために本日講演をさせていただきたい。

 

データで見る大転換期の世界と私たちの課題

世界をリードするアメリカは、なぜ武器を世界中に送り続け、戦争の火種を作っているのか。その背景をデータで見たい。重要なのは、世界人口の変遷とGDPの推移だ。

<データ11に人口。国連事務次長を務めた明石康氏の国連研究会のデータによれば、2100年に世界人口は、アジアとアフリカで8割になる。米欧は1割を切るとされる。しかし現在でもアジア・アフリカ・ラテンアメリカを合わせると人口は8割。米欧はすでに15%にすぎない。重要なことは20世紀においては人口の多さは貧困の象徴だった。しかし21世紀IT/AIの時代に、教育を受けた人口はIT人口になりうるということだ。中国のIT人口は10億、インドのIT人口は65000万。米欧日のIT人口8億とすると中印は米欧の2倍のIT人口。米欧による軍事力支配は早晩終わりになる。

<データ22に経済の歴史的長期波動。世界のGDPを西暦0年から2030年まで世界最速のメガコンピューターで数理統計解析した人物がアンガス・マディソンだ。この統計は40数か国に翻訳され経済統計ブームを巻き起こした。それによれば西暦0年から1820年まで1800年間、世界経済の過半数を占めていたのは、インドと中国。欧米は1820年から2030年までの200年しか世界経済の中心を担っていない。それも植民地の収奪により成長した。統計では2030年には中国がアメリカを抜くと2007年に試算した。それが現実になりつつある。

<データ3中国のGDP2010年に日本を抜き、この14年間で日本の4.5倍になった。PPP(購買力平価)ベースのGDPでは、既に中国は2014年にアメリカを抜いている。世界銀行やIMFは、PPPベースのGDPは、20年後、30年後の名目GDPになると予想している。 

<データ4アメリカ最大の金融機関ゴールドマン・サックスによる将来のGDP予測が202212月に出た。それによると2050年には中国がアメリカを抜き1位(実際には2035年といわれる)、インドがアメリカに迫り3位、日本はインドネシアやドイツに抜かれ6位に転落。既に日本はドイツに抜かれ、来年・再来年にはインドに抜かれる。2075年には日本は12位まで転落、中国やインドが12位、アメリカ3位、インドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルがトップ8に入る。一人当たりGDP2024年世界 ランキングでは、日本は、すでに韓国、スペイン、スロベニアに抜かれ38位に沈んでいる。

 20世紀のアジアは貧困のアジアだった。21世紀のアジアは、経済成長とAI教育先端のアジアだ。ITAIの成長により、勤勉でモノづくりにたけたアジアは、あと2050年で世界の頂点に躍り出る。それがアメリカに脅威を与えている。

 経済で太刀打ちできなくなったアメリカが、世界各地で戦争を起こし、自らは戦わず、地域紛争を代理戦争に変えて、アメリカの支配を維持しようとしている。Make America Great Again!これが世界中で戦争が起きているからくりだ。トランプが政権についても、ウクライナ戦争は止まるかもしれないが、イスラエルの影響力は強まる。中国への弾圧も強まる。

イスラエルは、米英欧が19世紀にやってきたことの焼き直しであり、遅れてきた植民地政策だ。米英がイスラエルを支持しているのは、18世紀、19世紀に同様のことを米欧は、アメリカ、オーストラリア、ラテンアメリカ、アジアの原住民に対してやってきたからだ。しかし21世紀にはそれはもう許されない。

<データ5最後のデータは、日本の人口問題。総務省のデータによると、日本の少子高齢化対策の遅れの結果、あと40年で65歳以上の人口が全体の4割を超え、労働人口が半分になる。2100年に「8000万人国家」、うち半数が65歳以上だ。

人口問題は、高齢者就労、女性就労、移民受け入れの問題と直結する。観光だけではやっていけない。住み着いてくれる移民をきちんと人権を守ってもてなさねばならない。これが50年で日本のGDPは世界12位になるという実態だ。

そうした中、1000兆円の負債を抱えつつ、5年で43兆円を超える軍備を大増強し、ミサイル配備を全国に展開して、中国に対し戦争準備をしている場合か?むしろ中国・アジアとこそ結ぶ必要がある。

