中野晃一上智大学教授の講演
「改憲と壊憲の危機にいかに抗うか」
10月1日に開催しました東京革新懇学習交流会での中野晃一さんの講演をご紹介します。大変好評でした。
今日お話しするのは、一つは明文改憲。もう一つは憲法を壊してしまう壊憲です。
小泉時代から自民党は明文改憲をやろうとしたけど出来ずに来て、あの安倍さんも衆参両院で改憲派が3分の2超えてもやれなかった。
岸田さんが何をやりたいか正直分からない。安倍さんがいなくなって一番困っているのは岸田さん。魂の面を埋めてくれていて、それで岸田さんが動く材料になっていた。
2009年に民主党が勝った選挙以来の5回の選挙で、全有権者のうちどれだけ小選挙区で自民党に投票したか見ると、動いていなくて25%程度。民主党にはガッカリしたが、安倍さんがまたやるのかと、投票率が10%、15%下がったまま。自民党は勝ち続けているが、本当に民意の支持があるかというとない。安倍さんのときも岸田さんも、重要政策は国民の理解が深まるほど不人気になっていく。安倍さんが殺されて国葬まで2ヶ月半も時間をつくってしまった。こちらが反撃する機会を持った結果、国民の理解が深まり世論の反発が出てきた。国民投票はそこが怖い。発議したら、法の定めで少なくとも2ヶ月は間を開けて国民投票になる。その間に国民の理解が深まって、おかしいとなる可能性が有る。国民投票は日本でやったことないが、世界的に見てもロシアンルーレットと言われる。EUの統合に関し、国で勝てると思った国で、国民投票で否決され大慌てした。政権にノーを突きつける場にもなる。電通を使い電波を乗っ取って、芸能人もCMに動員し、何となくいい雰囲気で通せると考えていると思うが、リスクは高い。
憲法を壊す中国封じ込めへの片棒担ぎ
今日お話ししたいのは、大きな政治の話しで憲法を壊す政治。米中対決、台湾有事に、代理戦争、戦場になることに志願している日本政府の動きである。日米安保村と言っているが、政治家、官僚、学者、財界に、日米同盟を国是と位置づけている人達がいて、アメリカとの関係を緊密にし、アメリカ軍と自衛隊の一体化、アメリカが選んだ戦争を日本が一緒にやっていくことを推し進める人達が、政権の中枢からメディアの主流派としガチッといる。これを押し返していくことはかなり大変だ。
国葬やった2つの理由があり、一つは国内の理由で党内右派を懐柔するという小さな目的。もう一つの大きな方は、安倍さんは、アメリカ・西側諸国に対しては、日本も自衛隊を外に出しますと言ってきた。国内では、集団的自衛権によって日本は安全安心の国になりますと言った。国外、国内で言っていることが全く違う。それを岸田さんは、外務大臣として一緒にやってきて、私が正当な後継者として引き継ぐからご安心をということで国葬をやった。弔問外交としてめざしたのはそこだ。ただ、蓋を開けるとかなりショボいものになった。対外的に見ても、大きく反対したことは大きな意味があった。
日中国交正常化50周年の年に、中国をアメリカと一緒になり武力で脅すことで平和が出来ると思うことは何事か。ワシントンから見れば、極東で限定的に戦争が起こればウハウハかもしれない。武器は使われる、武器は買われる、中国の国力はそがれる、日本が戦場になり世界第2位、第3位のライバルの国が失墜していく。
中国はアメリカまでミサイル飛ばせない。今のアメリカとロシアの関係と同じで、大国同士のエゴは互いに戦争はやらない。代理戦争をやらせ、台湾、日本、南西諸島が戦場になる。中国から見ればケンカを売ることになる。
米中対立を煽り、台湾有事を煽り本当に危ない。敵基地攻撃能力だ、中枢攻撃能力だ、防衛費2倍だ、核共有だと騒いでいると、米中対立の真ん中に日本が入っていく。
公明党の動向
明文改憲はすぐには動けない。政権体力が弱っていることもあるが、自民党だけでなく公明党も相当弱っている。セクハラで公明党議員が辞職。公明党は政権慣れしてきて、自民党並みの腐敗をやるようになった。遠山清彦議員の貸金業法違反もあった。
もともと公明とかいって、腐敗に反対する、福祉の党、平和の党とか言って来たが、自民党と一緒になり、山口那津男さんがとても交代できる状況でなくなった。
9条改憲することに公明党は、今年の参議院選挙においても、基本的に反対する姿勢を崩していない。乗れば衰退する。参院選で公明党は票も議席も減らした。党勢立て直す点でも、9条の妥協は簡単には出来ない。
自民改憲案は何を壊すか
明文改憲の論点から言うと、自衛の根拠が9条に書かれているわけではないことが大事な点だ。9条は、どう防衛するか書いている訳ではなく、軍事力を持たない、戦争を放棄することを書いている。政府は、どこに自衛の根拠を見出してきたかというと、かなりこじつけであるが、憲法前文と13条で、平和的生存権と生命、自由及び幸福を追求する権利があるから、国が完全に覆され人権が守れなくなる事態を許している訳ではなく、9条の範囲内で専守防衛で最低限日本を守ることが出来るという論理付けになっている。この論理付けは、集団的自衛権を突破したときでさえ踏襲した。9条は突破されたが、前文と13条が体を張ってとめた形になっている。防衛省のホームページでさえ同様の言い方をしている。「限定的集団的自衛権」と言っているのはこれが理由だ。
