2020年3月30日月曜日

小池都政とはなんであったか
東京を財界戦略「Society5.0」都市へ導く
       元東京都職員労働組合委員長 氏家祥夫
 
Society5.0が実現した世界一のデジタル都市東京」「官民連携プラットホーム」「スタートアップ都市東京」「IotAIでスマート東京の実現」「デジタルガバメント」「空飛ぶ車」「chojuが世界語に」「介護離職は死語に」「合計特殊出生率2.07は先進国最高水準に」・・・これは2040年を目標にした小池知事の「夢」と外国語が氾濫する「『未来の東京』戦略ビジョン」(東京戦略ビジョン)の標題の一部です。これが住民の福祉の増進を図ることを基本とする自治体東京都の長期計画になるというのでしょうか。
小池知事は昨年暮れの1227日、「東京戦略ビジョン」を発表し、その第1年度として2020年東京都予算を決定し、都知事選挙(75日投票)に向かおうとしています。 都民受けするパフォーマンスや発言、説明のつかない政策や政治的態度の転換を繰り返してきた 37ヶ月をふり返り、小池知事が東京都政をどこに導こうとしているのかを見てみます。
※Society5.0とは 
狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)に次ぐ徹底したデジタル技術による第5の社会と規定。

 「情報公開」「3つのシティー」を打ち出し、巧みな世論誘導で都政を運営
 小池百合子氏は、20167月、「7つのゼロ」や「12のゼロ」を掲げ、都議会自民党を仮想敵に仕立ていつわりの「反自民」で都知事に当選しました。少数与党の中で情報公開を1丁目1番地に掲げ、都民ファーストで「セーフシティー」「ダイバーシティー」「スマートシティー」を打ち出し、築地市場の移転の延期、2020オリンピックの会場と経費の見直しなどを「小池劇場」と言われる巧みな世論誘導で都政運営を進め、都民の多数の支持を獲得していきました。
加えて、保育の待機児童解消や高校授業料の実質無償化、給付型奨学金の創設などを17年度予算に組み込み、全党一致の賛成を獲得しています。しかし医療、介護、雇用、福祉・社会保障の改悪に対する姿勢は、安倍内閣に追随する政策が多く見られました。さらに初めて発表した小池「実行プラン」(1612月)では、アベノミクスを礼賛、その成長エンジンを東京がはたすとして「成長戦略」プランを発表しています。小池知事の経済成長主義は当初から貫ぬかれています。東京一局集中を推進する「東京大改造」(大規模再開発とインフラ整備、オリンピック)は国家戦略特区を使って加速していきます。大規模プロジェクトは戦後最大の規模に膨れあがっていきます。

都政を踏み台に「希望の党」を結成、国政をねらうも完全な敗北に  
 小池知事は「希望の塾」を立ち上げ、177月の都議選で、「築地は守る、豊洲を活かす」と公約し「都民ファースト」が圧勝し都議会第一党に踊りでました。しかし、都議選で多数を占めると築地の移転問題は早々に豊洲移転を決め、理由を明らかにせず、都民と市場関係者を裏切りました。また、オリンピック施設や経費の節減も元のままに終始しています。179月には衆議院選挙に向けて突然「希望の党」を立ち上げ、立候補者に「現実的な安保体制の支持」「憲法改正を支持する」との政策協定書の署名提出を求めました。
 これまで表明されなかった小池知事の政治姿勢の正体が明らかになり、文藝春秋11月号には「私は本気で政権を奪う」を掲載、小池知事の本当の政治的ねらいが都政を踏み台にして国政への進出、政権奪取の野望だったことが明らかになったのでした。
  ところが、総選挙では「50議席」しか獲得できず完敗しました。
  しかし、その後も成長戦略に基づく「東京大改造」は規模を拡大して進められています。
  東京一局集中を加速させる「都市づくりグランドデザイン」を発表、東京外かく環状道路の推進、国家戦略特区事務所を都庁内に作り、東京の景観を一変させる大規模な都市再開発プロジェクトの巨大化と拡大、安倍成長路線と一体となった金融ビジネス拠点づくりにもと日銀副総裁を招聘し「国際金融都市東京」をスタートさせています。
19年度小池実行プラン」では、4カ年総事業費67千億円の内、インフラ整備とオリンピックと防災で67.5%を占め、福祉は17%にしか過ぎません。