世界における戦争の継続、日本のアメリカの言いなりの背景には、100年間の「アメリカの世紀」の影響が大きい。しかしアメリカの世紀はたった100年!アジアの時代は数千年なのだ。

 

アメリカの世界戦略、戦争戦略

アメリカが世界の頂点にのし上がったのは、20世紀の2つの戦争によるものであった。アメリカは2つの世界大戦のほぼ最後に参戦して次の時代の国際秩序を作ってきた。 

アメリカの2大巨頭の一人、ウイルソンは第1次世界大戦で、19172月のロシア革命によるバランスオブパワーの崩壊により参戦し18年末に戦争は終わる。1年半しか戦争に参加せず、しかも自国は戦場にならず、戦後国際秩序を提案しリードした。

ローズベルトは、第2次世界大戦で、日本のパール・ハーバー攻撃に対する反撃の形で参戦し、4人の警察官(米、英、ソ連、中華民国)を掲げて、国際連合を作り国際秩序をリード、戦後の覇権国、リーダー国となった。 

バイデン大統領は、20世紀の2大巨頭に学び、新たな世界秩序を「民主主義対専制主義」で作ろうとした。2大巨頭と違うのは国際連盟、国際連合がいずれも「中立的な国家共同の組織」として始まったのに対し、バイデンは、世界を民主主義と専制主義の二つに分け、衰退しつつある少数者の自分たちを正義としたことだ。これはトルーマン流の冷戦に似ている。だから「新冷戦」とよばれる。圧倒的多数の成長しつつあるアジアや新興国に対抗し、衰退しつつあるG7少数国を正義とする、歴史にも逆らう暴挙で歴史に耐えられないはずだ。

アメリカの世界戦略の特徴は、自国は戦争に参加せず、戦争末期に参戦して次の国際秩序を作るということだ。直接出ていったベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争ではアメリカは常に負けている。だから出ていかずに、現地の紛争と対立をあおり、武器を送る。それがウクライナ戦争、パレスチナ戦争、そして台湾有事だ。

 

パレスチナ戦争

昨年10月に起こったハマスの攻撃に対し、すでに4万人以上がイスラエルの爆撃によって殺されている。3分の2が子ども、乳幼児、女性たちであり、瓦礫に埋もれた死体は1万人以上残るとされる。8万人を超える負傷者、子ども達がいるが、23ある病院はすべてつぶされ、医師は逮捕拷問され、南部に逃れた人々にも容赦なくイスラエルの爆撃が執拗に繰り返されている。食事や水を求めて並ぶ子ども達や学校をも攻撃している。まさにジェノサイドだ。国連事務総長グテーレスにより緊急に呼びかけられた「即時人道的休戦」に対し、昨年12153か国、国連加盟国の8割以上が賛成したにもかかわらず、米・イスラエル10か国が反対した。続く安保理でも、15か国中13か国が即時停戦に賛成したが、イギリスは棄権、アメリカだけが拒否権を発動し戦争継続を支持した。

今年1月のグテーレス事務総長の悲鳴に似た即時停戦の呼びかけで国連総会は153か国が即時停戦を決議したが、アメリカは拒否権を発動。さらに停戦交渉を行っていたハマスの最高司令官をイスラエルは殺害した。

ロシアのウクライナ侵攻にあれほど反対した“リベラル”諸国は、あまりにも非人道的なイスラエルやアメリカに、経済制裁や国際的非難を実行しないのか。イスラエルに対して、アメリカは武器を送り続けている。アメリカIT企業は、ウクライナとイスラエルに、AI兵器を送り続けており、アジアの戦争はもっと広範囲でひどくなるので、AI兵器が使われるであろうと述べている(朝日新聞3月末)。

 イスラエル問題のそもそもの発端は、イギリスのいわゆる「3枚舌外交」である。第1次大戦末期、フセイン・マクマホン協定でアラブ国家の独立をアラブに約束したにもかかわらず、翌年のサイクス・ピコ条約で英仏ロシアがこの地を分割支配するという植民地的な取り決めを行った。その翌年にバルフォア宣言でパレスチナにユダヤ人国家の建設を約束した。