自民党は、条文イメージ(たたき台)を2018年に出した。9条はそのままにして、9条の2として「前項の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず……自衛隊を保持する」を加える。9条を無効化するだけでなく、前文も13条も無効化してしまう。国という言葉の後に国民が出てきて、今までは国民の権利を守るための自衛と言う建付けになっていたが、我が国を守るために国民は犠牲になれと容易に転化する形に変えようとしている。
9条は二つの仕方で日本を守ってきた
9条で国が守れるのかという人がいるが、9条で国を守るとは誰も言っていない。9条は二つの仕方で日本を守ってきた。一つは、日本が世界8位の軍事大国になり、比類なき軍事大国のアメリカと同盟関係にあるにも関わらず、中国は最近まで日本が攻めてくると思っていない。北朝鮮も日本が攻めてくると思っていない。かつて朝鮮半島を植民地化し、中国を侵略した歴史にも関わらず、9条によって戦争を放棄し、軍事力を持たないと言っている。自衛隊の存在にクエスチョンマークが付いているが、ブレーキがかかっていることがあり、専守防衛という国民の意思がかなり強いことも理解されていて、中国側は日本が攻めてくるという前提に立たずに来ている。逆にアメリカと一緒に台湾有事で戦争するとなったら、こちらもそれで作戦立てるといことになる。すでにそうなり始めている。安全保障に資するどころか真逆になる。
もう一つは、アメリカの戦争に巻き込まれることを防いできた。軍事同盟のジレンマで、結果的に他国とのいらない戦争に巻き込まれ、かえって被害が及ぶことがあり得る。それを防いできたのが9条だ。日本は、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争にも直接関与していない。韓国は、9条がなくベトナム戦争に参戦しなければならなかった。同盟に対する認識があまりに甘すぎるかなり怪しい人達がいる。
どう運動を大きくするか
締めくくりに、どうやって運動を大きくするのか考えてみたい。
国葬に対しかなり運動が盛り上がり、だいぶ足元を固めることが出来た。それがなかったら私たちはもっと危ない状況にあった。ただ敷布団が戻ってきたところだ。若い人や無関心だった人達、シールズあるいはママの会に代表されるような、掛布団と言われる人々を次の段階で呼び覚まさなければならない。
憲法を壊し、平和外交を捨て、力で中国を封じ込めるという、馬鹿げた考えを許してはいけない。そんなところにお金を使わず、生活や命にお金を使っていく。そのために、どうやってより大きく運動を広げていくのか、知恵を絞り工夫し、いままでやれていないことをめざす。生まれ変わるタイミングでもある。
私も、2014年から私なりに走ってきた感じで、課題があると思いながら、正面から対処してこなかった思いがある。次の世代にもっとまともな日本をバトンタッチしたいとやっている訳だから、運動主体もバトンタッチしていかなければならない。
その時に思うことは、世代による違いだ。組織や運動に対する経験や実感が、今日ご参加の方とだいぶ違う。右肩上がりの日本を覚えていたり、運動にかかわって成果を上げた経験がある、個人の成長や自己実現、もっと言うと自分の解放と社会の変革に取り組むことが割と一致してきた人達が今も声を上げている人たちに多いと思う。それは素晴らしいことだ。
ところが若い人達は、組織は自分をすり減らすものという体験が多い。大学もだいぶ変わり、非常勤の人達を沢山抱えるようになる。若い人達は、運動、組織に参加して自分が成長するという体験が圧倒劇に少ない。
キーワードはエンパワーメントだ。パワーを注入するということだが、私達の運動が誰もがエンパワーする運動になっているのか問われる。入っていない人たちもエンパワーする組織じゃないと入ってこない。何となく使い捨ての感じがする。あるいは当たり前とか周辺的なことをやればいいと思われたりする組織や運動になっていると今いる人たちで終わってしまう。
市民連合の議論もこれからだが、もっとプラットホームとして、若い人達に機会が与えてくれる、参加するメリットがあるような運動のつくり方を考えていなかければならない。デザインのスキルや動画をつくり流す、ツイッターを使うとか、そういうことが出来ればもっと多くの人に届くのに、どうしても怒れる中高年の集まりにしか見えない運動からの脱却が求められる。
ノウハウを持っている若い人や女性にアプローチし、どこからどう変えるか教えてもらう。講師に呼んだりワークショップやったり。デザイナーに正当な対価を払って来てもらったり、次の世代にバトンタッチしていける作り方をめざす。
誰もがエンパワーされるものなっているのか、発言の順番、ものごとの決め方、役割の分担など、中に入ってこんなスキルを身に着けることが出来た、社会変革に貢献しているという感じだけでなく個人として成長出来た、新しいことを習得出来たということを、みんなで工夫して広げていけると思う。