安倍内閣と財界の路線「Society5.0」へ舵を切る小池都政
 総選挙で敗北後「都政に専念する」と表明しますが、2019年に入ると小池都政の基本路線を修正し大転換させていきます。19年第1回定例都議会では「東京の稼ぐ力を高めるためにはビッグデータやAIなど、第4次産業革命を牽引する民間イノベーションを後押しすることが欠かせません。…新たな社会、『Society5.0』を実現致します」と施政方針で打ち出しました。この前年の1811月、中西経団連会長はこれからの財界の命運をかけた財界戦略「Society5.0 for SDGs」を発表しましたが、これを受けたものでした。「Society5.0」の遅れを小池知事は都政として取り戻し、政治家として再浮上をねらっているとみなければなりません。矢継ぎ早に「Society5.0社会実装モデルのあり方検討会」「アドバイザリー会議」などを立ち上げ、経団連、経済同友会、東京商工会議所、に加え楽天の三木谷などの新財界「新経済連盟」からのメンバーを次々と呼び込んで、極めてつけは 元ヤフー会長の宮坂学氏を副知事に登用したことです。“総経済界”が結集し都政を財界の方向に転換させ、具体化させようとしています。その結果が1227日に小池知事が発表した2040年に向けた「東京戦略ビジョン」なのです。
  この間、小池都政は待機児ゼロ(実現していない)や私立高校授業料の無償化など、小池知事の関心が高い分野や支持をつなぎ止めるための政策化は取り組んでいるものの、子どもや都民の貧困、社会的格差、孤独死・餓死、路上生活者を救済する施策はほとんど見られず、いのちを守る砦としての都立・公社病院の地方独立行政法人化を進めるなど自治体の使命を果たしていません。加えて、特定整備路線の強行、羽田空港低空飛行の推進、カジノ誘致についても「検討」するとして否定していません。関東大震災朝鮮人犠牲者追悼の辞を拒否、CV-22オスプレイの横田基地への配備に中止を求めず、平和と憲法に背を向けています。

 「東京戦略ビジョン」の描く「スマート都市東京」は都民をどこへ導くか
 「東京戦略ビジョン」は、①2040年代の東京ビジョン、②2030年の戦略、③推進プロジェクトの3部構成になっています。その「目指す未来の姿」では、地上や地下だけでなく空飛ぶ車の空中利用、ロボットやAIの活用でテレワーク・副業・復業・フリーランスの働き方が広く浸透し、「超超高齢社会を迎える東京が介護ロボットを実装することにより世界のモデルになる、気候変動には新技術の開発が地球規模の課題の解決につながる、先端技術の組み合わせでイノベーションが生まれ世界をリードする東京を実現することが可能に……2040年代は人が輝き、楽しい東京、美しい東京、のバラ色の東京が描かれています。
  その基本戦略中の基本が「AIIOTその基盤となる5Gネットワークの積極的活用で都市全体がスマート化しスマート東京を実現する」ことであり、都庁は「民間企業等、多様な主体と協働して政策を推し進めるデジタルガバメントになる」というものです。 
 安倍内閣と財界のSociety5.0の戦略とは何でしょうか。経団連の方針は、この間の世界経済からの立ち後れを挽回し、日本資本主義の命運をかけた新たな成長戦略、構造改革の推進、自由で開かれた交際秩序を目指す戦略としてSociety5.0 for SDGsを打ち出したのです。
  Society5.0が目指す「スマート社会」というのは、「必要なモノ・サービスを必要な人に必要なときに提供しあらゆる人が質の高いサービスが受けられ、年齢、性別、地域、言語の違いを超えて快適に暮らすことができる社会」と宣伝されています。
 しかし、「スマート社会」は膨大な情報を収集する企業や行政組織、関連機器、ICT装置で取引するシステム構築などハードな装置と、運用ソフトがあって動くものです。 これらの装置や運用ソフトを活用する主体は、グローバルに経営する巨大IT企業や金融資本でなければ機能しないでしょう。結局これらの主体が、政府や自治体を取り込んで新たな成長・稼ぎをたたき出す社会が「スマート社会」とならざるをえません。
  小池知事は、知事就任以来、ことある毎に東京の成長戦略を強調し、東京がそのエンジンにならなければならない。「稼ぐ力」「世界一の東京」を目指してきました。その根底には、財界と同じ日本経済の危機感を共有しているからです。
「東京戦略ビジョン」には、住民のいのち・暮らし、福祉の増進という地方自治体の使命に基づく課題・長期計画は全くありません。子ども、長寿、女性の分野は課題として出されていますが、Society5.0時代を担う人材育成であり、世界語にする「Cyoju」であったり、医療や障害者は安全安心のまちづくりの中に括られ、合計特殊出生率2.072040年に達成するなどは、全く達成方針すらなく、それこそ「夢」でしかありません。
 「スマート社会」を取り上げるならば、デジタル化による雇用の喪失やデータの囲い込みによる格差の拡大、人権やプライバシーのない超監視社会の到来などにどのように対処し規制すべきか、都民の人権や雇用、格差をどう解消していくのかが東京都の本来の役割でないでしょうか。小池都政が描く東京の「未来」は、地方自治の「解体・大改造」であり、巨大企業と金融資本の下請け共同体に成りさがる道であることはまちがいありません。
  今回の都知事選挙は東京都政の曲がり角の選挙です。財界と安倍のSociety5.0の推進の都政を許すのか、市民と野党の共闘で、誰も置き去りにしない都民のための福祉と平和の都政を築くかの重要な選挙です。

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