それらは相互に矛盾しているだけではなく、あり得ないような植民地主義的な条約だ。米英は、戦後の植民地主義からの開放を見越して、中東の石油とアジア・欧州・アフリカを結ぶ地政学的要所に、イスラエルを建国し、アラブ世界にくさびを打ち込んだ。

2次世界大戦後には、国連で「2国間併存(イスラエルとパレスチナ)」が決議されたにもかかわらず、パレスチナ国家は戦後80年認められないまま、イスラエルが戦争で破壊し入植を続けている。21世紀のいま、「遅れてきた植民地主義」は終わらせなければならない。

 

ウクライナ問題

 ウクライナ問題は、2022224日のロシアの侵攻からではない。そもそもウクライナは、多民族国家であり、既に、2004年のオレンジ革命、2014年のマイダン革命が、西ウクライナ(西欧派)と東ウクライナ(ロシア派)の対立の始まりだ。西欧・アメリカは、西ウクライナを支援。他方で、東部ウクライナの3割を占めるロシア系マイノリティは、自治を要求し独立を宣言。2014年からポロシェンコ大統領が内戦を開始、アゾフ隊などを正規軍に編入した内戦でロシア系13000人が死亡。内部対立から始まったという歴史的な認識が必要だ。

 2022年のロシア侵攻直後から停戦交渉が始まり、ロシアとウクライナは「中立」に合意し、6月まで交渉は続けられていた。停戦交渉を中断させ戦争を続けさせたのは、イギリスのジョンソン首相とアメリカのバイデン大統領だ。

ゼレンスキーは、当初は停戦交渉に前向きだったが、やがて、戦争を続けるには武器が必要と、世界中に武器を求めて戦争を続けている。当初はウクライナ優勢であったが、徐々にロシア優勢になってきている。戦争継続を支援しているのは、G7および欧州(EUNATO)だ。中国・インド・グローバルサウスの多くは停戦を要求し、仲裁で動いている。イスラエル・ガザ戦争と同様の構図だ。ロシア・プーチン、アメリカ・トランプは、米ロが話し合えば、戦争は終わると述べている。

ゼレンスキーは大量の武器を要求し続けているが、その半分は他の紛争地域に横流ししている。政権内部の腐敗と抗争も、欧州の「支援疲れ」に拍車をかけている。ポーランドのように最もウクライナを支援してきた国もウクライナの穀物輸出をめぐり国境を封鎖するなど、対立は中東欧全域に広がっている。

アメリカが武器を送らなければ、戦争は終わる。しかし停戦が準備される中、5月にアメリカ議会は、9兆円の兵器をウクライナに、3兆円をイスラエルに送ることを決定。戦争を継続し儲けているのは、アメリカの武器商人だ。

ウクライナ国民の間にも、厭戦気分は高まっている。2万人の脱走者がモルドヴァ国境を通り、西に逃亡している。5月に行われるはずだった大統領選挙でゼレンスキーは勝てない可能性を見越し、大統領選は延期され続けており、ゼレンスキーは任期切れのまま大統領にとどまっている。

次号に続く。(文責:事務局)

2024年10月2日水曜日

自民党政治サヨナラの大運動

 共闘の力で

自民党政治サヨナラの大運動を

         法政大学名誉教授 東京革新懇代表世話人 


    
五十嵐 仁

 

 自民党総裁選で石破茂氏が選出された翌日、928日に開催しました東京革新懇学習交流会での五十嵐仁さんの講演の要旨をご紹介します


歴史的なチャンスが巡ってきました。岸田首相が総裁選への立候補断念を表明したからです。危機に陥った自民党は総裁選でメディアジャックを図り、石破茂新総裁を選出して解散・総選挙での逃げ切りを画策しています。

 総裁選でイメージチェンジを狙い、国民の注目を集めて支持率を回復しようというわけです。そのために選挙期間を最長の15日間とし、候補者も過去最多の9人になりました。

 しかし、岸田首相の出馬断念の背景には、政権と自民党政治の深刻な行き詰まりがあります。それはテレビでの露出度の増大など小手先のまやかしで乗り切れるほど簡単ではありません。自民党による長年の悪政の積み重ねによるものだからです。

 安倍政権から続く菅・岸田という三内閣連続での政権投げ出しはこの国の土台の腐食に原因があり、かつては一流だとされた経済も政治とともに劣化への道をたどってきました。政権担当能力を失った自民党の総裁の椅子に誰が座ったとしても、立て直すことは不可能です。

 総選挙で決着をつけるしかありません。日本をぶっ壊してきた自民党政治の罪に対して、今こそはっきりとした罰を与えるべきでしょう。政権から追い出すという形での明確な罰を。 

 二重の意味での行き詰まり 

岸田首相を追い詰めたのは世論の力でした。内閣支持率は昨年暮れに3割台を切り、一度も回復しなかったからです。4月の衆院3補選、静岡県知事選や前橋市長選挙、小田原市長選などの首長選挙でも自民党は連戦連敗が続き、岸田首相はたとえ総裁に再選されても1年以内に実施される総選挙では勝利できないと判断したのでしょう。

 このような人気低落の最大の要因は自民党派閥の裏金事件と統一協会との癒着でした。いずれも岸田内閣以前からの組織犯罪です。裏金事件では、それがいつからどのような経緯で、誰が始めて何に使ったのか、いまだに明らかになっていません。再発防止策も小手先のごまかしに終始しました。統一協会と自民党との腐れ縁についても、再調査や実態解明がなされず、問題は先送りされたままです。

 岸田内閣は、三自衛隊の統合司令部新設のための改定防衛庁設置法、自治体を戦争に協力させる改定地方自治法、特定秘密保護を産業分野にまで拡大する経済秘密保護法の成立や殺傷兵器の輸出を可能にする次期戦闘機共同開発条約の批准などを強行し、安保政策の転換と大軍拡を推し進めてきました。

「聞く力」は形だけで国会軽視と強権姿勢は変わらず、安倍政治の拡大再生産にすぎません。辺野古新基地建設、インボイスの導入、マイナカードやマイナ保険証の強要、関西万博の推進、米兵犯罪の隠蔽など、民意無視も止まりません。

金権化・右傾化・世襲化という自民党の宿痾(持病)はますます悪化し、岸田政権になってから党役員や大臣などの辞任・解任は約30人に上ります。最近でも、広瀬めぐみ参院議員と堀井学衆院議員の辞職・起訴がありました。持病が全身を蝕むようになっているのです。

 私は27年前に『徹底検証 政治改革神話』(労働旬報社)を刊行して、「政治改革」のやり直しを提言しました。このとき政党助成金が導入されたにもかかわらず企業・団体献金が温存され、政治資金の二重取りによって自民党は焼け太りしたのです。そのツケが、今回回ってきたということになります。このとき企業・団体献金や政治資金パーティーを禁止していれば、今回のような裏金問題は起きなかったはずですから。 

総裁選で露呈した自民党の劣化 

 自民党の総裁選では12人が出馬の意向を示し、9人が立候補しました。あたかも派閥の縛りがなくなったかのような印象を振りまき、メディアでの露出度を高める作戦だったと思われます、一見すれば多士済々のようですが、売名のチャンスだと思い「我も我も」と手を挙げたにすぎません。

 9人も立候補したにもかかわらず、その主張に大きな違いはなく明確な共通性がありました。誰一人として触れなかったテーマがたくさんあるからです。それは裏金事件の再調査であり、企業・団体献金や政治資金パーティーの禁止であり、統一協会との腐れ縁の断絶という問題でした。

 とりわけ統一協会の問題では、総裁選中に組織的な癒着を示す新たな事実が明らかになりました。朝日新聞がスクープしたもので、統一協会や国際勝共連合の会長と安倍首相が総裁応接室で面談し、実弟の岸信夫元防衛相と側近の萩生田光一元経済産業相が同席していました。2013年の参院選公示の4日前で参院選比例候補だった元産経新聞政治部長への支援を確認するものだったといいます。自民党が組織ぐるみで反社会的なカルト集団と癒着していたことを明確に示す新たな事実でしたが、この問題について再調査して関係を断絶する意向を示した候補者は一人もいませんでした。

 また、各候補者はアベノミクスの失敗や消費税減税、物価高対策、お米の安定供給などについても口をつぐみ、明文改憲の推進や原発の容認、日米同盟維持など大軍拡・大増税の推進については足並みをそろえています。退陣が決まっている岸田首相が改憲促進を申し送って次期首相に縛りをかけましたが、これに異を唱える人はいませんでした。

岸田政権を支えてきた幹部の無自覚と無責任もあきれるばかりです。茂木敏充幹事長、林芳正官房長官、上川陽子外相、河野太郎デジタル相、高市早苗経済安保相などは、これまでとは異なった政策も打ち出していますが、その多くは野党の政策のパクリで、岸田政権を支えてきたことへの反省は全くありません。

若手とされる小林鷹之前経済安保相は選択的夫婦別姓や同性婚に反対するなど最も保守的な伝統的家族観を示し、小泉進次郎元環境相による解雇規制の緩和など「聖域なき規制改革」も、父親である小泉純一郎元首相が20年以上も前に掲げた「聖域なき構造改革」の焼き直しにすぎません。いずれも時代錯誤であまりにも古い自民党の体質を象徴するものでした。

大きな曲がり角にあり、「新たな戦前」に向かう「衰退途上国」としての日本をどう立て直すのか。国内総生産(GDP)でドイツに抜かれて4位になり、国民1人当たりGDPでは34位、国際競争力でもかつての1位から35位にまで後退している現状からどう抜け出すのか。東アジアの平和と豊かな日本の将来ビジョンを示している候補者も皆無でした。

グローバル・パートナーシップを掲げて地球規模でのアメリカ追随を深め、日米軍事一体化によって防衛(盾)だけでなく攻撃(矛)も担うとする「戦争する国」への変貌と専守防衛の放棄、攻撃的兵器の取得と輸出に前のめりで、米軍の尖兵として戦争に巻き込まれる危険性をどう防ぐのか、全く展望が示されていません。 

 活路は共闘にあり 

 「振り子の論理」による「疑似政権交代」を許さず、自民党政治への追撃戦によって政権の座から追い出さなければなりません。そのための唯一の活路は市民と野党の共闘にあります。自民党を政権から追いだすには野党第一党の立憲民主党の議席だけでは足りないからです。

 立憲民主党の新しい代表に選ばれた野田佳彦元首相は、一方では消費税減税に消極的で原子力発電の容認や日米同盟機軸などの「現実的政策」を掲げながら、他方では野党の最大化を図るとして「誠意ある対話」を呼び掛けています。自民党を離れた保守中道勢力を引き寄せるためだとしていますが、野党連携のあり方については大きな課題を残しています。

 いずれにせよ、自民党政治とサヨナラするためには、野党勢力が力を合わせて追い込むしかありません。改憲を阻止し、分断と裏切りを許さず、反腐敗包囲網を継続しつつ共闘を再建することが野党の側の課題です。

 裏金事件と統一協会との癒着は自民党の最大のアキレス腱になっています。総選挙でも主要な争点としなければなりません。野党が一致して自民党を孤立させ、これまで支持していた保守や中間層を離反させる可能性が生まれているのですから。

 維新など「第二自民党」のすり寄りや裏切りを許さず、共産党を含む幅広い共闘の再建をめざさなければなりません。裏金事件追及の突破口を開いたのは共産党の機関紙『赤旗日曜版』でしたし、統一協会や国際勝共連合と真正面から対峙してきたのも共産党だったのですから。

 この点で、立憲民主党の野田新代表が共産党と政権を共にしないという姿勢を示し、戦争法の違憲部分を「すぐに廃止できない」と表明しているのは大きな問題です。そもそも戦争法への反対は立憲民主党の立党の原点であり、野党共闘の出発点ではありませんか。そこに立ち返ることを求めたいと思います。

 市民と野党の共闘では、大きな実績を積み重ねてきた東京革新懇の役割は極めて大きくなっています。過去8年の間、62自治体で40の共闘候補を擁立し、先の都知事選も野党共闘でたたかうことができました。立憲民主党の都連は共闘を否定していません。この経験と条件を活かすことが必要です。

 来るべき総選挙は、国政から犯罪者集団を一掃するための貴重な機会となるでしょう。法の網の目をかいくぐって利益を図ったり目的を達成したりする悪弊は政治家や企業経営者を蝕み、不正行為は自衛隊にまで及んでいます。このような歪みを正し、立法府にふさわしい政党と議員を選ぶことでしか、政治に対する信頼を回復することはできないのですから。